うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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八章 侵略者と再会

第83話 果たしたかったこと

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 絵梨佳と再会してすぐに別れを告げられた。普通として過ごしている絵梨佳にとって、宇宙人は脅威。そして、あの頃を思い出してしまう原動点。
 このまま、本当に普通の女子高生として過ごしたいため、コスモたちは邪魔だ。ここで線引きを行った。
「ごめんね。我儘言って」
「ううん。こっちこそ、無理をさせて今までごめんね」
 絵梨佳は一人でに満足して、別れていった。そのまま残ったのは虚無感。コスモは何がどうなったのか訳が分からない表情。スターはそんなコスモの口にパフェのクリームを押し付ける。
「コスモは何も考えなくていい。食べていて」
 コスモはそのままパフェを食べ続けた。
 スターとダスクの心の中は、余裕がない感じで何かが締め付けてくる。
「まぁ、仕方のないことね」
 ダスクは享受して、抹茶ラテを静かに飲んだ。今まで友達だった人間に裏切られた気分だ。店の中に人はいなかったが、来店する人がやがて増えていき、コスモたちは人の群れから逃れるように店をあとにした。


 うちに帰ると部屋の中は葬式ムードだった。
「うわ暗」
 外は茜色に染まり、建物と建物に大きな影が生まれて大きな怪物ぽくなる。その影が家に差し込んでいるせいで、外は明るいのに、うちの中は暗い。おまけに電気もつけてないし。

 俺は電気をつけると、部屋の中にコスモたちが呆然と座っていることにびっくりした。
「うわっ、居たのか!」
 俺は口を抑えて、部屋の中に入った。スターから絵梨佳のことを告げられた。ああそれで、葬式ムードなのかと納得した。絵梨佳も絵梨佳で、自分の世界を優先したい時期だよな。

 大きなため息をついたダスクがふと、思い出したかのようにピタリと止まった。
「もうこれなら、やるべきことを果たしてからやったほうが良かったわね」
「はぁ? 何を」
 スターがむっとした口調でダスクを睨んだ。
「ふっ。忘れたの? あたしたちがもう一度地球に降りることが許されたこと」
 ダスクは鼻で笑った。スターは眉間にシワを寄せる。コスモは店の中でスターに言われた「何も考えずに食べていい」と言われたので、パクパクお菓子を食っている。

 それを横から一樹に奪われた。
「こらっ! 夕飯前に食うんじゃない!」
「だってスターが」
「わたし今回何も言ってないわよ。ね?」
「あたしに同意求めるの?」   
 コスモはお菓子を取られて大きな舌打ち。俺は舌打ちした頬をびょーんと伸ばしたりした。
「いひゃい」
「ゲンコツじゃないだけマシだと思え」  
 奪ったお菓子の封をしめ、コスモが絶対に届かない上のタンスに置いた。こんなことしても、能力でお菓子を引きずりおろすことも可能だが、叱られたので多分やらないだろう。

 話が脱線して、スターは「何の話してたっけ?」と首を傾げた。ダスクがやれやれと天を仰いだ。
「だから、やるべきことを果たしにいくの」
「果たすべきって?」
 俺が会話の間に入った。
 この間三匹が言ってたサターン様が地球侵略を建前にあるものを見てきほしいというものを、ダスクがさきに思い出したようだ。
 そのあるものとは、ダスクも曖昧で残った二匹の考えを聞こうとしている。
「確か、青いのを見ろて」
「何その曖昧なの……青いものって、色々あるわよ。宝石とか」
 スターが顎に手を置く。
 サターン様のことは今となっちゃ分からない。生きていたころにそれを叶えてあげたかった。それを成し遂げなかった三匹に様々な表情が宿る。
 宝石と聞いて、ダスクがそれにかけてみる。
「きっと、サターン様は青い宝石を見たかったのよ」
「確かに。キラキラしたものお好きだったもん」
 スターも自分が言った発言に納得。宇宙人は忘れていたものがやっと見つかり、葬式ムードだったのがお祭り騒ぎ。
「話は終わったか? なら出ていてくれ。着替える」
「ぷぷ。恥じらいなんてあったの……――」
 スターがくすくす笑うので、ポイと外に放り投げた。ついでにダスクとコスモも。 
「何その反応! 童貞か!」  
 スターが扉越しに叫ぶ。
 俺はスターの口を塞ぐ。顎を掴んでギリギリとりんごをワシ掴みにするかのように握る。スターは「いたたた!」と叫ぶ。実際骨が軋む音が。
「とんだとばっちりだわ」
 ダスクが服についたほこりを払う。
「ねぇ、童貞て何?」
 コスモが無邪気な目で聞く。
「女に挿してない男のことよ」
 さらりと教える。
「刺す!?」
「挿す」 
 コスモは雷に撃たれた衝撃で固まり、ゆるゆると慌ててスターのところに駆け寄った。
「一樹は童貞のままでいいんだよ。刺したら死んじゃうよ。童貞のままでいて」
 縋るような眼差しを向けてきた。顔から火のてがあがった。かっと赤くなる。
「なっ……俺は童貞じゃない!」
「刺したの!?」 
 コスモが俺にすがって「サツに行こう」と叫ぶ。やめろやめろ。その単語はこの家で禁句だ。

