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【1章】晶乃と彩智
13.カメラとレンズ
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晶乃は、当然ながら店番をしている女性とは初対面なので、互いに「初めまして」と挨拶した。
店員の女性は藤沢四季と名乗った。名前から分かる通り、『藤沢写真機店』の一人娘。平成が始まった最初の年の夏に生まれた29歳。高校卒業後に写真の専門学校に通い、卒業後に6年間県外のスタジオで勉強をした後、地元に戻って父親の下で修業をしているという。
もっとも、カメラ屋の仕事はさっぱり分からない晶乃にとっては、四季が一体何を学んでいるのかは想像のしようもない。深く仕事の内容は聞かないまま、
「それじゃ、この店の跡取りなんですね」
「う~ん。どうかな。その辺は父次第なところもあるし」
笑って答えた四季は、「それはそうと……」と自分の話を切り上げて、晶乃たちの目的の方に話題を変えた。
「カメラは初めてなんだっけ?」
「ええ。それで、ちょっと持ち出しをさせてもらえるカメラがないかなぁって」
晶乃の代わりに彩智が答える。
「さすがに売り物を貸すわけにはいかないなぁ。ちょっと店内でシャッターを切るだけならいざ知らず」
と至極当然の返答をする四季。
「それはそうですよね」
と晶乃は肩を落とす。
「じゃなくて、ほら、あれあれ」
彩智の方は奥の方にある棚を指さす。
「あぁ……。あれだって別に貸し出すつもりで置いてあるわけじゃないし……」
「ちょっとでもダメ?」
「う~ん。古いからいつ壊れるか分からない奴だよ。バッテリーがヘたっているのもあるし」
彩智の指の先を目で追って行った奥の方には、『レトロなデジタルカメラを触ってみませんか』と青いマジックで書かれた紙がつけられた棚があった。可愛らしく雲の形に切り取られた画用紙を見る感じ、四季が書いたものだろう。
晶乃はその棚に近づいてみる。ガラス窓で閉じられていて、鍵もかかっているようだ。その中に飾られているのは小さな銀色のコンパクトデジタルカメラもあるし、大きなボディのデジタル一眼レフもある。
「レトロなって言うと古いカメラなんですね」
「1990年代の後半から2000年代の初めくらいのデジカメを置いてあるの。」
「15年から20年くらい前ですか」
ランドセルを背負っていたのだってそう遠い過去の出来事ではない晶乃にとっては正直大昔のように感じる響きだ。
「クラシックカメラならぬクラシックデジカメですね?」
「20年やそこらでクラシックはないと思うんだけれど」
四季の言葉の中に込もったささやかな棘に全く気付きもせず、晶乃は棚のデジカメをまじまじと眺める。メーカー名、機種名、発売された年など、簡単な情報が書き込まれたプレートも置いてある。
「これは1999年製。こっちは2000年製。1995年製なんてのもある。……有名メーカーのばっかりかと思ったら、知らないメーカーのデジカメも意外にあるものですね」
「デジカメの業界も、20年の間に淘汰されてきたからね。さらに、スマホのカメラが飛躍的に進歩したおかげで、コンデジの市場は壊滅状態。これからは、もっと淘汰が進むんだろうね」
そう言いながら四季が鍵を開ける。
「……まぁ、業界の話は置いといて、今はこのカメラを使わせてもらうね」
横から首を突っ込んだ彩智が棚の一番上にあったデジタル一眼レフに手を伸ばした。
「ちなみにその機種はエントリーモデルのNikon D70。2004年の3月に発売された機種で、総画素数624万画素。デジタル一眼レフが一般に浸透するのに大きな貢献をした機種といっても言い過ぎではないデジタルカメラの歴史に残る名機の1つよ」
「へぇ……」
600万画素と言ったら今のスマホのカメラ機能よりもはるかに少ない画素数だ。そんな時代があったんだと改めて晶乃は思う。
「レンズはこれを使って。無茶な使い方をしたらだめだよ」
四季が同じ棚から取り出した小ぶりなレンズが、晶乃に渡される。
渡されたはいいが、晶乃にはどうしてよいかわからなくてそこで手が止まり、彩智のほうに顔を向けた。彩智が無言で手を伸ばしてきたので、まずD70のボディのほうを手渡した。ボディのキャップを外し、レンズのほうを要求されたので手渡すと彩智はリアキャップを取り外す。そして、手慣れた感じでボディにレンズを装着しようとした彩智は、カチカチっと金属が触れ合う音を鳴らした。そこで晶乃と同じように硬直した。
「……」
彩智は困ったような目を四季に向け、四季は苦笑しながらボディとレンズを受け取り、簡単に取り付けた。
「マイクロフォーサーズとニコンFマウントではレンズをつけるときに回す方向が逆なんだよね」
そうやってボディとレンズがくっついたデジタル一眼レフを見つめながら、晶乃はふと湧いた疑問を口にした。
