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第五十五話 百階層の不思議
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「報告は以上だな?持ち帰ってもらった日記だのは解読に回すとして…」
引き続き八十八、八十九階層の報告を受けたカロジェロは、アレグたちが調査の足しになるかと持ち帰った当時の日記と思しき冊子や愛読されていたと思われる小説らしき本などを、解読班へ送る箱へ丁寧に詰め込んだ。クラッスラから出るこういった魔導書では無い、いわゆる通常の書物に使われる言語は現代のものに通ずるところはあるがなにしろ文体が古く、語彙や文法も異なる部分が多い。今では使われない用言や言い回しもあり、更には流行でもあったのか時折古代語の混じる文章を読み取るには、解読を専門とする者の手が必要だった。
まとめた箱に手早く封をしたカロジェロは後方に控えたティツィアーナに身を捩って渡すと、アレグ達を振り返り報告の場に切りをつけるように膝を叩く。
「うっし。いつものことだが、他になんぞ気になることでもあったら早目に言っといてくれよ」
「はい。とりあえず私からは特に何も。依然としてクラッスラを亡国とするならば、何故地上と城下町との間にダンジョン構造が広がるのか気になるところではありますが…。諸々含め今度の書庫調査で判明するやもしれませんし」
地下に建国されている分には坑道を広げに広げた結果だとか防御を考慮してだとか、理由はいくつか思い付くが、どれだけ考えても城下町の前にダンジョンのある意味がわからないとエウフェリオは首を振る。
「おいこら書庫調査じゃねえだろ。気持ちはわからんでも無えが。…しかし、確かになあ。まさかダンジョンを防壁代わりにしたってわけでも無えだろうし」
そんなことであれば入出国をしなければならない住民には迷惑なこと甚だしい。よしんば転送陣を使うにしてもオリンドの描いた地図の内容からするに、城下町区域の住人がすんなりと出入りできる陣も無かったはずだとカロジェロは記憶を探り首を傾げる。
いったいどのように運営されていたのか疑問は深まるばかりだ。
「ま、九十三階層から歴史書なり出てくるだろうし、考えるのはそれからだな。…で、お前らは?なんぞ引っかかることも無いか?」
さておきわからないものを延々と考えていても仕方ない。次いで他の面々の顔を順ぐり眺めて言っておきたいことは無いかと促すと、意外なことにオリンドがもじもじと半分ほど手を挙げた。
「う、…あの、ネタバレしてもいいなら、俺も不思議に思ってることがいくつかあって…」
ネタバレと言うからにはつまり魔物のことなのだが。実のところオリンドには七十九階層の壁を開けたあの日から気にしている階層があった。そこが近付いてくるたび、言っておいた方が良いのではないかと悶々とした焦りが強くなってきていたところだ。だが、先にアレグから内緒にしてくれと頼まれたこともあり、ずっと怖気付いていた。
もしも、口にして興を削ぎ、パーティから叩き出されてしまったら。
相手の機嫌を損ねればどんな目に遭わされるか知れないと、幼馴染のみならず血気盛んな荒くれ者にも散々刻み込まれた傷ゆえに、自己嫌悪を伴う不安に苛まれてもいた。
だが、そんなものは今日、当のアレグたちが吹き飛ばしてくれた。腹を決めたオリンドに全員の暖かな眼差しが集まる。なんだかものすごい気恥ずかしさを感じて少しだけ肩を竦めた彼は視線を忙しなく彷徨わせて言葉を選んだ。
「えっ…と、城はたぶん九十九階層までなんだと、思うんだけど。百階層から地上みたいな景色が広がってるし…」
「おお。俺も見た見た!一瞬地上に出たかと思った」
一度深く謝罪した身である。百階層へ出る転送陣の隠し扉を開ける手順がわからずに斬り開けたことはすでに悪びれず、アレグもあの景色はすごいと乗っかった。
「うん。あそこから下はみんな森とか川とかあるし、それに天井に応接室の窓の外と同じ魔法がかかってるみたい。…ええと、それで、俺、その百階層に出てきた魔物が不思議で…」
