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異次元からの侵略者

第161話 協力しあっても、一線は越えちゃ駄目

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 北部戦線のはるか高次元空間に於いて、マイとユアとメドーラの三人が、神武七龍神のブルードラゴンと戦っている頃、北部戦線でも激しい戦闘が繰り広げられていた。
 マザーコンピュータミイが、ケイの意識と一体化したブルードラゴンの意のままに、その攻撃をサポートする。
 これは、マザーコンピュータと化したミイが、この次元空間におけるブルードラゴンを、ケイと同一視してるからだ。
 実際、ブルードラゴンはケイの存在を依代に使ったが、ケイとブルードラゴンの意思は、別にある。
 しかしこの次元空間で活動した期間が長かったためか、ミイはこのブルードラゴンを、ケイと認識している。
 そしてブルードラゴンもまた、ケイの意識に引っ張られる形で、ケイと同一化している。
 そう、数話前に登場したミズキは、この次元空間には関与していなかった。


 マザーコンピュータミイのあちこちの回路から、煙が上がる。
「やはり、すでに限界のようね。」
 ケイと同じ姿をした、ケイネシアがつぶやく。
 このケイネシアは、マザーコンピュータ化したミイが、自身の外部装置として作ったものだ。
 ミイ自身の姿で作るべきなのだろうが、ミイはすでに自分の姿を忘れていた。
 それほどの、長い年月が経っていた。

「でも、マイ達が戻ってくるまで、この場を死守しないと。」
 フォログラフのアイが、悲痛に顔をゆがめる。
 この場には、マザーコンピュータミイとケイネシアの他に、アイとユウとアイツウがいた。
 アイとユウとアイツウは、フォログラフである。
 元々こちらの次元空間の様子を探るため、本体である三人が、投影して放ったものである。
 しかし、パートナーであるマイとユアとメドーラのためには、こちらのケイネシアに協力しなければ、ならなかった。

 だから、本体との通信を遮断した。
 パートナーのためとはいえ、自軍を攻撃する事になるからだ。
 本体の三人も、その事には、なんとなく気がついていた。

「アイツウ、そこの整備をお願い!」
「分かりました。」
 アイの指示で、アイツウが動く。

 ボン!
「きゃっ。」
 アイツウのすぐそばで、マザーコンピュータミイは煙を上げる。
「何やってるのよ、ユウ。
 アイツウをしっかりサポートしてよ!」
 アイは消火器で別の所を消化しているユウに、少しきつくあたる。
「ごめん、気が回らなかった!」
 ユウはアイツウのそばを消化する。

 この間、アイは思考回路をいじくり回してた。
 伝達させる回路が壊れてるため、通過する回路を応急処置していた。
 最終的に、ケイネシアがミイの意思を具現化している。
 戦闘機の具現化などだ。

 ユウとアイツウは、パートナーに即して作られた。
 ユウはユアのパートナーとして。
 アイツウはメドーラのパートナーとして。
 つまり、パートナーが陥いるであろうピンチには、対応出来る。
 しかし、パートナーとは関係無い事には、無力だった。

 てきぱきと回路を操作するアイを、消火器を片手に持つユウが見つめる。
「アイ、おまえは一体、何者なんだ?」
 ユウは不思議に思う。
 専門外であるはずなのに、なぜか普通に対処法を心得ている。
 これがマイのパートナーとして、必要な事とは、到底思えない。

「ちょっと、駄目よこんなの!」
 アイはマザーコンピュータミイの思考回路の流れを止める。
「ここで一気に殲滅させるのが、得策だと思うが。」
 今流れてきた思考は、巨大戦艦の具現化だった。
 具現化と同時に、主砲を発射して、一気に殲滅させる。
 ケイネシアにとっては、今がそのチャンスと見た。

「駄目よ。」
 特定の思考回路を鷲掴みにするアイの右手から、煙が上がる。
「味方を邪魔する事には協力出来ても、味方を殺す事には、協力出来ないわ。」
 アイの右手から、宙間物質アークスピリットが失われていく。
 このアークスピリットにより、フォログラフの実体化は可能だった。

「分かったわ。他のにするわ。」
 ここで、ケイネシアが折れる。
 この戦争を終わらせるため、マイ達三人は超高次元空間に向かった。
 とは言え、こちらの勝利で終わらせられるなら、ケイネシアはそうしたかった。
 しかし、アイ達三人の協力が無ければ、ここまで持ち堪えられなかったのも事実。
 ケイネシアは、新しい戦術のイメージを流す。

