賢者様が大好きだからお役に立ちたい〜俺の探査スキルが割と便利だった〜

柴花李

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第六十五話 奮闘

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「おやおや。彼は元の仲間を陥れるような人間なのかい?それが本当なら由々しき事態なのだけれど」
 さっそく色々聞き出してやろうと、アレグはエウフェリオの背に隠れたオリンドを見る素振りをしてから飄々とガイオに尋ねた。
 その口振りに、これは上手く印象付ければこのパーティがオリンドを理由に解雇される運びに持っていけるかもしれない。そうなれば面白いことになるとガイオは調子付く。
「あん?あんた、何も知らねえで雇ってんのか。…そいつは駆け出しの頃、ここにいる二人を騙してパーティに寄生したばかりか、抜ける時には罠だらけの地図を置き土産に、俺たちを陥れようとしやがったんだ。クソみてえな奴さ」
「ち、地図、……って。まさか、いつの間にか無くなっ…」
「ギーの言う通りだ!!こいつのせいで、俺たちは散々な目に遭わされたんだぞ!」
 何事か言いさしたオリンドの言葉を遮り、横からバティスタは怒声を上げた。
「…ほう?散々な目、ってのは、具体的にどんな目だ?」
 こいつ、今、明らかに焦ってオーリンを遮りやがったな?
 すでに頭の痛い予感がする。と、イドリックは眉間を人差し指の背で押しながらバティスタに問い返す。
「ちっ!…いちいち思い返すのも腹立たしいが、まずは薬草だの魔石だのの在処だ。それらしい印の場所に行ったところで何もありゃしねえ。それどころか食人植物の群生地だの、落とし穴罠の集合地だのの危険地帯ばかりだ。どう考えても罠だろうが!?」
「そうだそうだ!それで俺たちがどんな目に遭ったと思ってるんだよう!」
「そりゃ俺、その頃はどの地図も魔物と罠しか描き込んでなかったもの。バッツにもマーシーにもちゃんと言っといたじゃないか」
 がしゃん。
 頬を膨らませるオリンドに、バティスタたちの剣だの鎚矛だの盾だのが落ちた。
 なるほど。こいつらが話を聞き流してたとしたら、今のオリンドの絵があれなのだから十六年前となると余程勘違いを起こさせる出来栄えだったかもしれない。そう考えかけたイドリックだったが、背中に機嫌が最低に悪く一言も発さない某賢者の闇魔法じみた視線を感じて思考を振り払う。
 ともかく。
「おっし、終了終了~。残念だったなおまえら。地図に印が付いてりゃつまりお宝だと思い込んだおまえらの落ち度ってことだ」
 話は以上だ。でなけりゃ下手すりゃ死人が出る。イドリックは手を打って地図に関する難癖をお開きにしようとした。
「ま、待てよ!まだ話は終わってねえぞ!」
 ここで引き下がって長年の恨みを晴らさずにおくものか。よせばいいのにバティスタは食い下がった。
「ああ?他にも何かあんのかよ」
 フェリがどんな目えしてんのか、見えてねえのかこの命知らずども。
 歩いてきた順が運の尽きと言えばそれまでだが、エウフェリオとバティスタを結ぶ直線上に位置取ってしまったが故に、背中の、主に左肩の辺りを掠める視線に焼け付くような錯覚を覚える。
「あるに決まってんだろ!他は…そうだ、道の読み辛さだ!とにかく縮尺がめちゃくちゃで、どれだけ迷わされたことか!」
「俺の歩幅で測って描いてるってことも、何度か説明したよ!」
 いつの間にこれほど強くなっていたのか。毅然と反論するオリンドの姿にエウフェリオは胸打たれた。これは私的な感情でドロついている場合ではない。と、そっと彼の背を押し自分の前に立たせる。