頷いたオリンドは軽い説明を交えて話を続けた。
「と、言いますと?」
「うん。ちょっと前にイドリックが、サイクロプスみたいな大型の魔物は出ないだろうって、言ってたけど…」
「おいおい、まさか出るのか!?」
まさかだろ。心中でまさかを重ねてイドリックはオリンドを凝視した。いや、彼だけではない、誰もが瞠目して見詰める。
「はわっ!ち、ちが…!えっと、そうじゃなくて、…サイクロプスは、居ないんだけど、大きいの、…大きめ?…の、やつが、階層の奥の方…すごく天井が高くなってるとこを、飛んでるんだ。うんん、なんて説明したらいいか…、大型の魔物が無理ってことは、もしかして大きめの飛ぶやつも、すごく広い場所が必要なんじゃないのかと思って。ええと、…そう、ケスネさんが伝書鳥使ってるの、みんなも使ってた鳥だなあと思って、じろじろ見ちゃってたら、フェリが色々と教えてくれたんだけど、その時に、育てるのも躾けるのも大変だし、広い土地も必要って言ってたのが引っかかって…。じゃあ、あんな馬みたいにでかいのが飛ぶなら、もっと広くないとだめなんじゃないか?と思っ…あれ?」
何度目だろうか、話している途中で気付けば周囲が凍り付いたように静まり返っているという経験は。
それでなくとも今回は言っておいた方が良いのではないかと感じていた案件だ。重大な何かが潜んでいたのかもしれないと勘付いたオリンドは、おずおずとエウフェリオを見た。
「…リンド。残り魔力も少ないところ申し訳ないですが、今から探査をお願いしても?」
「えっ?あ、うん。たぶん足りるし、全然大丈夫」
心なし緊張の面持ちをしたエウフェリオの提案に、やはり事態は重いのだと勘付いて頷く。
「ああ。そうか。見て描いてもらうのか。確かにそれが一番だ」
と、多少重苦しいような複雑な表情のイドリックも顎を撫でつつ肯定した。
「マジかー。想像の通りなら俺はめっちゃくそ楽しみだけど」
いそいそと天眼馬の鞄から道具を取り出したオリンドが描き出し始めたのを横目に、アレグはそわそわと身を縦に揺すり、今すぐにでも潜り直しに行きそうな様子でクラッスラの方角を見た。
「あたしはちょっとばかりキツイわね…。がっつり防御して支援オンリーに回らせてもらうわあ」
百階層と言えば自分たちの調査階層だ。それまでに用意しなければならないものが俄然増えたとウェンシェスランは信頼のおける店をいくつか思い浮かべ、必要経費はいかほどになるか勘定を始める。
「…悪いが少し席を外す。おまえら、ここに居ろよ」
おそらくオリンドの描いた地図を取りに行くつもりだろう、執務机の鍵付き引き出しからなにやら小ぶりの箱を取り出して胸元に仕舞い込んだカロジェロは足早に何処かへ向かった。
「できたっ…!」
カロジェロが執務室を出てからしばらくの後、ぶはぁ、と、満足と疲れの入り混じった溜め息を大きく吐き出したオリンドは紙をローテーブルに出した。動き回る相手を描き写すのには骨が折れたらしく、過集中のあまり少しばかり肩で息をしている。
「うお…!っ、間違い無いな。こりゃ、飛竜だ」
一生懸命を絵に描いたような線で描かれた絵は、しかしさすが見ているものをなぞっているだけに、きちんとその特徴が現れていた。馬と蜥蜴の間の子じみた体に鷲に似た足を生やし、蛇のような尾と蝙蝠のような羽を持った魔物だ。見た途端にイドリックは断定し、少々厄介だと目を細め指先で顎を軽く扱く。
厄介と言いながらどこか楽しげな表情をしていると思いつつ、オリンドはこれがあのAランクがパーティを組んでも手こずるという飛竜かあ、と自分の描いた絵をしげしげと眺めてから、飛竜!?と口の中で叫び、腰掛けたソファの上で腰を抜かした。同じ飛ぶ竜でもケスネの使用した飛竜便、王宮専用の郵便急使に使役される亜竜種とは訳が違う。Sランクの上位に位置する魔物だ。
「うああーっ!マジじゃん!わいっゔぁーんっ!じゃん!うぐああ、俺なんであん時ちゃんと奥まで行かなかったんだよお!」
「お黙んなさい暴れん坊。これはもう調査団に百から向こうは無理ね」
