彼女の優しい理由

諏訪錦

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彼女の優しい嘘の理由 26

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 彩香の家をあとにしてから、すぐに携帯電話で笹田に連絡を入れた。頼まれた本は彩香の手に返したという報告と、それから今日のバイトを休ませてほしいという内容の連絡を告げる。電話越しに俺の様子がいつもと違うと感じ取ったのか、笹田は文句のひとつも言わずに俺のわがままを受け入れてくれた。
 それから俺は、当てもなく歩き回った。
 取り敢えず一人になれる場所が望ましいので、公営団地の一角に錆びれた公園があるのを発見すると、そこのベンチに腰を下ろした。
 一息ついて考えると、ここ一カ月で知り得た情報が脳内を駆け巡る。それら一つ一つの点を結び合わせて線にする作業に、三時間以上も費やしていた。気付くと辺りは夕日に包まれていて、俺は慌てて携帯電話を取り出す。相手はなかなか電話に出てくれなかったが、根気強く呼び出し続けていると、ようやく通話は繋がった。
『はい、もしもし』
 いまでは聞き慣れたはずの恋人の声が、不思議と懐かしく感じられた。その声に思わず聞き入っていると、相手はなかなか口を開かない俺に焦れたように言った。
『七季君、ですよね?』
 ああ、と俺は短く答えた。
『学校休んだみたいですけど、体調、大丈夫なんですか? もしかしたら昨日、廃工場に行ったのが悪かったんですか? ごめんなさい、無理をさせて』
「いや、体調は悪くないんだ。ズル休みだから、沙良が責任を感じることはないよ」
『ズル休みって、どうして?』
 一転して呆れた声になったのが電話越しでも伝わった。
 俺はそれでも気にせず言った。
「いまから会えないかな?」
 戸惑ったような声を上げる沙良を無視して、俺は続ける。
「時間的に、もう学校は終わっているだろう。それとも、部活に出ないとまずい?」
『いえ、それは大丈夫ですけど、なにか急ぎの用ですか?』
「詳しいことは会ってから話すよ。それでいいか?」
 そうして半ば強引に会話を打ち切ったのは、これ以上怪しまれないための措置だ。どうしても今日、彼女と会って話しておかなくてはならないことができたのだ。
『わかりました』
 沙良は深く追求せずに、折れた。
『それで、どこに行けばいいんですか?』
 携帯電話を握る手に、自然と力がこもる。俺は俯くように下を向いていた顔を上げ、正面を見据えた。
「廃工場、あそこなら心おきなく話せる」
 沙良の承諾の言葉を聞き終えてから、通話を切った。これで準備は済んだ。あとはすべてを話して、嘘と真実の曖昧な境界線を見つけるだけ。なにが真実で、なにが嘘なのかをはっきりさせる。それだけがいまの俺の望みだった。

