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一 不条理な始まり
第11話 目線
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力也さんのおかげで、この村のことを知った。学校は一つ。小、中、高まで揃えて一つの校舎だった。コンビニはなし。古びたスーパーは一つ。小さな店舗が五店くらい。時々車内販売が通りかかる。近所のおばさんたちに囲まれて、スーパーよりも賑わっている。娯楽施設はたったの一軒で、ボーリングとカラオケがセットの建物。古びてて暴れたらすぐ壊れそうなところ。
隣の街に行ける手段は一つ。来た道の電車のみ。トンネルはあるけど、今は閉鎖されて何も通っていない。虚無の場所であり、今は子供たちの遊び場所。
わたしは頭を抱えた。
昨日、お風呂あがりにまた力也さんとばったり出くわした。露出は控えめだったけど、それでも力也には刺激的で怒られた。だから、服を買いたいのだ。
スーパーに寄ってみても、好みのものがないし、なんか爺婆臭い。探してみても好みのものがなくて、都会子はこういうとき、都会に行きたいと考えてしまう。
「それで頭を抱えてんの」
倫也くんが呆れたように言った。
相変わらず視線は画面の奥。わたしは今、倫也くんの部屋にいる。彼とゲーム中である。どうやっても勝てない。悔しい。
倫也くんはおやつ食べながら、足でリモコン操作していた。なんて器用な子。
「行儀悪い!」
「説教するんだったら、俺に勝ってからにしてくんない?」
ライフがゼロになった。数え切れないほどの敗北。脱力するようにため息がでた。倫也くんは画面からおやつに視線を送った。
「なんで俺にそんなこと聞いてんの? 普通幸音さんじゃね?」
「そうだけど、幸音さんは雅也さんと何処かに行ってて、和恵叔母さんも達也さんと畑仕事でいないし」
「消去法かよ」
おやつをポリポリ食べた。
さっき朝ご飯食べたばかりなのに。食は細いのに、何処に入るんだその胃袋。
消去法だけど、倫也くんは一番最初にわたしの〝家族はこうでなければいけない〟という本質を見抜いた。気だるそうにみえて案外鋭い子。つまり、わたしのことを一番に分かっているのはこの子。だから、倫也くんに聞いている。
倫也くんはポリポリ食べながら、じっと画面を見つめていた。何か考えいるな。気だるそうにしているけど、実は割と考えている子で、じっとしているのはその時だ。
「都会に行きたいの? どうしても?」
怪訝に聞いてきた。
「どうしても、じゃないけど欲しい服があったら行きたいなぁ、て思うくらい」
「つまり行きたいのね」
結論早。
確かに行きたいと思うけど。この村から出たら、どんな目に合うか。黙って行ったら怒られるよな。メモ書きして行ったらいいかな。なんて悩む。
倫也くんははぁとため息ついて、窓の外を見上げた。澄み切った青空だった。きっと窓を開ければ涼しい風が通るんだろうな。
「悪いけど、行かせないね。行かせたら俺も大目玉だし」
はっきりとした口調だった。いつも曖昧な口調なのに、だめだと強く言いきっている。その姿は、あのとき、花畑に行きたいと強請っても、断った力也さんに似ている。
二人とも、わたしに何か隠している。二人だけじゃないかもしれない。もしかしたら、わたしが気づいてないだけで、皆さんも裏でコソコソしていたり。
家族だから、隠し事はいやだ。でも、皆さんに「何か隠してますよね?」なんて直球に言えない。
頭を抱える横に、倫也くんはお菓子をつまんだ指をペロペロ舌でなめた。
「ほんとに何も考えずにここに来たんだね」
「それどういう意味」
「絵伝村がどういう場所か、調べもしないで来たんだねってこと」
やれやれと手のひらを参ったと仰いだ。その表情は、嘲笑ってたけど刹那悲しい表情をする。
この村は確かにおかしい。地図にも乗っていないし、電車でも絵伝という名はなく、園と表記していた。人々から遠ざけるように山奥の小さなところ。
でも母の故郷だ。それは変わらない。絵伝村がどういう所なのか、知らない。ただ、母の故郷なのは知っている。
「ここは、簡単に他所もんが入れる場所じゃねぇよ」
カチカチとまたリモコンを操作して、画面上のアバターを弄っている。大男が一人で飛んだり跳ねたり、寝転がっている。
それは、地図のことを指しているのか、電車の表記のことを指しているのか、どちらともだろうな。確かにどうやって行くのか分からなかった。迷ったりした。
