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二 名取美優
第39話 大倉麻耶のノート
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部屋に入って、一直線にタンスに向かった。五段あるタンスのどこを探せば、救急箱があるのか私は幼いころから、その在り処を知っている。
だから、早々と見つけることができた。タンスの中は、服やら昔の道具、なのがいっぱい。モワッとする湿布臭さに耐え、大きな箱をみつけだした。
「あった!」
私はその箱をタンスから引っ張りだした。しかし。
それは、救急箱でもなく誰かの宝物の箱でした。金属で頑丈に出来た箱。それを開閉するための分厚い錠。引っ張り出した寸前で、その箱を落としてしまい、カランと乾いた音がやけに響く。
こんな分厚そうなのに、中は以外と軽いのでは。音がそれほど大きかったのか、二人がそろってバタバタと駆けつけてきてくれた。
私はいきさつを話すと、得意げにつーちゃんがピッキングを始める。祖母の大事な宝物かもしれないのに、私は反対するも、少し好奇心があったのかもしれません。
つーちゃんがやる行動に、そんな抵抗しなかったです。
「ピッキングってなんだか、泥棒みたいだね」
素っ気なく言うと、つーちゃんはフンと鼻で笑った。
「オレ、この技術で世界目指してるんだぜ。シュウん家の開かずの倉も開けれるほどだかんな」
「え、何それ初耳」
二人は私を置いて、倉の話しや関係ない話しまで持ちかけた。修斗くんは開かずの倉の話しを引っ張って、つーちゃんは一人苦しい表情。なんだか、ほんとに二人て仲良しなんだ。
「そういや、二人は私のおばあちゃん家嫌いなの? 来たとき、切羽詰まった表情してたから」
会話が途切れてしまった。ピッキングをしている手も。私はしまった、と口を両手で覆った。まさか、それほどタブーな話題だとは思わなかった。でも、ここまできて聞かないわけにはいかない。
暫くしてから修斗くんが語ってくれた。それまで、嫌な沈黙の渦が渦まいていたのです。修斗くんは、昔起きた出来事を今のようにして語ってくれた。
「そこに、ちょっと広い空き地があるじゃん。そこで、ちょっと野球やってたらボールが飛んでここの家の窓を壊したことがあるんだ。しかも、何回も」
あぁ、そういう理由か。男の子ならありがちな話しだなぁ、て耳を傾ける。
「美優ちゃんのおばあちゃんに結構怒られて」
「あぁ、あはは。ごめんね」
「しかも、何故か上手くなるコツとか試合なんてないのに勝手に監督に名乗ってきたりとか、ちょっとここの家の人は苦手だなあ……て。ごめん」
え、何それ。初耳なんだけど。おばあちゃんそんなことやっているの。たしかに、歳だけどまだバリバリの体は、お年頃の少年の面倒まで見られるキャリアウーマンだよ。
おばあちゃんのちょっとした無邪気な話しを聞けたところで、鍵が開いた。世界を目指している男、つーちゃんが持ってしても苦労したと言う箱の中身は一体。
恐る恐る、ゆっくりと箱を開けてみた。まだ見ぬ未知の中身に一層、好奇心と興奮で胸が高鳴る。
しかし、箱の中身は一冊のノートと大昔の新聞紙の切れ端でした。私はがっかりして、箱を閉めました。
「はぁ、がっかり」
肩を落として、この箱を何事もなかったかのように、元に戻した。けど、両サイドいる二人が止めた。パンドラの箱を開けたのだから、せっかく中身を見ようと。
私は仕方なく、一冊のノートを手に取った。土が被ったように表面がざらざらしている。埃とカビ、湿布など色々な臭いが混じりあった臭いが鼻孔を刺激する。
なんだか、見てはいけないような気がするけど、サイドいる二人の顔を窺うと、少年のようにウキウキと輝いていた。それを見てしまって、あとには引けない。おばあちゃんには謝ろう。覚悟を決めて、一ページめをめくった。ノートには題名が書かれていなかったから、自由ノートかと思いきや、そうでもなかった。
一枚一枚の紙に、びっしりと文字が埋まっていた。黒いボールペンで達筆に。
ところどころ、読めない箇所がある。しかも、達筆すぎてよく分からない。この字、誰のだろう。
