物語の環

ハコニワ

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追う者と追われる者

1―5 光①

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 私は光。二人兄弟の一番末っ子。モデルをやっています。中学生のときにスカウトされて、早10年。もう、そろそろ人気がでてもおかしくもないのに下っぱ扱い。一緒に入った同期の仲間に追い抜かれる日々。
 何がいけないのだろう。もっと頑張って人よりも前に進まきゃと思っているのにできない。毎日毎日ひもじい想いでスタジオに来ています。

 そんなある日、上の人からお食事のお誘いがきた。
「やったね! この人、一番権力あるんだよ!!」
 同期に入った子が言った。これで、ひぃちゃんもウチらと同じだよ、とね。濁った笑みで言った。
 その笑みで隠れてる本性は知っている。皆もこうやって、上にのぼりつめたのだ。それはつまり、体を売るという事だ。
「うん! 頑張ってくる!!」
 私は精一杯の笑顔をつくり、そう言った。
 大丈夫。皆もできたんだから、私だってやれる。心の奥で密かに泣いてる事を隠すのは幼い時から慣れている。大丈夫、大丈夫と言い聞かせ、お食事の店に向かう。
 繁華街と思いきや、ちょっと寂びた店。辺りは暗いのにここだけは、明るい光を浴びて動いている。
 店の人に聞くと、個人部屋だった。さきに予約していたらしく、番号は『四』鍵を持っていざ、その扉に向かう。
「お邪魔します……」
 ノックをして開けた。
「お! やっと来たね! ひぃちゃん!!」
 カムバックというように、上、つまり、社長様が全裸で私を迎えいれてくれた。私はこの時、やっと足が震えた。口が半開きで、頭が混乱する。
「社長、お食事じゃ……」
「食べる前にもっと、お腹を空かせないと」
 ほらほらと急かすように腕を握られ、無理やり部屋に引っ張られる。汚い! 助けて! お兄!!
「いやあぁぁぁぁぁ!!」
 一心不乱で、社長の腕を振り切り、頬にビンタ。勢いで、社長は机にもたれかかる。私は社長の心配より、無我夢中で部屋をあとにした。
 鍵をそこらへんに捨て、無我夢中で、家に帰る。帰る途中、社長が追ってくるのではないかとヒヤヒヤした。もう、寸前で腰が抜ける所を二人のお兄の顔を思い浮かべ必死に足を動かした。

 その夜は、深夜の2時だったはず。
 帰りついた時、家はヒンヤリしてた。そりゃ そっか、もう皆寝てるもんね。それでも、ここが安らぎで、やっと両目から塩水が溢れてきた。

ジリジリジリ

 さと兄の目覚まし時計がなる音。
 もう、朝か。鏡で自分の姿を見た。目袋は膨らんでいない。赤くもなっていない。一番上のさと兄の部屋は私の隣だ。その部屋が開く音がした。何故か、お兄の顔が見たくって仕方なかった。
 さと兄はニートだけど、意地悪だし優しいし、もう一人のひろ兄は朝食うまいし、人付き合い良いし優しい。
 今ごろ、二人の優しさに甘えたくなってきた。
 扉を開け、顔だけ拝もうと思った。しかし、さと兄と目が合う。しまったとやるせない思いつつ、私から口を開いた。
「おはよう、さと兄」
「おはよう、光」
 私を見て、ニコと笑った。優しい微笑みは私の苦しい涙を浄化する。対して、顔は良くないのにこんなに、輝いてみえる。あ、私目悪くなったかも。
「昨日の晩、遅かったな彼氏か~?」
 ニヤニヤして問いかけてきた。あ、これ冷めたわ。黙ってればいいのにこんにゃろ。私はあからさまにふてぶてしい態度を見せ、階段を降りた。
 食卓には、ひろ兄の作った品が。ベーコンは格別! スーパーで買った品だと分かってるが、何故か心の緊張してた糸が切れる。久しぶりにテーブルを囲むと、こんな気持ちになるなんて、初めて知った。

 さと兄を残し、家を出た。
 毎日見飽きた風景は写真を撮りたいほど、キラキラしている。今日はいい事ありそう。
 けど、その考えはすぐに変わった。家を出てから暫くして、あることに気づいた。
 コンビニエンスストアでなにか買い出しをしているときも会社に着いたときもに不自然に視線を感じる。
 不気味だけど、きっと、ファンの人だろうと思いそのままにしておく。
 けど、そんな視線が仕事中のときにも感じた。明らかにおかしい。モデルのスタジオは普通、関係者以外立入禁止でファンの人は入って来れないはず。なのに、いかがわしい視線を感じる。全身を舐めついてくるようで気持ち悪い。
 唯一、安心できたのはトイレだった。どうやら、入って来れないらしい。もう、なんなの朝から。半ば、憤っているとメールがきた。知らないアドレスのメール。
 中身をみずにはいられなかった。恐る恐る中身をチェックすると、息の音が止まった。
『いつも側にいるよ』
 また送られてきた。
『安心して。いつも味方だよ』
 またまた送られてきた。
『後ろから数えてニ個のトイレにいるよね?』
 思わず飛び跳ねて携帯を落としてしまった。その直後、追い詰めるようにメールが何件も押し寄せてく。
 私がトイレのどこの個室に入っているのか、普通は分からないはずだ。メールは果てしなく送られてくる。私は怖くなり、目を伏せた。

 それから、暫くして私は早退した。家に直行で帰る。やっぱり視線を感じる。このままではまずい。ストーカー野郎に我が安心の家がバレてしまう。そんなことは断固拒否。なにがなんでも家に帰る前にストーカー野郎をまいて家に帰るんだから。
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