倫也くんはじっとわたしの目を見た。表情が読めにくい。どう思っているのか分からない。怒っているのか。
「何?」
怪訝になって聞くと、倫也くんは視線を変えない。ちょっと目を細めた。
「こっちこそ何? もう用は済んだでしょ? 都会に行きたいなら、行けばいい」
そっけなくあしらわれた。まだ話は終わってない。肝心なところを聞かないで、今日は寝れないじゃない。
「力也さんも倫也くんも、コソコソ隠してて、わたし、お姉ちゃんなんだよ! 良いからこの村について教えなさい!」
わざと立ち上がって座っている倫也くんを指差した。倫也くんは目をさらに細めた。鋭い眼光と目が合う。こ、ここで怖じ気ついたら姉の威厳がなくなる。踏ん張るのよ。さながら蛇に睨まれた蛙のような地獄絵図の雰囲気だけど。
「家族だから隠し事はなし。隠し事は全部言えていうこと?」
「そっ、それは言ってないじゃない」
「でも言ってるよね? 家族なんだから、隠し事なし。隠し事の一つや二つあるのにそれ言えてこと? 家族だから家族だからて言う人、うざいんだけど」
ボキッ、と音がした。
わたしの胸の中から。精神がやられた。遇の言葉も出てこない。言葉だけで論破されてしまった。七歳差の高校生に負けた。ゲームにも勝てない。頭脳にも勝てない。完敗だ。わたしの精神がサラサラと灰になった行く。
知りたいなら、自分で調べればとそっけなく倫也くんに追い出された。廊下に一人残された。昼ご飯も済ませて残るは夕食の支度。まだ真っ昼間だから支度をするのには時間が早い。やることがないので、わたしは、自分の部屋に向かった。
倫也くんの部屋の隣の隣。音を立てないで歩いた。
今日は土日から祝日が立て続けなので、三日の休み。だから今日と明日は力也さんは家にいる。普段家にいない人がいると、戸惑うな。早く服買わなきゃな。部屋から物音がしない。もしかしたら、外出しているのかも。
わたしは部屋に入ると、さっそく、ノートパソコンを開いた。こんな閉鎖した村でも電気は繋がっている。
立ち上げたら、早速グーグルで『絵伝村』と検索した。すると、たった一つだけ引っかかった。観光のホームページじゃない。『女王事件』という陰湿な事件が記載されていた。
一つしか出てこなかったのは、その事件が古いからなのか。検索すれば、出て来るほどこの事件は有名なのか。一件をクリックした。そして画面に出てきたものにびっくりして、思わず声を仰け反った。
画面いっぱいに血だまりが。部屋を暗くしてたから、尚更怖い。血を背景にして、文字が浮かんだ。
隣の街に行ける手段は一つ。来た道の電車のみ。トンネルはあるけど、今は閉鎖されて何も通っていない。虚無の場所であり、今は子供たちの遊び場所。
わたしは頭を抱えた。
昨日、お風呂あがりにまた力也さんとばったり出くわした。露出は控えめだったけど、それでも力也には刺激的で怒られた。だから、服を買いたいのだ。
スーパーに寄ってみても、好みのものがないし、なんか爺婆臭い。探してみても好みのものがなくて、都会子はこういうとき、都会に行きたいと考えてしまう。
「それで頭を抱えてんの」
倫也くんが呆れたように言った。
相変わらず視線は画面の奥。わたしは今、倫也くんの部屋にいる。彼とゲーム中である。どうやっても勝てない。悔しい。
倫也くんはおやつ食べながら、足でリモコン操作していた。なんて器用な子。
「行儀悪い!」
「説教するんだったら、俺に勝ってからにしてくんない?」
ライフがゼロになった。数え切れないほどの敗北。脱力するようにため息がでた。倫也くんは画面からおやつに視線を送った。
「なんで俺にそんなこと聞いてんの? 普通幸音さんじゃね?」
「そうだけど、幸音さんは雅也さんと何処かに行ってて、和恵叔母さんも達也さんと畑仕事でいないし」
「消去法かよ」
おやつをポリポリ食べた。
さっき朝ご飯食べたばかりなのに。食は細いのに、何処に入るんだその胃袋。
消去法だけど、倫也くんは一番最初にわたしの〝家族はこうでなければいけない〟という本質を見抜いた。気だるそうにみえて案外鋭い子。つまり、わたしのことを一番に分かっているのはこの子。だから、倫也くんに聞いている。
倫也くんはポリポリ食べながら、じっと画面を見つめていた。何か考えいるな。気だるそうにしているけど、実は割と考えている子で、じっとしているのはその時だ。
「都会に行きたいの? どうしても?」
怪訝に聞いてきた。
「どうしても、じゃないけど欲しい服があったら行きたいなぁ、て思うくらい」
