うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

文字の大きさ
79 / 100
八章 侵略者と再会

第79話 春

しおりを挟む
 今日のテレビはお花見一色。
 どこのチャンネルも桜ばかり。テレビを見ていたコスモが訊いてきた。
「お花見て?」
「桜の木の下で楽しむ祭りみたいなもんだ」
「お祭りて?」
「笑って楽しむものだ」
 コスモは聞いておいて、ふぅんと興ざめた返事を返した。テレビ画面を凝視している。ずっとテレビから離れない。行きたそうにじっ、と眺めている。分かりやすいな。
「行くか?」
 台所から居間に向かう。
 ちょうど、昼飯を作っている最中。
 そういえば、コスモたちに最初に出会ったのはこの季節なんだよな。その頃は、上手く受け止めきれなくて、春らしいこと全然やっていなかった。また春に訪れて、四季折々を体験していけたらいいな。
「行きたいの?」
「は? あぁ……そうだな。たまにはパーとすっか」
 俺がニカッと笑うと、コスモも笑った。でも花見には二人きりじゃ寂しい。どうせなら、大勢で食べて笑い合あうほうがずっと、楽しい。でも急に花見するぞ、て声掛ければ来てくれる人はいるだろうか。

 コスモはスターとダスクを呼ぶのは前提として、俺は誰を呼べばいいんだ。この高校三年間一度も〝友達〟と呼べる人間がいないことに気がついた。友達いない、という石がぶちあたって心に刺さる。自分で自分の心を刺した。
「胸が、胸が苦しい」
「どうしたの? なんで?」
 コスモに心配される始末。
「コスモは、呼べたのか?」
「うん。それより弁当は?」
 楽しむことより弁当に意識を持ってきているな。コスモらしいけど。  
「スターとダスクと委員長と金持ちの人」
「金城さんな。どうやって呼んだんだ?」
 花見をしようと提案したのは、今から二分前ですでにその二匹と二人はOKもらっている。電話も使っていなかったし、どうやって連絡したんだろう。
「そんなの、宇宙人アンテナで」
 コスモが頭の触覚を指差した。
「それ、そんな使いみち?」
「料金タダだよ」
 コスモはドヤ顔でニンマリ笑った。
 お袋がいつもお得の売り物がタダで喜んでいるのを見たことあるから、きっと、タダだとみんな喜ぶと理解しているのだろう。

 コスモの触覚から伝わった伝言は、頭の中に声が聞こえて来るらしい。委員長は少し遅くなるかもしれない、と一言。金城先輩はすぐに承諾してくれた。

 委員長は有名な医療の大学に行くから、今日のようないきなり、遊びに誘われると迷惑だったんじゃないかな。俺は卵焼きを焼いている手を止めていた。黒焦げになるのは嫌だから、とコスモが近くで監視している。
「黒焦げになるよ」
「はっ! あぁ、悪い」
 手を再び動かした。
 卵液を三回降り、手前にやる。黒焦げになっていない。黄金色だ。
「ふわふわがいいなぁ」
「任せろ」
 コスモは目をキラキラ輝かせて、俺の手元をじっと眺めている。穴があくほど。そんなじっと見つめられたら恥ずかしい。でも期待されると嬉しい。
 

 重箱のお弁当を持って、いざ外へ。
 昼前になっても温かくならない。風は冷たいまま、冬のような凍えさ。外に出た瞬間ぶるっと震える。四月なのにこの寒さは異常だ。
 お花見できる場所は限られている。桜並木がある公園に向かった。会場はすでに満席。賑やかな声が飛び交って、警察官もいる。

 案の定、座れる場所なんてなく、公園中を歩き回っていた。

 すると、黒い服をまとった人たちがいきなり現れた。どの人も黒いスーツ姿で、服越しから筋肉があるのが分かる。こんな華やかな場所で喧嘩かよ。警察官もいるし、暴力沙汰はやりたくない。そもそも、受験があるし。
 俺が身構えると、コスモはその人たちに寄っていく。
「危ない!」
 コスモの手を掴もうと手を伸ばした。でも空振り。コスモはくるりと振り向いて「大丈夫だよ」と優しく言った。
 なんと、この人たちは金城先輩のエスピーで俺たちを案内してくれるらしい。
「怖がらせて悪かったね」
「いいえ、勘違いした俺が悪いですし、コスモ、なんでわかったんだ?」
「匂い」
 へぇ、としか言えない。 
 この人たちに金城先輩の匂いがついているのか、全く分からない。エスピーの人たちに案内されるがまま、だんだん、桜並木があるポイントから遠ざかった場所で、どんどん離れていくと人がいなくなる。

