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四章 侵略者と夏休み 

第51話 迷子

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 地下に潜る穴場にたどり着いた。
「俺は入れるのか?」
「大丈夫よ。あたしたちと同伴なんだから」
 ダスクが顔認証システムに顔を近づけた。ピと機械音が鳴り、ゲートが開いた。金属でできた重そうな扉が開いた。
 ゆっくりと左右に開かれる。扉の前には監視カメラが二個も置いてある。微かに誰かの視線を感じる。監視カメラがいっぱいあるから。

 こんな厳重な地下に潜ってまで、何をしたいのか。願いが必ず叶う石や、ずっと持っていれば幸福になれる石があるらしい。つまるところ、地球でいえば神社に行くみたいなもの。
 コスモたちは、地下探索して願いが叶う石を集めるらしい。
「もちろん、地球侵略を願うでしょ?」
 ダスクがさも当たり前でしょ、という表情でコスモたちに問いた。でもコスモとスターは顔をそらす。
「そりゃ、わたしも地球侵略を願っているわよ、本当よ。でもどうしても同人誌のほうが勝っちゃうの! 高いし、中々欲しいもの売ってないし、だから好きな同人誌をいっぱい集めたいて思うのは、悪くなくない?」
「はっきりいって悪いわよ。そんな邪な欲に自分たちの任務を放棄するつもり!?」
「わたしばっかり責めるつもり!? コスモはどうなの?」
 流れ弾がコスモのほうに向かった。
「私はスターと違って邪じゃない」
「ここで裏切る!? コスモこそ欲の塊のくせに!」
 ぎゃあぎゃあ宇宙人たちは騒ぎ立てる。門はとっくに開いていつでも入っていいですよ、と言ってるようなものだ。

 門の前で立ち往生しているわけにはいかない。さっきから視線が痛い。監視カメラの奥から「早く入れ」と言われているみたい。俺は喧嘩しているコスモたちを押して、中に入った。一歩踏み入れると、ひやりとした空気が伝った。

 地下へ進む廊下があって、灯りは一つ。向こうにも一つ。暗闇に目が慣れてきたから、周りに何があるかわかる。周りは特にない。もの一つ置いていないし、壁には方向を示す矢印もない。地下から風が流れてきているのだろうか。異様にひんやりしてて気持ち悪い。

 冬のような寒さだ。吐く息が白い。暑さで体が汗びっしょりかいていた体がひんやりしててブルブル震えている。
「冷房効きすぎじゃね?」
 体を抑えて辺りをキョロキョロした。
「冷房なんてしてないけど?」 
 コスモがこてんと首をかしげた。
 三匹は不思議なものを見るような眼差し。汗が冷たくなり、体が冷えているのかもしれない。

 地下へと進む廊下を歩き続ける。長い間隔を空けて黄色い灯りがついている。足元に段差はないし、割とサクサク進んでいく。そういえば、ふと話をさっきの続きに戻した。
「願いが叶うとすれば、世界平和とかも?」
「やめて。そうすると、侵略できないじゃない」
 スターがムッとする。
「最近の出来事で、願わずにいられないだろ。ガーディアンとかあって、色々巻き込まれたし」
 瞼の裏でこの間起きたガーディアン機関たちとの出来事を思い浮かべた。新たな構成員となり、仕組みが変わった機関。入れ替わりで〝太陽〟を務めた北山姉妹のことを考えると「平和」を願わずにいられない。
「飲んだら絶対に死なない泉あるけど、飲む?」
 ダスクが真面目な表情で振り返った。それはつまり……不老不死みたいな飲み物。
「飲むわけないだろ」
 呆れて返すと、ダスクは不適に笑った。
「あら、不老不死はお望みじゃない? 人間は不老不死を求めている、て誰かが言ってたような」
「一緒にすんな。俺が求めてんのは世界平和だ」
 そんなことを喋っていると、いつの間にか行き止まりにたどり着いた。分厚い壁に隔たれている。向こうには行けない。
 道を間違えたのかと思ったが、ここに来るまで一直線だった。

 行き止まりの床下にマンホールの蓋がある。コスモが自慢の怪力でその蓋を開けると、中には階段が続いていた。真っ暗闇な穴。化物の口みたいに開け、俺たちを招いている。
 そこからひんやりとした冷気が肌を伝う。やっぱり寒い。
 二枚コートを着ていても、汗を流した体は冷水を浴びたように冷たくなっている。ガチガチ体が凍え、喉が異様に乾く。口の中がカラカラだ。

 こんなに寒いのに、コスモたちは何ら変わらない。マンホールの下の階段を降りていく。こんなところで一人になりたくない。俺は慌ててコスモたちの後を追った。真っ暗闇だったのがパッと灯りがつく。