 廃工場の裏のプレハブ小屋につくと、中から人の気配を感じた。ドアノブに手をかけ、俺は一呼吸置いた。彼女に会うというただそれだけのことが、いまはこれほど心をかき乱す。
 ようやく覚悟を固めてプレハブ小屋に入ると、寒そうに毛布にくるまっていた沙良と目が合って、思わず俺は視線を逸らせた。覚悟したはずなのに、沙良の姿を見るとやはりその覚悟も鈍ってしまう。
 彼女は立ち上がり、そのまま俺の胸に飛び込んでこようとするのを、俺は沙良の肩を掴んで制した。無意識的に彼女を抱き止めることを拒絶してしまったのだ。
 ようやく俺の様子がいつもと違うと気付いたのか、沙良は困惑した顔を向ける。その表情を見てしまうと、そのまま抱き締めてしまってもいいのではないかと、弱気が襲った。嫌な部分など目に入らないくらい近く、そして強く抱きしめてしまえばいいと、そう思った。いままでずっとそうしてきた。嫌なことは先延ばしにして、見えない振りをするのは俺の常套手段だ。だけど、もうそれが許されない場所に立たされていることを思い直して、歯を食いしばる。真実を知るためならば、いくらでも残酷になれる。
「沙良。少し俺の話しに付き合ってくれ」
 有無を言わさぬ口調でそう切り出した。
「江藤先生のこと、沙良も知っているよな?」
 その名を聞いただけで、過剰なまでに彼女の身体が震えた。
「沙良は、江藤先生と……」
 俺は目頭が熱くなるのを必死に堪えながら、ぼやける視界を拭った。それでも感情が昂って、言葉にならない。
「くそっ、くそっ、どうしてだよ。どうして援助交際なんてしたんだよっ!」
 サッと顔を上げた沙良の瞳には、困惑の色が窺えた。
「俺に知られないと思っていたのか? 江藤先生が沙良をホテルに呼び出したのを、見ていた生徒がいたんだよ!」
 沙良は答えようとしない。
 俺は尚も問い質した。
「金のためか? そんなことのために、体を許したのかよ」
 沙良は悲しそうに微笑むと、
「他人の言葉は信じるのに、私のことは信じないんですね?」
 俺はかぶりを振って否定した。
 本当は信じたい。嘘だと思いたい。
「だけど、いろいろと嗅ぎ回ったんですね。私のこと」
「それは……」
 言葉に詰まったのは、言い返すことができなかったからだ。
 不安だとか、信じるという大義名分を掲げ、俺は沙良の過去を詮索するような真似をした。それは、彼女を信じるという真摯さからはかけ離れた行為に他ならない。
「私を信じているなら、直接聞いて欲しかったです。裏でコソコソしないで、面と向かって話して欲しかった。だって私たちは恋人同士でしょう? 直接聞いてくれたら、私はちゃんと答えましたよ」
 咄嗟に謝ろうとした俺は、彼女の表情を見て凍りつく。沙良は見たこともない邪気に満ちた笑みを浮かべて、

