27 / 100
二章 侵略者と訪問者
第27話 金城家
しおりを挟む
ダスクは困惑した。別れ際、スターから宇宙人であることを隠すように言われていた。そんなとき、自分はそれ程大きな危機感は持っていなかった。だって、触覚が見える人間は少数で百分の一に等しい。
触覚が見える人間がこの街で、一人も二人もいるのもおかしいけど、三人目となると、異常だ。
里親の家は、もともといた所より数倍大きい。三階建ての一軒家で、庭にゴルフ場がある。外見から見ても大口開けて眺めるしかなかったが、中にも足を踏み入れると、開いた口が塞がらない。
廊下には赤い絨毯が敷いていて、天井はダイヤモンドのシャンデリアがあって、居間と思わしき場所には大型のテレビがあった。最早、映画のスクリーンみたいな大きさ。
こんなのでテレビゲームなんかやったら、迫力満点ね。ダスクは一旦深呼吸して落ち着こうとした。
ここまで送ってくれた相原家は外で別れた。
「それじゃあ、一ヶ月間、頼みます。金城さん」
「はい。ありがとうございます」
やってきたのは金城家。あたしを出迎えたのは、一樹と同じ指定の制服を着た、真面目そうな青年だった。
低い声で、妙に落ち着いた声。
ボタンを第一ボタンからしめてて、いかにも真面目そうな雰囲気。元いた場所の住民より、緩んでいない。
あたしを見た人間は、びっくりしていた。いきなり手が伸びてきて、触覚を触ってきた。
「人間?」
まさか、この人間も触覚が見えてる人間だったとは。
オービットがどこまでも追いかけるから、こっちも仕方なく追ってみた。ただ、車の速度に追いつけられるのは宇宙人で、俺はコスモにおぶられている。
「これ、刑事ドラマで見たわ! わたしたち今、刑事になっている」
壁から電柱へ顔を出して、車を追跡するスターが、疲れた顔せず明るい表情で言った。
「そうだな。とりあえずおろしてくれ」
「でも、追いつけないよ?」
コスモの優しさは有難く受け取っていく。でも、それそろおろしてくれないと、周囲の視線が痛い。周囲からどんなふうに映っているのか分からないが、ペットにおぶられるのはゴメンだ。
コスモややれやれ、とおろしてくれた。車はさっきから一軒家に止まっている。どうやら、目的地にたどり着いたらしい。里親の人はここか。地元というか近いな。家から五キロしか離れていない。
三階建ての超豪華な一軒家。表札が『金城』と書いてあった。
「何? 知り合い?」
頭を抱えた俺を見て、スターが顔を覗いてきた。
「いや、うちの学校にも金城て人がいるから。それだけ」
俺は今朝のことを思い出した。生徒会が挨拶を回っている今朝のこと。生徒会長の名前は金城という人で、噂では三階建てだって聞いたことがある。いやいや、まさか、こんな偶然あるわけない。
お袋と親父がダスクを連れて、金城家に入っていく。電信柱から顔を出してそれをうかがう。
今にでもダスクを連れ戻そうとしているオービットをコスモが乗って、抑えている。猛獣のように噛み付く勢いだ。
金城家の玄関からやってきたのは、やはり、知ってる人間だった。今朝の生徒会長だ。俺は頭を項垂れた。
「やっぱり知ってるのね」
頭を項垂れた俺を見て、スターは相手をじっと見た。俺も金城家をじっとうかがった。まさか、ダスクの里親だとは。お袋たちが金城家から出ていく。
「あ」
それを目で追っていると、いきなりスターが声を上げた。再び金城家の玄関のほうに目を向けると、生徒会長がダスクの触覚を触れていた。
「ダスク様から離れろおぉぉぉぉ!」
オービットがコスモの力を振り払って、金城家の高い壁を登っていく。ゴキブリのようによじよじ登っていく。
「何してんのよあんた!」
「そっから顔出すと不法侵入になる!」
俺とスターがオービットを引きずりおろすが、なによりオービットの執念のほうが強いせいで中々できない。
むしろ、あがっていってる。
とうとうオービットは、壁を登りきってしまった。中からガシャン、と何かが割れる音がして喉の奥がひゅ、と鳴る。
あいつ、何を割ったんだ。まさか、高級シャンデリアじゃないだろうな。俺の財布は、それを払えるほど分厚くないぞ。
スターが中に入ってみようと、試みた。俺もここでずっと待っているなんて神経が切れる。生徒会長に会うのは嫌だけど、オービットが割ったものを知りたい。
