妻がゾンビになりまして……

Mr.Six

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4-4:妻と買い物に行きまして……

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俺がタジタジしていると、花音が機転を利かせた。

「あ、これ生肉じゃないですよ、ビーフジャーキーです」

ビッ! ビーフジャーキー!?

おい、全然機転効いてないじゃん!

それ、犬の食べ物だから!

俺が抱えてるのは犬か? 犬ですか?

ゴールデンレトリバーか何かでごまかせるとでも?

「ビーフジャーキー?」

店員が首をかしげている。

え、もしかして信じようとしてる?

脳内変換の仕方を間違えてないか?

だが、ここはこのまま押し切るしかないか!

「そ、そうです。ビーフジャーキーが大好きでどうしても我慢できなかったみたいで」

このまま突き通せるか?

「と、とりあえず会計は済ましてくださいね」

いけたー!

え、この人は大丈夫か?

ありがたいけど、大丈夫なのかこの人。

俺は苦笑いをした。

「すいません、ご迷惑おかけして。花音、頼んでいいかな?」

「う、うん」

花音は急いで、カートを押してレジに向かった。

俺は美鈴を抱えたまま、イートインコーナーに誰よりも早く向かった。

俺は美鈴を椅子に座らせた。

「買って来たよ!」

「お、おぉありがとう……」

「うん……」

花音はカートを机の横に置いて、椅子に座った。

……




「「ぶっふぅ~!」」

俺と花音は大きなため息をついた。

「「づかれだぁぁ」」

机に滑り込むように2人で顔を伏せた。

「おい、花音。これが毎日続くんだぞ、連れてきたいのか?」

「ごめん、凄くしんどいわ」

美鈴は肉を食うのに必死になっている。

「ふぅ、でもママはだいぶご満悦のようですな」

俺はしばらく美鈴を見ていた。

生肉を食べてる美鈴も愛しく感じてしまうのは俺もおかしいんだろうな。

「でもさ、これはこれで新鮮じゃない?」

花音が顔を伏せながら、話しかけてきた。

「ん?」

「だってさ、こんな経験さ、今までの生活だったら絶対できなかったよ?」

花音はたまに心にグッとくることを言うよな。

「ママがゾンビになったことはもちろん嫌だけどさ。それがきっかけでこんな刺激的な毎日になるって考えたらそれはそれでいいんじゃないかな?」

「そうか? 横で生肉食ってるママを見るのが新鮮ってことね」

「いや、言い方に悪意あるでしょ」

「……ははっ」

俺は思わず笑ってしまった。

確かに、こんな経験は今じゃないと絶対にできないな。

美鈴をもとに戻すことは決めているけど、今はこの状態を楽しむ気持ちも大事なのかもしれないな。

花音が娘でよかったな。

俺1人だと多分そんな考えにはならなかっただろうし。

「急に声出さないで、キモイから」

前言撤回。

親に向かってこんな口きく娘に育つとは。

まぁ、良いか。

俺はその場で立ち上がった。

「とにかく、食材は買ったし、とりあえず今日の任務は終了だな」

花音はゆっくりと顔を上げた。

「そうだね、ママもそろそろ帰りたいと思うし、ほら見てよ」

「ん?」

「うぅ~……」

美鈴は目が細くなっている。

ご飯食べて眠くなってきているのか?

だとしたら、可愛すぎか?

俺は美鈴をおんぶして車に向かった―――





―――自宅に戻った俺たちは、眠たくなっている美鈴を寝室に移動させ、

買ってきた食材を冷蔵庫に入れていた。

「花音、いいか次は絶対に目を離すなよ?」

花音は机の上にあるお茶を飲み干す。

「大丈夫だって、次は同じミスはしないから」

本当かよ。

こんな事あんまり言いたくないけど、信用無いぞ?

「とにかく、今日の教訓は食材は常にストックすることだな」

俺は食材を冷蔵庫にしまい終わり、花音の方を振り返る。

「そうだね、じゃないとまた外出先で肉を貪るかもしれないし」

「いや、外に出さなければいいだけの話だろ!」

花音め、また美鈴を外に出すつもりだな。

「うぅ」

寝室の方からうめき声が聞こえる。

えっ?

さっき寝たばかりだろ?

寝室の扉が開き、美鈴が立ち尽くしている。

「もしかして……?」

美鈴は、口から涎を垂らしている。

俺は嫌な予感がしてきた。

美鈴は我を忘れたように、先程冷蔵庫にしまったお肉を漁り始めた。

「あぁー! さっきしまったばかりなのに。ママ!」

「しまったって花音はほとんどやってないだろうが!」

やれやれ、まだ元の日々に戻るのは遠くなりそうだな。
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『妻がゾンビになりまして……』を閲覧していただきありがとうございます。良かったら、高評価、コメントお待ちしています。ちなみに、私の中で、美鈴は吉高由里子さん、花音は今田美桜さん、亮は鈴木亮平さんをイメージしてました。これからも、作品をよろしくお願いします。
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