「そうしたら、江藤先生との関係をきちんとお話しましたのに」

 そう言って、残念そうに肩を竦めた。まるで、買ったばかりのアイスを落してしまったときのような、軽い調子で彼女は言う。
「そうですよ、七季君の言う通り、私と江藤先生には肉体関係がありました。それも一度や二度じゃありません。何度もしました。七季くんと付き合うようになってからも、何度か相手をしてあげてたんですよ。先生があまりにもしつこいから、仕方なく。でも、それは私も望んだことです。だって沢山お金が貰えるし、それになにより、気持ち良いから」
 沙良はうっとりと目を細めると、悪戯に笑った。
「七季君とするよりも、江藤先生と寝た回数の方がずっと多いんです」
 彼女はもう、俺の知る更級沙良ではないのだろうか。
 俺は、必然的に沙良との思い出を想起した。初めて交わったのも確か、このプレハブ小屋だった。俺にとって初めての性行為で、相手を気遣う余裕などまるでなかった。
 だから、彼女の嘘に、気付く余裕がなかったのだ。
 沙良はあの日、男の人に好きと言われるのは初めてだと言っていた。それなのに、体を重ねてみると、彼女の性格からはとても想像できないほど落ち着きはらっていたのだ。
 初体験だったら、もっと緊張で体に力が入って痛がったりするのが当然ではないか。それなのに、沙良はむしろ、俺を引っ張っていたくらいだ。それは当然だった。いまになって思うと、沙良の初めては既に失われていたのだから。
「他にも、俺に言わなきゃいけないことがあるんじゃないのか?」
「さあ、なんの話ですか?」
「じゃあ俺から言う。そもそも俺の子供を妊娠したっていう話も、嘘なんだろ?」
 声の震えを抑えながら、俺は続けた。
「俺たちが付き合うようになって、まだ一カ月ほどしか経っていない。もし沙良のお腹にいるのが俺の子供なのだとしたら、最長でもまだ一カ月しか経っていないことになる。それにしては、体に変化があらわれるのが早すぎるんだよ」
 沙良は、そのときばかりは気まずそうに目を伏せた。
「ネットで調べてみたよ。妊娠してからどれくらいでお腹が大きくなるのか。個人差はあるみたいだけど、五か月からっていうのが一般的らしいな」
 沙良の肩を力づくで揺すって、無理やり目を合わせた。
「聞いた話では、沙良が江藤先生に呼び出されてホテルに入っていく姿が目撃されたのは、梅雨の蒸し暑い頃だったそうだ。いまが十二月の終わりだから、丁度半年くらい前ってことになる」
 妊娠六ヶ月。一般的には、体に変化があらわれていい時期だ。
「なあ、頼むから答えてくれよ。お腹の子供は本当に俺の子供なのか? それとも……」
 沙良は溜息を吐いて俺の言葉を遮ると、
「七季君、私が妊娠したって聞いてからバイト始めましたよね?」
「それがどうした。俺の質問に答えろよ!」
 声を荒げると、沙良は肩を竦めた。
「堕胎ってお金がかかるんですよ。だって江藤先生ってば、責任取ってくれないんですもの」
 俺は愕然とした。
 なんだよ、それ。沙良と過ごした時間が、塵となって消えるみたいだ。
「お前は俺を利用したのか? 付き合ったのも、妊娠の責任を俺に負わせるためだったのかよ。だから、俺の告白を受け入れたのかっ」
 それが、初対面だった俺からの告白を受け入れた理由だったのだ。それだけのために、沙良は二カ月以上も仮面を被り続け、従順な彼女を演じ続けた。妊娠の責任を俺に負わせ、堕胎に必要な資金を払わせるために。
「そんなに怖い顔しないで下さい。だって仕方ないじゃないですか。私が妊娠したのを知った江藤先生は、青ざめた顔で『どうにかしろ、俺の名前を出すな』って言うんですから」
 沙良は鼻で笑う。
「でも当然ですよね。生徒を妊娠させたなんて、世間が知ったら大騒ぎします。少なくとも、教師という仕事は続けらなくなっていたでしょう。だから、妊娠したと聞かされたときは酷く焦っていた江藤先生も、必死に考えたんでしょうね。翌日には妙案を引っ提げて私の前に現れました。その妙案っていうのが、『適当な男子生徒とヤレ』っていう、最低なものでしたけど」
 飄々と沙良は言う。
「わかりますか? 誰でもいいから身代わりを見つけて妊娠の責任を負わせろと、あの男は言ったんですよ。ほんと、最低。でも、他に手がなかったのも事実でした。だから仕方なく、私はその意見を取り入れることにしました。堕胎するにしたってお金が掛かります。それに、私は未成年ですから、堕胎するには親の同意が必要になる。そうなれば、両親は必ずこう聞いてくるでしょう。『相手は誰だ』ってね。そうなれば、江藤先生との関係を隠しておくわけにはいかなくなる。そうならないために、私は江藤先生の言うように、身代わりとなる人を探さなければいけませんでした」
「それが、俺か」
 沙良は小さく、本当に小さく頷いた。
「適当な相手を探しているときに、偶然にも七季君が告白してきてくれた。これは奇跡なんだって思いました。だから、二つ返事で告白を了承したんです」
 沙良は俺と肉体関係を結ぶためだけに交際したのだ。江藤先生の代わりとなる『妊娠させた相手』が必要だったから。
「だから、初めてのデートから帰ったあと、私は焦りました。七季君の態度が、明らかに乗り気じゃなかったからです。噴水広場の前で話しているとき、別れ話でも切り出されるんじゃないかと冷や冷やしました。私は仲良しごっこがしたくてあなたと付き合ったんじゃない。少なくとも、一度は性交をしなければならなかった。それまでは別れるわけにはいかなかったんです。だって、このチャンスを逃したら、次の相手と巡り合うまでに体に大きな変化が出てしまうかもしれない。いまだって、もうお腹が大きくなり始めていますからね。だからあの日、ダメもとであなたに電話をかけたんです。少しでもポイントを稼げたら良いなって、そのくらいの気持ちだったんですけど、まさかあそこまで上手くいくなんて思いませんでしたよ」
 俺は、沙良と初めてデートした日のことを思い出していた。
 家に帰って母親からの着信に折り返すと、それが父親に知られて口論となった。家を飛び出し、誰でもいいから話を聞いてほしいと願った。俺の手は、自然に枯井戸彩香の番号を探していた。そんな折に掛かってきた沙良からの電話。誰でも良かった。傍にいてくれるのなら、それだけでよかったのだ。
 しかし、誰でもよかったのは彼女も同じだった。生贄となる男さえ見つかれば、誰でも。
「七季君には悪いことをしたって思ってますよ。でも、お互い様でしょう? そっちだって罰ゲームで私に告白したんですから」
 確かにそうだ。以前、俺は包み隠さず、自らの罪を懺悔した。沙良は怒るでもなく話を黙って聞き、そして許してくれた。だが、彼女は内心でこう思ったことだろう。
『私がしていることに比べたら、そんなの怒るに値しない』と。
 こんなにも残酷なことを言う彼女がどんな表情で話しているのか、気になって沙良の顔を窺うと笑っていた。
 思わず背筋に冷たいものが走ったのを感じ、それが冷や汗であることに気付いた。俺は、忌まわしい想像が外れていることを願って、口を開く。
「だから〝殺した〟のか? 」
「はい?」
 沙良が笑顔で聞き返してくる。そして、一歩俺に近付いてきた。
「どうしたんですか、そんなに怯えて? 逃げないで下さいよ。それじゃあお話ができないじゃないですか」
 気付くと、俺はプレハブ小屋の壁を伝うようにして沙良から距離を取っていた。それは本能的な恐怖心に他ならなかった。
「私が、江藤先生を、どうしたって?」
 ずいと距離を詰められ、俺は絶叫に近い声音で言った。