お袋たちは見ない間にもういなくなっていた。ここに俺たちがいると知ったら、どんな反応するか目に浮かぶ。来客を迎えたので、大きな玄関は開いていた。
鉄でつくられたお洒落な扉。横にインターホンがあった。コスモとスターはそのまま、スタスタと中に入っていくので、俺はすぐにはインターホンを押して、コスモたちを引っ張り戻した。
「ばっか! 勝手に人様の家を土足で踏み入れるな! こういうのは順序があんだよ」
「宇宙人に順序は関係ない」
「地球にいる限り順序に従ってもらう」
インターホンを鳴らしたので、そろそろ来るだろ。だが、誰も来ない。開いた玄関が不用心すぎる。まるで、あがっていいよ、という感じ。
すると、インターホンから声が届いた。
『あれ? 君は――うちの学校の――まぁ、いい。あがって』
熱烈な歓迎とは言わないが、すんなり受け入れてくれた。俺はコスモたちを放して、中に入る。
すごい。石で作った道。その周りは緑の芝生があり、その奥でゴルフ場が見えた。金持ちかよ。金の城だけに。冗談言ってる場合じゃない。俺は頭を振って、凛と姿勢を正した。場違いが半端ない。早くオービットを回収してダスクのこと聞き出そう。
家の玄関の前にたどり着くと、そこにもインターホンがあり、そこには中の様子が見える映像があって、何も映っていない。
俺が来たことを知ると、玄関の戸が一人で勝手に開いた。自動ドアかよ。
「すまない。今手が離せないんだ。あがってきてくれ」
奥から声がした。
宣言されたとおり、いや、言われるまえにコスモが玄関を開けて勝手に中に入っていく。すぐに目についたのは、玄関から長い廊下まで敷いてあった赤い絨毯。埃もなければ、廊下が照明のせいでピカピカしている。
セレブかよ。外国のセレブみたいで、ここが日本じゃないみたい。コスモとスターは一旦中に入ると「おぉ」と歓声の声をあげた。
手が離せない理由は、すぐにわかった。金城生徒会長は、散らばった硝子を塵取りで取っていた。飴細工みたいにキラキラ光って青や赤に反射している。
「窓から子猫が出てきてね、割ったみたいだよ。壺を」
「つ、壺!?」
俺はくらりと横転した。
魂が抜け落ちて行く。この高級家を見てみろ。絶対億がつく高級なものだぞ。そんなの、そんなの……。
「ちょっと、しっかりしてよ!」
「もう手遅れ」
魂が抜け落ちて、体がゆっくり倒れた俺を支えてくれたのは、コスモとスター。金城生徒会長は、硝子の壺をさっさと掃除してて気づいていない。話を進めていく。
「でも怪我はなくて良かった。硝子の壺をあんなところに置いたほうが悪い。それに、あれはヒビが入ってて捨てようかと思っていたんだ」
たったそれだけを聞いて、俺の魂は体に戻った。体の中に魂が戻ってきて、みるみるうちに元気になっていく。
蛙のように跳ね起き、コスモとスターは呆れた眼差しとびっくりした眼差しを向ける。
「そっか! 捨てるものだったんてすね! それは良かった!」
払わなくて良かった。財布が守られたことに目から涙が浮かぶ。床に散らばった硝子を掃除した金城生徒会長がくるりと振り向いた。
「ヒビが入っていても、売れば六万の価値だ」
その言葉でひゅ、と涙が引っ込んだ。
掃除し終えたら、居間に座らせてくれた。テレビの迫力すげぇな。コスモはテレビを見て、キラキラした眼差しを向けた。真っ黒い液晶画面に向けて。
椅子から前乗りになっているから、俺はコスモを元の姿勢に戻す。
ここでゆっくりお茶するために来たんじゃない。オービットを回収するためだ。スターの〈探索〉でオービットの居場所を追跡すると、この家の庭にいるらしい。そこにはもう一つ、生命反応があって、ダスクも一緒にいるらしい。
台所から金城生徒会長が出てきた。
「すまないね。せっかく来たのに、見苦しいところを見せて」
「いえ、急に来た俺たち、じゃなくて、俺が悪いんですから」
金城生徒会長は、小首をかしげたがいつものような飄々とした表情に戻った。机の上にさっき沸かしたお茶を置く。
俺の前に。スターの前に。コスモの前に。
「生徒会長……やっぱり、これ、見えてるんですね」
俺はコスモたちを指差した。金城生徒会長は、不思議な表情で首を傾ぐ。一体何を言ってるんだい、みたいな顔。これは、正直に言って信じてもらうしかない。
