見合い相手が女装した男だった。しかも僕のストーカーらしい。

一一(カズイチ)

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脅迫状編

勤勉な犯人

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(仕事が早いな)

 まだ鍵が取り付けられる前なので、誰でも出入り自由。
 但しこの時間に学生が彷徨くのは目立つ。
 セシルのような特殊技能持ちでない限り、学生には無理だ。

 ラインハルトが朝出勤したら、2通目の脅迫状が届いていた。前回と同じ無地の封筒がデスクに置かれていたので、怪我をしないよう慎重に開封した。 
 今回は剃刀は仕込まれていなかったが、もっと効果的な物が同封されていた。

 写真が2枚。

 1枚目は昨日、アーサーがラインハルトを押し倒した時の物。外から撮影されているが、窓に犯人の姿の反射はなし。

 2枚目は美術館で、アーサーの前でルイスが跪いている物。物陰から直接撮影。これも犯人を特定できるような写り込みはなし。

 この時代の写真は、対象が数秒間動かないという条件付きで撮影可能。カメラは小型だがセルフタイマー機能は無いので、撮影者が操作する必要がある。
 カメラの金額はそこそこするので所有者は少なく、持ち主は大抵自分で現像まで行う。

 1枚目は押し倒した状態で会話していたので撮影できたのだろう。2枚目も決定的な瞬間ではなく、謝罪に入った時の会話時の光景だ。

 口淫も犯人に見られたのだろうが、ブレてうまく撮影出来なかったのだろう。エロ同人みたいな激しい口淫だったので助かったとは皮肉な話だ。



**



「ええと貴方は――」
「考古学科で准教授をしているラインハルト・フリートと申します」
「ああ、セシル君の! 物理学科教授のシャルル・メウッチです」
「この度はご迷惑をお掛けして申し訳ございません」
「いえ、ウチはそこら辺頓着しないんで。寧ろ他所の棟に入り浸って此方こそ申し訳ない」

 ラインハルトはセシルの所属する研究室を訪れた。
 担当教授に挨拶する為だったが、彼は部屋の片隅に置かれている装置が気になった。

「これですか? 電信技術の一環で作ったんですが、まあ自己満足に終わった感じです」

 ラインハルトの視線に気付いたのだろう、シャルルが簡単に機能を説明した。
 普通の考古学者なら理解が難しい内容だが、前世の知識があるラインハルトは別だ。説明が進むにつれ、彼の目が輝いた。

「……素晴らしいですよ。ぜひ実用化すべきです」
「実用化も何も、どう活かすか私自身検討もついていませんし費用もかかる」
「当主である兄次第ですが、フリート家が投資するよう僕から話します。実用化や整備のシステムに関しても提案があるので後日お時間ください」
「兄ってもしかしてジークハルトさん?」
「知ってるんですか?」
「知ってるも何も! これジークハルトさんと一緒に作ったんですよ。家を継ぐとかで途中で辞めちゃいましたけど、基礎理論はジークハルトさん個人の物です。私は彼から引き継いだんです」
「兄さんが……お恥ずかしい事ですが、知りませんでした」
「ここの研究は大半の人が理解できない物なので、私も家族に話したりはしませんよ」

 研究内容どころか、実はジークハルトが理系の学科出身だった事も初耳だ。
 この大学出身な事は流石に把握していたが、ラインハルトはBL鑑賞に関与しない人物に対して興味が薄い。
 兄達は自分の量産型だと認識しているので、妄想の対象外だった。

「お気遣いありがとうございます。差し当たって一つお願いがあるんですが――」



**



「ラインハルト君。最近君の所は慌ただしいようだね」
「ピントス先生」
「噂話に疎い私の耳に入るくらいだ」
「……具体的にどんな噂が出回ってるんですか?」
「そりゃ色々だよ」
「それでは改善しようがありませんね」
「――君は全く、年長者に対する態度がなって無いな!!」
「思うようにいかなければ怒鳴って誤魔化すんですか?」
「生徒に手を出している君に言われたく無い!!」
「それは自白と捉えて良いんですね」

 物理学教室で手に入れた試作品を使って、ラインハルトは罠を仕掛けた。
 警察は被害届を受理するだけで捜査はしない。大学も同様だ。
 こんな物騒な状態は、時間をかけても良い事にはならないため打って出ることにした。

