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異次元からの侵略者

第160話 主役がいない所での会話劇

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 北部戦線での激戦が、また再開された。
 これが最後の戦いになる事を、両陣営とも悟っていた。
 お互い、この戦線に投入出来る戦力が尽きかけているからだ。
 超高次元空間でマイ達が神武七龍神のブルードラゴンを説得している頃、北部戦線では激しい戦闘が始まっていた。
 マイを救って撃墜させそうになったリムであったが、リムは北部戦線へ向かう戦艦に救われる。
 新米乗組員ばかりのこの戦艦で、リムは艦長代理として、戦闘アドバイスをする事になる。
 限界をとっくに越えたその身体で、自分達を指導してくれるリムの姿に、艦長以下一同、自信の無さを吹っ切って、奮起する。
 そんな艦長達に、リムは後の事を任せるのであった。


「立派でしたわよ、リム。」
 ブリッジの外の廊下で、壁にもたれてしゃがみ込むリムに、ナコが話しかける。
 ナコは、リムのパートナーであるサポートAI。
 今は基地である宇宙ステーションに居て、リムが額に巻いたはちまきのチップを通じて、リムに話しかけている。
「はあ、はあ、慣れない事は、やるもんじゃないわね。」
 リムも額のチップを通して、ナコに答える。

「あなた、人に教えるのに、むいてるわね。」
「えー、冗談。」
 ナコの言葉に、リムは答える。
 と言っても、額のチップを通じて会話出来るので、リムは言葉を発していない。
 心の中で言葉にしているだけだ。

「私は、好き勝手に暴れたいだけよ。」
「そのためには、周りもしっかりしてくれなくちゃね。」
「ほんと、それよ。
 ここの子たちも、危なっかしくて、見てられないわ。」
「でもリムのおかげで、ひと皮むけたみたいね。」
「だといいんだけど。」

 ズガーン!
 ここで、戦艦が大きく揺れる。
 敵の攻撃を受けたらしい。

 リムはうっすらと瞳を開ける。
「まだ、私の指導が必要かな。」
「大丈夫よ。」
 ナコは現状をリムに伝える。
「直撃は、うまく回避してるわ。
 周りの艦との連携に気を取られて、本艦への注意が疎かになったみたいね。」
「そう。なら、いい経験になるかな。」
 リムは再び瞳を閉じる。

「ねえ、まだマイ達とは連絡とれないの?」
 ふと、リムはナコに尋ねる。
「残念ながら、未だに連絡はとれません。」
 衛星基地ソゴムの中心付近から、次元の壁を越えたマイとユアとメドーラの三人。
 その次元の向こう側は、通信不能な領域だった。
 そこにマイ達の戦闘機が突っ込んだ事も、リムは知っている。
「三人とも無事だといいんだけど。」
「早くしないと、コアブレイカーの餌食ですわね。」
 マイ達を心配するリムに比べ、ナコはどこか冷たい。
「あなた、まだ根に持ってるの?」
 ナコは、マイ達を恨んでいる。
 この三人が居てくれたなら、リムも重傷を負わなかったかもしれない。

 リムは先の戦闘で、右半身が動かなくなるほどの重傷を負った。
 アバターの改良手術で、なんとか動けるようにはなった。
 しかし、今のリムの右目は、ほとんど視力を失っていた。
 マイの救出、そして北部戦線での戦闘。
 この連戦の疲労が、確実にリムの身体をむしばんでいた。
 右手の感覚も、どこか自分の手ではない感じがする。

「いいえ。
 マイがいても、かえって足手まといだったかもしれません。」
 ナコは以前、北部戦線に参戦しなかったマイを、殴った事がある。
 マイ達がいてくれたら、リムも重傷を負う事は無かったかもしれない。
 と思う反面、マイが居たらいたで、マイを庇ってリムがこれまた、負傷したかもしれない。
 マイを殴った後、ナコはそう思う様になっていた。

「あはは、そうかもしれないね。」
 リムはナコに同意しながら、右手をにぎにぎしてみる。
 リムには、その右手の感覚が無かった。
 この事は、サポートAIのナコにも伝わる。

「リム、戦闘機まで戻れますか?
 その場所では、脱出用ポッドは作動しません。」
 リムの身体を心配するナコ。
 しかしナコのこの言葉は、この戦艦が沈む可能性が高い事を、暗に示唆している。
 リムは首をふる。
「あの子達を、置いてはいけないわ。」

 この艦に乗っている乗組員達。
 彼らには脱出用システムは非対応だった。
 彼らは過去の時代からの召喚者ではなく、この時代の人間だった。
 脱出用システムを使うには、魂をアバター体に移す必要があった。
 そして魂をアバター体に移した時、元の身体の保管方法が無かった。
 これが、過去の時代から魂を召喚する理由だった。
 その頃に比べて、今は技術も進歩した。
 この時代の人間でも、七日以内なら、魂の抜けた身体の保管が可能になっていた。
 と言っても、その保管期間には、個人差があった。
 三日の人もいれば、九日の人もいた。
 つまり、この時代の人間を脱出用システムに対応させるのは、まだまだ困難だった。
 この艦の乗組員達を、脱出用システムに対応させるだけの時間的余裕は、無かったのだ。

「それに、今の私が脱出用ポッドから帰還出来る確率は、どれくらいあるの?」
「それは、」
 リムの質問に、ナコは答えられなかった。
「この艦が沈む確率よりも、低いんじゃない?」
「ふー、あなたには、お手上げね。」
 ナコにとって、リムに知られたくない事はたくさんある。
 しかしリムはめざとく、すぐにそれに気がついてしまう。
 パートナーのサポートAIとしては、やりにくいモノがある。
 しかしそれは、頼もしい事でもあった。
 それだけ説明の手間も、省けるのだから。

「私も少しは、悪あがきするべきなんだろうけどね。」
 と言ってリムはニヤける。
 それはほぼ不可能である事に、リムは気づいている。
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