うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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一章 侵略者と地球人 

第10話 ダスク

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 銀行強盗から有名人の失踪まで、軽く解決した宇宙人たち。次はなにを解決へと導くのか。

 有名歌手Aさんの問題が解決し、俺たちは帰路についた。あっさり解決したので拍子抜けだ。解決したのは俺じゃなくて、アポロだけど。その帰り道。

 辺りはまだ明るくて、灯りはまだ早い。照りつける太陽を背後に、俺たちは暑い日差しから逃げるようにして帰路につく。その帰り道だった。
「そんな知らないの探すより、あたし探そうとしなかったの!?」
 突然、怒声を浴びせられた。背後から。俺たちは立ち止まって振り返った。太陽の逆行が眩しい。

 それでも、人の形したシルエットが。全体的丸くて、腰のラインがきゅと引き締まっている。程よい肉がついた体格。シルエットが近づいてきた。そのせいで、影が伸びている。頭に触覚がある影。逆行のせいで、誰か判別できない。

 建物の影に入ると、ようやく顔が見えた。コスモたちと同い年くらいの女の子。砂で汚れた体。民族衣装に身にまとった女の子。赤毛のミディアムヘア。太陽の光を浴びると、真っ赤にみえる。頭には独特な触覚がある。
「あ、ダスクだ」
「ダスクじゃない!」
 コスモとスターが反応した。 
 彼女に近づく。ダスク、という名前に聞き覚えがある。確か、コスモの仲間の一人で宇宙人だ。

 コスモたちが駆け寄る前に、ダスクと呼ばれた少女がぐたりと地面に膝をついた。
「ゔっ……やっと、やっと会えた」
 ダスクはポロポロ涙を流して、コスモたちと抱き合った。宇宙人三匹がやっと再会した瞬間。

 涙と感動の再会でガーディアンたちも退いた。ルナは使命を全うしようと抗議したが、アポロはそれを拒否し、感動の再会中の宇宙人たちを見なかったことにしようと、退いた。

 そして、相原家には宇宙人が揃っている。頭に触覚がある以外、十二歳の人間の女子みたい。でもうちに秘めたものは、人並外れたものを持っている。ダスクは、相原家を前にして立ち止まった。玄関の前で立ち止まる。
「デカイ……! 日本の家、どこもデカイ!」
「当たり前でしょ! さっ! 入って」
 スターがダスクの背中を押して、玄関の中に入らせる。ダスクはビクビクしながら、相原家に入る。
「待て」
 俺がダスクを止めると、ダスクにギロリと睨まれた。他の三人と雲泥の差だな。
「汚れた足で歩くな。これで拭け。まったく宇宙人とやらはそんなことも知らないのか」
 俺はぶつぶつ文句をぶつけると、ダスクは素直に素足をタオルで拭いた。最初会ったときのコスモも、裸足で外歩いてたな。

 ダスクが知らないのも無理ない。今までダスクがいた場所は、海の向こうの大陸でそこには、電子機器もない少民族が住んでいた。コスモとスターは同じ国、同じ地域だったけど、ダスク一人、着地点を間違えていた。

 少民族に捕らえられ、殺されかけ、それからアフリカのサバンナたちを使役しながら海から海へ点々とし、コスモたちのいる日本を目指したという。

 ダスクは未だにポロポロ泣いて、コスモとスターの手を握っている。まるで、離さんとばかりに。

 俺は少しほっとした。宇宙人が揃ったのは不安要素しかない。けど、残ったそいつが割とマトモそうだったから。コスモは、気だるげで天然で色々しつこいし、スターは常識人だけど、どこか頭のネジが外れてて、残されたあともう一匹はどうか、マトモであってくれ。そう願ったばかり。その願いが天に通用した。ありがとう神様。天に向かって、合掌をする。

 すると、ダスクが懐から何かを取り出した。
「サバンナを渡り歩いていても、これだけは手放さなかったの。あんたたち、あたしがいなくて、マトモに侵略してないでしょ?」
 やけに自信に満ちた表情で言ったダスクが取り出したのは、白のタブレット。両手を抱えるほどの大きさ。
「やっぱりダスクが持ってたのね!」
 スターが感心したように、声を上げた。そのタブレットとは、地球のエネルギーや人々の感情を読み取れるもの。他にも、コスモたちを地球に行かせた上の機関たちと繋がる電子機器だ。

 ダスクが電源をつけた。その途端、タブレットの上空に、人影が映る。3D映像みたい。大きな椅子に座っている女性とその隣に執事服を着た男性が映っている。
 宮殿みたいな華やかな場所。シャンデリアがあって、床に敷いている赤いカーペット。長い階段の上に、その人たちはいた。

