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それぞれの役割
初めてのデート②
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博物館を堪能した二人は、王都で人気のレストランに向かった。
その間手はずっと繋がれたままで、クロードはもう一人で展示に夢中になるようなことはなかった。
アリスがやんわり勧めても、クロードは絶対アリスの手を離さなかったのだ。
その後レストランで食事した二人はブティックへ向かい、正装した。
クロードは藍色に金糸で刺繍されたコートを着て、アリスも同じ色柄のドレスを着ている。
明らかに仲の良い夫婦とわかるお揃いの服で寄り添う美男美女のカップルが現れた時、劇場中の視線が二人に釘付けになった。
オペラの内容は良く知られた愛憎劇だった。
ルイーズ王女も同じ演目を鑑賞したらしいが、未婚の王女に見せるには少しドロドロした劇だと思われる。
だがルイーズ王女は色々と背伸びしたい年頃らしく、この演目も自分で見たいと言ったようだ。
アリスは隣で船を漕いでいる夫の横顔を見て苦笑した。
彼は博物館でしゃいでいたから疲れてしまったのだろう。
それに、護衛騎士は激務だとも聞く。
またそれにも増して、クロードを気に入ったルイーズ王女が片時も離したがらないから、彼は常に心身共に気を張っているとも。
(まぁ、この容姿なら仕方ないわね)
ザ・王子なナルシスとはまた違った美貌だが、クロードはとても端正な容姿の美青年だ。
切れ長の目とシャープな顎のラインはとても精悍で、正直、アリスはこちらの方がタイプだと言えた。
(困ったわね…)
アリスはクロードの横顔を見ながら呟いた。
クロードとは離縁すると、心に決めている。
王女が隣国に輿入れする時クロードが随行するのはほぼ確定しているのだから、どのみち別れるしかない。
彼の夢が王女の護衛騎士で、その夢を後押しすると決めた時から、それは了解している事実だ。
それが、クロードの夢の邪魔をせず、女伯爵としての自分の立場も守ることだと思うから。
でも最近…。
(彼といるのが、楽しいのよね)
タロと戯れる彼が、好きなものに目を輝かせる彼が、素直に可愛いと思う。
ナルシスと決闘すると言ったりデートに誘って来たり、彼も少なからずアリスを想ってくれているのではないかと期待してしまう。
(期待って、何よね…)
アリスが自嘲気味に呟いた時、突然右肩が重くなった。
船を漕いでいたクロードが、とうとう寄りかかってきたのだ。
(もう…!デートだって言うのに…!)
アリスはクロードの顔を覗き込んで苦笑した。
こうして見るとまだあどけなく、やはり彼はまだまだ十代の若者なのだと思い知らされる。
右肩に温もりを感じながら、アリスも目を閉じた。
正直、自分自身、まだ気持ちの変化に戸惑っている。
夫なんて、家業の役に立つ家門出身で、事業に口を出さず、後継を為すために不快感のない人物なら誰でも良いと思っていた。
だから自分に恋愛は必要無いと思っていたし、敢えてそういうものからは目を背けて来た。
それなのに。
最近ちょくちょく訪問してくれる彼を、心待ちにしている自分がいた。
デートに誘われたのも嬉しくて、服を考えたりしていたら昨夜はよく眠れなかった。
それに、王女が彼を独占したがっていると聞くと、胸がチリチリと痛む。
でも、違う。これは恋ではない。
離縁前提の結婚に感傷的になっているだけ。
新婚生活の真似事に舞い上がっているだけだ。
(でも、今だけは…)
アリスは首筋に当たるクロードの髪にくすぐったさを感じながら、ぼんやりと舞台を眺めていた。
その間手はずっと繋がれたままで、クロードはもう一人で展示に夢中になるようなことはなかった。
アリスがやんわり勧めても、クロードは絶対アリスの手を離さなかったのだ。
その後レストランで食事した二人はブティックへ向かい、正装した。
クロードは藍色に金糸で刺繍されたコートを着て、アリスも同じ色柄のドレスを着ている。
明らかに仲の良い夫婦とわかるお揃いの服で寄り添う美男美女のカップルが現れた時、劇場中の視線が二人に釘付けになった。
オペラの内容は良く知られた愛憎劇だった。
ルイーズ王女も同じ演目を鑑賞したらしいが、未婚の王女に見せるには少しドロドロした劇だと思われる。
だがルイーズ王女は色々と背伸びしたい年頃らしく、この演目も自分で見たいと言ったようだ。
アリスは隣で船を漕いでいる夫の横顔を見て苦笑した。
彼は博物館でしゃいでいたから疲れてしまったのだろう。
それに、護衛騎士は激務だとも聞く。
またそれにも増して、クロードを気に入ったルイーズ王女が片時も離したがらないから、彼は常に心身共に気を張っているとも。
(まぁ、この容姿なら仕方ないわね)
ザ・王子なナルシスとはまた違った美貌だが、クロードはとても端正な容姿の美青年だ。
切れ長の目とシャープな顎のラインはとても精悍で、正直、アリスはこちらの方がタイプだと言えた。
(困ったわね…)
アリスはクロードの横顔を見ながら呟いた。
クロードとは離縁すると、心に決めている。
王女が隣国に輿入れする時クロードが随行するのはほぼ確定しているのだから、どのみち別れるしかない。
彼の夢が王女の護衛騎士で、その夢を後押しすると決めた時から、それは了解している事実だ。
それが、クロードの夢の邪魔をせず、女伯爵としての自分の立場も守ることだと思うから。
でも最近…。
(彼といるのが、楽しいのよね)
タロと戯れる彼が、好きなものに目を輝かせる彼が、素直に可愛いと思う。
ナルシスと決闘すると言ったりデートに誘って来たり、彼も少なからずアリスを想ってくれているのではないかと期待してしまう。
(期待って、何よね…)
アリスが自嘲気味に呟いた時、突然右肩が重くなった。
船を漕いでいたクロードが、とうとう寄りかかってきたのだ。
(もう…!デートだって言うのに…!)
アリスはクロードの顔を覗き込んで苦笑した。
こうして見るとまだあどけなく、やはり彼はまだまだ十代の若者なのだと思い知らされる。
右肩に温もりを感じながら、アリスも目を閉じた。
正直、自分自身、まだ気持ちの変化に戸惑っている。
夫なんて、家業の役に立つ家門出身で、事業に口を出さず、後継を為すために不快感のない人物なら誰でも良いと思っていた。
だから自分に恋愛は必要無いと思っていたし、敢えてそういうものからは目を背けて来た。
それなのに。
最近ちょくちょく訪問してくれる彼を、心待ちにしている自分がいた。
デートに誘われたのも嬉しくて、服を考えたりしていたら昨夜はよく眠れなかった。
それに、王女が彼を独占したがっていると聞くと、胸がチリチリと痛む。
でも、違う。これは恋ではない。
離縁前提の結婚に感傷的になっているだけ。
新婚生活の真似事に舞い上がっているだけだ。
(でも、今だけは…)
アリスは首筋に当たるクロードの髪にくすぐったさを感じながら、ぼんやりと舞台を眺めていた。
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