うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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三章 侵略者とガーディアン

第43話 気づき

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 今住んでいる世界がおかしいなんて、誰が思う。自分の住んでいる世界が本当だと信じて疑わない。
 仮に、この世界が別の世界であればどうやって出ていけるのだろう。気づいても何ができるのだろう。

 ほんの一瞬、おかしいと気づいたのはお菓子を買ってきたときからだ。それ程お菓子を食べない。姉貴もお袋たちも。誰がこんなに食べるのか、消化してくれる誰かがいるから買ってきた。でも、誰かは知らない。

 帰ってきて部屋の中にあがると、とてつもなく胸がきゅと締め付けた。部屋の中が大きく感じる。朝はそうでもなかったのに、一人になると部屋がまるで、豪邸のように広く感じて寂しい。

 自分の部屋がこんなに大きく感じるなんて、初めてだ。それに、さっきから胸が締め付けるほど寂しい。ここで誰かと遊んで喋っていた。誰だろう。

 思い出そうとすると、頭がズキズキする。鈍器で殴られた衝撃だ。頭を抑えていると、扉の隙間から愛犬たちが入ってきて、ペロペロ顔を舐めてきた。
 クゥーんと切なく鳴く。
 心配してくれている。
 そう思うと頭の痛みが少しずつ痛みが和らいだ。

 少し落ち着いてから一階に降りると、両親たちは既に夕御飯を食べ終わっていて、冷蔵庫の中に俺の分が入っていた。居間に人はいない。姉貴は二階でコソコソ何かしてたし、両親は自分たちの部屋にいる。一人でチンして食べる。
 居間にはペットたちが寛いでいた。勝手にテレビのリモコンを押して、ソファーに座ってテレビを眺めている。ちょうど、お笑い番組で芸人がネタを披露していた。観客席から笑い声が聞こえる。

 ペットたちは内容が分かっているのか、テレビを凝視していた。十五年相原家に居座っていた老犬がじっとしていた。いつもはお気に入りのソファーの真ん中で寛いでいる。なのに、そこには座らず隅っこに座っていた。
 まるで、空いた空間に誰かを座らせているような。そこに、誰かが座っているようにそこから動かない。

 そういえば、ペットたちがこんなふうに寛いでいる姿をみるのは、妙に久しぶりだと感じるのはどうしてだろう。見慣れているはずなのに。

 夕御飯を食べ、二階にあがると突然ふっと何かが降ってきた。もしかしたら、部屋の扉を開けると――――がいるかもしれない。買ってきたばかりのお菓子を食べて、部屋を散らかしているのかも。
「コスモっ! 散らかすなっていつも言ってんだろ!」
 部屋の扉を開けて叫ぶと、静まりかえった。当然だ。部屋の中には誰もいなかったのだから。俺が呼んだ名前の人は、どこにもいない。
 今日一日何かおかしかった。どうして忘れていたんだ。とても、大切な存在を。今頃思い出した。

 宇宙人のコスモがこの家で住んでいたこと。居間でゲームをしながら仲間のスターとダスクと遊んでいたこと。ガーディアンの長に何かの暗示を魅せられて、この夢の中にいる。

 ここはほんとに夢なのか。妙に現実感がする。頬をつねってみると地味に痛いし。夕食の味があった。夢であればこんなに、リアルじゃない。思い出せ。長はあの時助言みたいなものを言っていた。

〝これから見せる夢は、この世界じゃない別の世界。きっとそこでは、彼女たちがいない場所だ〟

 宇宙人がいない並行世界の夢? 
 そんなことを見せることが可能なのか。可能か不可能かを考えている場合じゃない。どうやったら覚ますことができるんだ。

〝大丈夫。夢だから覚めるよ〟

 なんて軽く言っていたが、頬をつねってみても夢から覚めない。対処法が見つからない。夢が夢だと気づいたとき、夢から覚めろと言えば夢から覚めることが出来るのだろうか。

 試しに一回「夢から覚めろ」と口ずさむが何も変わらない。これは夢ではなく宇宙人がいない並行世界に移されたのでは。リアル感が半端ない。なら夢から覚めろではなく「並行世界から出たい」て言えば覚めることができるのでは。

 いや、可能性が低い。
 初めて会った人間だけど、あの長が嘘をついているとは思えない。心の何処かで信頼しているのは何故だ。

 夢から覚めないまま、この世界で夜を明かした。不安から一睡も眠れないまま、朝を迎え、身支度を整えた。一階に降りると昨日と同じようにペットたちが先にご飯を食べていた。

 家族が揃うと手を合わせて「いただきます」と唱える。今日のご飯は満足したのかペットたちは机からひょっこり顔を出さない。居間のソファーや床で寛いでいる。ただ一匹、やっぱり違ったのが我が家で一番の年上、老犬が真っ暗な液晶画面のテレビを凝視していた。