 どこまで行くのか。
 不安になった矢先、大きな桜の木の下にたどり着いた。桜が満開で、ピンクの花びらが風によって舞っていた。その桜の木の下には金城先輩とダスクがいた。
「やぁ諸君! 待っていた」
「やっぱりお弁当持ってきたのね」
 金城先輩はこちらに手招きした。
 青いブルーシートが広い。広いのにたった二人だけいる。ブルーシートの外にエスピーの人が立っている。 
 靴を脱いで隣に座った。二人の荷物がない。あるとすれば大量の飲み物と靴だけ。
「そっちが作ってきそうだから、こっちは何も持ってきてないのよ。ま、何かあればこっちの人たちが用意してくれるけど」
 ダスクがちらりと後ろに控えているエスピーの人たちに視線を送った。紙カップにお茶を注ぐ。
 注いだものを俺とコスモに手渡した。


 金城先輩たちと合流すると、すぐに委員長たちもやってきた。こっちもお弁当と飲み物を持ってきている。
「こんなにお弁当があると、食べきれないね」
「大丈夫だ。うちに残飯処理がいる」
 俺の持ってきた重箱と委員長が作って持ってきた、お弁当を広げるとたちまち、コスモが食べていく。
「ちょっとコスモ! そればっか食べないでちょうだい!」
 スターが卵焼きを箸で掴んだ。その前にコスモも掴んでいるから、両者卵焼きを巡ってバチバチ火花が散っている。
「スターはそっちのお弁当だけ食べればいいのに」
「コスモとダスクのせいで減ってきているお弁当を食べれと? わたしだって、そっちの卵焼き食べたいの!」
 スターとコスモの攻防戦は続いている。両者引きを取らない。
「まぁまぁスターちゃん喧嘩はやめて。こんなにあるんだから」 
 喧嘩している二匹の間に委員長が入ってきた。二匹の喧嘩は委員長の笑顔で止まり、取っ組み合いをしていた卵焼きは先に取っていたコスモがいただく。

 委員長すごいな。あの喧嘩を止めるなんて。
 スターは不機嫌な表情をしたまま、もぐもぐと食べている。またコスモが火種を与えると今度こそ、喧嘩勃発だ。


「ねぇ腹踊りしないの?」
 ダスクが急に訊いてきた。
 飲んでいたお茶が器官から這い上がって口から飛び出した。
「な、な、何言ってんだ!」
「だってお花見て腹踊りする場所でしょ?」
「一般常識でしょ、みたいな捉え方すんな。まぁ盛り上げるためにする奴もいる。俺はしないがな。で、それを見たいならユウチュービでもあるだろ。俺は絶対にしないがな」
 ダスクは残念な顔をした。
 ダスクだけじゃない。この場にいる全員のテンションが下がっている。 
「するものだと思っていた……」
「委員長まじで?」
 委員長も愕然としている。
「腹踊りて何?」
 コスモが訊いた。
「お腹に顔を書いて腰を振ってみると、それが踊っているみたいにみえる馬鹿な錯覚」
 ダスクが淡々と呟いた。スターが「その馬鹿を見たかったんでしょうが……」とドン引き。実はここにいる全員お花見初で、そんな芸も一般的にやるものだと思っていたらしい。
「残念だ。見たかったのだが」
 金城先輩がはぁ、とため息ついた。
 

 おいおいなんだこの空気は。さっきまで弁当食って楽しくやっていたじゃねぇか。俺はコホン、と一つ咳払いしてとりあえず訊いてみることにした。
「やるとしたら、誰がやるんだ?」
 全員俺を指差した。
 聞くんじゃなかった。

 でも全員の期待の眼差しがかかっている。ここは腹をくくってやるしかない。エスピーの人たちも手伝ってもらい、お腹にオッサンの絵を書いた。こんなの人前で披露したくない。こんなの黒歴史確定だ。

 すると、肩に何かぶつかった。
「あ、すいません」
 くるりと振り向くと、そこにいたのはガーディアン機関の百塔百夜と瑞壁千斗。
「いいえ、こちらこそ……あれ?」
「むむ。どこかで見たような……」
 白夜はいち早く気づいて、ニコリと笑った。もう一方の隣にいるガーディアンは、じっとこちらを凝視している。
「ひ、人違いです!」
 俺はお腹を服で隠して撤退。
 でもまた人にぶつかった。今度は柔らかくてマシュマロみたいな。なんだこの感触は、妙に生暖かい。触ってみると弾力がある。
「いつまで、揉んでるの」
 憤怒の声がした。
 恐る恐る見上げてみると、見たことある面子だ。確か、ガーディアン機関の……。
「コメット、さん?」
 コメットは顔面赤面して、プルプルと震えている。
「この、変態っ!!」
 そして拳が降ってきた。その拳は見事顔面に。
「これは、何かの間ちが――ぶべっ!」
 言い訳なしの問答無用で痛い。なんでここにガーディアン機関がいるんだ。思うことはそればかり。その音で遠くにいたコスモたちがやってきた。
「あー! なんでガーディアン機関がこんな所いるの!」
 スターが指差した。
 再び集った宇宙人とガーディアン機関。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...