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第二話 世界最高のAIも案外役に立たないらしい
その五
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フィスがドボルグの思惑に屈しようとしたとき、また誰かが店の中に入ってくる。
しかも、今度は十人ほどの団体だ。トルトにやってくる冒険者ではとても揃えられないほどの高価な装備。それも、同じ武具を揃えている。
フィスは彼らの装備を良く知っている――衛兵のそれだ。
その中で唯一人、段違いにスゴい防具と剣を身に纏った青年がいた。特に剣は妖艶なほど美しい。ここにいる何人かは、それが噂に聞く「魔剣」の一つだと気付いたはずだ。
「ラクシ亭というお店はここでイイのかな?」
「エドワース騎士団長!」
組合派出所の所長はニグレアに居たことがあるので彼を知っている。しかし、これほど近くで見たことはない。思わず声を出てしまう。
所長がエドワースの名を口にしたことでみんなが驚く。ニグレアの英雄が今、目の前にいるのだ。
その中で、一人だけ不愉快そうな顔をする者がいた。ドボルグである。
「ちっ……夕方じゃなかったのかよ……ガセネタ掴まえさせやがって……」
苦々しくそう呟く。
「いったいこの騒ぎは何かな? 私の出迎え……とは思えないが……」
爽やかな笑顔でたずねるエドワース。こういう人間が一番怖い……
「騎士団長……じ、実はこの店に魔石横流しの噂がありまして……」
所長は流れ出る汗を拭きながらそう説明する。
「ほう……それは、穏やかではないですね」
エドワースが応えると所長は少し声に張りが出る。
「そ、そうなんですよ! それで、店の中を調べるとこれが……」
そう言って、先ほどの魔石を見せる。
「これは……見事な魔石だ」
エドワースがそのような感想を口にすると、所長の顔が見る見る血色が良くなる。
「そうなんですよ! それで、これの入手先を聞き出そうとしていたところで……」
「しかし、妙だな?」
「……えっ?」
エドワースが急に怪訝そうな顔をするので、所長の動きが止まる。
「この魔石、魔道具に取り付けられた跡があるようだが……」
そう目視で気付いたことを言うエドワース。
「ココと、ココ……それとココ……何かの金具のような跡があるだろう?」
所長の顔が引きつる。
「み……見間違いでは……?」
所長が汗を拭きながら意見する。明らかに何かを隠している顔だ。
「この形は……そういえば、冒険者組合のクエスト受付ボード――その魔石を嵌め込むための金具に似ていないか?」
「ま⁉ ……ま……ま……まさか……」
完全に狼狽が見える所長に、エドワースは畳み掛ける。
「ちょっと、組合に行って確認してみようか?」
「そ⁉ ……それは、こ……困ります」
「ほう、それは何故かね?」
エドワースは先ほどから全く表情を変えずに質問してくる。やはり、敵にしたくないタイプだ。
「そ……それは……」
所長はドボルグに助けを求めようとそちらの方向に目を向けて驚きの表情になる。
さっきまでそこにいたはずなのに、もうドボルグの姿は無かった。さっさと逃げたのだ。
所長の顔色が見る見る青ざめる。
さすがにこれ以上追い詰めても良くないと覚ったのか? エドワースが助け舟を出す。
「もしかして……手入れのため取り外した魔石を間違って持ってきて、それをこの店にあった魔石だと勘違いしたのじゃないかな?」
まあ、そんな事が起きるわけないのだが、所長はそれに乗ってくるしかない……
「そ…………そうかもしれません……いや、そうです! 絶対そうです。な、お前、そうだろ?」
所長は連れて来た組合の職員に話を振る。
「えっ? あ、そういえば……そうかもしれません……」
「そうだ、そうだ。いやー、さすが騎士団長。見識が高い!」
エドワースは「そうか……」と笑顔で応える。
「お役に立てて良かった――ということは、この店で魔石横流しの証拠は見つかっていない……ということだな?」
「そ! そういうことーに……なりますかな?」
所長の目は完全に泳いでいる。
「しかし、火のないところに煙は立たない……とも言うし、ここは監視を続けるべきだと思うがいかがかな?」
「もちろん……もちろん、そういたします!」
所長はエドワースの言葉通りに頷くだけだ。典型的な小役人である。
「そうか――それでは衛兵……いや、騎士団から人を出させていただこう」
それはそれで困る! 所長の目はそう訴えていたが、もちろん口に出しては言えない……
「いっ……いえ! そこまでしていただく必要は……」
「それはこちらのセリフかな? そもそも、こういった捜査はこちらの仕事だからね。早速、人選を進めよう」
さすがにそう言われると、返す言葉がない。所長は黙り込んでしまう。
これで、なんとかなったな……エドワースは心の中でそう呟くと、店の娘を見る。
「さて、ココの店は何時からやっているのかな?」
「あ……えーと、今日は五時からです」
「そうか……それなら、またその頃に来ることにしよう。良いかな? 可愛いメイドの店員さん?」
「えっ? ええ……もちろん。お待ちしております」
どことなくぎこちない返事をするフィスであった。
事の一部始終を横で見ていたエル達。尾行までして情報集めを行っていたというのに……
「結局、私達の出番は無いまま、事件は解決したようですが……」
エルはハーミットへそのように報告する。