ノートが記してあったのは「絶法村惨劇事件」について。昨日、見知らぬおじさんが言ってたのはこれだ。その事件の日時、人物、情景が事細かく気持ち悪いほど詳細に描かれている。
パラパラめくって、やっと最後のページに辿りつく。著者はなんと、おばあちゃんだった。
おばあちゃんの旧姓、大倉なんだ。初めて聞いた。おじいちゃんって研究員だったんだ。祖父は、私が生まれる前に死んでしまったから、顔も声も、温もりも知らない。
右隣にいた修斗くんが興味津々に顔を近づけてきた。
「へぇ、これ凄い」
「どこが?」
なんの変哲も無いノートに目を釘付けする。私の手からノートを奪いとって、パラパラとめくる。暫く、パラパラめくって何かの確証を得たのか、満足そうにノートを手渡した。
私はそのまま手渡された、開いているページに目を移すと、そこは住民名簿。三十三名の名前が書かれている。
そこから順番に、記された文字を音読していった。読めない箇所は二人に助けられながら進んでいく。
ノートの始まりはこうだった。最初に村の風習、ヤミヨミサマという奇怪な存在をまとめている。ヤミヨミサマについて執着よく描かれていることに、私はノートを捨てたいほど気味が悪く感じました。
「なにこれ……ほんとにあったことなの?」
よくテレビで報道されている悲惨な事件を見ているような現実味が感じられない。このノートには、現実では起きやしない日常が淡々と書かれていた。
不意に修斗くん喋りだした。その口調は、彼のおっとりとしたものではなく、誰かに取り憑かれたような虚ろだった。
「この『暁景子』て人、僕のおばあちゃんなんだ」
住民名簿の『暁景子』の文字に修斗くんが指をさした。私は修斗くんの顔を見上げた。修斗くんの信じられないカミングアウトに、私はどう反応すれば良かったのでしょう。ただ、彼の浮かない表情を見つめていただけでした。
「オレの爺もいる」
つーちゃんが唐突に名簿を指差した。『田村洋介』の名前。
私のおばあちゃんと同じ村の出身、同級生、そして事件の生存者。この二人と出会ったのは奇跡か、運命か、果ては再び悲惨な事件が繰り返されるのか、この出会いにまだ何も考えられなかった。
遠くの樹から蝉の鳴き声がする。ミーンミーンと甲高く。複数のミンミンゼミがこの炎天下の中、メロディを奏でていた。
だから、早々と見つけることができた。タンスの中は、服やら昔の道具、なのがいっぱい。モワッとする湿布臭さに耐え、大きな箱をみつけだした。
「あった!」
私はその箱をタンスから引っ張りだした。しかし。
それは、救急箱でもなく誰かの宝物の箱でした。金属で頑丈に出来た箱。それを開閉するための分厚い錠。引っ張り出した寸前で、その箱を落としてしまい、カランと乾いた音がやけに響く。
こんな分厚そうなのに、中は以外と軽いのでは。音がそれほど大きかったのか、二人がそろってバタバタと駆けつけてきてくれた。
私はいきさつを話すと、得意げにつーちゃんがピッキングを始める。祖母の大事な宝物かもしれないのに、私は反対するも、少し好奇心があったのかもしれません。
つーちゃんがやる行動に、そんな抵抗しなかったです。
「ピッキングってなんだか、泥棒みたいだね」
素っ気なく言うと、つーちゃんはフンと鼻で笑った。
「オレ、この技術で世界目指してるんだぜ。シュウん家の開かずの倉も開けれるほどだかんな」
「え、何それ初耳」
二人は私を置いて、倉の話しや関係ない話しまで持ちかけた。修斗くんは開かずの倉の話しを引っ張って、つーちゃんは一人苦しい表情。なんだか、ほんとに二人て仲良しなんだ。
「そういや、二人は私のおばあちゃん家嫌いなの? 来たとき、切羽詰まった表情してたから」
会話が途切れてしまった。ピッキングをしている手も。私はしまった、と口を両手で覆った。まさか、それほどタブーな話題だとは思わなかった。でも、ここまできて聞かないわけにはいかない。
暫くしてから修斗くんが語ってくれた。それまで、嫌な沈黙の渦が渦まいていたのです。修斗くんは、昔起きた出来事を今のようにして語ってくれた。
「そこに、ちょっと広い空き地があるじゃん。そこで、ちょっと野球やってたらボールが飛んでここの家の窓を壊したことがあるんだ。しかも、何回も」