いや、ダスクの里親であっても、まだお試し期間。本当に飼うべきか分からないのに、ここで口を滑ればどうなる。記憶を消される。
触覚が見える人間がこの街で、一人も二人もいるのもおかしいけど、三人目となると、異常だ。
里親の家は、もともといた所より数倍大きい。三階建ての一軒家で、庭にゴルフ場がある。外見から見ても大口開けて眺めるしかなかったが、中にも足を踏み入れると、開いた口が塞がらない。
廊下には赤い絨毯が敷いていて、天井はダイヤモンドのシャンデリアがあって、居間と思わしき場所には大型のテレビがあった。最早、映画のスクリーンみたいな大きさ。
こんなのでテレビゲームなんかやったら、迫力満点ね。ダスクは一旦深呼吸して落ち着こうとした。
ここまで送ってくれた相原家は外で別れた。
「それじゃあ、一ヶ月間、頼みます。金城さん」
「はい。ありがとうございます」
やってきたのは金城家。あたしを出迎えたのは、一樹と同じ指定の制服を着た、真面目そうな青年だった。
低い声で、妙に落ち着いた声。
ボタンを第一ボタンからしめてて、いかにも真面目そうな雰囲気。元いた場所の住民より、緩んでいない。
あたしを見た人間は、びっくりしていた。いきなり手が伸びてきて、触覚を触ってきた。
「人間?」
まさか、この人間も触覚が見えてる人間だったとは。
オービットがどこまでも追いかけるから、こっちも仕方なく追ってみた。ただ、車の速度に追いつけられるのは宇宙人で、俺はコスモにおぶられている。
「これ、刑事ドラマで見たわ! わたしたち今、刑事になっている」
壁から電柱へ顔を出して、車を追跡するスターが、疲れた顔せず明るい表情で言った。
「そうだな。とりあえずおろしてくれ」
「でも、追いつけないよ?」
コスモの優しさは有難く受け取っていく。でも、それそろおろしてくれないと、周囲の視線が痛い。周囲からどんなふうに映っているのか分からないが、ペットにおぶられるのはゴメンだ。
コスモややれやれ、とおろしてくれた。車はさっきから一軒家に止まっている。どうやら、目的地にたどり着いたらしい。里親の人はここか。地元というか近いな。家から五キロしか離れていない。
三階建ての超豪華な一軒家。表札が『金城』と書いてあった。
「何? 知り合い?」
頭を抱えた俺を見て、スターが顔を覗いてきた。
「いや、うちの学校にも金城て人がいるから。それだけ」
俺は今朝のことを思い出した。生徒会が挨拶を回っている今朝のこと。生徒会長の名前は金城という人で、噂では三階建てだって聞いたことがある。いやいや、まさか、こんな偶然あるわけない。
お袋と親父がダスクを連れて、金城家に入っていく。電信柱から顔を出してそれをうかがう。
今にでもダスクを連れ戻そうとしているオービットをコスモが乗って、抑えている。猛獣のように噛み付く勢いだ。
金城家の玄関からやってきたのは、やはり、知ってる人間だった。今朝の生徒会長だ。俺は頭を項垂れた。
「やっぱり知ってるのね」
頭を項垂れた俺を見て、スターは相手をじっと見た。俺も金城家をじっとうかがった。まさか、ダスクの里親だとは。お袋たちが金城家から出ていく。
「あ」
それを目で追っていると、いきなりスターが声を上げた。再び金城家の玄関のほうに目を向けると、生徒会長がダスクの触覚を触れていた。
「ダスク様から離れろおぉぉぉぉ!」
オービットがコスモの力を振り払って、金城家の高い壁を登っていく。ゴキブリのようによじよじ登っていく。
「何してんのよあんた!」
「そっから顔出すと不法侵入になる!」
俺とスターがオービットを引きずりおろすが、なによりオービットの執念のほうが強いせいで中々できない。
むしろ、あがっていってる。
とうとうオービットは、壁を登りきってしまった。中からガシャン、と何かが割れる音がして喉の奥がひゅ、と鳴る。
あいつ、何を割ったんだ。まさか、高級シャンデリアじゃないだろうな。俺の財布は、それを払えるほど分厚くないぞ。
スターが中に入ってみようと、試みた。俺もここでずっと待っているなんて神経が切れる。生徒会長に会うのは嫌だけど、オービットが割ったものを知りたい。
お袋たちは見ない間にもういなくなっていた。ここに俺たちがいると知ったら、どんな反応するか目に浮かぶ。来客を迎えたので、大きな玄関は開いていた。
