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【1章】晶乃と彩智
5.部活巡り
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駅伝部の部員の勧誘から助けてくれたのは「春の嵐警戒中」の風紀委員の女子生徒だった。
「1年生が困るような勧誘はしないって、全ての部に伝達してあるはずだけど。状況によってはペナルティもあるってことも伝えておいたよね」
駅伝部員たちに厳しく言いながら、あなたたちは行っていいよ、という風紀委員の言葉に甘え、助かりましたと言ってからそそくさと離れる。
「やっぱり、さっさと部活を決めよう」
とりあえず再び教室に戻った晶乃は拳を握って決意する。
「そのためには早速、部活巡りだ」
部活を探すときの参考にするようにと入学直後のオリエンテーションで渡された用紙を用紙を取り出した。全ての部活の活動場所が記載されている。右下の隅に、小さく『作成:広報委員会』と書かれていた。
「運動部と文化部とどっちにする?」
「……緩そうな所ならどっちでも」
彩智に聞かれた晶乃はそう返答する。
文化部といっても、何かしらのコンクールとか大会とかがあるものだろう。そういうのに関わらずに活動できそうな部、というと意外に絞られてくる。競争嫌い、というのは、初めて見つけた晶乃と彩智の共通点である。
そうしてまず最初に向かうことにしたのは第2別館の多目的室だった。ここで『手芸部研究部』なる部が活動している様である。部が一つ多いのは誤植だろう。
部屋の横開きの戸の前に立つ。中から声が聞こえてきたので、活動はしているようだ。
「失礼します」
とノックと声をかけてから入ってみると、7人の生徒が活動していた。活動といっても、思い思いに編み物の棒を両手に何かを編んでいっている。その中でもひときわ小柄で可愛らしい生徒――間違いなく先輩だろうし、彩智と比べたら上背もあったけれど――が立ち上がり近づいてくる。
「入部希望ですか?」
「いえ、どんな活動をしているのか、見て回っているんです」
と晶乃は答える。
「そうなんですか。手芸部は見学も体験も大歓迎ですよ」
「じゃあ、見せてもらってもいいですか」
「もちろん。手芸部は3年生が6人と、2年生が5人。1年ももう4人も入ってくれているんですよ。やっていることは裁縫とか編み物とか、刺繍とか。ビーズなんかもやったりしますね。皆、初心者からのスタートですけれど、10月の文化祭では各々が作ったものを展示しているんですよ」
言いながら手芸部の先輩が椅子を二つ進めてくる。
「何かやってみたいことはあります?」
「私は全然そういうのとは無縁で」
晶乃は言いながら彩智に視線を下ろす。
「私も……破れたところを直すくらいで、手芸はあんまり……」
「そっか……これから他にも見学に行くのなら、あんまり難しいことも出来ないし……そうだ。指編みしてみません? 慣れると簡単だからぜひ覚えて行ってくださいね」
3人のやり取りを聞いていたらしい別の女子生徒が立ち上がり、青と赤の毛玉を一つずつ取って、晶乃と彩智の左手の親指にくるくると巻いた。4本の指に毛糸を通しながら、編み込みを進めていくと、手の甲に編まれた毛糸がたまっていく。
他の手芸部員たちも集まってきて、ワイワイとアドバイスを交えながら和やかに部活動が進んでいくのは、今までの部活動では経験のないことだ。こういう雰囲気はいいなぁ。と思いつつ、横の彩智を見ると、晶乃と同じくらいのペースで指の後ろに毛糸を通したり、引っ張ったりしながら編み込みを進めていた。どうやら手先の器用さも同じくらいのレベルのようだ。
長さ10㎝くらい編めたところで、先輩の女生徒が網目を整えて毛糸を切った。
「どう? 初めてのやってみて?」
「楽しかったです」
「どうもありがとうございました」
晶乃は赤い方を、彩智は青い方を受け取った。
「このサイズならコースターにくらいはなるでしょう。で、どうする? 手芸部に入る?」
「そうですね……」
晶乃がちらりと壁にかけた時計に目をやって時間を確かめると、手芸部には30分ほどいたようだった。
「ギリギリまで考えてから入る部を決めようと思っていますので、もうしばらく文化部を中心に回ってみようと思っています」
「そっか。気が向いたらまた遊びに来てよ。ウチはいつでも大歓迎だから」
「はい。その時はよろしくお願いします」
「そうそう……。文化部といえば、この部屋は、写真研究部との共有なんだけれど、そっちにも行ってみたら?」
手芸部の先輩が指さした先には、確かに白い衝立があって、部屋は分けられていた。
「でも、先生からもらったプリントには写真研究部のことなんて……」
と活動場所が印刷されたプリントを見せる。
「……あぁ、プリントミスになっているね。手芸部と写真研究部が重なって変なことになっているよ」
なるほど、写真の文字の上に手芸部が乗っているものだから『手芸部研究部』なんて変な部活動名になっているわけだ。よくよく見ると手芸部と研究部の文字にわずかなズレがある。
それにしてもどうしようかと少し考えた。
この前、写真の展示会に行ったときに顔を合わせた失礼な部員たちのことを思い出したからだった。一ヶ月も前のことだし、どうせ向こうも顔なんて覚えていないだろうが、なるべくなら顔を合わせたくはない。
彩智の方にちらりと目をやる。彼女は興味があるのかないのかよく分からない表情をしている。しかし、写真のコンクールに応募するくらいだから、きっと写真そのものへの興味はあるはずだ。