 目がチカチカする光。ずっと暗闇にいたせいで明るい照明を目の当たりにすると目が痛い。目を瞑り、暫くしてからゆっくり開いた。目を見開くほど美しい絶景だった。

 パッと灯りがついたのは照明じゃない。洞窟にある石が青白く光って暗闇の中で星のように輝いている。階段を降りると、ふわふわと宙を浮いている虫が岩場に集まっている。お尻が青白く光っててまるで、蛍みたいだ。

 明かりなんて必要ない。石が光っているせいで、地面も青白く光っているのは気のせいか。ゴツゴツした足場で洞窟が左右にあった。
 どっちの道に進むのか、宇宙人たちのほうが詳しい。コスモたちは右方向に向かった。こっちのほうがより多くあるらしい。

 右方向に進んでいくと、やがて道が広がり花畑へ。花が全部白く閃光に光っている。目が痛いほどの光なのに、全然痛くない。広がる白い花畑。踝ほどの背丈がある。
 触ってみようと腕を伸ばしたら、コスモに引っ張り戻された。
「毒がある」
「全部? こんな綺麗なのに?」
「綺麗な花こそ毒がある。ことわざにもなかった? 少しくらい触ってもいいけど、人間の場合は即死の毒」
 それを見ていたダスクが解説してくれた。 
 そういえば確かにそんなことわざはある。こんな綺麗なのに、毒があるなんて信じられない。腕を止めてくれたコスモにありがとう、と告げる。

 少し触れただけでも即死と思ったほうがいい。花を踏んづけないように歩いた。願いが叶う石があるのは、この向こうだ。

 青白く光っている石は人工物で暗い洞窟のために、人工に造られた石。自然石じゃなかった。青白く光っている石は間違って持って帰らないように。普段採取しちゃいけない場所。盗まれたと勘違いして逮捕される。

 スターがいち早く石を見つけた。岩を持ち上げてその下に埋まっていたらしい。そんな、海水浴で貝を発見するみたいな感じなのか。
 スターが見つけた石はどんなものか参考に、見せてもらった。手のひらサイズの石。アクアマリンのような色した石だった。石のわりに光沢してて光が反射する。

 全部がこの色じゃない。赤い石も様々ある。スターは拾った石をぎゅっと握りしめ胸の前で手を合わせた。
「同人誌が買えますように。同人誌が買えますように。同人誌がいっぱいいっぱい、買えますように!」
「必死だな」
「当たり前でしょ。ほら、色が薄くなったと思わない? 願いが叶う前兆よ」
 握りしめていた石を見せてきた。
 アクアマリンだった石が、少し透明になっている。透明になって中が覗ける。ツヤは変わらないから、それでも輝いている。
 願いを受け止めたら、色が薄くなるらしい。ちなみに、一つの石に一個の願いしか受け入れない。
 その石はスターのだ。俺が願いを言っても反応しないだろう。

 〈探索〉のスターなら、石を見つけるのに手間取らない。むしろ、その力で全員分のを見つけてほしい。けど本人は本人の欲しかみていない。俺たちなんて、視界に入っていない。
「俺ちょっと、あっちの方行ってく」
「気をつけて。足場が悪いところもあるから」
「おう」
 ダスクにそう言って、俺は一人、薄暗い場所に向かった。中々見つからない。コスモたちは普段からボランティア活動やっているせいか、そこら辺の見つけ方が俺より凄い。

 薄暗い場所になると、足元がぬかるんでいる。近くに池があった。地下に池があるなんて、見たことも聞いたこともない。ここはまるで、ガーディアン機関の長がいる家屋の庭みたいだ。そっくりだ。
 
 池を覗くと、漆黒で青白い光を反射してなかった。俺の姿も映っていない。本物の化物の口みたいだ。何かが潜んでいそうで怖い。ぶるっと寒気を感じた。

 見なかったことにして先に進んだ。集中して地面を見下ろしても石ころ一つ見つからない。ここにはないのか、あっちのほうがいっぱいあるのか。寒くなってきたし、一人で知らないところをウロウロするのは返って危険だ。
 コスモたちのところに戻ろう。踵を返してふと、気づいた。ここは、何処だ。

 ずっと足元を見張っていたせいで、周りの景色なんて見てなかった。道を覚えていればよかったのに、石ころに集中していた。

 知らない場所。知らなければ触っている花もある。もしかしたら、それよりもやばいのがあるんじゃ、それなのに、一人でいるなんて。
 背中がぞっとした。こんなところで迷子なんて、コスモに知られたら笑われる。いやそれ以前に、何かあったら――待ってるのは死だ。
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