 老犬が座っている横はいつも、コスモたちが座っていた。居間に降りて必ずやることはテレビゲームをすること。
 ぽんと頭を撫でた。老犬はクゥーんを寂しそうに鳴く。まさか、こいつも分かっているとはな。頭をワシワシ撫でた。

 学校に向かった。正直、行く理由もないのだが、サボると両親にきつく叱られる。高校では真面目にしてくれ、てお願いされたからな。並行世界なら、もう少しマシな設定にしてくれ。例えばグレていた頃がない世界とか、両親の拾い癖を穏便になっている世界とか、あるだろ。なんで、コスモたちがいないんだよ。

 大事なものを抜き取られた感じでぽっかり穴が空いている。そこから涼しい風が入ってきて、胸が締め付ける。

 学校に向かう足を止め、スーパーの近くの公園で休んでいた。何処か知らない並行世界だ。サボっても罰は当たらんだろ。それに、この世界の学校はつまらない。

 金城生徒会長と委員長は同じ顔、同じ名前であっても、俺の知っている二人じゃない。もし俺がフレンドリーに会話してきたらどうなる。怖がられるのが目に見える。宇宙人たちがいたからこそ、会話出来たのに。その存在がいなかったら、元々話すこともなかった関係だ。

 つまんない、と何度も心の中で呟いた。

 ブランコに乗って、青く澄んだ青空を眺めた。雲一つない快晴。朝日の陽が眩しいほど照らしている。ゆっくり目をつぶった。穏やかな風が吹く。

 木々がざわつき、もう片方のブランコがキコキコ揺れた。目を瞑ると、辺りは真っ暗だ。最初にみた情景と同じ。暗闇で何も見えない。

 ふっと瞼を開けると色が見えていく。青い空が最初に見えた。眩しいほどの光が顔に当たって痛い。

 ふと思い出した。委員長もこの世界に来ているのでは。同じように眠ったのであれば、同じ夢だと思う。信じたい。会話出来るかもしれない。

 ブランコから立ち上がった。少し希望が見えた。ブランコから立ち上がったさいに、何かが落ちた。地面を見下ろすと禍々しい黒い物体。

 銃だ。
 そういえば、懐に入れてたな。これは夢の世界だぞ。リアルのものを夢の中に持ち出せるなんて。いいや、そんなこと考えている場合じゃない。銃を手に取って弾があるか確かめた。
 ギャラクシーに手渡されたときから使っていない。一発も撃ってないから全弾ある。感触も手触りも本物だ。

 重いしやけに冷たい。

 夢から覚める方法を考えていた。夢から覚める方法は自分がコントロールしなければならない。この世界で自分の存在を失ったら、どこに行くと思う。現実世界だ。この世界でもし、死を選んだら戻れる。

 銃口を恐る恐る耳の上に突きつける。ここで撃てば音が大きく聞こえて、確実に死ぬ。死ぬのは普通に怖い。手が震えている。でもやらないと夢から覚めない。

 〝死〟がほんとに脱出方法なのか分からない。確実ではない。でもやるしかない。結論に結論づけて、この道だ。

 口の中がひどく乾いている。恐ろしくて銃を持っている手に力が入らない。ぐっと覚悟を決めた。俺はコスモたちを助けにきた。これは恐らく、試されている。

 宇宙人がいない世界が当たり前。家族だと言い切る俺たちの絆を試しているんだ。

 俺はこの世界で暮らすつもりはない。戻るんだ。あいつらがいた場所に。腹の底から声を張り上げて引き金を引いた。

 一瞬だった。
 目の前の景色が真っ逆さま。天と地が逆転している。痛みがない。あるのは、手に持っている銃の冷たい感触。氷のように冷たい。俺を中心に赤黒い血がドロドロと出てきた。まるで薔薇みたいだ。
 意識が遠退いていく。
 最後に願ったのは――。


 ハッとして目を覚した。
 すぐに上体を起こして、心臓の音を確かめた。生きている。ちゃんと生きている。それにここは――辺りをキョロキョロ見渡した。

 白い小さな小石。金魚が泳いでいる大きな池。並木道のようにマツの木が並んでいる。ここは、ガーディアンの本部だ。

 帰ってきた。帰ってこれたんだ。
 じわと目が熱くなった。
「起きたのですか」
 目頭を拭いていると、知っている声が降ってきた。声のする方向を恐る恐る振り向くと、縁側の奥にいる長がニコリと笑っていた。
「まさか、自力で起きてくる人は初めて見たな。どうやったの?」
 目をキラキラ輝かせた。 
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