秘密の師弟関係

第一章:再会

過去の記憶②

「参りました」

師匠が来て一年が経った。彼には誰一人、一度も一本とったことがなく、練習試合後も疲れ一つ見せていなかった。

「エド、おまえはこの街で一番の強さだと言っても過言ないだろう。だが、自分より二倍も三倍も大きい相手に力で勝とうとするんじゃない。じっくり持久戦に追い込んで隙をみるんだ」
「はい、師匠」

少年はどれだけ彼の師に打ち負かされてもめげずに何度も挑戦する。素直な性格で頭もそこそこ回る子だったので、アドバイスを受ける度改善され、めきめきと上達していった。

しかしこの少年、年齢のわりには背が低く、筋肉もあまり付かない体質のようだ。この剣道場は10歳から18歳までの生徒が在籍しているが、彼が一番小柄で貧弱そうである。

「やばい、早く帰らないと」

練習後、少年は素早く胴着を脱ぎ捨て走る。そして田舎にしてはわりと大きな邸宅に入っていった。

「ただいま、エド!」
「おかえり、ミリ姉」

少年は服を脱ぎ捨て、後ろに一つにまとめた髪をほどく。そして赤いドレスにパパッと着替えた少年はもう少年の装いではなく、あどけない少女に変化する。

ミリアはエドアルドの振りをして、毎日のように剣道場に通っていた。そしてこのそっくりの双子、彼らの親以外でどちらかはっきりと区別できるものはいない。学校のクラスメイトでさえ、どちらか分からない程である。

「今日も師匠が厳しかったなー」
「そんな厳しいなら毎日毎日行かなくて良いのに」

エドアルドは呆れた顔をして返事する

「でも彼、指導が超的確なんだよ。細かいところにも気づくし、段々上達するのが分かって、悔しいけど師匠が正しいんだ、って思えるんだ」

ミリアは鏡に向かい、エドアルドがミリアの髪をほぐしていく。

「でも最近、胸もちょっと出てきてサラシまかないといけないし、身長も年下のマックスに越されちゃったんだよなー」

最近のミリアの悩みは初潮を迎え、体つきも段々と女性らしくなっていってしまっていることだ。果たしていつまで男の子で通用するのだろうか。

それからもミリアは道場に通う。ミリアが怪我をするその日までは・・・