うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

文字の大きさ
4 / 100
一章 侵略者と地球人 

第4話 いざっ!

しおりを挟む
 宇宙人の仲間が集まった。天然で鈍感で無知なコスモなら、侵略は難しいが、割と常識があるスターを加え、また一歩、地球は宇宙人に乗っ取られる可能性が大きくなった。
 今日こそは、侵略をしないといけない。

「で、どうしたらいい?」
 コスモはもぐもぐと、お菓子を食いながらスターに聞いた。
「ちょっとやめてよ。お菓子のクズが溢れてるじゃない。下にティッシュ敷きなさいよ。侵略とかの策略は、ダスクがいればいいのだけど、どこに落ちたんだろ」
 文句を垂れるスターは、近くにあったティッシュ箱に手を伸ばし、一枚ティッシュを引き抜いた。コスモの下に置く。机の上はお菓子のクズがボロボロこぼれていた。

 ここは、相原家。
 宇宙人が集まって侵略会議をしているのは、相原家の俺の部屋だった。俺は勉強机にうつ伏せになり、宿題とにらめっこ中だ。後ろで、物騒な侵略について会議を開いている宇宙人なんか後回しだ。今は勉強勉強。もうすぐテストが近いんだ。
 中学でグレてヤンキーになっていた時代は、勉強なんかろくにしなかった。学校にも行っておらず、むしろ、喧嘩の勝ち星皆勤だった。だから、人より数倍遅れをとっている。

 勉強してやっと、普通の高校生になったんだ。普通の高校生らしく過ごしたい。クラスメイトに舐められないために、勉強だ。
「ねぇ、分かんないよ」
 コスモがクイクイと袖を引っ張った。お菓子をつまんだ手で。
「話しかけんな。その手で触んな。どっか行け」
 そっけない返事を返す。
「地球人の前で話すことじゃないわよねぇ」
 スターがため息をついた。
 スターが改まって常識人に見える。もうこの中で常識人として輝いてみえる。

 コスモはまた、スタート向き合うように座った。また新しいお菓子袋を開けて。食べたあとのゴミも分別しないで、そこら辺に置いて。俺はそれだけを見て、こめかみがピクピクした。
 お菓子をつまんで食べているコスモと目が合った。「食べる?」と明太子味のプリリツを差し向ける。こいつ、悪切れもなく。

 プツン、と何かが切れた。昔から短気だったから、喧嘩に明け暮れ、高校ではそれを治そうと思っていた。でも無理だった。俺は所詮、こんな人間だ。
「コスモぉ! そんなだらしない奴に育てた覚えはねぇ! 食ったあとのゴミはゴミ箱に、部屋は散らかすな、あと綺麗に食べろ、口の周り色々ついてっぞ。それと、俺のお菓子じゃねぇか全部!」
 俺の怒声が家中に響きわたった。
 そういえば、買ってきたものが急激になくなっているかと思ったら、全部こいつの仕業だったのか。どうりで。しかも、どうやって俺の懐から盗んだ。油断もすきもない。
 コスモは、怒られたのにポカンとしている。部屋が異質な空気になる。それを察してか、スターがコスモを引っ張って部屋から出ていった。

 残った空気は、圧倒的な虚無感。
 去っていったあいつらは、部屋の片付けはしていかなかった。仕方なく俺がやることに。なんで、俺のところにはあんな鈍感な宇宙人が居座っているのだろう。つくづく思う。

 相原家を出ていった二人はぼとぼとと、道を歩いていた。目的地はなく、ただ、ブラブラ歩いているだけ。珍しく落ち込んだ様子でコスモがぼとぼとと歩いていた。そんなコスモに、スターは立ち止まってみた。同じようにコスモも立ち止まる。
「怒られたねぇ。というかあの地球人、短気すぎ」  
「……うん」
「そうだ。わたしずっと考えてたんだけど、まずこの地域を侵略して、次に隣町を侵略して、そうすると、全国に広がっていきやがては日本全土侵略達成よ」  
 その意気込みはしっかり持っているが、具体的に何をすればいいのかよく分かっていない。
 二匹は近くの河川まで歩いて行った。

 コンクリート製の護岸ごがんに腰を落とす。サラサラと流れる穏やかな川。朝日の光を浴びて、つやつや輝いている。海からやってきた魚が優雅に泳いでいた。
 穏やかな風がふくと、穏やかく魚たちを歓迎しているかのように波も動く。 