「近付くな、人殺しっ!」

 沙良の体を力任せに押すと、小柄な彼女はいとも容易く後方に吹き飛んだ。地面に倒れ込んだ姿を見て、ほんの少しだけ冷静さを取り戻せたが、相変わらず笑みを浮かべたままの沙良を見て、また寒気が戻ってくる。
「もう。乱暴するなんて酷い。私が七季君を傷付けると思ったんですか? 理由がありませんよ。理由もなく人を傷付けたりしません」
「それなら、理由があれば人を傷つけるのか?」
 その問いに、沙良は答えようとしなかった。
 彼女は立ち上がろうとしたかと思うと、途中で一旦止まり、もう一度屈んで物を拾う仕草を見せた。
 俺はハッとしてポケットの中を確認し、中身がなくなっていることに気付く。鞄の中に仕舞っておくべきだったと後悔しても遅い。
「これ、本ですか? 珍しいですね。七季君がこんな物………」
 彼女は拾いあげた本を捲ると、ページの間になにかが挟まっていることに気付き、それを抜き取ったようだ。暗がりでよく見えないはずだが、一瞬で沙良は凍りつき、身じろぎ一つ取らなくなった。
「え、なんで………? どうして、これを」
 ようやく動いたかと思うと、沙良の表情からは笑みがすっかり消えていた。
「どうして、この写真がここにあるの。まさか、あの男、死ぬ前に流出させていたの?」
 沙良は、まるで茫然自失としていた。焦点の定まらない瞳で、けれど写真の一点をジッと見据えている。
 このタイミングで見せるつもりはなかった。彩香から預かった惨殺魔の写真は、あくまで切り札として借り受けたものであって、話し合いの余地がある段階では見せないつもりでいた。相手を刺激するだけだと思ったからだ。
 しかし、どうやら俺が思っている以上に、事体は深刻なようだ。
 沙良は、ガチガチと奥歯を鳴らして写真を一心に見つめている。
 さきほど沙良は、聞き捨てならないことを言った。
 言葉から察するに、この惨殺魔の犯行現場を押さえた写真は、江藤先生が流出させたものだと勘違いしているらしい。ということは、惨殺魔の正体が写った写真を江藤先生も持っていたことになる。そう考えると、一つの可能性が浮上してきた。
「まさか、江藤先生はこの写真を使って沙良を脅していたのか?」
 その可能性に気付いた俺は、沙良を問い質した。
「なあ答えてくれ。お前は脅されていただけなのか? 脅されて、無理やり江藤先生の言いなりになっていたのか?」
 沙良は写真を手にしたまま、ジッと俯いていた。

