うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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五章 侵略者と戦争 

第60話 重大な

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 サターン様がべスリジア星の王と交渉している間に、俺たちは拉致された地球人を救い出す作戦。拉致された地球人が、惑星べスリジアにいて捕らえられているという情報をギャラクシーが入手した。

 べスリジアは、コスモたちの惑星より遥か遠い。地表は砂でできていて水はない。乾いた乾燥地帯が広がってて、毒のある虫が常にいる。べスリジアの王はサターン様より若い。

 先代が急死にまだ幼い子どもが王を務めている、王としての知識もあまりない。子供が武力を衝突して侵略せよ、と提案したわけじゃない。周りにいる大人、とくに先代の側近であったヴァルアニという男が王を操り、政権を握っている。事実上、べスリジアの支配者。

 先代の頃から武力行使が激しかったが、ヴァルアニが政権を握って以降、過激になり自身の惑星の民も苦しませている。

 王と話し合いしても、幼い子どもが侵略している、と聞いてピンとこないだろう。王のそばにいるヴァルアニに話しを聞いてもらうんだ。

 べスリジアに到着したのは五時間かかった。地球では一日経っているかもしれない。あの恐ろしいスピードアップを何回もして、吐きそうだ。
 委員長は初めての宇宙船に乗ったにも関わらず、臆することなく普段通り。乗り物には強いんだな。そういえば遊園地でもSランクのジェットコースター何回も乗っていたよな。
「これは重大な任務よ。絶対に成功させましょ!」
 いつになく士気をあげているスターとダスク。それもそのはず。その任務を与えたのはサターン様であり、サターン様と一緒に任務を遂行しようとしている。
「盛り上がってるね」
 委員長がクスクス笑った。
「委員長は大丈夫かよ」 
 この任務は重大だ。それは俺も分かっている。重大な任務だからこそ、委員長は危ないんじゃないか。
「一樹くん、大丈夫だよ。いつも守られてばかりじゃ飼い主失格だもんね」
 委員長は拳をあげて、士気を上げた。正直、委員長は地球でおとなしくしていたほうがいいと思うのは、俺だけだろうか。

 俺も守られてばかりで、コスモの飼い主失格だ。昨日だって、守られてばかりだ。何もできなかった。だからこそ、俺はここにいていいのか迷っている。

 べスリジアに無事到着した。
 先述通り、黄金の砂があたり一面に広がっている。水らしきオアシスは何処にもない。太陽からも離れていて、温もりは殆どない。乾燥地帯なのに冬のような凍えさ。季節を真逆にした惑星だ。
 先にサターン様が降りているはず。
「サターン様はもう交渉している。急ぎましょ!」
 知らない土地をダスクは知っているかのように、道案内した。
 歩きづらい。足が砂に沈んでぬかるみにハマったみたいに動けない。足をジタバタしていないと沈む。

 地表は分厚い砂で出来ている。底のない。一歩沈めば、どこまでも落ちていく。沈まないように、ダスクのあとをついていく。
「待って」
 歩みを止めたのはスター。
 触覚をピクピク動かして、地面を見下ろしている。
「何?」
 ダスクが苛ついた声で聞く。こうして止まっている間にも踝まで砂に沈んでいく。バタバタと足を動かした。
「そっちじゃないわ。生命体の反応が二つバラけている。そんでもって、大型の毒虫が監視役」
 スターは北と西を指差した。
 ダスクは眉間にシワをよせる。
「情報では実験場は東にあるって言ってたはず」
「その情報古いんじゃない? 〈探索〉してみれば二つあるんだけど、間違いない」
「……分かった。とりあえず北に向かいましょう」
 スターの長けた〈探索〉は〈情報〉を上回る。スターのその力を信じて、俺たちは北に向かった。

 暫く歩いているうちに、大きな建築物が。オアシスも何もないただただ、黄金の大地が広がる景色に飽き飽きしていたときだった。それは異様な景色だ。
 黄金の大地の上に立派な建築物が。六階建ての高級マンションのような形。異様過ぎて、目を疑う。

 ここが、地球人を監禁している場所。監禁した地球人は人体実験される。宇宙人に隈なく体を触られ、開発され、ホルモン漬けにされる。早く救出しないと。
 その前に、スターの言ってたとおり巨大な虫が建築物を守っている。カマキリのように鋭い足があり、腹に大きな口がある。足が六つある。不自然な体した虫だ。

 奇妙で奇抜。お尻にスズメバチみたいな針がある。巨大生物なせいで、針がさらに尖っている。
 あの生物を倒して地球人たちを解放しないといけない。幸い、そいつはまだ俺たちの気配に気づいていない。
 建築物の周りをウロウロしている。
「コスモ」
「分かってる」
 ダスクがくるりと振り向いた。コスモはすぐに立ち上がり、地面を強く蹴ってジャンプ。