「カメラのレンズってどれでもくっつけられるんじゃないんですか」
「……そこから始めなきゃならなかったか」
四季は苦笑しながら、晶乃の方に向き直り、一度レンズを外して見せた。レンズとボディがくっつく円形の金属の部分を晶乃の方に向ける。
「レンズ交換式のカメラにはレンズマウントっていうボディとレンズを繋げる接合機構があるの。そのマウントは各メーカーごとに独自に規格が設定されていて、規格の違うマウントには互換性がなくて繋ぐことが出来ない。だから、レンズを買うときには自分のカメラのマウントにあったレンズを使わないといけないってこと。マウントは、一社に一つというわけではなく、複数の規格のマウントがある場合が多いので、ボディとレンズのメーカーが同じならそれでいいというわけではないし、マウントが同じでも作られた年代によって接続はできてもオートフォーカスは使えないとかの制約があったりするので購入する時は注意が必要になるわ」
「……何だかわかっていないっぽいですよ」
四季の解説の内容が頭の中でイメージできない晶乃。羽の生えたカメラとレンズが頭の周りでくるくる飛び回る。彩智は肩から下げたデジタルカメラを持ち上げた。
「ちなみに私が使っているオリンパスのOM-D E-M5のマウントはちょっと特別かな」
オリンパスのレンズ交換式のデジタルカメラでは、マイクロフォーサーズというオープン規格を採用している。2002年に策定されたフォーサーズ規格の拡張規格で2008年に策定された。フォーサーズはデジタル時代の統一規格を目指して制定された野心的な規格であり、マイクロフォーサーズはオリンパスの他にPanasonicも採用しているが、あらゆるメーカーの垣根を超えた統一規格になるには力及ばず、各メーカーごとに様々なマウントが乱立している状況に変化はない。
「とはいえ、オリンパスとPanasonicのレンズが使えるっていうのは大いなる強みではあるね」
彩智は自分のE-M5に頬ずりしながら言った。
「つまり……レンズを買う時はカメラの本体に付けられるレンズを買わないといけないってことですね」
晶乃は雑にまとめた解答を口にする。色々聞いたが、説明は右から左に抜けさっていた。皆が皆、小難しい理屈を何もかも分かったうえで使っているわけでもないだろう。それより早くデジタル一眼レフに触ってみたい。
「まぁ、買う時に店員に聞けば教えてくれるし、ウチで買ってくれたら、私がちゃんと教えてあげるよ」
四季からデジタル一眼レフを受け取った晶乃は、さっそくファインダーを覗き込んでみる。
店員の女性は藤沢四季と名乗った。名前から分かる通り、『藤沢写真機店』の一人娘。平成が始まった最初の年の夏に生まれた29歳。高校卒業後に写真の専門学校に通い、卒業後に6年間県外のスタジオで勉強をした後、地元に戻って父親の下で修業をしているという。
もっとも、カメラ屋の仕事はさっぱり分からない晶乃にとっては、四季が一体何を学んでいるのかは想像のしようもない。深く仕事の内容は聞かないまま、
「それじゃ、この店の跡取りなんですね」
「う~ん。どうかな。その辺は父次第なところもあるし」
笑って答えた四季は、「それはそうと……」と自分の話を切り上げて、晶乃たちの目的の方に話題を変えた。
「カメラは初めてなんだっけ?」
「ええ。それで、ちょっと持ち出しをさせてもらえるカメラがないかなぁって」
晶乃の代わりに彩智が答える。
「さすがに売り物を貸すわけにはいかないなぁ。ちょっと店内でシャッターを切るだけならいざ知らず」
と至極当然の返答をする四季。
「それはそうですよね」
と晶乃は肩を落とす。
「じゃなくて、ほら、あれあれ」
彩智の方は奥の方にある棚を指さす。
「あぁ……。あれだって別に貸し出すつもりで置いてあるわけじゃないし……」
「ちょっとでもダメ?」
「う~ん。古いからいつ壊れるか分からない奴だよ。バッテリーがヘたっているのもあるし」
彩智の指の先を目で追って行った奥の方には、『レトロなデジタルカメラを触ってみませんか』と青いマジックで書かれた紙がつけられた棚があった。可愛らしく雲の形に切り取られた画用紙を見る感じ、四季が書いたものだろう。
晶乃はその棚に近づいてみる。ガラス窓で閉じられていて、鍵もかかっているようだ。その中に飾られているのは小さな銀色のコンパクトデジタルカメラもあるし、大きなボディのデジタル一眼レフもある。
「レトロなって言うと古いカメラなんですね」
「1990年代の後半から2000年代の初めくらいのデジカメを置いてあるの。」
「15年から20年くらい前ですか」
ランドセルを背負っていたのだってそう遠い過去の出来事ではない晶乃にとっては正直大昔のように感じる響きだ。
「クラシックカメラならぬクラシックデジカメですね?」
「20年やそこらでクラシックはないと思うんだけれど」
四季の言葉の中に込もったささやかな棘に全く気付きもせず、晶乃は棚のデジカメをまじまじと眺める。メーカー名、機種名、発売された年など、簡単な情報が書き込まれたプレートも置いてある。
「これは1999年製。こっちは2000年製。1995年製なんてのもある。……有名メーカーのばっかりかと思ったら、知らないメーカーのデジカメも意外にあるものですね」
「デジカメの業界も、20年の間に淘汰されてきたからね。さらに、スマホのカメラが飛躍的に進歩したおかげで、コンデジの市場は壊滅状態。これからは、もっと淘汰が進むんだろうね」
そう言いながら四季が鍵を開ける。
「……まぁ、業界の話は置いといて、今はこのカメラを使わせてもらうね」
横から首を突っ込んだ彩智が棚の一番上にあったデジタル一眼レフに手を伸ばした。
「ちなみにその機種はエントリーモデルのNikon D70。2004年の3月に発売された機種で、総画素数624万画素。デジタル一眼レフが一般に浸透するのに大きな貢献をした機種といっても言い過ぎではないデジタルカメラの歴史に残る名機の1つよ」
「へぇ……」
600万画素と言ったら今のスマホのカメラ機能よりもはるかに少ない画素数だ。そんな時代があったんだと改めて晶乃は思う。
「レンズはこれを使って。無茶な使い方をしたらだめだよ」
四季が同じ棚から取り出した小ぶりなレンズが、晶乃に渡される。
渡されたはいいが、晶乃にはどうしてよいかわからなくてそこで手が止まり、彩智のほうに顔を向けた。彩智が無言で手を伸ばしてきたので、まずD70のボディのほうを手渡した。ボディのキャップを外し、レンズのほうを要求されたので手渡すと彩智はリアキャップを取り外す。そして、手慣れた感じでボディにレンズを装着しようとした彩智は、カチカチっと金属が触れ合う音を鳴らした。そこで晶乃と同じように硬直した。
「……」
彩智は困ったような目を四季に向け、四季は苦笑しながらボディとレンズを受け取り、簡単に取り付けた。
「マイクロフォーサーズとニコンFマウントではレンズをつけるときに回す方向が逆なんだよね」
そうやってボディとレンズがくっついたデジタル一眼レフを見つめながら、晶乃はふと湧いた疑問を口にした。
「カメラのレンズってどれでもくっつけられるんじゃないんですか」
「……そこから始めなきゃならなかったか」
四季は苦笑しながら、晶乃の方に向き直り、一度レンズを外して見せた。レンズとボディがくっつく円形の金属の部分を晶乃の方に向ける。
「レンズ交換式のカメラにはレンズマウントっていうボディとレンズを繋げる接合機構があるの。そのマウントは各メーカーごとに独自に規格が設定されていて、規格の違うマウントには互換性がなくて繋ぐことが出来ない。だから、レンズを買うときには自分のカメラのマウントにあったレンズを使わないといけないってこと。マウントは、一社に一つというわけではなく、複数の規格のマウントがある場合が多いので、ボディとレンズのメーカーが同じならそれでいいというわけではないし、マウントが同じでも作られた年代によって接続はできてもオートフォーカスは使えないとかの制約があったりするので購入する時は注意が必要になるわ」
「……何だかわかっていないっぽいですよ」
四季の解説の内容が頭の中でイメージできない晶乃。羽の生えたカメラとレンズが頭の周りでくるくる飛び回る。彩智は肩から下げたデジタルカメラを持ち上げた。
「ちなみに私が使っているオリンパスのOM-D E-M5のマウントはちょっと特別かな」
オリンパスのレンズ交換式のデジタルカメラでは、マイクロフォーサーズというオープン規格を採用している。2002年に策定されたフォーサーズ規格の拡張規格で2008年に策定された。フォーサーズはデジタル時代の統一規格を目指して制定された野心的な規格であり、マイクロフォーサーズはオリンパスの他にPanasonicも採用しているが、あらゆるメーカーの垣根を超えた統一規格になるには力及ばず、各メーカーごとに様々なマウントが乱立している状況に変化はない。
「とはいえ、オリンパスとPanasonicのレンズが使えるっていうのは大いなる強みではあるね」
彩智は自分のE-M5に頬ずりしながら言った。
「つまり……レンズを買う時はカメラの本体に付けられるレンズを買わないといけないってことですね」
晶乃は雑にまとめた解答を口にする。色々聞いたが、説明は右から左に抜けさっていた。皆が皆、小難しい理屈を何もかも分かったうえで使っているわけでもないだろう。それより早くデジタル一眼レフに触ってみたい。
「まぁ、買う時に店員に聞けば教えてくれるし、ウチで買ってくれたら、私がちゃんと教えてあげるよ」
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