「そうですね。…しかし、なるほど。リンドの疑問も頷けます。地下ダンジョンに飛竜とは、いったいどのように生息していたものやら…」
エウフェリオが考え込んで呟き、それにオリンドが何事か答えかけたところで扉がノックされた。隠遁魔法の使われた部屋は室内から入室を促したところで声が届かない。そのために近くに座っていたアレグが飛んでいって扉を開けた。
「いいタイミングだカロン!やっぱワイゔぁ…んぶ!」
「待てこら!叫ぶな!閉めてからだ!」
廊下の先にゃ職員がいるんだぞ。と、慌ててアレグの口を塞ぎ室内へ押し込んでから後ろ手に扉を閉めたカロジェロは、念のために鍵をかけてから塞いでいた手を離した。
「ぷはっ!悪い!…飛竜!やっぱ飛竜だった!」
「おう。獲物見つけた猫みたいな顔しやがって。瞳孔開いてんじゃねえか。…しかし、そうか。やっぱ飛竜か」
地図を手にしたカロジェロは、ローテーブルを回り込んで覗き込んだオリンドの描いた絵に、こいつは厄介だと渋面を向ける。
「百階層だったな。…と、こいつだな。どの辺に居るって?」
飛竜の絵の隣に百階層の地図を並べたカロジェロに問われ、オリンドは階層の奥を指差した。
「この辺り。ここから天井が一気に高くなって、奥の崖の天井すれすれに亀裂がある」
「亀裂、ですか…?」
わざわざ地形を口にするからには何かあるのだろう。エウフェリオが聞くとオリンドは頷いた。
「うん。飛んでない時はここに集まってるみたい」
「へえ。そんなところ巣にしてるのね。水場とか木陰のほうが便利でしょうに…」
想像が追いつかないが森だの川だのがあるなら天敵も少ない飛竜のこと、暮らしやすい場所に巣を設ければ良いのにとウェンシェスランが言うと、オリンドは首を横に振った。
「ううん。巣じゃない。…んー、休憩所、かな。この階層に住んでるわけじゃないはずだから」
「…おう?…そりゃまた、どういうことだ?」
ここに居るのに住んでいないとは異なことを言う。イドリックが首を傾げるとオリンドも首を傾げた。
「え、と。そこが一番、不思議に思ってるところなんだけど」
眉を寄せ、しかしこれでやっと核心が言えると妙な顔をするオリンドに、どういうことだろうと全員の視線が集中する。
そうして固唾を飲んで見守る中、彼が放ったのは想像を絶する一言だった。
「この地図を描いた時にはどこにも居なかったのに、どこから出てきたんだか…」
引き続き八十八、八十九階層の報告を受けたカロジェロは、アレグたちが調査の足しになるかと持ち帰った当時の日記と思しき冊子や愛読されていたと思われる小説らしき本などを、解読班へ送る箱へ丁寧に詰め込んだ。クラッスラから出るこういった魔導書では無い、いわゆる通常の書物に使われる言語は現代のものに通ずるところはあるがなにしろ文体が古く、語彙や文法も異なる部分が多い。今では使われない用言や言い回しもあり、更には流行でもあったのか時折古代語の混じる文章を読み取るには、解読を専門とする者の手が必要だった。
まとめた箱に手早く封をしたカロジェロは後方に控えたティツィアーナに身を捩って渡すと、アレグ達を振り返り報告の場に切りをつけるように膝を叩く。
「うっし。いつものことだが、他になんぞ気になることでもあったら早目に言っといてくれよ」
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「おいこら書庫調査じゃねえだろ。気持ちはわからんでも無えが。…しかし、確かになあ。まさかダンジョンを防壁代わりにしたってわけでも無えだろうし」
そんなことであれば入出国をしなければならない住民には迷惑なこと甚だしい。よしんば転送陣を使うにしてもオリンドの描いた地図の内容からするに、城下町区域の住人がすんなりと出入りできる陣も無かったはずだとカロジェロは記憶を探り首を傾げる。
いったいどのように運営されていたのか疑問は深まるばかりだ。
