彼女の優しい理由

諏訪錦

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彼女の優しい嘘の理由 14

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 シフト終わりの時間になると、沙良を待たせていることを理由にすぐバイトを抜けさせてもらった。俺と沙良は隣合って歩いた。速度はそれほど速いものではない。手を繋いだまま歩くとなると、どうしたって歩調は彼女に合わせることになる。
「ねえ七季君。今日がなんの日か知ってますか?」
「もちろん知ってるさ。クリスマス・イブだろう?」
 満足げに頷くと、沙良は言った。
「そうです。付き合ってる人たちがこぞって町を闊歩する日です」
「その言い方だと、なんか身も蓋もないな」
「なにを言ってるんです?」
 沙良はクスリと笑う。
「私たちも、いまこうして二人きりで歩いています」
 悪戯に笑うその横顔を見ていると、胸が高鳴るのを感じた。
 俺はようやく理解できた。沙良が無理やりにでも都合を合わせてバイト先までやってきた理由。それは、クリスマス・イブに二人きりで過ごせないのは寂しいと思ったからに違いない。
 照れ隠しするように、「イルミネーションもない道だけどな」と俺が言うと、それでも沙良は顔を綻ばせながらかぶりを振った。
「場所じゃありませんよ。一緒に過ごすことに意味があるんです」
 確かに、その通りなのかもしれない。俺は同意して空を見上げた。こうして見ると、等間隔に設置された街灯がライトアップされた道に見えなくもなかった。
 沙良は、不意に手を繋いでいる方の腕にしがみ付いてくる。そうすると、いつぞやの香水の香りが鼻先をかすめた。俺は理解した。彼女はきっと部活終わりにこの香水を家に取りに戻っていたのだ。だから到着が遅れたに違いない。汗の匂いが気になり、急いで香水を取りに戻る姿を想像すると、無性に愛おしく思えた。
「俺、この香水の匂い好きだよ」
 それは香りその物というよりも、沙良の努力を称賛する意味合いが込められていた。
 恥ずかしそうに身を縮めた沙良は、「ありがとうございます」と消え入りそうな声で言った。
 俺は腕に掛かる心地良い重さをその身に受けていた。冬だというのに、寒さはまるで感じない。これもやはり、隣に沙良がいるからだろうと結論付けた。
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