「ちょ、ちょっと!これも許可出来ないわ!」
 新しいイメージも、アイは否定する。
 しかし宙間物質アークスピリットを失ったアイには、止める事が出来なかった。
 それは、小型戦艦の大量具現化だった。
 この物量の前に、味方の艦隊は全滅するかもしれない。

「いいや。」
 不安と憎しみの入り混じるアイ達三人を見て、ケイネシアは首をふる。
「リムが来ている。
 これくらいじゃないと、止められない。」
 ケイネシアも真剣に答える。

「大丈夫なのか、リムの奴。」
 ユウは近場のアイツウと顔を見合わせる。
 アイツウは首を振る。
 そんな事自分に聞かれても、答える為の要素を持っていない。

「そうですか、リムも覚悟を決めましたね。」
 リムがアバター体を手術して、マイを助けに来てくれた事を、アイは知っている。
 そして、すでに戦える身体ではない事も。
「ナコは、どう思うかしらね。
 リムを失って。」
 アイは、マザーコンピュータミイを見上げてつぶやく。
 ナコは、リムのパートナーであるサポートAIだ。
 ミイは、ケイと言うパートナーを失っている。
 その思いを、ナコにもさせようと言うのか。

「いや、これで丁度いいのかもしれんぞ。
 リムが乗る戦艦が、次々にこっちの戦艦を落としてやがる。
 これ、時間稼ぎにもならんかも、ん?」
 外の戦場の様子が分かるのは、ケイネシアだけだった。
「なるほど、リムも体調悪そうだな。」
 それは丁度、リムがその艦の操縦を、この戦艦の乗組員に託した時だった。
 ケイネシアの表情も残念そうな表情から、嬉しそうな表情に変わる。

 マイ達三人が、この次元空間に戻ってくるまで、この場を護る。
 そのために行動しているのだが、敵を殲滅出来るなら、それに越した事はない。
 ケイネシアは、そう考えている。

 ユウとアイツウは、顔を見合わせる。
 そしてうなずき合う。
 ふたりは、この場に自分達がいても、どうにもならないと、悟った。
 ならば、自分達のアークスピリットを、アイに託すべき。
 ケイネシアの暴走を止めるために。

「アイ、受け取ってください、私達のアークスピリットを。」
「ぐぎゃあ!」
 アイツウがアイに話しかけると同時に、ユウが突然悲鳴を上げる。
 そして、ユウの姿が消える。

「な、何が起こったの?」
「さあ?」
 アイツウはアイに問いかけるが、アイにもユウの消失の理由が分からない。
「やられたんだよ、ユアが。」
 しかし、ケイネシアにはその理由が分かった。
 戦闘機から独立して動くフォログラフとはいえ、その投影元が無くなれば、いかに独立した存在とは言え、その姿を維持する事が出来ない。

「そんな。」
 アイの表情にも、絶望の色が浮かぶ。
 そう、三人そろってないと、マイ達三人は、次元を超越する事が出来ない。
 ユアの死により、マイもメドーラも、帰還の術を失ったのだ。

「ははは。」
 いきなりケイネシアは笑い出す。
「マイが居てくれたらと思ってたが、駄目だったじゃないか!」
 マザーコンピュータミイを見上げるケイネシアの瞳から、涙がこぼれる。
「さて、お前達は、これからどうする?」
 涙がこぼれる瞳で、ケイネシアはアイに視線を送る。
「ここを死守する理由が無くなったんだが。」

 そう、アイもアイツウも、ここでケイネシアに協力する理由が無くなった。
「そんな。」
 アイツウは途方にくれる。
 しかし、アイは違う。
「もう少し、付き合いましょう。
 ここの住人が、全て避難するまで。」

 この衛星基地ソゴムには、このソゴムと命運を共にしようとする住人達がいた。
 それを、もうひとりのケイネシアが、説得して回ってた。
「それなら、とっくに避難し終わってるぜ。」
 と、こちらのケイネシアが答える。

「そう。ならば私達も、やる事は終わったわね。」
 アイは眼を閉じて、動きを止める。
「ち。」
 ケイネシアは軽く舌打ちする。
 ぶっちゃけ、アイのサポートがあってこその、善戦だった。
 元々コアブレイカーをぶち込まれて、ソゴムは破壊させる予定だった。
 とは言え、アイのサポートで勝ちが見えるなら、このままアイを煽てて戦いたかった。

 マザーコンピュータミイも、あちこちから煙を上げる。
 すでにミイは、限界を超えていた。
 ケイネシアが悔しそうにマザーコンピュータミイを見上げた時、北部戦線は青い光に包まれる。
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