一秒間にゼロが百桁程並ぶ回数の浮動小数点演算を行う元世界最高の電子頭脳はいつものようにダンマリを決め込んだ。
しかも、今度は十人ほどの団体だ。トルトにやってくる冒険者ではとても揃えられないほどの高価な装備。それも、同じ武具を揃えている。
フィスは彼らの装備を良く知っている――衛兵のそれだ。
その中で唯一人、段違いにスゴい防具と剣を身に纏った青年がいた。特に剣は妖艶なほど美しい。ここにいる何人かは、それが噂に聞く「魔剣」の一つだと気付いたはずだ。
「ラクシ亭というお店はここでイイのかな?」
「エドワース騎士団長!」
組合派出所の所長はニグレアに居たことがあるので彼を知っている。しかし、これほど近くで見たことはない。思わず声を出てしまう。
所長がエドワースの名を口にしたことでみんなが驚く。ニグレアの英雄が今、目の前にいるのだ。
その中で、一人だけ不愉快そうな顔をする者がいた。ドボルグである。
「ちっ……夕方じゃなかったのかよ……ガセネタ掴まえさせやがって……」
苦々しくそう呟く。
「いったいこの騒ぎは何かな? 私の出迎え……とは思えないが……」
爽やかな笑顔でたずねるエドワース。こういう人間が一番怖い……
「騎士団長……じ、実はこの店に魔石横流しの噂がありまして……」
所長は流れ出る汗を拭きながらそう説明する。
「ほう……それは、穏やかではないですね」
エドワースが応えると所長は少し声に張りが出る。
「そ、そうなんですよ! それで、店の中を調べるとこれが……」
そう言って、先ほどの魔石を見せる。
「これは……見事な魔石だ」
エドワースがそのような感想を口にすると、所長の顔が見る見る血色が良くなる。
「そうなんですよ! それで、これの入手先を聞き出そうとしていたところで……」
「しかし、妙だな?」
「……えっ?」
エドワースが急に怪訝そうな顔をするので、所長の動きが止まる。
「この魔石、魔道具に取り付けられた跡があるようだが……」
そう目視で気付いたことを言うエドワース。
「ココと、ココ……それとココ……何かの金具のような跡があるだろう?」
所長の顔が引きつる。
「み……見間違いでは……?」
所長が汗を拭きながら意見する。明らかに何かを隠している顔だ。
「この形は……そういえば、冒険者組合のクエスト受付ボード――その魔石を嵌め込むための金具に似ていないか?」
「ま⁉ ……ま……ま……まさか……」
完全に狼狽が見える所長に、エドワースは畳み掛ける。
「ちょっと、組合に行って確認してみようか?」
「そ⁉ ……それは、こ……困ります」
「ほう、それは何故かね?」
エドワースは先ほどから全く表情を変えずに質問してくる。やはり、敵にしたくないタイプだ。
「そ……それは……」
所長はドボルグに助けを求めようとそちらの方向に目を向けて驚きの表情になる。
さっきまでそこにいたはずなのに、もうドボルグの姿は無かった。さっさと逃げたのだ。
所長の顔色が見る見る青ざめる。
さすがにこれ以上追い詰めても良くないと覚ったのか? エドワースが助け舟を出す。
「もしかして……手入れのため取り外した魔石を間違って持ってきて、それをこの店にあった魔石だと勘違いしたのじゃないかな?」
まあ、そんな事が起きるわけないのだが、所長はそれに乗ってくるしかない……
「そ…………そうかもしれません……いや、そうです! 絶対そうです。な、お前、そうだろ?」
所長は連れて来た組合の職員に話を振る。
「えっ? あ、そういえば……そうかもしれません……」
「そうだ、そうだ。いやー、さすが騎士団長。見識が高い!」
エドワースは「そうか……」と笑顔で応える。
「お役に立てて良かった――ということは、この店で魔石横流しの証拠は見つかっていない……ということだな?」
「そ! そういうことーに……なりますかな?」
所長の目は完全に泳いでいる。
「しかし、火のないところに煙は立たない……とも言うし、ここは監視を続けるべきだと思うがいかがかな?」
「もちろん……もちろん、そういたします!」
所長はエドワースの言葉通りに頷くだけだ。典型的な小役人である。
「そうか――それでは衛兵……いや、騎士団から人を出させていただこう」
それはそれで困る! 所長の目はそう訴えていたが、もちろん口に出しては言えない……
「いっ……いえ! そこまでしていただく必要は……」
「それはこちらのセリフかな? そもそも、こういった捜査はこちらの仕事だからね。早速、人選を進めよう」
さすがにそう言われると、返す言葉がない。所長は黙り込んでしまう。
これで、なんとかなったな……エドワースは心の中でそう呟くと、店の娘を見る。
「さて、ココの店は何時からやっているのかな?」
「あ……えーと、今日は五時からです」
「そうか……それなら、またその頃に来ることにしよう。良いかな? 可愛いメイドの店員さん?」
「えっ? ええ……もちろん。お待ちしております」
どことなくぎこちない返事をするフィスであった。
事の一部始終を横で見ていたエル達。尾行までして情報集めを行っていたというのに……
「結局、私達の出番は無いまま、事件は解決したようですが……」
エルはハーミットへそのように報告する。
一秒間にゼロが百桁程並ぶ回数の浮動小数点演算を行う元世界最高の電子頭脳はいつものようにダンマリを決め込んだ。
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