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58『五ヶ月ぶりの南千住』

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はるか ワケあり転校生の7カ月

58『五ヶ月ぶりの南千住』




 五ヶ月ぶりの南千住図書館。

 高安の図書館にもなじんだけど、ここの図書館は特別だ。
 五歳で越してきてから、十二年間。何百冊の本を借りただろう。休日はたいていこの図書館。たまにお父さんが荒川に紙ヒコ-キを飛ばすのについて行くこともあったけど、まあ、どっちもどっち。あとはガキンチョのころ遊んだスサノオ神社(字が難しくて、いまだに書けません)くらいのもの。

「高安の図書館よりすごいなあ」
 先生も嬉しそうだ。
「じゃあ、行ってきます。お昼までには戻るつもりですけど、十二時まわるようなら、スマホに電話してください」
「はるかの番号知らんで」
 もう、この原始人!
「はい、これです」

 メモに書いて渡すと、いそいそと(我が家)を目指した。


 図書館から四つ角を曲がると(我が家)だ。
 
 角を曲がるたびに懐かしさがこみ上げてくる。
「よう、はるかじゃねえか!?」
 四つ目の角を曲がってすぐ、ご近所の仲鉄工のおじさんが声をかけてきた。
「あいかわらず四人でやってるんですか?」
「ハハ、今は一人で二人分働いて四人前だけどよ。ま、心意気だよ。心意気」
 やっぱ、厳しいんだ……。
「まどかちゃん、元気ですか?」
 つい、幼なじみのことを聞いてしまう。まどかゃんのアドレスは、悩みに悩んで、引っ越しの朝、新幹線の中で消去した。四つ目の角を曲がって、わたしはほとんど南千住の子に戻っていた。
「あ、さっきまでいたんだけどよ、部活とかで出てちまったとこだよ。分かってたら、言っといたのによ」
「ううんいいの、半分出来心で寄っちゃったから」
 半分は残念で、半分ホッとした。ここで幼なじみに会ったら、ここまで突っ張っていたものが一度に崩れてしまう。
「ところではるか、おまえんちだけどよ……」
 そこで、おじさんの肩越しにお父さんの姿が見えた。
「お父さーん!」
「はるか……」

「「「あ……」」」

 三人同時に声をあげていた。

 一瞬、時間が止まったような気がした……?

 それは刹那のことで、次の瞬間にはお父さんに抱きついていた。
 お父さんが、手にした段ボール箱を落とした。

 え……インクの匂いがしない。
 
 輪転機の音がしない。
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