「つまり行きたいのね」
結論早。
確かに行きたいと思うけど。この村から出たら、どんな目に合うか。黙って行ったら怒られるよな。メモ書きして行ったらいいかな。なんて悩む。
倫也くんははぁとため息ついて、窓の外を見上げた。澄み切った青空だった。きっと窓を開ければ涼しい風が通るんだろうな。
「悪いけど、行かせないね。行かせたら俺も大目玉だし」
はっきりとした口調だった。いつも曖昧な口調なのに、だめだと強く言いきっている。その姿は、あのとき、花畑に行きたいと強請っても、断った力也さんに似ている。
二人とも、わたしに何か隠している。二人だけじゃないかもしれない。もしかしたら、わたしが気づいてないだけで、皆さんも裏でコソコソしていたり。
家族だから、隠し事はいやだ。でも、皆さんに「何か隠してますよね?」なんて直球に言えない。
頭を抱える横に、倫也くんはお菓子をつまんだ指をペロペロ舌でなめた。
「ほんとに何も考えずにここに来たんだね」
「それどういう意味」
「絵伝村がどういう場所か、調べもしないで来たんだねってこと」
やれやれと手のひらを参ったと仰いだ。その表情は、嘲笑ってたけど刹那悲しい表情をする。
この村は確かにおかしい。地図にも乗っていないし、電車でも絵伝という名はなく、園と表記していた。人々から遠ざけるように山奥の小さなところ。
でも母の故郷だ。それは変わらない。絵伝村がどういう所なのか、知らない。ただ、母の故郷なのは知っている。
「ここは、簡単に他所もんが入れる場所じゃねぇよ」
カチカチとまたリモコンを操作して、画面上のアバターを弄っている。大男が一人で飛んだり跳ねたり、寝転がっている。
それは、地図のことを指しているのか、電車の表記のことを指しているのか、どちらともだろうな。確かにどうやって行くのか分からなかった。迷ったりした。
倫也くんはじっとわたしの目を見た。表情が読めにくい。どう思っているのか分からない。怒っているのか。
「何?」
怪訝になって聞くと、倫也くんは視線を変えない。ちょっと目を細めた。
「こっちこそ何? もう用は済んだでしょ? 都会に行きたいなら、行けばいい」
そっけなくあしらわれた。まだ話は終わってない。肝心なところを聞かないで、今日は寝れないじゃない。
「力也さんも倫也くんも、コソコソ隠してて、わたし、お姉ちゃんなんだよ! 良いからこの村について教えなさい!」
わざと立ち上がって座っている倫也くんを指差した。倫也くんは目をさらに細めた。鋭い眼光と目が合う。こ、ここで怖じ気ついたら姉の威厳がなくなる。踏ん張るのよ。さながら蛇に睨まれた蛙のような地獄絵図の雰囲気だけど。
「家族だから隠し事はなし。隠し事は全部言えていうこと?」
「そっ、それは言ってないじゃない」
「でも言ってるよね? 家族なんだから、隠し事なし。隠し事の一つや二つあるのにそれ言えてこと? 家族だから家族だからて言う人、うざいんだけど」
ボキッ、と音がした。
わたしの胸の中から。精神がやられた。遇の言葉も出てこない。言葉だけで論破されてしまった。七歳差の高校生に負けた。ゲームにも勝てない。頭脳にも勝てない。完敗だ。わたしの精神がサラサラと灰になった行く。
知りたいなら、自分で調べればとそっけなく倫也くんに追い出された。廊下に一人残された。昼ご飯も済ませて残るは夕食の支度。まだ真っ昼間だから支度をするのには時間が早い。やることがないので、わたしは、自分の部屋に向かった。
倫也くんの部屋の隣の隣。音を立てないで歩いた。
今日は土日から祝日が立て続けなので、三日の休み。だから今日と明日は力也さんは家にいる。普段家にいない人がいると、戸惑うな。早く服買わなきゃな。部屋から物音がしない。もしかしたら、外出しているのかも。
わたしは部屋に入ると、さっそく、ノートパソコンを開いた。こんな閉鎖した村でも電気は繋がっている。
立ち上げたら、早速グーグルで『絵伝村』と検索した。すると、たった一つだけ引っかかった。観光のホームページじゃない。『女王事件』という陰湿な事件が記載されていた。
一つしか出てこなかったのは、その事件が古いからなのか。検索すれば、出て来るほどこの事件は有名なのか。一件をクリックした。そして画面に出てきたものにびっくりして、思わず声を仰け反った。
画面いっぱいに血だまりが。部屋を暗くしてたから、尚更怖い。血を背景にして、文字が浮かんだ。
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