 地球でいえば、休日の朝。ジョギングする人や四足歩行の動物を散歩している人も。普段から人通りが多いのか、穏やかな風とは反対に、ここは人で溢れて、ごちゃごちゃしている。具体的にどうすればいいのか話し合った。
「麻美に聞いたんだけど、人間は散らかっているのが嫌いなんだって、だから、わたしたちは人間の嫌がることをしましょう!」
「怒られるよ」
 コスモが膝を丸めた。暫く間を置くと、コスモがポツリポツリつぶやいた。その声は、いつになく元気がなかった。
「……さっきから、胸が痛いの。一樹すごい怒っていた。私のこと、軽蔑した。チクチクしてて、息がうまくできない。これは、何?」
「コスモ、それはっ」
 それっきり、口を閉じた。スターが何を言いたかったのかコスモには、分からないし、スターはそれが何なのか分かって敢えて言わなかった。

 二匹は早速、侵略に取り掛かった。人間が嫌がることはいっぱいある。戦争や略奪、が、子供のコスモたちはそれを知らない。知っている知識で、侵略に取り掛かる。 
「ゴミ拾いが侵略?」 
 コスモは首をかしげた。
「そうよ。この地域のゴミ拾いをすれば、侵略成功よ。地球人は、わたしたちに恐れを抱いてひれ伏すに決まっているわ!」
 スターは、飛び跳ねるように元気に喋った。コスモはスターの言うことを従う。この地域は大きく区域が五つに別れている。いきなり五つの場所を掃除できるわけないので、一つの区域を徹底的に掃除した。

 空き缶やらお菓子のゴミが公的に捨てられている。ガムのクズまで。
「全く。地球人がさきに散らかして汚してるのに、文句言われる筋合いないわね」
  スターがぽいぽい拾いながら、呆れて言った。ゴミ袋にはたんまりゴミが詰まっている。地域でゴミ拾いをしている二人の女の子を見て、地域の人たちは「ありがとう」「偉いわねぇ」と頭をさげて、声をかけてくれたり、一緒になってゴミ拾いをする人も。
「スターの言うとおりだ。みんな、ひれ伏している」
 コスモが関心したように言った。パチパチと手を叩く。 
「当然よ! さっ、次の区域に行くわよ!」
 スターはご機嫌になって、コスモの前を歩く。その背中をコスモは、ひよこみたいにくっついてついていく。

 気がつけば黄昏時になっていた。辺りが真っ赤に染まり、周りの景色たちが黒くなって影を落としていく。もうすぐ、夜になる。朝穏やかに吹いていた風が、涼しくなり冷気になっていた。一枚の服じゃ、肌寒い。
「帰りましょうか」
 スターが拾ったゴミ袋を縛った。
「おーけー」 
 縛ったゴミ袋を持つ。
 一日がかりでゴミ袋は合わせて、三つ。一つの区域しか行けないと思ってたけど、割と三つの区域まで行けた。
 二匹なら無理だった。でも共にゴミ拾いをしてくれる人がいたからこそ、できのかも。
 ゴミ袋は、ゴミ収集場まで待っていき、そこに投げ捨てる。
「もうこの地域はわたしたちのものよ。侵略成功ね!」
 腰に手を当て、スターが胸を張った。

 ゴミ袋がたんまり溜まった場所に仁王立ちして、前を向く。

 ゴミ収集場から見える景色は、オレンジの太陽が地平線に沈んでいく瞬間。大量にゴミ袋が散乱している場所で見る景色の上は、この地球しか見ることができない幻想的な景色だった。

 ゴミ拾いをして、二匹の心はすっかり綺麗になっていた。朝の出来事など、忘却している。二匹はそれぞれの家へ帰っていった。相原家の玄関の明かりがついていた。真っ暗な夜道でそれは、一筋の光のように感じた。玄関で出迎えたのは、一樹だった。

 相変わらずのしかめっ面で。視界に映れば、身動きが取れない。切れ長の目の奥がギラリと光っている。まるで、獲物を捉えたような眼差し。
「おかえり」
 そう呟いた。いつもと変わらないぶっきらぼうな言い方。
「怒っていない?」
「もう怒ってない。さっさとあがれ、夜食できてるぞ。手を洗えよ」
 一樹は、顎をしゃくりコスモが靴を脱ぐのをそばで見ていた。良かった。怒っていない。途端に心が何かに締め付けられた。めばえた感情に、名前は知らない。

 玄関に上がると、一樹の目がカッとなった。鼻をつまみ、バタバタと後退する。
「臭っ!! くっさっ!! え、お前何処で何してたの?」
「ゴミ拾い」
「夜食の前に風呂だ風呂!」
 一樹はコスモを風呂に連れて行かせる。家の中はコスモが連れてきた悪臭に漂っている。頭を強烈にガンガンいわせる悪臭だ。ついでに蝿も連れてきて大迷惑。結局また叱られることに。
 風呂に入って体を洗っても、その汚れがとれず、二日間その臭いが取れなかったらしい。

 スターも言うまでもなく。帰ってきたスターに風呂をすすめ、その臭いが取れるまで風呂三昧。二匹は、地球侵略に成功したが、ゴミ拾いは決してやろうとは思わなかった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...