彼女の優しい理由

諏訪錦

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真っ赤な嘘3

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 この街を歩いていると、つくづく色んな人間がいるもんだなって関心する。
 昼間の駅前は買い物客の主婦や学生などの若者が多く、夜には路上ライブに精を出す若者や居酒屋を目指すサラリーマンの姿が目立つ。それに加え、昼夜問わず駅の東口側は比較的治安が悪く不良たちの溜まり場も多くて、夜には風俗のキャッチの姿が目立つ。イカれたヤツもいれば、良いヤツだってそれなりにいる。そんな街がオレは嫌いじゃない。
 だかこそ、悪意に満ちた人間に善良な人たちが傷つけられることが我慢ならない。
 西口駅前を歩いていると、また公園で会った女、サーヤが現れた。
「どうしてあんたがここにいるんだ?」
「あんたじゃなくて、サーヤです。理由は特にないけど、まあ、暇でしたから」
「そうか、じゃあなサーヤ」
 そう言って離れようとしたオレの隣に着いてくる女。
「あのなぁ、なにか用があるなら言えよ」
「別に、本当にアカサビさんに用事なんてないの。ただ、せっかく会えたんだしちょっと暇つぶしに付き合ってほしいだけです」
 まぁ、オレも別段用事があるわけでもない。ただ街をぶらぶらしていただけだし、少し話くらい聞いてやってもいいだろう。
「それにしてもアカサビさんって本当に有名人なんですね。あなたの特徴と名前出したらすぐに居場所がわかりましたよ」
「やっぱりオレのこと探してるじゃねぇかよ。なんなんだお前」
「お前じゃなくてサーヤだって言ってるでしょ、わからない人ですね」
「オレはお前のことがわからねぇよ」
 嘆息し、駅改札へと続くペデストリアンデッキに立ち、人の流れを眺める。身じろぎせずにそのまま数分間立ち続けていると、我慢の限界がきたのか、サーヤが口を開く。
「あの、これ、なにが楽しいんです?」
「別に楽しんでるわけじゃねえ。パトロールみたいなもんだ」
「どうしてそんなことするんです?」
「前にも言ったぜ。オレは正義の味方だって」
「その設定まだ続けてるんですか?」
 設定とか言うな。
 まぁ、他人にどう思われてもオレは続けるだけだけどな。
 人の流れをなんとなく眺めていると、改札の方から歩いてくる学生服の男が、オレの姿を発見してこちらに向かってくる。
 オレは右手を持ち上げ、
「おう、久しぶりじゃねえか」
 と声をかけた。
「久しぶり、ですか。アカサビさんの噂はよく耳にするし、街で見かけることもちょくちょくあるんでぼくとしては久しぶりって感じしませんけどね」
「おいテメェ、見かけたら声くらいかけろ」
 そう言って、オレは相手の胸元を軽く小突いた。
「す、すみません。でもアカサビさんのことだからきっと忙しいんだろうなって思って。ほら、正義の味方に休日はないじゃないですか」
「それでも声くらいはかけろよ、なんか寂しいじゃねえか」
 苦笑いを浮かべながら相手は頷いたかと思うと、すぐに表情を固くした。
「それより、最近またこの辺りで物騒なことが起きてますね」
 オレはなんのことかわからず、首を捻った。
「知りませんか? 三ヶ月くらい前から、動物の死骸がかなりの数、街で発見されているんです。ぼくの通う高校でも結構話題にあがってるみたいなんですけど、場所が住宅街とか公園の側ばかりなんで、駅周辺によくいるアカサビさんは知らないかもしれませんね」
「ああ、知らなかったよ。お前学校に友達いたんだな」
「悪かったなぼっちで!」
 相変わらず、ノリの良いオタクだ。
「冗談はさておき、動物の死骸なら数日前にオレも見たばかりだ。お前が言うように、公園でな」
「事故かなにかと言うには、ちょっと件数が多いですよね」
「やっぱり、人為的にやられたって考えるのが妥当か」
 やはり、悪い予感は的中してしまったようだ。二人して考え込んでいると、少し離れたところにいたサーヤが退屈そうにケータイを見ていた。
 別に約束していたわけではないのだが、一応一緒に行動していた相手を置いて他の奴と話し込むのは居心地が良くない。かぁさんにも以前、女をエスコートできる男になれって言われたしな。
「お前、時間は大丈夫なのか?」
 制服姿で時間は夕方過ぎ。ということは、学校が終わってどこかへ向かっていたのだろう。
「これからバイトなんだろ?」
「そうでした」
「お前のバイト先、東口の方だったよな。不良に絡まれないようにしろよ」
「気をつけますけど、もし絡まれたらまた助けてください」
 そう言うと、慌てて走って行った。急いでいても、去り際、しっかり会釈して行くあたりあいつらしいなと感じた。
 一部始終を黙って見ていたサーヤは、相手がいなくなるのを待ってから口を開いた。
「本当にアカサビさんって有名人なんですね。あんな見るからにオタクって感じの学生とも知り合いなんて」
「あいつはダチだよ。それに、ただのオタクって訳でもない」
「じゃあ、なんなんです?」
「それについてはまた別のお話って感じだな」
「意味わからないんですけど」
 人にはそれぞれ、言えない秘密と裏の顔を持っているものだ。
「そんなことより、ちょっと用事ができた。オレはもう行くぜ」
 立ち去ろうとしたオレの後を、サーヤもついてくる。
「いい加減ついてくるなよ」
「ペット殺しを調べるんでしょう? だったら私も手伝います。一人より二人でやった方が捗りますよ、きっと」
「ふざけるな。遊びに付き合ってる暇はないんだよ」
「遊びじゃないって言うけど、私からしたらアカサビさんも変わりませんよ。正義の味方ってただのごっこ遊びじゃないですか。それこそ、いい歳して恥ずかしくないのって感じします」
 頭にきた。そんなこと言われる筋合いなんてない。
「悪いけどな、オレは大真面目にやってるんだよ」
「へぇ。私が見たのは不良たちを叩きのめすあなたの姿です。それがアカサビさんの言う正義の姿なんですか? 正しい心は誰だって持つべきだと思います。でも、正しいことを行使するのにも限度がある。あなたがやろうとしていることは、一般人の枠を超えてる。それは警察の仕事です」
 オレはサーヤの言葉になにも言い返せなくなった。それは、彼女の言っていることが正論だったからという理由もある。だが、それ以上に警察・・という言葉を聞いて、心臓が締め付けられる思いになった。
「もういい。そもそも議論するつもりはない」
「私もです。だけど、本当に事件を解決したいなら私を連れていった方がいいです。少なくともアカサビさんより、状況を見て判断できる能力を持っています」
 本来であれば、そんな申し出は断るべきだと思う。だが、サーヤの言葉にはなぜか説得力があった。実際、公園で発見された猫の死骸を見て、一瞬でそれが自動車事故によるものではないと判断したのもサーヤだった。もし、街で不穏なことが起こり始めているのだとしたら、少しでも早く解決しなければならないだろう。文句は言っていられないか。
「沈黙はオッケーってことですね?」
 サーヤは満足そうに頷くと、そう言った。
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