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異次元からの侵略者

第122話 エレベーターの前で戸惑う三人。

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 北部戦線の衛星基地ソゴムから、異次元空間へと突入したマイとユアとメドーラの三人。
 三人の突入した先には、衛星基地ソゴムと同じ景色が広がっていた。
 この景色に驚く三人は、情報収集のため、手近な第五作戦本部を目指す。
 なんと、次元の扉を越えた先も、ソゴム内部と同じだった。
 衛星基地の中心核の防衛のために存在する、第五作戦本部。
 三人は、そこで待ち受ける無人の甲冑兵器をぶっ壊す。



 メドーラは無茶なソウルブレイドの使い方をしたため、精神的に疲れはてている。
 マイは無茶な強化アシストパーツの使い方をしたため、肉体的に疲れはてている。
 今、まともに動けるのは、ユアだけだった。
 そう、今敵に遭遇したら、ひとたまりもない。
 ユアは、辺りに気を配る。

 霊源甲冑のあった玄関広場の奥のこの場所は、普通の通路だった。
 この第五作戦本部は、立ち並ぶビル群にまぎれている。
 ビル建物の容積的に、玄関広場の奥に、そんなにスペースは取れない。
 霊源甲冑のあった玄関広場を抜けたその先は、ほんの三メートルくらいで壁にぶちあたる。
 そして左右に通路は伸びていて、その突き当たりを玄関広場側に曲がれば、階段があった。
 つまり、ユア達の居るこの場所は、左右から挟み討ちにあう危険性があった。

 だが、誰も来る気配がない。
 霊源甲冑をぶっ壊すのに、激しい爆音をおっ立てた。
 ユア達の侵入は、すでにバレているはず。
 この時代、監視カメラなんてものは存在しない。
 各種感知センサーが常備されている。
 そのセンサーの存在は、当然侵入者には気づかれない。

「長居は無用ね。」
 誰も来ないとはいえ、いつまでもこの場に留まる訳にもいかない。
「ふたりとも、動ける?」
 ユアはマイとメドーラに視線を送る。

 目を閉じて呼吸を整えて、右手をにぎにぎしていたマイは、ユアの言葉に目を開くと、派手に息を吐き捨てる。
「はあー。」
 そしてその場で屈伸してから、ユアに応える。
「もう大丈夫。いつでも行けるよ。」
 そう応えるマイだったが、いつもに比べると、覇気がないのは丸分かりだった。
 マイは、気づかれまいと振る舞うが、それが逆効果だった。

「私も、いつでも、いけますわ。」
 メドーラもマイ同様、呼吸を整えて精神力を回復させている。
 目はまだうつろだが、それでもしっかりとユアの事をとらえている。

 精神的な限界を越えたメドーラと、肉体的な限界を越えたマイ。
 どちらがヤバいかと言えば、マイの方だろう。
 オーバーヒートを起こした身体の把握は、本人でも難しい。
 精神力が尽きたとしても、健全な身体なら、健全な精神は宿る。

 ユアはソウルブレイドで拳銃を創り出し、メドーラに渡す。
 ソウルブレイドで作った銃ならば、引き金を引けば弾は出る。
 それは、ソウルブレイドを形作る精神力が、そうさせている。
 つまり今のメドーラには、扱えない代物だ。

 だがユアの創り出した銃は、部品のひとつひとつが、本物の銃と同じだった。
 つまり弾を込めれば、精神力を使わずに撃つ事が出来る。
「弾は六発。補充は出来ないから、撃つ時は慎重にね。」
 ユアの言葉に、メドーラはうなずく。
 しゃべるだけの精神力も、今のメドーラにはない。

「行きますわよ、マイお姉さま。」
 マイに視線を向ける、メドーラ。
 言葉は発していないが、マイには確かに伝わった。

 メドーラはしっかりと、マイの手をにぎる。
 ユアから手渡された拳銃は、マイを護るためのもの。
 メドーラは、そう理解している。
 立ち向かってくる敵は、ユアお姉さまが倒してくれる。
 だけど、ユアお姉さまが気づかない所から現れた敵は、メドーラ自身が倒さなければならない。

 ユアを先頭に、三人は通路を右に進む。
 そして突き当たりの右側に、階段とエレベーターがあった。
 上へ向かうか、下へ向かうか。
 マイ達三人は、顔を見合わせる。

 と同時に、階段のシャッターがしまる。
 そしてエレベーターの扉が開く。

 ユアはソウルブレイドを展開した剣を構え、メドーラはマイの前に立って拳銃を構える。
 だが、エレベーターは無人だった。

 ユアは早々に構えを解く。
「どうやら、乗れって事らしいね。」
 ユアはこのエレベーターの意味を、理解する。
「気に入りませんですわね。」
 メドーラはつぶやく。
「ああ、気に入らないな。」
 ユアも同じ意見だ。

「とっとと私らを取り囲めばいいのに、それすらしない!」
 ユアは吐き捨てる。
 この第五作戦本部のあるビルに入るまで、沢山の視線に見られていた。
 そして霊源甲冑を派手にぶち壊した。
 それも時間をかけて。
 ユアが逆の立場なら、すでに取り囲んで攻撃してるところだ。

「もしかして、取り囲む人がいないんじゃないの?」
 ここでマイが、ユアの疑問に対するひとつの解答を示す。
「僕達の事、誰も攻撃してこないなんて、やっぱり変だよ。」

「そうかも、知れません、わね。」
 メドーラは呼吸を整えながら、マイの意見に賛同する。
「私達の、前に、現れる、のは、みんな、同じ、姿、」
「しゃべるな、メドーラ。」
 呼吸を整えながら話すメドーラを、ユアが止める。

「私達の前に現れるのは、みんなケイの姿をしている。だろ?」
 ユアは、メドーラが言いたかった事を、口にする。
 メドーラはうなずく。
「そう言えば、そうだね。」
 マイも、言われてみて初めて気がつく。

 そんなマイを無視して、ユアはメドーラの考えている事を口にする。
「私達の前に、ケイの姿で現れるという事は、考えられる事はふたつ。」
 ユアの言葉に、メドーラはうなずく。
「ひとつは、私達を惑わすため。
 もうひとつは、ケイの姿でないと、姿を見せられない。」
「え、見せられないって、どういう事?」
 このふたつ目の理由を、マイは理解出来なかった。

 ユア達三人を見ていた謎の視線は、どれも異形の姿だった。
 その姿で、ユア達の前には出てこれないと言う意味だ。

「マイ、この次元で初めて会った人について、どう思った?」
「えと、カッパだなあって。」
 ユアの問いかけに、マイは最初の公園での出来事を思い出す。
「で、そのカッパは、私達から逃げて、ユアの姿なった。」
「え、そうなの?」
 マイはその事実に、気がつかなかった。

「でも、何で?」
 マイは疑問だった。
 なぜカッパの姿ではダメなのか。
「私達だって、ここがカッパだらけだと知ってたら、カッパの変装くらい、してたでしょ。」
「あ、そっか。」
 ユアの説明に、マイも納得する。

「でも、なんでケイの姿なんだろ。」
 ここでマイには、新たな疑問がわく。

 人の姿なら、誰でもいいはず。
 それがなぜ、ケイ限定なのか?

 この会話を通じて、ユアはひとつの結論に辿り着く。
「この件、ミイが係わっているわね。」
 ミイとは、ケイのパートナーであったサポートAIである。
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