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脅迫状編

見た目は大人、中身は子供

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「ラインハルト君、よく来てくれたね」

 喜色を浮かべてラインハルトを迎えたのはマクガーデン家当主・ジョセフ。
 彼に寄り添い控えめな笑みを浮かべるのはその妻シェリル。

 セシルにアポを取ってもらい、ラインハルトはマクガーデン家一同が揃う応接室に通された。



 実物のルイーゼ・マクガーデンは、セシルとは二卵性双生児だがよく似ている。
 性別を除く外見上の違いは、彼女の目の色が母親譲りの空色で、セシルよりも気が強そうな表情をしている事くらい。

「本日マクガーデンの皆様にお時間いただいたのは、先日のある事件についてご報告と提案があるからです」
「事件?」

 ラインハルトの不穏な発言に、ジョセフが困惑して聞き返した。
 隣に座るシェリルは不安そうな表情。
 セシルはそわそわと落ち着かない様子で、一番どっしり構えているのはルイーゼだ。

「先ず僕とのお見合いですが、セシル君がルイーゼ嬢を騙っていました」
「何だって!?」

 驚くジョセフには答えず、ラインハルトはルイーゼを見つめた。

「お兄さんと入れ替わった君は、僕たちのお見合いを見てたんだね?」

 挑むようにルイーゼもラインハルトを真っ直ぐ見つめる。
 彼女の口元は引結ばれたままで、返事をするつもりは無いようだ。

「自分で提案した事だが、君は僕が許せなかった」
「……」
「彼が君と入れ替わって僕と会うのは、君の協力が必要だ。だから君は僕達の予定を把握していた」

 ルイーゼの纏う空気が剣呑になる。図星らしい。

「日頃からお兄さんが語っていたから、君は僕の学説もそれと対立するピントス先生の説も知っていた」

 セシルはラインハルトの研究内容に詳しい、それに関連する事も把握している。
 彼はラインハルトに関する情報を、日々妹に語って聞かせていた。

「上手くいったら僕を排除できるくらいの感覚だったんだろう。でもそうならない所か、君の期待とは真逆の結果になった」

 ピントスが出した脅迫状の開封にセシルが居合わせた事で、彼は堂々とラインハルトと一緒に過ごす事になった。
 排除するどころか、距離が縮まってしまった。

「アーサーの事を知ったのは身辺調査の結果を盗み見たんだね。そして彼を焚き付けた」

 セシルの依頼で、ラインハルトに近い人物から優先して身辺調査を行った。同じ家に住むルイーゼなら、結果を盗み見ることは容易。
 長年の付き合いがあるアーサーは、最優先の調査対象。普通の若者なので、特に早い段階で調査結果が出ただろう。
 ラインハルトがアーサーに性の手解きをした事迄は載っていないだろうが、彼がラインハルトに依存している事は読み取れる。



 ルイーゼは何も言わなかったが、この場合沈黙は罪を認めたも同然。

「ジョセフさん。娘さんは力を持った子供です。自分の振り上げた拳がどんな力を持って、どれだけの人を傷付けるか分かっていない」
「それは……」
「今のままではダメです。それはわかってらっしゃいますね?」
「ええ。嫁ぎ先が見つからなければ、修道院に――「あなた!」」

 批難するように甲高い声を上げる妻を、ジョセフは窘めた。

「しかしお前。この歳になって他所様にご迷惑をお掛けしたんだ。これ以上我が家に置くのは彼方此方に申し訳が立たん」
「それはダメです。修道院に行っても同じ。気に入らないことがあればどんな手を使っても排除しようとする。根本的な解決にはなりません」
「「……」」

 思い当たる節があるのか、マクガーデン夫婦は黙ってしまった。
 この2人に自覚があるのかわからないが、彼らは長年臭い物に蓋をしてきた。
 娘を矯正するでも、娘にあった環境を探すでも無く、病弱と偽って家に閉じ込めてきた。

 結果としてルイーゼはガキ大将のような性根のまま成長し、自分にとって一番近い存在であるセシルに無自覚に依存するようになった。

 外の世界を半端にしか知らないルイーゼにとって、あの日庭木に隠れて盗み見たサロンでの光景は衝撃的だった筈だ。

(恋愛経験の無い耳年増に、いきなり身内出演のAV見せつけたような物だ。トラウマになっただろう)

 彼女は自分の世界を守る為、自分の片割れを豹変させたラインハルトを排除しようとした。

「お嬢さんはもっと沢山の人と接して、社会を知るべきです」
「でもそんな」

 ラインハルトの提案に戸惑うジョセフに微笑んだ。

「誰しも上手くやれる確証を得てから、外と関わるわけではないんです。誰だって大なり小なり失敗しながら成長して、世界を広げて大人になるんです」
「じゃあどうしろと言うんですか。私には嫁に出すくらいしか思いつきません」
「進学させるんです」
「何ですって!?」
「彼女は兄の説明だけで、考古学を理解しています。知能指数が高いんです」

 絶句するジョセフに畳み掛ける。

「うちの大学は女生徒も受け入れ可能です。編入試験の為に勉強するだけでも彼女の世界は広がるでしょう。もし入学したら僕とセシル君で彼女をサポートします。家から通学できるので、ご両親も彼女の様子を確認することができる筈です。これが僕の提案です、ご検討ください」

 言いたいことを告げると、手をつけていなかったお茶を口に含む。

(編入試験はそれなりの難易度だから、勉強始めたら余計な事考える余裕は無くなるだろう)

 教育者の鑑のような笑みの裏で、えげつない事を考えるラインハルト。
 微笑みの貴公子の本領発揮である。
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