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地球へ

第188話 それらしい雰囲気をかもしだそう

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 人類が宇宙へと勢力圏を延ばしたこの時代でも、人類の争いは絶えなかった。
 物質の瞬間移動の技術はあったが、生命の瞬間移動の技術は無かった。
 しかし、アバター体に魂を入れる事で、生命の瞬間移動が可能となった。
 これが脱出用システムに応用され、誰も死なない戦争が可能となる。
 したら、大きな戦争は激減してしまった。
 逆にちょっとした小競り合いな、戦争とも言えない争い事は激増する。
 死なない戦争と言う言葉は、どこかゲーム感覚を助長させていた。
 そんな戦争に革命をもたらした、この技術の発想。
 それは、はるか古代の古文書に書かれた内容が、ヒントになった。



「ちょっと、それはどう言う事なの。」
 マインは問いつめる。
 前回アイが言った、なんか時は来た様な発言。
 それは、何を意味するのだろうか。

「ああ、マインとマイ。
 おまえ達ふたりしかこの区画にいないのも、そう言う事なのだろうな。」
 ミサはマインに答えると言うより、前回のアイの台詞に同調する。
「何よそれ。私たちふたりに、何をさせたいの。」
 とマインは震える。
 ミサとマインがシリアス展開に突入する横で、マイは未だに前回のノリを引きずっている。

 マイは、ミサに尋ねる。
「それよりも、ミサ。」
「なんだ。」
「僕の変調って、どゆ事?」
「は?」
 ミサは思わずばかツラをさらす。
 ミサは前回、マイの変調と言った。
 しかし当の本人に、その自覚はなかった。
「おまえ、自覚は無いのか、あれだけ派手にやっといて。」
 とミサはマイに聞き返す。
「派手?」
 と言ってマイは首をかしげる。

 そんなマイを見て、ミサは早まった事をしたのかと、少し不安になる。
「マイン、おまえはどうなんだ。」
「い、言いたくないわ。」
 ミサは質問の矛先をマインに向ける。
 マインは顔をそむけて、明確には答えなかった。

 マインが前回言われた事は、何者かからの精神干渉。
 それに心当たりはあった。
 繰り返し見せられた、マイが男だという悪夢が、それだろう。
 それをマインは、口にしたくはなかった。

 マインの態度から、マインには当てはまると、ミサは判断する。
 しかし、マイに当てはまらないのは、何故だろう?

「ん、うん。」
 ここでアイが、軽く咳払い。
「マイには、自覚がないのでしょう。」
「自覚がない?あれだけ派手にやっておいて?」
 アイに説明されても、ミサには受け入れられなかった。
 そんなミサの疑念を払拭するため、アイはマイに尋ねる。

「マイ、先ほどのリムの教え子達との戦闘。
 マイは最後に、何か呼び出そうとしてたのを、覚えてますか。」
「え、呼び出す?
 僕、そんな事してたの?」
 アイの質問に、マイは答えられなかった。
「そう。なら、あの戦闘が最後、どうなったのかは、覚えてる?」
 アイは質問を変える。
「それが、よく覚えてないんだ。」
 マイはしょげる。
「なんか、すごい哀しい気持ちになって、そこからは、よく覚えてない。」

「それは大変だったわね、マイ。」
 アイの慰めの言葉に、マイはうなずく。
「あの時も、同じ物を呼び出したんだけど、覚えてない?」
「あの時?」
 アイのその言葉に、マイは顔をあげる。
「ブルードラゴンに、止めを刺した時よ。」
「僕、ミズキを殺してない!」
 アイの言葉に、マイは即座に反論。

 北部戦線の超高次元空間での、神武七龍神のブルードラゴンとの戦闘。
 ブルードラゴンが少女に化身した姿の名が、ミズキである。

「そうね、殺してはなかったわね。」
 アイは自分の発言を訂正する。
「あ、でも。」
 マイは何かを思い出す。
「こう、何かを呼んだような。」
 マイは左手を左目辺りに持っていき、目をつぶり、右手を上にかかげる。
 その一瞬、マイの身体から青白い光りがかすかに漏れる。
 その光りをアイ、マイン、ミサ、アイツウ。
 この場に居る全員が目撃する。