 バティスタと面と向かったオリンドは、臆するでもなくきつく彼の目を見据えた。そうして、やはり説明は全て聞き流されていたのかと残念に思った。聞いてもらえなかったことにでは無く、聞きもせず考えもしない彼らを、だ。
「てっめ…!俺たちも読むかもしれんのに、なんでそんな!」
「地図を描くのも読むのも俺の仕事だから、一から百まで全部やれって言ったのはバッツじゃないか」
 本当に残念だ。ブルローネさんはちょっとの説明で俺の地図を使えてくれてた。ケスネさんもきっとそうだ。なのにバッツは、話を聞かないどころか勝手に思い込んで、それで失敗したら人のせいにして。きっと俺が何を言っても全部、無理やり反論するんだろう。……なんて。フェリたちに教えてもらったことの受け売りだけど。
「はあ!?ふざけんな!いずれ読むかもしれん可能性まで考慮しろってんだ!そんなだからテメエは使えねえんだよ!」
 ああ。すごいなあ。ほんとに、まるきり子供の屁理屈だこれ。
 バティスタの癇癪じみた切り返しをオリンドこそ聞き流して、エウフェリオたちが指摘した理不尽な人間性と、その幼稚さというものを噛み締める。
 この幼馴染たちに対して恐怖を抱いたり激昂することが、何だか馬鹿らしく思えた。
「だいたい、そうだ、てめえ、本題はこっからだぞクソが!てめえ、オークの集落の在処に猪なんぞ描きやがって!どうやったって赤眼猪せきがんししぐれえにしか見積もれなかったじゃねえかよ!」
 が、それとこれとは別問題だ。
「っそれは!俺の!絵が下手だからっ!……っ、お、俺が描くオークって猪に見えるの!?」
 瞬時に沸騰したオリンドはバティスタに叫んでから、くしゃっと顔を歪めると首の筋を傷める勢いでエウフェリオとイドリックを振り返った。
 二人とも風切り音を響かせて顔を背けた。
 咄嗟の行動は時に口より物を言う。
 見ればイドリックの盾に隠れてアレグとウェンシェスランも必死で目を逸らしていた。
「……いのししに……みえるん…だって……」
 下手だとはわかっていたが、そこまで駄目だったなんて。
「そっ…、そうか…」
 真っ赤になってぎゅうと寄せた眉を八の字に下げ目には涙を溜め、それでも泣くまいと顎に強く皺が浮かぶほど唇を引き結ぶオリンドにもだが、その後ろで自分自身の顔面に強かな一撃を入れた盾使いと魔法使いの姿にさすがのバティスタもそれ以上言葉が出なかった。
「そうか、じゃ無いだろバッツ!あの時、俺たちは全滅しかけて半年の重症を負ったんだぞ!?」
「そうだようバッツ!おかげで借金まで背負う羽目になっちまってさ!何年まともな飯も食えなかったと思ってるのさあ!」
「おい。おいおい、それこそ自業自得だろう」
 潰れた鼻を指で摘み強引に戻しながらイドリックはバティスタたちを睨み付ける。
「おまえさんら、地形だ植生だのから潜む魔物に見当も付けずに、地図の絵だけを根拠に飛び込んだのかよ」
 鈍い音を立てて戻った鼻から血をみ捨て、平然とした顔で回復薬を呷る異質さも相まり、イドリックの指摘にガイオもバティスタも推し黙った。
「リックの言の通りなら、それが例えば駆け出しの頃だったとしても文句の言えない状況だと思いますけれどね。オークの集落近くには独特の臭いが漂っていたでしょうし、縄張りの印もあったでしょうに」
 同じく鼻を強引に治し、いったいギルドで何を習ったと言わんばかりの呆れ顔のエウフェリオにも、彼らはぐうの音も出せない。
「それにな。俺たちが何も聞いてないと思ってるのか。オーリンが探査スキルしか持たないからって、随分と酷え扱いをしたそうじゃないか。おおかたその地図ってのも、追い出す時に荷物から抜き取ったんだろう?」
 醜悪な言い訳をこれ以上聞きたく無い。話にけりをつけるべく、獲物を追い込む目でイドリックは畳み掛ける。