鉄でつくられたお洒落な扉。横にインターホンがあった。コスモとスターはそのまま、スタスタと中に入っていくので、俺はすぐにはインターホンを押して、コスモたちを引っ張り戻した。
「ばっか! 勝手に人様の家を土足で踏み入れるな! こういうのは順序があんだよ」
「宇宙人に順序は関係ない」
「地球にいる限り順序に従ってもらう」
インターホンを鳴らしたので、そろそろ来るだろ。だが、誰も来ない。開いた玄関が不用心すぎる。まるで、あがっていいよ、という感じ。
すると、インターホンから声が届いた。
『あれ? 君は――うちの学校の――まぁ、いい。あがって』
熱烈な歓迎とは言わないが、すんなり受け入れてくれた。俺はコスモたちを放して、中に入る。
すごい。石で作った道。その周りは緑の芝生があり、その奥でゴルフ場が見えた。金持ちかよ。金の城だけに。冗談言ってる場合じゃない。俺は頭を振って、凛と姿勢を正した。場違いが半端ない。早くオービットを回収してダスクのこと聞き出そう。
家の玄関の前にたどり着くと、そこにもインターホンがあり、そこには中の様子が見える映像があって、何も映っていない。
俺が来たことを知ると、玄関の戸が一人で勝手に開いた。自動ドアかよ。
「すまない。今手が離せないんだ。あがってきてくれ」
奥から声がした。
宣言されたとおり、いや、言われるまえにコスモが玄関を開けて勝手に中に入っていく。すぐに目についたのは、玄関から長い廊下まで敷いてあった赤い絨毯。埃もなければ、廊下が照明のせいでピカピカしている。
セレブかよ。外国のセレブみたいで、ここが日本じゃないみたい。コスモとスターは一旦中に入ると「おぉ」と歓声の声をあげた。
手が離せない理由は、すぐにわかった。金城生徒会長は、散らばった硝子を塵取りで取っていた。飴細工みたいにキラキラ光って青や赤に反射している。
「窓から子猫が出てきてね、割ったみたいだよ。壺を」
「つ、壺!?」
俺はくらりと横転した。
魂が抜け落ちて行く。この高級家を見てみろ。絶対億がつく高級なものだぞ。そんなの、そんなの……。
「ちょっと、しっかりしてよ!」
「もう手遅れ」
魂が抜け落ちて、体がゆっくり倒れた俺を支えてくれたのは、コスモとスター。金城生徒会長は、硝子の壺をさっさと掃除してて気づいていない。話を進めていく。
「でも怪我はなくて良かった。硝子の壺をあんなところに置いたほうが悪い。それに、あれはヒビが入ってて捨てようかと思っていたんだ」
たったそれだけを聞いて、俺の魂は体に戻った。体の中に魂が戻ってきて、みるみるうちに元気になっていく。
蛙のように跳ね起き、コスモとスターは呆れた眼差しとびっくりした眼差しを向ける。
「そっか! 捨てるものだったんてすね! それは良かった!」
払わなくて良かった。財布が守られたことに目から涙が浮かぶ。床に散らばった硝子を掃除した金城生徒会長がくるりと振り向いた。
「ヒビが入っていても、売れば六万の価値だ」
その言葉でひゅ、と涙が引っ込んだ。
掃除し終えたら、居間に座らせてくれた。テレビの迫力すげぇな。コスモはテレビを見て、キラキラした眼差しを向けた。真っ黒い液晶画面に向けて。
椅子から前乗りになっているから、俺はコスモを元の姿勢に戻す。
ここでゆっくりお茶するために来たんじゃない。オービットを回収するためだ。スターの〈探索〉でオービットの居場所を追跡すると、この家の庭にいるらしい。そこにはもう一つ、生命反応があって、ダスクも一緒にいるらしい。
台所から金城生徒会長が出てきた。
「すまないね。せっかく来たのに、見苦しいところを見せて」
「いえ、急に来た俺たち、じゃなくて、俺が悪いんですから」
金城生徒会長は、小首をかしげたがいつものような飄々とした表情に戻った。机の上にさっき沸かしたお茶を置く。
俺の前に。スターの前に。コスモの前に。
「生徒会長……やっぱり、これ、見えてるんですね」
俺はコスモたちを指差した。金城生徒会長は、不思議な表情で首を傾ぐ。一体何を言ってるんだい、みたいな顔。これは、正直に言って信じてもらうしかない。
いや、ダスクの里親であっても、まだお試し期間。本当に飼うべきか分からないのに、ここで口を滑ればどうなる。記憶を消される。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる