切り取られた世界の中で、広がる世界 ~初心者カメラ女子高生のエンジョイフォト~

弐式

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【1章】晶乃と彩智

17.また今度

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 晶乃と彩智は駅の構内にある喫茶店の隅のテーブルに、向き合って座る。少し薄暗い中、オレンジ色の明かりで照らされた、落ち着いた雰囲気のお店である。

「お待たせしました」

 と若い店員が、2枚重なったホットケーキと湯気の上るコーヒーを彩智の前に置いた。晶乃の前には大きなチョコレートパフェが置かれている。

「料理の写真とか撮るのが好きな人もいるじゃない。彩智はどう?」

「私はそういうのはあんまり興味ないかな。出された料理を写真で楽しむより、早く食べたいクチ」

「私は、こういうのも面白いかもしれない」

 晶乃の持っているD70に装着されているレンズはスマホのそれに比べたらずっと大きい。これで撮ったらきっと美味しそうに写るのだろうとちょっとワクワクしながらファインダーを覗き込む。

「料理を撮るときは、フラッシュは焚かないようにね」

 シャッターを切る前に彩智に釘を刺される。

「他に食べている人の迷惑になるから?」

「美味しそうに見せるためにはフラッシュの光は強すぎるんだよ。光は重要な要素だけれど、何でもかんでもフラッシュを使えばいいというわけではなく、自然の光を使うなり、フラッシュにフィルターになりそうなものを被せるなりして、光の具合を調整してやるのがいい」

 多分、彩智の頭の中には実際にフラッシュを焚いて撮影したらどんな風に写るのか、イメージが出来ているのだろう。もしかしたら、自分で実際に撮ったのかもしれないし、写真技法の本などで失敗例を見たことがあるのかもしれない。どっちにしても内蔵フラッシュの使い方は分からないので、今は使わない。

 レンズをマクロに切り替えても撮影してみるとピントが合わなくてぼやけたままのなった。

「ちょっと近いのかも。少し距離を離してみたら」

 席を少し引いてもう一度シャッターを半押しすること今度はピントが合う。そのままの距離で何度かシャッターを押し込んだ。一通り撮影が終わって、ちょっと表面が溶けだしたパフェに細長いスプーンを突っ込んだ。

 しばらくの間、お互いに無言で目の前に並んだものを口に運んでいたが、やがて、「私ね……」と小さく切ってフォークに刺したホットーケーキを口に運びながら彩智が言った。

「今日一日で、私の中の晶乃のイメージは思いきし崩壊した気がするなぁ」

「崩壊、まで言う?」

 そういう晶乃はバニラアイスを口に含んでって、溶けて甘さが広がっていく感覚を楽しんでいる。

「うん。晶乃は、もっとクールで大人びた人だと思っていたよ」

「顔年齢と実年齢は必ずしも一致しないものだと思うけれどね」

 大盛りのバニラの上に乗っていたチョコの欠片を一口しながら言う。

「背丈もあるし、少し大人っぽく見られることもあるけれど、私はずっと子供じみた性格をしているし、甘いもの大好きだよ。がっかりした?」

「全然」

 晶乃の言葉にニコリと笑った彩智は、テーブルについた時に一緒に置いたデジカメを取り上げ、晶乃の方にレンズ向ける。

「今日は、楽しかった。また一緒に出ようね」

「うん」

 口に含んだままだった細長いスプーンを口から引き抜きながら晶乃は頷く。その瞬間、彩智がさっと手にしたカメラのシャッターを、ファインダーを覗きもせずに立て続けに切った。とっさのことで表情を作れなかったうえに、ほっぺたについた白いアイスをハンカチで拭く前だったので、きっと滑稽な写真が出来上がったことだろう。

「いきなりシャッターを切らないでよ」

 彩智のデジカメのメモリーカードの中に入っているだろう間抜けな画像を想像しながら晶乃は抗議の声を上げた。言われた彩智の方はクスクスと笑いながら、「今日撮った画像は、また今度見せ合いしようね」と言ってから、「ところで、帰りの列車の時間は何時?」と思い出したように続けた。

「6時5分の列車に乗るよ」

「それって……ヤバくない?」

 彩智が指を指す店の奥に飾られた時計に晶乃も目を向ける。すっかり時間のことを忘れていた。時間は既に5時45分を過ぎている。30分に1本しか電車がないので、乗り逃すとそれだけ待たなくてはいけなくなるし、家に帰る時間も遅れることになる。しまった! と声には出さずに立ち上がり、少し残っていたパフェを慌てて口に入れると、デジカメを肩から下げ、バッグから財布を取り出す。

「ごめん! 私帰るわ。彩智はもう少しゆっくりしていって」

 財布から1000円札を出してテーブルの上に置く。

「会計はよろしく」

「はいはい」

 店員に声をかけてから出口の方に急ぎ足で向かう晶乃の背中に、「お釣りは明日学校で返すからね」という彩智の声がぶつかった。
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