「…ちっ。ああ、そうだ!それがどうした!?」
 言い募られたバティスタは自棄を起こして開き直った。隣でダルマチェロが驚愕の表情をするのも見えていないのか、忌々しげにオリンドへ指を突き付ける。
「逆に聞きてえな!こんなの!しか使えねえ!しかも読めもしねえ地図しか描けねえ屑に、何の価値があるってんだ!?」
「……おや。彼の魔力が?」
 リンドに探し物スキルなどという言葉を植え付けたのは貴様か。
 逆鱗を抉られ噴火した内心を、しかしオリンドのためと捩じ伏せ、エウフェリオは腕に巻きつけたタグを軽く目の前に掲げた。
「…採掘メインにしては、割とあると思いますけれどね…」
 仮仕上げのタグに絆魔法までは付与されていない。そのために、光魔法で四角い形状を三枚、それっぽく手元に浮かび上がらせて数値を確認する風を装うと、バティスタの肩が僅かに跳ね上がり、次いで嫌に口角が上げられた。
「ふはっ、ははは!なんだオリンド、てめえ、採掘要員かよ。ザマぁねえな!…ちっ。あんたら、こんなお荷物抱えて余裕の生活なんざ羨ましい限りだ。今がどのくらいか知らねえが、俺らと組んでた時は最低ランクだったぜ」
 どうやら浮かんだ情報窓が三枚であったことで、盾職と魔法職の二人で非戦闘職のオリンドを抱えても、応援に二人ほど付ければ十二分に中級ダンジョンで護衛を務められる実力と理解した彼は、少しばかり態度を改めることにしたようだ。
 毛の先ほどだったが。
 対して、エウフェリオは眉をぴくりとも動かさず、実にさり気なく口を開いた。
「と、すると、八十程度…ですかね」
 いやいやいや、最低ランクは百だろ。
 平然と口にされた数値に、戦闘職じゃあるまいしとアレグたちは吹き出しかけた。
「あ?んなもん覚えちゃいねえよ。あの頃は数字も読めなかったからな。…いや、しかし確かに二桁だった。そいつの魔力量の数値欄見るたび、すっかすかで苛々したもんだ」
 おいおいおい。二桁を肯定しちまったよ。まさか、今だに魔法職の基礎知識が無いのか!?
 文盲を理由に数値こそ誤魔化したものの、バティスタの発言はオリンドとガイオとダルマチェロを除く全員に衝撃をもたらした。特にティツィアーナとカテナチオには耐え難い激震が走り、かわいそうにもはや虫の息である。
「なるほど。それは確定的ですね」
 数値欄を見るたびにとは、どの口が言ったものか。心底呆れつつエウフェリオは装飾具に見せかけた音声保存と画像保存の魔道具にさり気なく触れる。
 どちらも恙なく発動を続けている。これで確実にオリンドの情報は確認されていないという証言が、きっちりと揃えられた。その上、魔法職の基礎を説明されていないと取れる発言や、地図の件で難癖をつける場面まで押さえられたのは思わぬ収穫だ。
 エウフェリオはゆっくりと一同を見渡した。誰もが無言の頷きでもって彼に答える。
 もうこいつらに用は無い。あとは縛り上げて評議会へ突き出すだけだ。
 と、思ったのだが。
 さっそく折り畳んで縛ろうかと腕を鳴らしたアレグたちを、何故かエウフェリオはとどまるよう片手を上げて指示した。何か、おそらくはバティスタたちに意趣返しでもするつもりだと察して黙って見ていると、彼はタグを巻いた腕を一度ローブの袖へ引っ込め、中を探って再び突き出した。
「……あっ」
 近くで見ていたオリンドが声を上げる。
 エウフェリオの腕には袖に入る前と変わらずフェリチェノの名が刻まれたタグが巻き付いている。
 だが、それは変化の腕輪で姿を変えた、エウフェリオの本物のタグだった。
 すごい。あの一瞬で擦り替えるなんて、フェリったらスリの素質もあるんじゃなかろうか。…えっ、でも、それで何をするんだろう?
