うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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二章 侵略者と訪問者 

第26話 飼い主

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「里親?」
 学校から帰り、お袋から「おかえり」を言われたあとに告げられた言葉。俺はびっくりして、オウム返しに返した。この家にとって、その言葉は、頻繁に使う言葉で、びっくりしたのは、久しぶりに聞いたからだ。
「そう。最近何故かこの子たちのストレスが増えててもしかしたら、新しい子が増えたのが原因なのかなって、だから里親募集してみたの。それに、もう、欲しいて人がいるわ」 
 お袋は、切ない表情で言った。確かにこの頃、過剰に怯えてて辛そうだった。原因は分かるけど。前々から里親を募集していて、三匹はこの家を離れることになる。

 ずっと暮らしてしてきた家族が離れ離れになるのは、悲しいな。
「あ、ダスクちゃんの里親見つかったわよ~」
 お袋は上機嫌に笑った。
 そうか、ダスクもついにこの家から離れるのか。ん? 待て待て。
「お袋、ダスクはだめだ。家に置け」
「もう決まったわよ。我儘言わないの!」
 めっ、と叱るように言われた。お袋はこれから三匹を里親に連れて行くらしい。ほんとに急だな。ダスクは、家にいない。

 コスモとオービットの姿がないから、きっと、外で侵略やらやっているのだろう。お袋はダスクを探した。
「あの子、よくフラフラ出歩くわよね。この前も夜に出歩いてて心配だった。でも夕御飯前には帰ってきて偉いし、大丈夫よ。明後日までに届けばいいし」
 お袋は、二年一緒に連れ添ったメスのチワワと九ヶ月共にいたオスの猫をゲージにいれようとしている。
 宇宙人がいないから、動物たちは久しぶりの安寧を過ごしていた。窓際でゆったり寝てたり、部屋の中を駆け回っていたり、はしゃいでいる姿は微笑ましい。

 ダスクは明後日までに里親に出される。もう決まっている。里親様からも楽しみだ、というメールが届いてあとには引けない。
「その、里親てどういう人?」
 本来プライバシーという壁があるが、気になって聞かずにはいられなかった。ここから近い範囲だったら、寄れるかも。
「とても優しい人だったわ」
 模範的な答え。
 里親様を普通悪い人だって、言えないもんな。どんな人物かは詳しく聞けない。
「男? 女?」
「男性」
「歳は?」
「確かお子さんが、一樹と同じ高校生だって言ってた」
「家はどこ?」
「気になるのは分かるけど、プライバシーの侵害があるからね? 程々にね」
 お袋からまた、めっ、と小さな子を叱るような叱りかたで怒られた。ゲージに入れるのは中々大変だ。二人がかりで行った。

 オスの猫はすんなり入ったが、メスのチワワはキャンキャン吠えてゲージを警戒している。この中に入ると〝お別れ〟だってこと、知ってるんだよな。

 心苦しい。胸が締め付けられる。二年一緒にいたせいで、情が完全に写っている。ようやくゲージの中に入れた。親父が車を準備してて、車にゲージを運ぶ。チワワはずっとキャンキャン吠えている。甲高い声でずっと。
 まるで『わたしをすてないで』と。
 悲痛な叫び声が、こっちの胸を苦しめる。
 
 チワワと猫とお別れし、車が去っていく。〝お別れ〟は、何度やってもこればかりは慣れない。でも別れだけじゃない。新たな出会いがある。別れがあるから、巡り巡って出会いに繋がる。自然な摂理。

 ずっと共にいた家族が離れていく。お袋はが「あとはダスクちゃんだけね」と大きく息をついた。夕飯前にコスモたちが帰ってきた。早速、ダスクに里親の件を話す。
「里、親?」
 ダスクもびっくりしていた。切れ長の目を大きく見開いて。
「里親の人がどんな人か知らないけど、もうすでに決まっている。大丈夫か?」
 大きく見開いた目をゆっくり戻していく。
 少し寂しそうな表情。告白するのも、されるのも辛い。ダスクは口を閉ざした。

 代わりにギャーギャー騒いだのは、オービット。
「ダスク様にこの家から出ていけとぉ!? 地球人が偉そうにっ! ダスク様は銀河一天才美少女で儚げで、ゆくゆくは地球を支配する権力者! 地球人が偉そうに口を聞いているのもおこがましいのに、それと出ていけと!? 今一度隕石を落とさないといけません、ね? ダスク様っ!」
 オービットはぐるりと振り向くと、そこにはダスクの姿はなかった。オービットを置いて、俺たちはさっさと夕飯に。オービットはさらに、激怒し喚いている。でも居間に両親がいるので、そこから先はいけない。