 背中を見せる毒虫の頭を、蹴った。後頭部ヒット。人間ならば既にアウト。だが、毒のある虫はすぐに攻撃態勢に入り、お尻の針をさっきよりも前に出した。
 カマキリの足で攻撃する。が、コスモはダンスを踊っているかのように避ける。

 足で攻撃しながら、お尻の針を射撃のように飛ばした。一本目は空振り。針が刺さった大地は腐敗して黒く変色している。 
「あんなの飛んできたら……!」
 委員長が息を呑んだ。スターがシッと人差し指に唇を翳す。

 俺たちの気配を知らなかった毒虫が、生命の反応があると知って、針をびゅんびゅん飛んできた。目で追えないスピードだ。
 スターがいち早くバリアを張ったおかげで当たることはない。
 コスモはその針に一つも触れもせず、針を飛ばすお尻を腕で斬った。

 コメットみたいな鋭い刃みたい。お尻を斬りれた毒虫は雄叫びをあげて、態勢が崩れた。右方向に傾いていく。ちょうど、俺たちが隠れている場所だ。
「きゃああああ!」
「落ちついて委員長!」
「バリア張るから!」
 スターが強固なバリアを短期間で二十数個作る。毒虫が降ってきて、暗い影が俺たちを覆う。いくらバリアがあるとしても、大きな障害物が降ってくると、死の予感がして叫びたくなる。

 ところが、バリアに触れる前にコスモが毒虫の体を引っ張り戻し、持ち上げて何もない場所に放り投げた。
 大型地震が襲ったかのように地鳴りが響いた。大地の砂が一瞬たけ浮く。毒虫はそれからピクリとも動かなかった。
「た、助かった……」 
 委員長がガクガク震える。
「委員長はここにいて」
 俺は立ち上がった。委員長は目を見開いて、見上げる。どうして、という表情だ。
「震えているのに、立ち上がれないでしょ。ダスクもここに残るぽいから、大丈夫。行ってくる」
 俺は微笑んで、建築物に向かった。
 この判断は正しい。委員長は恐らく、大型生物もコスモたちが戦っている様子も、一度も見たことない。だからあんなに恐れていたし、震えていた。これ以上足を突っ込めば、間違いなく、宇宙人たちを嫌うかもしれない。
 この判断は正しいと、評価している。

 守りがいなくなった建築物。中にいるのは五十人ほどの人間と、それを看守している雑魚共。
「怪我しているのが五十人中二〇数名。看守は全部で六人。全部が毒虫。でも巨大生物じゃない。廊下に二人。部屋に一人。実態実験のところに三人。廊下を突き抜けて一番奥の狭い場所に、五十人の人間が捕まっている」
 戸に手を当て、瞳を瞑った。中の様子を淡々と言う。
 スターの〈探索〉はすごいな。
 出会って暫く経つが、初めてスターのことを感心した。コスモは足で戸を蹴破って、廊下にいた毒虫を倒していく。

 俺とスターは廊下を突き進み、一番奥の部屋に向かった。喧騒音を聞いて、部屋にいた毒虫が顔を覗かせる。
 コスモがそれを倒していき、実験場を通りかかった。広い空間で、分厚い壁に包まれている。

 足元には大勢の血でできた紋様があり、長い間掃除していないせいか、黒く変色している。
 こべりついた血の匂いが胃酸を逆流させる。
 ここで一体何が起きたのか、想像もしたくない。口を塞いで、なんとか奥にたどり着いた。こちらも分厚い壁、扉で出来ていてコスモが足で蹴り上げると、吹っ飛んだ。

 きゃあ、と人間らしき声が。暗いせいか誰がいるのか分からない。それでも痛いほど視線が注いでくる。
「助けにきました! もう大丈夫ですよ!」
 そう言うと、様々な方角から安堵の声がもれる。啜り泣く声も。部屋から出てきた人たちは外国人であったり、子供だったりお年寄りだったり、畳ニ個分の広さしかない空間で、よくこんな人数を押し込んでいたな。

 泣きながら「ありがとう」と握手され、外に出る。どうやって地球に返すのかというと、事前に持ってきたもう一つの宇宙船を使って。
「記憶はどうすんだ? 拉致された記憶があるだろ」
「当然消す。地球に降りたころには、もうすっかり消えているでしょ」
 ダスクが宇宙船に乗り込む人々を見て、冷たく言った。救出された人たちを見て、涙を流す委員長。「良かった」と一緒になって手を合わせる。

 さて、もう一つあるんだ。早く救出しないと。
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