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さておきわからないものを延々と考えていても仕方ない。次いで他の面々の顔を順ぐり眺めて言っておきたいことは無いかと促すと、意外なことにオリンドがもじもじと半分ほど手を挙げた。
「う、…あの、ネタバレしてもいいなら、俺も不思議に思ってることがいくつかあって…」
ネタバレと言うからにはつまり魔物のことなのだが。実のところオリンドには七十九階層の壁を開けたあの日から気にしている階層があった。そこが近付いてくるたび、言っておいた方が良いのではないかと悶々とした焦りが強くなってきていたところだ。だが、先にアレグから内緒にしてくれと頼まれたこともあり、ずっと怖気付いていた。
もしも、口にして興を削ぎ、パーティから叩き出されてしまったら。
相手の機嫌を損ねればどんな目に遭わされるか知れないと、幼馴染のみならず血気盛んな荒くれ者にも散々刻み込まれた傷ゆえに、自己嫌悪を伴う不安に苛まれてもいた。
だが、そんなものは今日、当のアレグたちが吹き飛ばしてくれた。腹を決めたオリンドに全員の暖かな眼差しが集まる。なんだかものすごい気恥ずかしさを感じて少しだけ肩を竦めた彼は視線を忙しなく彷徨わせて言葉を選んだ。
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一度深く謝罪した身である。百階層へ出る転送陣の隠し扉を開ける手順がわからずに斬り開けたことはすでに悪びれず、アレグもあの景色はすごいと乗っかった。
「うん。あそこから下はみんな森とか川とかあるし、それに天井に応接室の窓の外と同じ魔法がかかってるみたい。…ええと、それで、俺、その百階層に出てきた魔物が不思議で…」
頷いたオリンドは軽い説明を交えて話を続けた。
「と、言いますと?」
「うん。ちょっと前にイドリックが、サイクロプスみたいな大型の魔物は出ないだろうって、言ってたけど…」
「おいおい、まさか出るのか!?」
まさかだろ。心中でまさかを重ねてイドリックはオリンドを凝視した。いや、彼だけではない、誰もが瞠目して見詰める。
「はわっ!ち、ちが…!えっと、そうじゃなくて、…サイクロプスは、居ないんだけど、大きいの、…大きめ?…の、やつが、階層の奥の方…すごく天井が高くなってるとこを、飛んでるんだ。うんん、なんて説明したらいいか…、大型の魔物が無理ってことは、もしかして大きめの飛ぶやつも、すごく広い場所が必要なんじゃないのかと思って。ええと、…そう、ケスネさんが伝書鳥使ってるの、みんなも使ってた鳥だなあと思って、じろじろ見ちゃってたら、フェリが色々と教えてくれたんだけど、その時に、育てるのも躾けるのも大変だし、広い土地も必要って言ってたのが引っかかって…。じゃあ、あんな馬みたいにでかいのが飛ぶなら、もっと広くないとだめなんじゃないか?と思っ…あれ?」
何度目だろうか、話している途中で気付けば周囲が凍り付いたように静まり返っているという経験は。
それでなくとも今回は言っておいた方が良いのではないかと感じていた案件だ。重大な何かが潜んでいたのかもしれないと勘付いたオリンドは、おずおずとエウフェリオを見た。
「…リンド。残り魔力も少ないところ申し訳ないですが、今から探査をお願いしても?」
「えっ?あ、うん。たぶん足りるし、全然大丈夫」
心なし緊張の面持ちをしたエウフェリオの提案に、やはり事態は重いのだと勘付いて頷く。
「ああ。そうか。見て描いてもらうのか。確かにそれが一番だ」
と、多少重苦しいような複雑な表情のイドリックも顎を撫でつつ肯定した。
「マジかー。想像の通りなら俺はめっちゃくそ楽しみだけど」
いそいそと天眼馬の鞄から道具を取り出したオリンドが描き出し始めたのを横目に、アレグはそわそわと身を縦に揺すり、今すぐにでも潜り直しに行きそうな様子でクラッスラの方角を見た。
「あたしはちょっとばかりキツイわね…。がっつり防御して支援オンリーに回らせてもらうわあ」
百階層と言えば自分たちの調査階層だ。それまでに用意しなければならないものが俄然増えたとウェンシェスランは信頼のおける店をいくつか思い浮かべ、必要経費はいかほどになるか勘定を始める。