 さっと家を出て庭に行く。
 不完全燃焼した怒りは、明日も続くだろうな。ダスクは夕飯食べたあとも無言だった。里親の件、自分は捨てられたと解釈したのかもしれない。

 夕食を食べて、風呂上がったあと、部屋に一人っきりのとき、コスモがやってきた。コスモが部屋に来るのは珍しくもない。ただ、静かにやってきたのが珍しい。いつもは足音たててノックもせずにやってくる。珍しくて二度見した。
「ダスクはどっか行くの?」
 里親の話を聞いてたので、コスモが不安そうに聞いてきた。
「新しいお家に行くんだ。里親の人たちに頼んで、一ヶ月のお試し期間を用意してくれた。だから、一生離れ離れじゃない」
 不安になっているコスモを安心させるため、優しく言うと、コスモはホッと息をついた。コスモの影で見えなかったがその後ろにはダスクが立っていた。気づかなかった。俺の言葉を聞いて、ほっとした様子。ほっとしたからなのか、里親の人について詳しく聞かせてと言ってきた。

 里親の人について俺もお袋から聞いた限りのことしか知らない。ダスクは覚悟を決めた表情で「少し離れ離れになるけど、あたしなら大丈夫」と言った。受け入れた。そして、あっという間にダスクが家を出ていくのが訪れた。
「ダスク様っ! 離れ離れは嫌ですぅぅぅぅぅ!!」
 オービットがしがみつき、車に乗るダスクを力ずくで引っ張り戻す。が、お袋たちに引き離され、あっという間に車の中に。
「おのれぇぇぇぇぇ!! 地球人めっ、あたしとダスク様を引き離すとは、今一度その頭に鉄槌を下さないといけませんね」
 目を真っ赤にさせ、髪の毛が陽炎のように揺れていた。気のせいか、オービットの背後に燃え盛る炎がみえる。
 オービットの憤怒をよそに、俺たちはダスクと別れを告げる。

 ダスクが車内の窓を開け、そこから顔を出す。切れ長の瞳の奥が微かに揺れてて、緊張している様子。そんなダスクに俺たちは笑顔で別れる。これが永遠の別れじゃない。
 一ヶ月なんてすぐだし、たまに会えるさ。
「いってらっしゃい。くれぐれも気をつけないよ?」
 スターが明るく言った。
「気をつける、て何を?」
 訊くとスターは、腰に手を当てふんぞり返った。
「そりゃ当然、宇宙人だって証拠よ」
「触覚が見えなければ地球人はあたしたちのこと、犬か猫にみえるから大丈夫じゃない?」
 触覚を触って、ヘラヘラ笑う。
 全く危機感を持っていないダスクに、スターは呆れた顔をした。
「見える人には見えるの。それに、それだけじゃない。里親が男性て聞いたけど、それって狼の家にわざわざ行くみたいなものじゃない! 初めて家にやってきた子を誘って風呂に一緒に浸かって体中を触られ、弄られ、開発されて、部屋でゆっくりしていたら、無理やり股を開かせてとんでもないプレイをされて、股の間はトロトロに溶かされ、もう、あの棒じゃ満足できない体にされたりして!」
「そんなことあるわけないでしょ!! 妄想の中であたしをグチャグチャにしないで!」
「これは気にすんな」
 早朝の時間で疎らに人が通っているのに、よく恥ずかしげもなくソンナ事ペラペラ言えるな。感心するわ。スターの妄想言は止まらない。一層過激になっていく。
 体をくねくねさせて、気持ち悪い。途中で喘ぎ声を漏れるから、聞いてるこっちが恥ずかしい。
 
 車が発進するまでまだある。まだお別れを言っていないのは、コスモだけ。コスモはじっとダスクの顔を眺めていた。ダスクが微笑むと、コスモは少し気まずそうに顔を逸らした。何を言ったらいいのか分からないのかもしれない。
「行ってくるから。でも絶対に永遠の別れじゃないからね?」
 ダスクが優しく言った。コスモは、ゆるゆると顔をダスクに向ける。
「いってらっしゃい」
 出た言葉は、俺が事前にダスクに言っとくように教えた言葉。その言葉を聞いて、ダスクはふっと微笑んだ。  

 それぞれの別れを告げ、ダスクを乗せた車が発進していく。里親の人はこの地元。だからそんな離れていない。こいつらは、まるで永遠の別れみたいな雰囲気出してたけど、そういや、近いってこと言ってなかったな。まぁ、いいや。

 オービットは、走っていく車を追いかけていく。
「ダスク様あ! 離れ離れはもう嫌ですうぅぅぅ!!」
 車を運転している親父は気づいていない。車を加速していく。触覚のみえない人間は、宇宙人を犬か猫だと判別している。そりゃ気づかない。

 空き缶で足がもつれて転倒。起き上がったころには、車はそのまま走って見えなくなっていた。オービットはわんわん泣き出した。大きな目からポロポロ出る透明な雫は、真珠みたい。
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