 首を傾げるオリンドの前で、エウフェリオは何事かタグに操作を加える。そうして角の魔石に触れると、一回り大きなサイズの窓が一枚だけ表示された。仲間の情報を一人に絞って注視したい場合に使用する様式だ。
「……えっ、一枚だけ表示することも、できるの?」
 呟きほどの驚きの声を上げるオリンドに、バティスタもダルマチェロもガイオも、そんなことも知らないのかと見下す表情をした。
 オーリンが絆魔法を知ることができなかったのは、お前たちのせいなのに。
 アレグとイドリックとウェンシェスランの胸がぎりぎりと軋み上がる。千切れる寸前まで絞り上げられた濡れ布のような三人の気持ちは、けれど次の瞬間に、ぱん、と天日に干されたような心地になった。
「しかし、現在の彼の魔力量からは、とてもではないですが二桁だったなどと信じられませんね」
 エウフェリオがバティスタたちの眼前に、表示させた窓の情報を突き付けたのだ。
「はあ?何言っ……」
 言いさしたバティスタの目が眼球も落ちそうなほどに見開かれ、唇は紡ぎかけた発音の形のまま凝り固まった。
「ああ?…こいつの、今の魔力量とか言ったか?最低ランクがどう頑張ったところで……、……へ……?」
 バティスタの様子を訝しみ、オリンドの魔力量がどうなのだと横から覗き込んだガイオもその身を凍り付かせる。
「なっ、なになに?怖いよ二人とも。なんだってんだよう。オーリンの魔力なんて鼻糞なんだろ?よくて目糞くらいなんじゃ…ああっ!?」
 がくん。
 同じく覗き込んだダルマチェロの顎は叫んだ拍子に見事に外れた。
 目の前に浮かんだ、今の彼らならそこに記載された名前と数値くらいは読み取れる、誰にも偽ることのできない情報は、オリンドの魔力量が優にAランク下限を超えていることを示していた。
 もっとも、彼らに並んだ数値がどの程度のランクなのかを測る術は無かった。が、知識の有無など問わず否応無しに高ランクと理解できる桁数に鳥肌が立つ。
「……あ…っ、有り得ねえっ!…有り得ねえ!!ってめえ!どんなハッタリかましやがった!?」
 自分より下どころか世界の最底辺だと思っていた人間が、遥か高みに居た現実を受け止め切れず、態度を改めなければなどという思考は木端に吹き飛んだ。
 目を血走らせ掴み掛かってくるバティスタを躱し、エウフェリオは涼やかな、殺すような視線を浴びせる。
 現状、オリンドは能力を抑制する魔導書の影響下だ。表示されている魔力量が半減された値だと知ったら、どれほど憤りに身を焦がし無様な自滅を見せてくれることだろう。割れるほど噛み締めた歯の隙間で思考してエウフェリオは自身を御する。
「ほう?これが偽の情報だと仰る。キルタンサス王立魔法研究所の世界最高峰技術をもってしても改変不可の絆魔法を、いったいどのように偽ると?」
「……っぐ、…み、……認めねえ!認めねえぞ!!こいつは!最低なんだ!最悪なんだ!屑で!底辺で!何やってもトロ臭え!鈍臭え!いつもいつもいつも人の足引っ張りやがる!こんな碌でなしが活躍なんぞできるはずもねえ!…こんな、……そうさ!魔力ばっかりあったところで、失敗ばかりの!何もできない!出来損ない、だ!!そうだろ!?現に採掘で食ってるんじゃ、宝の持ち腐れもいいとこじゃねえか!」
 罵るバティスタに暁の盃の面々はギルド地下牢で浴びせられたケネデッタの罵倒を思い出した。
 嫌悪感を理由に粗を探して下級だと押し付け、あろうことか断罪しようとする。
 なんと幼稚で歪で醜悪なことか。
 唾棄どころではない、内臓まで吐いてしまいそうな気分の悪さに、アレグたちどころかガイオとダルマチェロまでも言葉をなくした。
「………バッツ……。……でも、……でも、…俺の、これ、…魔力これは、父ちゃん、が……。……父ちゃんが、なにもできない、俺に…っ…遺してくれた、…俺の、証なんだ…っ!……い、いくら、バッツでもっ!馬鹿にするのは、許さない……っ!!」
 誰も身動きの取れない中、オリンドはスフマカン鶴嘴をぎゅうと抱きしめ声を振り絞った。