 動物を殺害した瞬間の、"弟"が写った写真を、かたく握りしめたまま。

 そう。その写真には、動物の体から鋭利な刃物を抜き取っている、中学生くらいの少年の狂気的な姿が写し出されている。
 彩香の部屋でこの写真を見たとき、俺は目を疑った。
 俺はその少年を見たことがあった。それもつい最近、同じように制止画でその姿を見たばかりだった。
 場所は沙良の部屋。勉強のために訪れた彼女の部屋の、机の上に掛けられたコルク板には、沢山の写真が貼られていて、その内の一枚に、湖の前で写っている家族写真があったのだ。そこで笑っている少年の笑顔が、いまでは狂気的な笑顔と重なって見える。沙良が自慢の弟と語っていた更級平良の姿が、惨殺魔として写し出されていた。
「ええ、そうですよ」
 先ほどまでと打って変わって、沙良の笑顔にも力がない。
「七季君の言うように、私は江藤先生に脅されていました。絶対に忘れない、あの厭らしい顔。これとまったく同じ写真を江藤先生は持っていて、『ばら撒かれたくなかったら言うことを聞け』って脅してきたんです。私は逆らえませんでした。これでもたくさん考えたんですよ。でも、誤魔化せるはずないじゃないですか。こうして写真が残ってしまっているんですから。弟が動物を殺す異常者だなんて知られたら、私たち家族はお終いです。あの男は、そんな弱みに付け込んできたんですよ」
 キッと睨むように沙良は顔を上げ、そして詰め寄ってきた。
「どうして、江藤先生が脅しに使っていた写真をあなたが持っているんですか。まさか、もう流出してしまったの?」
 一転して不安そうな顔つきになった沙良に、俺はかぶりを振って答えた。
「この写真はごく限られた人しか見ていないし、もう広まることもない。それは安心していい」
 どういう経緯で江藤先生が写真を手に入れたのか、詳しくはわからないが、先ほどの彩香の話によると、情報を集めるためにネット上に写真をアップしたことがあるそうだ。それを偶然にも江藤先生が拾ったということも考えられる。少なくとも手に入れる手段がないわけではない。
 沙良は、俺に安心しろと言われても、やはり素直に受け入れられないようだった。懐疑的な目を向けてくる。それくらい、弟が惨殺魔であることを知られたくなかったのだろう。だが、いまの話を聞いてどうしても理解できない点があった。
 沙良が江藤先生を殺害した。それは間違いないだろう。動機的側面を見れば十分過ぎるくらい証拠は揃っている。だが、物理的な側面から見ると、それは至難の業と言えよう。学校で話をした、越中刑事も言っていた。
『まず、女性による犯行は不可能でしょう』
 江藤は平均的な男性の体躯をしているため、それを沙良が一人で押さえ込めたとはとても思えない。ましてや、死因は頸部の圧迫による窒息だと聞いているから、必死に抵抗する江藤先生を、押さえ込んだ上で首を絞めたことになるのだ。薬物反応もなかったとなると、それを可能にするには〝協力者の存在〟が不可欠になる。
 そうなると、いったい誰が沙良の共犯者となり得ただろう。誰が共犯者ならば、沙良は江藤先生を殺せたのだろうか。 
 江藤先生を殺せる人物。
 沙良の協力者となり得る人物。
 人殺し。
 殺人鬼……。
 そこまで考えて、一人いることに俺は思い至った。沙良の協力者になることができて、しかも生き物の命を奪うことに躊躇がない者。どうしてこんな簡単なことに気付けなかったのだろう。

 ―――惨殺魔。

 彼ならあるいは、人間を殺すことにも迷いはないのではなかろうか。俺は導き出した答えに、確かな自信を持った。
 惨殺魔の正体は沙良の弟だ。それだけでも協力する動機になる。姉の頼みを聞く弟。それが人を殺害する手助けだったとしても、多くの命を奪ってきた惨殺魔なら、喜んで頼みを聞いたことだろう。
 そして俺は、体の震えを抑えきれないまま、告げた。
「……そういえば、どうして沙良の弟は、自殺したんだ?」
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