あぁ、そういう理由か。男の子ならありがちな話しだなぁ、て耳を傾ける。
「美優ちゃんのおばあちゃんに結構怒られて」
「あぁ、あはは。ごめんね」
「しかも、何故か上手くなるコツとか試合なんてないのに勝手に監督に名乗ってきたりとか、ちょっとここの家の人は苦手だなあ……て。ごめん」
え、何それ。初耳なんだけど。おばあちゃんそんなことやっているの。たしかに、歳だけどまだバリバリの体は、お年頃の少年の面倒まで見られるキャリアウーマンだよ。
おばあちゃんのちょっとした無邪気な話しを聞けたところで、鍵が開いた。世界を目指している男、つーちゃんが持ってしても苦労したと言う箱の中身は一体。
恐る恐る、ゆっくりと箱を開けてみた。まだ見ぬ未知の中身に一層、好奇心と興奮で胸が高鳴る。
しかし、箱の中身は一冊のノートと大昔の新聞紙の切れ端でした。私はがっかりして、箱を閉めました。
「はぁ、がっかり」
肩を落として、この箱を何事もなかったかのように、元に戻した。けど、両サイドいる二人が止めた。パンドラの箱を開けたのだから、せっかく中身を見ようと。
私は仕方なく、一冊のノートを手に取った。土が被ったように表面がざらざらしている。埃とカビ、湿布など色々な臭いが混じりあった臭いが鼻孔を刺激する。
なんだか、見てはいけないような気がするけど、サイドいる二人の顔を窺うと、少年のようにウキウキと輝いていた。それを見てしまって、あとには引けない。おばあちゃんには謝ろう。覚悟を決めて、一ページめをめくった。ノートには題名が書かれていなかったから、自由ノートかと思いきや、そうでもなかった。
一枚一枚の紙に、びっしりと文字が埋まっていた。黒いボールペンで達筆に。
ところどころ、読めない箇所がある。しかも、達筆すぎてよく分からない。この字、誰のだろう。
ノートが記してあったのは「絶法村惨劇事件」について。昨日、見知らぬおじさんが言ってたのはこれだ。その事件の日時、人物、情景が事細かく気持ち悪いほど詳細に描かれている。
パラパラめくって、やっと最後のページに辿りつく。著者はなんと、おばあちゃんだった。
おばあちゃんの旧姓、大倉なんだ。初めて聞いた。おじいちゃんって研究員だったんだ。祖父は、私が生まれる前に死んでしまったから、顔も声も、温もりも知らない。
右隣にいた修斗くんが興味津々に顔を近づけてきた。
「へぇ、これ凄い」
「どこが?」
なんの変哲も無いノートに目を釘付けする。私の手からノートを奪いとって、パラパラとめくる。暫く、パラパラめくって何かの確証を得たのか、満足そうにノートを手渡した。
私はそのまま手渡された、開いているページに目を移すと、そこは住民名簿。三十三名の名前が書かれている。
そこから順番に、記された文字を音読していった。読めない箇所は二人に助けられながら進んでいく。
ノートの始まりはこうだった。最初に村の風習、ヤミヨミサマという奇怪な存在をまとめている。ヤミヨミサマについて執着よく描かれていることに、私はノートを捨てたいほど気味が悪く感じました。
「なにこれ……ほんとにあったことなの?」
よくテレビで報道されている悲惨な事件を見ているような現実味が感じられない。このノートには、現実では起きやしない日常が淡々と書かれていた。
不意に修斗くん喋りだした。その口調は、彼のおっとりとしたものではなく、誰かに取り憑かれたような虚ろだった。
「この『暁景子』て人、僕のおばあちゃんなんだ」
住民名簿の『暁景子』の文字に修斗くんが指をさした。私は修斗くんの顔を見上げた。修斗くんの信じられないカミングアウトに、私はどう反応すれば良かったのでしょう。ただ、彼の浮かない表情を見つめていただけでした。
「オレの爺もいる」
つーちゃんが唐突に名簿を指差した。『田村洋介』の名前。
私のおばあちゃんと同じ村の出身、同級生、そして事件の生存者。この二人と出会ったのは奇跡か、運命か、果ては再び悲惨な事件が繰り返されるのか、この出会いにまだ何も考えられなかった。
遠くの樹から蝉の鳴き声がする。ミーンミーンと甲高く。複数のミンミンゼミがこの炎天下の中、メロディを奏でていた。
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