「ちょっとだけ、覗かせてもらおうか」
「うん……」
晶乃の言葉に、彩智は一言だけを返してきた。
「1年生が困るような勧誘はしないって、全ての部に伝達してあるはずだけど。状況によってはペナルティもあるってことも伝えておいたよね」
駅伝部員たちに厳しく言いながら、あなたたちは行っていいよ、という風紀委員の言葉に甘え、助かりましたと言ってからそそくさと離れる。
「やっぱり、さっさと部活を決めよう」
とりあえず再び教室に戻った晶乃は拳を握って決意する。
「そのためには早速、部活巡りだ」
部活を探すときの参考にするようにと入学直後のオリエンテーションで渡された用紙を用紙を取り出した。全ての部活の活動場所が記載されている。右下の隅に、小さく『作成:広報委員会』と書かれていた。
「運動部と文化部とどっちにする?」
「……緩そうな所ならどっちでも」
彩智に聞かれた晶乃はそう返答する。
文化部といっても、何かしらのコンクールとか大会とかがあるものだろう。そういうのに関わらずに活動できそうな部、というと意外に絞られてくる。競争嫌い、というのは、初めて見つけた晶乃と彩智の共通点である。
そうしてまず最初に向かうことにしたのは第2別館の多目的室だった。ここで『手芸部研究部』なる部が活動している様である。部が一つ多いのは誤植だろう。
部屋の横開きの戸の前に立つ。中から声が聞こえてきたので、活動はしているようだ。
「失礼します」
とノックと声をかけてから入ってみると、7人の生徒が活動していた。活動といっても、思い思いに編み物の棒を両手に何かを編んでいっている。その中でもひときわ小柄で可愛らしい生徒――間違いなく先輩だろうし、彩智と比べたら上背もあったけれど――が立ち上がり近づいてくる。
「入部希望ですか?」
「いえ、どんな活動をしているのか、見て回っているんです」
と晶乃は答える。
「そうなんですか。手芸部は見学も体験も大歓迎ですよ」
「じゃあ、見せてもらってもいいですか」
「もちろん。手芸部は3年生が6人と、2年生が5人。1年ももう4人も入ってくれているんですよ。やっていることは裁縫とか編み物とか、刺繍とか。ビーズなんかもやったりしますね。皆、初心者からのスタートですけれど、10月の文化祭では各々が作ったものを展示しているんですよ」
言いながら手芸部の先輩が椅子を二つ進めてくる。
「何かやってみたいことはあります?」
「私は全然そういうのとは無縁で」
晶乃は言いながら彩智に視線を下ろす。
「私も……破れたところを直すくらいで、手芸はあんまり……」
「そっか……これから他にも見学に行くのなら、あんまり難しいことも出来ないし……そうだ。指編みしてみません? 慣れると簡単だからぜひ覚えて行ってくださいね」
3人のやり取りを聞いていたらしい別の女子生徒が立ち上がり、青と赤の毛玉を一つずつ取って、晶乃と彩智の左手の親指にくるくると巻いた。4本の指に毛糸を通しながら、編み込みを進めていくと、手の甲に編まれた毛糸がたまっていく。
他の手芸部員たちも集まってきて、ワイワイとアドバイスを交えながら和やかに部活動が進んでいくのは、今までの部活動では経験のないことだ。こういう雰囲気はいいなぁ。と思いつつ、横の彩智を見ると、晶乃と同じくらいのペースで指の後ろに毛糸を通したり、引っ張ったりしながら編み込みを進めていた。どうやら手先の器用さも同じくらいのレベルのようだ。
長さ10㎝くらい編めたところで、先輩の女生徒が網目を整えて毛糸を切った。
「どう? 初めてのやってみて?」
「楽しかったです」
「どうもありがとうございました」
晶乃は赤い方を、彩智は青い方を受け取った。
「このサイズならコースターにくらいはなるでしょう。で、どうする? 手芸部に入る?」
「そうですね……」
晶乃がちらりと壁にかけた時計に目をやって時間を確かめると、手芸部には30分ほどいたようだった。
「ギリギリまで考えてから入る部を決めようと思っていますので、もうしばらく文化部を中心に回ってみようと思っています」
「そっか。気が向いたらまた遊びに来てよ。ウチはいつでも大歓迎だから」
「はい。その時はよろしくお願いします」
「そうそう……。文化部といえば、この部屋は、写真研究部との共有なんだけれど、そっちにも行ってみたら?」
手芸部の先輩が指さした先には、確かに白い衝立があって、部屋は分けられていた。
「でも、先生からもらったプリントには写真研究部のことなんて……」
と活動場所が印刷されたプリントを見せる。
「……あぁ、プリントミスになっているね。手芸部と写真研究部が重なって変なことになっているよ」
なるほど、写真の文字の上に手芸部が乗っているものだから『手芸部研究部』なんて変な部活動名になっているわけだ。よくよく見ると手芸部と研究部の文字にわずかなズレがある。
それにしてもどうしようかと少し考えた。
この前、写真の展示会に行ったときに顔を合わせた失礼な部員たちのことを思い出したからだった。一ヶ月も前のことだし、どうせ向こうも顔なんて覚えていないだろうが、なるべくなら顔を合わせたくはない。
彩智の方にちらりと目をやる。彼女は興味があるのかないのかよく分からない表情をしている。しかし、写真のコンクールに応募するくらいだから、きっと写真そのものへの興味はあるはずだ。
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「うん……」
晶乃の言葉に、彩智は一言だけを返してきた。
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