 スターは大口開けて笑った。ダスクも口元を抑えて笑っている。俺はとりあえずコスモの誤解をといた。スターとコスモが騒いだせいで一階にいたお袋と親父が心配そうに二階まであがってきた。しかも「サツに行こう」というワードを聞いてまた、俺がグレたのではないかと心配になっている。

 高校三年生にでもなって、お袋たちには心配させたくない。お袋たちの誤解も解くのも大変。そうしているうちに、気がついたらスターとダスクはいなくなっていた。
「帰ったよ」
「あの野郎……騒ぎだけ起こして帰りやがって」
 俺は今度こそ着替えて夕飯にした。


 翌日、いつもはこのタイミングでスターが遊びに来るのだが、いつまで経ってもチャイムが鳴らない。
「今日は来ない」
 コスモが寂しそうに呟いた。
「まぁ、昨日やること見つかったし来ないことはありえないと思うがな。特にダスクは来ると思うぞ」
 俺は学校の準備を整えて、コスモの頭をなでて学校に向かった。それを見計らったかのようにして、相原家にスターが訪れてきたことを知らない。
「あれ? 来たの?」
「行ったわね……やれやれ」
 スターは玄関からこっそり入って、お袋たちの目を盗みお菓子場所からお菓子を持って二階にあがる。
「どうしてそんなコソコソなの?」
「コスモ、わたしの顔を見て」
 コスモはじと、とスターの顔を眺める。スターの顔はいつもと同じ。首をひねってみても同じ顔。態勢を変えてみても同じ顔。
「……もういい。この顎を見てちょうだい!」
「顎?」
 コスモはじとと顎を凝視した。首をひねってみても同じ顎。態勢を変えても同じ顎。スターはため息をついた。顎を指差す。
「あの男にやられて、回復できないの。明らかに歪んでいるでしょ。また襲われたら……と思ったら怖くて入れなかったのよ。それにこの顎のせいで夕飯食べれなかったし」
「それは大変」
「でしょ!」
「夕飯食べれなかったことが」
「そっちかい!」
 コスモとスターは部屋の中には入った。
 部屋の中にはダスクがすでにいた。窓から侵入してきたのだろう。
「それじゃあ、宝石巡りね」
 ダスクが提案。
「でもどうやって宝石なんか見つけるの? 発掘するの?」
 スターが歪んでいる顎を回復している。スターの素朴な疑問にダスクは鼻で笑った。
「そんなの、宝石店にも行けばすぐに見つかるでしょ」
 と当たり前のように言った。

 隣街にある大きな宝石店に向かう。どれもキラキラ輝いていて、アクセサリーや目がチカチカするものばかり。
「こんなもの買って今更どうするの?」
 コスモが訊いた。
「買うわけないでしょ。これ五百万よ。五百万。同人誌がいっぱい買えるわ。ちなみにお菓子も山のように買えるわよ」
 スターが指差しているのは、翡翠色のエメラルドグリーン。ひし形で指輪の型にハマっている。山ほど買えると聞いて、コスモは鏡越しのエメラルドグリーンに縋りつくにくっついている。
「こらおやめなさい。たしかに今更だけど、宝石を見ろて言うことじゃないのかしら」
 ダスクが眉間にシワを寄せて考え込む。 
 サターン様が亡き今、こんな高価なものを買ったとしてももう意味がない。青いものを見ろ、それは宝石であるなら三匹が思ったことはみな同じ。

 地球でできた鉱物資源物でしかない。そんなものを見ても、美しいとは思わない。サターン様も宝石をみても、ただの地球の鉱物資源物だって思うだろう。だったら、宝石を見ろ、と言っていない。だとすれば一体何が正解なのか。

 また振り出しに戻った。
「青いもの、て一体何でしょうね」
 ダスクが天を仰いだ。
 宝石店から出て、相原家に帰る道のり。三匹は並んで帰ってる。コスモは途中の道のりで売店していたポップコーンを一人でに食している。
「青いものて、虫もあるのよ。サバンナで見たことある」
「げ、まさかサバンナに行くて言わないよね?」
 ダスクの目が笑っている。その不気味な笑みにスターは慄くしかない。
「わたしはもうゴメンだわ。あんな野蛮な所、二度と行くもんですか!」
「そっ」  
 ダスクはさらりと返事をして、ニヤニヤまだ笑っている。ダスクが笑っていると不気味に感じるスターは、一歩仰け反る。
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