「私がやったという証拠があるのかね?」
「……」
「無いんだろう? こっちは君がやった事について証拠があるぞ」
「あの写真ですか?」
「そうだ」
「カメラは研究室の物ですね」

 資料の転写に写真は有用だ。考古学科は研究用にカメラを所有している。

「何故あのタイミングで撮影できたんですか?」
「1枚は偶々揉めている声がしたから覗いただけだが、もうひとつは密告だよ。『面白いものが撮れる』って、君に恨みを持つ者は他にもいるぞ」
「……貴方が脅迫状の差出人である物証はありませんが、証人は居ます」
「何だと?」
「学園長、お聞きになった通りです」
「ラインハルト君、何処に向かって話してるんだ? 学園長なんてこの部屋には居ないだろう?」
「勿論。この部屋には僕と貴方だけです」

『ピントス君、ラインハルト君。2人共学園長室へ来たまえ』

 酷いノイズ混じりだが、内容を聞き取れるくらいには明瞭な声。
 ラインハルトが拝借したのは電話の試作品だ。



**



(もし自分が脅迫状の差出人だったら。自分がしたことの効果を見届けたい)

 手紙だけ出して、後は素知らぬふりで何事もなく日常生活を送るのは難しい。
 ラインハルトの様子が気になって仕方ない筈。
 もしかしたら、ターゲットであるラインハルト以上に心ここに在らずで落ち着かない日々を送っているかもしれない。

 犯人を絞り込めていないが、電話機を手に入れたラインハルトは犯人を誘き出し自白を学園長に聞かせようと考えた。
 剃刀を仕込んだり、盗撮してくる相手と穏便に示談するのは無理だと感じだからだ。

 嫌がらせもだが、アーサーの突発的な行動に反応できたのであれば、犯人は日頃からラインハルトの行動に目を光らせているのだろう。
 ならば学園長に協力を依頼して、人気のない時間に分かりやすく一人になれば良い。

 結果として同じ考古学科のピントスが、それはもう見事に引っかかった。

 脅迫に写真を使用するなら、最もよく撮れているヤバい物を使用する。
 ラインハルトに送られてきたのは決定打とは言い難い、いくらでも言い訳できる構図だ。
 ラインハルトは事前に学園長に写真を見せて「進路の事で揉めた」「妹の振りをしていたので説教した」と堂々と報告している。
 後からピントスが何を言おうと、苦し紛れの捏造と取られるだろう。



**



「ご自身で解決されたんですか!? 犯人と一対一なんて無茶な真似を! 犯人に襲われたらどうするつもりだったんですか!?」

(実際に襲ってきた奴が言うと洒落にならないな)

「……君の協力には感謝してます」

 その場に居ないことが最大の協力だったのが皮肉だ。
 付き人的ポジションを手に入れたセシルが、大いに存在感を発揮したおかげで、彼の姿が無いだけで焦れた犯人を誘き寄せられた。

「黒幕との対峙は君の同席が必要です」
「黒幕!?」
「居るんですよ。ピントス先生に密告して、アーサーを焚き付けた存在が」

(惚けているなら、大した役者だが果たして……)

 ラインハルトとピントスの確執を知る者は少ない。
 お互いの提唱する説が相反する物で、最近他国の大学で発表された論文でラインハルトの説に軍配が上がっただけ。
 確執と呼べるかも怪しい。
 偶々ピントスの性根が捻じ曲がっていて、彼に都合の良いラインハルト批判の材料が手に入ったから今回の犯行に至ったのだ。

 教科書の内容が塗り変わるような発見でもない限り、考古学が世間の注目を集める事はない。
 ピントスもラインハルトも考古学者としては無名も良い所だ。
 ――両者の学説を把握している者。

 ランスロットがアーサーから聞き出した所、アーサーも匿名の密告でラインハルトとセシルの爛れた関係を知ったらしい。
 ――ラインハルトとアーサーの関係。それ以上にラインハルトと女装したセシルの間に何があったか2回目の逢瀬までの間に知り、3回目の予定を知り得た者。


 この2つの条件を満たす者、それが黒幕だ。
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