「…悪いが少し席を外す。おまえら、ここに居ろよ」
おそらくオリンドの描いた地図を取りに行くつもりだろう、執務机の鍵付き引き出しからなにやら小ぶりの箱を取り出して胸元に仕舞い込んだカロジェロは足早に何処かへ向かった。
「できたっ…!」
カロジェロが執務室を出てからしばらくの後、ぶはぁ、と、満足と疲れの入り混じった溜め息を大きく吐き出したオリンドは紙をローテーブルに出した。動き回る相手を描き写すのには骨が折れたらしく、過集中のあまり少しばかり肩で息をしている。
「うお…!っ、間違い無いな。こりゃ、飛竜だ」
一生懸命を絵に描いたような線で描かれた絵は、しかしさすが見ているものをなぞっているだけに、きちんとその特徴が現れていた。馬と蜥蜴の間の子じみた体に鷲に似た足を生やし、蛇のような尾と蝙蝠のような羽を持った魔物だ。見た途端にイドリックは断定し、少々厄介だと目を細め指先で顎を軽く扱く。
厄介と言いながらどこか楽しげな表情をしていると思いつつ、オリンドはこれがあのAランクがパーティを組んでも手こずるという飛竜かあ、と自分の描いた絵をしげしげと眺めてから、飛竜!?と口の中で叫び、腰掛けたソファの上で腰を抜かした。同じ飛ぶ竜でもケスネの使用した飛竜便、王宮専用の郵便急使に使役される亜竜種とは訳が違う。Sランクの上位に位置する魔物だ。
「うああーっ!マジじゃん!わいっゔぁーんっ!じゃん!うぐああ、俺なんであん時ちゃんと奥まで行かなかったんだよお!」
「お黙んなさい暴れん坊。これはもう調査団に百から向こうは無理ね」
「そうですね。…しかし、なるほど。リンドの疑問も頷けます。地下ダンジョンに飛竜とは、いったいどのように生息していたものやら…」
エウフェリオが考え込んで呟き、それにオリンドが何事か答えかけたところで扉がノックされた。隠遁魔法の使われた部屋は室内から入室を促したところで声が届かない。そのために近くに座っていたアレグが飛んでいって扉を開けた。
「いいタイミングだカロン!やっぱワイゔぁ…んぶ!」
「待てこら!叫ぶな!閉めてからだ!」
廊下の先にゃ職員がいるんだぞ。と、慌ててアレグの口を塞ぎ室内へ押し込んでから後ろ手に扉を閉めたカロジェロは、念のために鍵をかけてから塞いでいた手を離した。
「ぷはっ!悪い!…飛竜!やっぱ飛竜だった!」
「おう。獲物見つけた猫みたいな顔しやがって。瞳孔開いてんじゃねえか。…しかし、そうか。やっぱ飛竜か」
地図を手にしたカロジェロは、ローテーブルを回り込んで覗き込んだオリンドの描いた絵に、こいつは厄介だと渋面を向ける。
「百階層だったな。…と、こいつだな。どの辺に居るって?」
飛竜の絵の隣に百階層の地図を並べたカロジェロに問われ、オリンドは階層の奥を指差した。
「この辺り。ここから天井が一気に高くなって、奥の崖の天井すれすれに亀裂がある」
「亀裂、ですか…?」
わざわざ地形を口にするからには何かあるのだろう。エウフェリオが聞くとオリンドは頷いた。
「うん。飛んでない時はここに集まってるみたい」
「へえ。そんなところ巣にしてるのね。水場とか木陰のほうが便利でしょうに…」
想像が追いつかないが森だの川だのがあるなら天敵も少ない飛竜のこと、暮らしやすい場所に巣を設ければ良いのにとウェンシェスランが言うと、オリンドは首を横に振った。
「ううん。巣じゃない。…んー、休憩所、かな。この階層に住んでるわけじゃないはずだから」
「…おう?…そりゃまた、どういうことだ?」
ここに居るのに住んでいないとは異なことを言う。イドリックが首を傾げるとオリンドも首を傾げた。
「え、と。そこが一番、不思議に思ってるところなんだけど」
眉を寄せ、しかしこれでやっと核心が言えると妙な顔をするオリンドに、どういうことだろうと全員の視線が集中する。
そうして固唾を飲んで見守る中、彼が放ったのは想像を絶する一言だった。
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