『あら、久しぶりじゃない。コスモ、スター、ダスク。みんな、元気にしてた?』

 柔らかなとても優しい声。
 体格と身長に見合わぬ大きな椅子に座った女性が、こちらを向いてニッコリ笑った。雪のように真っ白な肌を長い黒髪がより際立せてる。切れ長の目を細め、愛しそうに笑った。初対面なのに、ドキリとするその妖艶な笑み。声までもが、神経を甘く茹でられる。

 コスモたちが頭を垂れている。その存在は、コスモたちが敬う存在だと、認識する。
「こちらは変わらず元気です。サターン様」
 答えたのはダスク。
 サターン様。こいつがコスモたちを地球に行かせた上の機関。そのトップだ。コスモたちの惑星の女王だ。  

『良かったわ! 少しの間、音沙汰なかったから、心配してたの』

 手を胸に当て、ほっとした様子。 
 すると、隣にいた執事服を着た男性がわっと入ってきた。画面全部をこいつの顔になるほど近い。眼鏡をかけた、真っ赤な瞳に銀髪。瞳の中に猫のような縦長線がある男。二十代くらいの男性だ。
『全く心配しましたよ! サターン様も心配して心配して、このわたくしも、心配で夜も眠れなかったほどに!』
 堅苦しそうな奴だな。て思いきや、割と暑苦しい男だった。画面の中を覗き込むようにして、その目はうるうるしている。
「ギャラクシー邪魔」
「暑苦しい」
 とスターとダスクに罵倒を浴びせられ、しくしく元の位置に戻っていく。ようやく三人集まったこと、これから地球侵略すると報告。それを聞いたサターン様は、穏やかに目を閉じてふっと笑った。

『わたしは、あなたたちのことを信じています。必ずやり遂げると、信じてます』

 それを聞いたスターとダスクは、笑みを隠せなかった。穏やかに微笑んだ。一方コスモは、相変わらず無表情で何考えているのか。そんなコスモが、唐突に口を開いた。
「サターン様、私、少しだけ分かった。サターン様がどうして私をここに送らせたのか」
 コスモはじっと、映像画面のサターン様を眺めた。サターン様は、びっくりしたように目を見開いている。刹那、穏やかに笑った。それを最後に、プツンと途切れた。

 タブレットの画面は、真っ黒。残された空間は、言葉にはできないものだった。

 サターン様との会話も終わり、宇宙人はそれぞれの家に帰って行くのだが、ダスクに至っては相原家に泊まらせた。スターやコスモのように、人間とコミュニケーションを取っていないので、帰る家も寝る場所もない。このままじゃ、女の子が野宿する。宇宙人であっても流石に放っておけない。ペットが二匹増えただけで、なんの支障もない。現時点で、家には沢山のペットがいるからな。

 両親たちも新しいペットが増えて大歓迎。ダスクは最初戸惑ってたけど、それなりに慣れるはずだろ。

 深夜。みんなが寝静まった時間帯。

 寝ている俺のベットから、何かゴソゴソと入ってくる。大きい物体。
「何してんだ」
「いだい」
 俺はコスモの頭にげんこつを送った。全くこいつは、油断もすきもない。夜這いは初めてだ。が、コスモに至ってはその意味は知らないだろうがな。
「寂しい、て何なの?」
「それ聞くために、入ってきたのか」
 コスモは頷いた。そういえば、意味を言ってなかった。あのときは、表現できなかったから、言葉に躓いたけど、今なら言える。
「心の中にぽっかり穴が空いたような感覚だ。相手に見向きされなくなったときに出てくる感情だ」
 コスモは、大きく首を傾げた。わからないか。俺も上手く伝えたかどうか、分からない。
「それは、感情ていうもの?」
「そうだな」
 コスモは胸に手を当て、しばらく黙った。コスモがだまりこむと、不思議な感覚だ。熱でもあるんじゃないのか。額に手を乗せると、熱さはない。むしろ、生きているのか疑うほどの平常気温。

 みんなが寝静まった空間。とても静かで、時計の針の音だけが、チクタクと鳴っている。
 コスモとダスクは一緒の部屋で寝ている。ダスクは疲れて爆睡中。そのイビキがこっちまで聞こえる。もしや、逃げてきたな。

 コスモはいつまでも、俺のベット脇に座っている。ダスクのイビキが煩いから、ここを離れたくないのだろう。仕方ない。
「一緒に寝るか」
「うん」
 コスモは、俺のベットの中に入ってきてすぐに眠りについた。こいつも疲れたんだろうな。

 俺も一つ、欠伸した。疲れたのはこっちもだ。次第に瞼が重くなり、だんだん意識が遠のく。俺は泥のように眠りについた。
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