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第四章 陰陽師、魔王城へ攻め込む!

第三十一話

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 姿を見せたのは巨大なイノシシだった。

「ジャ、ジャイアントボア⁉ 災害級の魔物じゃない‼」

 ジャイアントボア? そんな名前なんだ……そう言えば、ゲームのエリアボスにも同じ名前がいたなあ……と思い出す。

「コイツはこの森の住人で、妾の友じゃ」
 コエダがそう説明すると、ぴょんと飛び上がり、大イノシシの頭に乗っかった。

「龍神のところまで連れて行ってくれるそうだから、付いてくるのじゃ」


 それから一時間ほど歩かされ、少し開けた日当たりの良い場所で大イノシシはピタッと止まる。

「ここで待っていろ――とのことじゃ」
 コエダが下りると、大イノシシとウリ坊は森の奥へと消えて行った。

「……東の森って、もっと魔物がウジャウジャいる場所って思っていたけど、結構、静かで良いところね」
 綺麗な花を見付けて、手に取るフィリシア。

「そうでもないぞ」
「……えっ?」

「五キロ四方には、おぬしが言う『災害級の魔物』が、大イノシシを除いても四体はおる」
「よ、四体‼」

 災害級とは、一体で小さな町や村が壊滅するレベルのことをいう。騎士団の小隊が相手して、なんとか倒せるかどうかだ。

「魔物は用心深い。あるじとセパルの気配を感じ取れば魔物は近寄れないのじゃ」
 そういうモノなの? フィリシアは難しい顔をする。

「おい、オレも入るのか?」
 ハルアキはバケモノ扱いするなと言うが……

「主の気配は既にセパル以上だ。この数日で数万倍も強くなっておる」

 気配というものが何なのか良くわからないが、なんか人間扱いされていないことが、しゃくに触る。

「まあ、いいや。それでミハルを救い出せるなら、バケモノでも何でもなってやる」
 ハルアキは不敵な笑みを見せる。


「ここが魔物の森だとということは理解したし、ハルアキが強いことも否定しないわ。それで、龍神はいつになったら現れるの?」
 別に森の観光に来たわけじゃないと言うフィリシア。

「ああ、それならもう来ている」
「……えっ?」

「さて――知らない人間がいるので品定めしているのかな?」
「……えっ?」
 品定め……って?

 フィリシアが意味がわからないという顔をするのだが――

「そろそろ良いだろ? 相談したいことがあるんだ。出てきてくれないか?」
 ハルアキが声を張り上げた途端、フィリシアとエリーネの背筋に悪寒が走る。

「な、なに⁉ この威圧感……魔王やハルアキ様とは違うモノだわ!」
 セパルも何か感じたようだ。

 フィリシアとエリーネは萎縮して声も出せない。

「おいおい、そのくらいにしてやれ。二人ともチビりそうだ」
「なっ!」
 フィリシアがハルアキの首根っこを掴む。

「あんたね‼ デリカシーってものはないの!」

「おお、スゴい! この殺気の中で動けるとは――やっぱり、おまえって勇者の末裔なんだな!」
「――えっ?」

 殺気? このなんとも言えない恐怖の感情は殺気なの?

