わたしとあなたの夏。

ハコニワ

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二 名取美優

第38話 怪我

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 私は修斗くんとともにどこかで避難するべきだった。避難してれば、こんな情景はないだろう。

 私の足元に、あの金属バットを持った悪ガキがひれ伏した光景が広がっている。私はどうしてこうなってしまったのか、いきさつを思い出した。

 修斗くんに手をひかれながら、脇道を走る。背後で揉め合う声がした。振り返ると、そこには既に、大勢の人の影しか映ってない。修斗くんが避難場所まで私を送ってくれた。ここで待っててね、て言われたけど流石に心配だ。
 あの二人とは知り合ったばかりだけど、なぜかほうっておけない。あの二人がもし、怪我でもしたら心が痛い。私は守られるほど、か弱くはない。むしろ、そんなのしてきたら全力で反発してやる。私は立ち上がった。
 どうして、加勢に入った私にひれ伏すのか言えば、ちょっと厄介なのだ――。

 田舎っ子なのに、二人とは違う体格をした、いかにも、大将のような悪がきに目掛けて私は穿いてた靴を放り投げた。見事に命中。頭にスコーンて当たった。全員、一斉にして私のほうへと顔を向けた。今まで、そこに存在していたのか、と驚いた表情で凝視する。
 私は悪がきにも負けない態度を見せ付けた。片方素足だけどお構いなし。
「その二人から離れなさい。さもなくば、また投げるわよ」
 なんか変な空気になった。男同士の戦いなのに、女が割り込むなんて、やっぱりだめだったのかも。息を吸うように、殴りかかってきたもん。
 修斗くん、つーちゃんが慌てて止めに入るも、間に合わなくて、私はその子に押し倒された。真夏のアスファルトは、油を注いだフライパンの上に転がったように熱い。でも、そんな熱さよりも、上に乗っかった男子の気色悪さに逆に冷や汗が浮き出た。
 その子は脂汗が全身から浮き出て、肌に触れると、皮膚に絡みつくようなべっとり感に、私は流石に激しく抵抗した。
「ひっ……! 気持ち悪いっ!!」
 一心不乱にジタバタさせた手足が、その子の顎をくらった。その子はプルプルと悶て、ちょっと半泣きだ。
「あ、あは……KO?」
 終いには、わんわんと子どもみたいに泣きだしてしまった。

――そして、今に至るのである。

 修斗くんとつーちゃんは呆気で呆然としていた。その眼差しは、本当にヤンキーを目撃したような敬遠の眼差しだった。
 なんとか、無事にその子たちが話し合いで帰ってくれると、修斗くんが見たことない表情で怒鳴ってきた。
「どうしてここに来たの!? 待ってて言ったのに……今の危なかったよ、あぁ! 血が……」
 私の右腕には爪かなにかで引っ掻けられた傷跡が。しかも、真っ赤な血がドクドクとでている。
「あぁ大丈夫! こんなのか擦りだし」
 笑って、その腕を顔近くでフリフリ見せびらかすと、真面目な表情でその腕を掴んできた。
「こっちは全然平気じゃないよ。美優ちゃんがきてヒヤヒヤしたし、今さっきだって……もう、こんなことしないで。女の子なんだから」
 腕が解いた。私は一瞬、びっくりして声がでませんでした。こんなふうに叱られたのは親以外初めてです。
 しかも〝女の子〟なんて、なんの初々しい言葉でもないのに、私にしては、初めて耳にした言葉です。いつもは肉便器だったり、ビッチだったり、忌み言葉ばっかり。
 でも、修斗くんからしたら私は〝女の子〟なんだ。朝帰りもしない、出会い系サイトもしない普通の一般人の〝女の子〟に見えるんだ。

 少しだけ、心臓の音が高鳴った。修斗くんは申し訳ない表情して、靴持ってくるね、と言って私のそばから離れてしまった。私はその背中を目で追いかけた。
 握られた腕を握りしめた。強かった。
 骨ばった腕なのに、そこそこの力があって、振り払えなかった。もし、彼が私の本当の本性を知ったら引くだろうか。知ったら、もう女の子として見てくれないだろうか、少し彼が怖く感じてしまった。

 出血する箇所を見て、私はある提案を持ちかけた。
「そうだ。近くに家あるから、寄ってかない?」
 修斗くんとつーちゃんはちょっと、ギグて顔をした。二人そろって顔を見合う。
「えぇと、遠慮します……」
「どうして? 二人だって怪我しているし、私よりも危険だよ。家、救急箱何故か多いし、処置室とかもあるから休めるよ! ね、行こ」
 私が笑顔いっぱいでそう言うと、二人はちょっと苦しい表情をした。でも、結局二人は私の提案にのって家の中に入るのである。

§

 家の中は誰もいなかった。そういや、ホワイトボードに、なんか書いてたきがする。あんま見ないからうろ覚えだけど。お母さんとお父さんは確か、おばあちゃんの畑の管理で外に外出。おばあちゃんは老人会。
 ということは、家の中は私と二人だけになる。

 つーちゃんが特に怪我が酷いようで、唇の端が切れてて、ピンクの唇が真っ赤に染まっている。
「いだだだだだだだっ!! もっと優しくしろよ! カス!」
「カスで悪かったわね。カスって言ったほうがカスなんですぅ」
 そう言って、消毒液を滲ませたピンセットに力が入った。つーちゃんは天井を突き破るくらい暴れ回る。この、往生際が悪い。この私が治してんだ。暴れんな。
 なんとか、つーちゃんが大人しくなりやっと一段落つけると、やっと修斗くんの治療だ。ここまでくるのに、随分時間使ったと思う。全く世話焼かせやがって。
 修斗くんはつーちゃんと同じ、唇の端が切れてるけど、真っ赤に染まっていない。
「あはは、お疲れ様」
 修斗くんは困った表情で労りの言葉をかける。
「ほんとだよ。全く……あれ?」
「どうしたの?」
 消毒液がでない。何度も振って確かめるも、一滴もでない。これは、もしや切れたのでは。嘘ぉ。あいつのせいで切れたってことないでしょうね。
「わ、私、予備の消毒液持ってくるね」
 慌てて、予備の救急箱を持ってくる。確か、おばあちゃん室のタンスの奥にあったはず。急いで向かい、誰もいないおばあちゃんの部屋の襖を開けた。ドクンドクンと異様に心臓が脈うつ。
 いつもはそこの椅子に腰掛けて、私が入ってくると、しわくちゃな顔を笑顔にして振り向くおばあちゃんの姿がそこにはいない。
 静かに部屋に入った。
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