「あれ、なんだったんだろうね。」
 マイは今とったポーズを崩す。
「え、どうしたの、みんな。」
 マイが目を開けると、この場に居る全員が、驚いた表情でマイを見ていた。

「ふふ。」
 アイは目を閉じてうつむく。
「は。」
 アイの声が耳に入り。ミサは我にかえる。
「なるほど、そう言う事か。
 こりゃあ、タチが悪いぜ。」
 ミサの表情はゆがむ。
「ちょ、どう言う事よ。ちゃんと説明しなさいよ。」
 マインには、意味が分からない。
 こちらは説明してほしいのに、なんか自分達だけで納得している。
 普通に説明してほしい所だ。

「ああ、悪い。
 要するに、私たちはフライングしちまったって事だ。」
 ミサはマインの気持ちに気づき、説明する。
 しかし、この説明では分かりづらかった。
「どう言う事?
 まだその時ではなかった、って事?」
「まあ、そう言う事だな。」
 マインの思った事は、間違いではなかった。
「でも、条件は満たした。」
 とアイは口をはさむ。

「いやいや、満たしてないだろ。」
 とミサは反論する。
「この区画にいるのが、マイとマインだけ。
 今しか機会はない。」
「く、そう言う事か。」
 アイの発言に、ミサも理解する。
「この機をのがしたら、もうチャンスは無いのか。
 タチが悪いにも、程があるぜ。」

「ねえ、私たちにも説明してくれない。
 自分達だけで理解してないでさ。」
 ひとり納得するミサに、マインは問う。
 マインはマイの隣りに移動していた。

「これから、あなた達を、ある場所に案内します。」
 ミサの代わりに、アイが答える。
 ミサは怒りの感情がわきあがり、うまく言葉にする事が出来なかった。
「アイツウ、ナコ、後は頼みます。」
 アイは、アイツウ、ナコの引き篭もるテントに視線を送りながら、言葉をかける。

「ですが、よろしいのですか、ジョーの許可なしに区画外に移動して。」
 ここでの規則を、アイツウは述べる。
「大丈夫ですよ。これが私たちの使命ですから。」
「そうですか。」
 アイに使命と言われても、アイツウにはよく分からない。
 アイツウはアイのコピー体として作られたが、アイツウにはその様な使命など、存在しない。

 そんな不安げなアイツウに、アイは付け足す。
「もし、ジョーがこの部屋に来たら、伝えて下さい。
 アイとミサは、使命をはたします、と。」
「もし、この部屋に来なかったら?」
 とアイツウは聞き返す。
「その時は、報告は無縁です。」
 アイは笑顔で答える。
「分かりましたわ。」
 と答えるアイツウの表情がくもる。
「ここから先は、あなた方だけの領域なのですね。
 なんか、悔しいです。」
 アイツウは今の気持ちを吐露する。

「いいえ、後を託せるのが、あなた達で、本当によかった。」
 アイはそう言って、アイツウをはげます。
「あなた達、ね。」
 テントの中に引き篭もるナコがつぶやくが、このつぶやきは誰も拾えない。

「それでは、マイ、マイン、覚悟はよろしいかしら。」
 アイはマイとマインに視線を送り、ふたりに尋ねる。
 マイとマインはお互いを見合わせ、うなずく。
「なんだか分からないけど、僕は平気。」
「その様な覚悟、この時代に召喚された時から、とうに出来ている。」

「それでは、参りましょう。」
 アイを先頭に、マイとマインが部屋を出る。
「ち、私はそんなに、乗り気じゃないんだけどな。」
 ミサもぼやきながら、部屋を出る。

 残されたアイツウの横に、テントから出てきたナコが立つ。
「あなた達で本当によかった、か。」
 ナコはアイの言った言葉をつぶやく。
「あれ、本気で言ったのかね。」
 ナコの問いに、アイツウは答えない。
「アイツウ、あなたはイレギュラーな存在、本来ここには居ない。」
 アイツウは聞き流す。
「ここに居るのが、私とユウ、ミイでも、そう言ってくれたのかしら。」
 アイツウは聞き流す。
「もしかしたら、誰も居なかったのかもしれない。
 その日とやらには。」
 ナコの疑問に、答える者は居ない。

「そんなの、信じるしかないじゃないですか。
 アイの事を。」
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