 ハルアキの冗談で、それを吹っ切ったが、気持ちの弱いものではショック死するレベルだったはずだ。


『なるほど……カワイイ容姿からでは想像できぬが、強い精神力を持っているようだな。コルネードの王女と聖女よ。儂がセイだ。非礼を詫びよう』

 突然、頭に響く声が聞こえてきてフィリシアは慌てる。

「えっ? どこから聞こえるの?」

 そのとき、頭を下げているハルアキとコエダが見えた。
 振り向くと――

「うわっ‼」
「きゃあ‼」
 音もなく現れた巨大な生物に、フィリシアとエリーネは腰を抜かす。

「なんだ、オレ達が転送されてきた時から、ずっと付けていたな?」
『ほう……ハルアキよ、なぜそう思った?』

「この二人が、王女と聖女だと言ったのはその時だけだからな」
『それは抜かった……その通りだ。不審な行動をしないか、しばらく様子を見ていた』


 その外見は大イノシシよりも一回り大きい。何より巨大な翼に圧倒されるその容姿。

「ド、ドラゴン⁉」

 初めて見る龍神に驚愕の表情を見せるフィリシア。

「ハ、ハ、ハ。今度こそチビったか?」
「チビってないわよ‼」
 言い返す余裕があるのはスゴいと感心する。

「私は少し……」
 と、エリーネ――
「……えっ?」
 フィリシアとハルアキはその言葉に表情が固まった……

『それはすまぬことをした。まあ、殺すつもりで威圧したのだがな』
 龍神の言葉に、冗談でもやめて欲しい……と二人は願う。


「セイ! 相談がある!」
 ハルアキはここに来た目的を説明すると龍神は黙り込んだ。しばらくして――

「解せぬ――アヤツが自分の縄張りを出てまで、魔族に組する目的がわからぬ」
 硬い皮膚とウロコで覆われた顔の表情は読み取れないが、かなり困惑しているようだ。

「それで、神獣を――白虎をなんとかしたい。弱点とかあれば教えて欲しい」
 セイは大きな顔をゆっくりと天に向けた。

「アヤツとは千年来の付き合いでな。良く遊んだモノだ。おかげで、人里がいくつも消し去った」
 本気とも冗談とも取れる話に、聞いた三人の人間は苦笑いする。

「今でこそ儂もアイツも『神獣』なんて、たいそうな名で呼ばれているが、あの頃はまだ『何者でも無い』存在だった」

 セイは主人である人間に先立たれ、生きる意味を無くし、白虎は名を売ろうと躍起だった。

 そんな二人が出会ったのは、まだ神と悪魔、そして人間が争いを繰り返していた時代。セイと白虎は人間に害をなす魔物として軍や冒険者が何度も討伐にきたらしい。

 自暴自棄になっていたセイはチカラをムダに発散し、暴れ回った。

 それに対し白虎は自分の『進化』を貪欲に求めた。


 そんな白虎をセイは羨ましく、そして憎いと思い、いつしか『アヤツにだけは負けたくない』と考えるようになる。


 魔物と他の種族との違いは、個体が『進化』するということ――

 生き残ることで『進化』し続けてきたセイと白虎は、いつしか魔王でも倒せぬ存在になっていた。


 ある時、究極に進化した二つの個体がぶつかり合い、世界を空間ごと破滅させる危機が起きた。

「――空間ごと……」
 その言葉に神獣の恐ろしさを実感する。

『そうだ……その時、魔王が儂とアヤツの仲介に入った』

「魔王? ベリアルのこと?」
 フィリシアの質問にセパルが首を振った。

「魔王は何人もいるわ。でも……その魔王って……」
 そう口に出したセパルの表情は恐怖で硬直していた。

『そう……今はその名を口にする事さえ許されぬ者――それと契約し、儂らは別々の場所を縄張りとした――まあ、の思惑にまんまとはまってしまったと気付いたのは百年ほど過ぎたころだがな……』


 懐かしそうに話すセイだが、つまり――

「白虎とまともに戦ったら、世界が無くなる……ていうことじゃな?」

 気楽に答えるコエダだが、そんなのをどうやって相手にすればいいの? と、フィリシアは青ざめる。

「まあ……相手にしないことだな」
 ハルアキも諦めムードだ。

「なんとかなるだろう……」

「ならないわよ‼ 前面に白虎が出てきたらどうするの⁉」

 そうなったら、とても魔王城にたどり着けないのは明白だ。

「その時には……一万の兵を囮にする」

「人でなしなの⁉ あなたは‼」

「そうじゃな……人間が一万程度いたところで瞬殺じゃろう。あるじが城までたどり着くほどの隙を作ることは不可能じゃ」

 コエダが真剣に答えるので、「そっちじゃない‼」と声を張り上げるフィリシア。


『囮か……それは儂がやろう……』
「――えっ?」
 突然、セイ言うので、全員驚く。

「しかし……龍神は縄張りから出れられなかったのでは⁉」

 コエダの言うとおりだとセイも言う。しかし――

「アヤツも縄張りから出られたのだから、儂にも方法があるはず――ハルアキ?」

 自分の名前を呼ばれ「なんだ?」と思う。

「儂を使役してみないか?」

「……………………えっ、えーーーーーーっ⁉」
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