 俺の魔力量があるのは、父ちゃんが鍛え方を教え授けてくれたからだ。それを、わからないなりに俺が育てて、フェリが整えてくれたものだ。今、みんなが、ありがとうって、助かるって、喜んでくれる力なんだ。
「そ、それに、それに俺!今ならクラ…っ、な、何十枚の壁でも通して見られるんだから!ここのダンジョンくらいなら、丸ごと全部細かく描き出せるんだぞ!」
 父親を馬鹿にされて怒り心頭だろうに、それでもクラッスラと言いかけて踏みとどまった健気さに、エウフェリオはオリンドの肩に万感の想いを込めて両手を乗せ励ますように包む。
「ええ。その通りです。彼の探査スキルには非常に、大いに助けられていますよ」
「…っは、……そ、……そんな、…そんなはずは……っ」
 腰が抜けかけているのだろう。弱々しく後退ったバティスタは、背をガイオに支えられて踏みとどまる。
「しっかりしろ、バッツ。そんな与太話、信じられるものか!」
 仲間の異質さに度肝を抜かれはしたものの、逆恨みと判明しようが半年の負傷と背負わされた借金への屈辱は払拭しがたく、ガイオはオリンドを睨み返した。
「う、う、う、嘘じゃないぞ!がっ、ガイオ…!み、見てろ!」
 言うなりオリンドは天眼馬の鞄を開き、植物紙の束と魔導羽ペンを取り出して、何事か勢いよく描き付け始める。その身が遅れて淡い光を放ち出すのをガイオは、いや、バティスタとダルマチェロも、その場に崩れ落ちながら目を剥いて見詰めた。
「……っ、ふーっ…、ふーっ…!」
 全体を描き終えるまでわずか数分のことだった。過集中で息を切らせるオリンドから描かれたばかりの地図を受け取ったエウフェリオは、ざっと確認してからガイオに突き付ける。
「いかがです?私の記憶に間違いがなければ、ギルド発行の物には描かれていない最深部や、未発見の隠し通路に隠し部屋、希少植物や茸の群生地、埋まっている魔物素材や魔石に鉱脈なども載っているようですが。それに、今の彼は見ている景色をそのままなぞっていますから、縮尺もきちんと合っていると思いますよ」
「……っ、……っう……」
 受け取ったガイオは懐から取り出したカランコエ冒険者ギルド発行の地図と見比べ、その通り縮尺に間違いがなく、それゆえに未発見部分は発見されるまで不確定だという反論が意味を成さないことを悟った。かなり複雑でそこそこ広大なこのディッキアダンジョンの全体を、細部に至るまで縮尺の歪みなく描くなどという芸当を記憶だけで行えるわけもない。
 つまり、言葉通り、丸ごとなぞった、というわけだ。
 そもそも魔力練り上げの発光がこれまで見たこともない激しさであった段階で、異論は全て封じられたのだ。
 ガイオは一度深く息を吸い込み、それから一気に吐き出すと、やたら威勢良く姿勢良く立ち上がった。
「話はわかった。オリンドを逆恨みしていたのは俺たちの落ち度だ。……いや、バッツから聞いた話と、今のオリンドの魔力量とを鑑みれば…、ギルドが魔力量を計測し損ねたということもあり得るわけだな?そうであれば、つまり、ギルドの落ち度というわけだ」
「おいおいおい。何言ってやがる。まさか、ここに来てギルドのせいにして言い逃れようってか?」
 そんな理屈を捏ねたところで、オリンドに行った数々の暴行蛮行の罪は消えるはずも無いとイドリックは肩を怒らせた。
「言い逃れ?何の?」
 だが、次にガイオが放った言葉は、怒りを通り越し呆れも通り越すものであった。
「俺が言いたいのは、。ってことだ」
「ばっ…!!」
「ふざっ……!!」
 危うく。危うくアレグもウェンシェスランも声を張り上げるところだった。この後に及んで何を言うのか。馬鹿なことを言うな。ふざけたことを言うな。厚顔無恥にも程がある。罵倒して殴り付けて足蹴にして切り刻んで燃やし尽くしてやるところだった。
「誰がっ!!誰が、暗黒の混沌より生まれ出し叢雲に潜む紫雷竜なんかに戻るかーっ!!」
 憤怒に顔を染めたオリンドが怒号一発、スフマカン鶴嘴でもって彼らの足元に特大の穴を開けていなければ。
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