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終章 永遠の幸せ

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~sideクロノス~


 リンに初めて会った時、予感がした。どんな予感だったか忘れてしまったが、私はある場所を目指し、ヒトに化けてリンを待った。


 ずっと待った。


 その場所に必ず現れると信じて待ち続けた。


 長い間待ち続けるには、いろんな身体が必要だった。だから女性に化けたり、子供に化けたり、老人に化たりもしたが、やはり男の自分が一番しっくりきた。


 大きな狼を拾った時もあった。


 そんな事をして長い間待ち続けていると、天から無色の猫の魂が降りてくるのが視え、地上に降り立つとヒトとなった。


 綺麗な魂で、綺麗な無色で、私が染め上げたいと思った。しかし、すぐには声をかけられず、見守っているうちにその猫は衰弱し始めていった。


 あぁ……あの猫が消えてしまう。助けなければ……私があの猫を助けなければ……


「君……」


「……ヒト? お金……おれ、買って」


 買って? 違う。私は君を助けたいだけなんだ。


「これを食べなさい」


「ありがと……身体で、払う」


 パンを与えると、その猫はお礼を言って食べ始めた。そして、パンを与え続けていた数日間、その猫は私をクロと呼び、身体を売ろうとしてきたが、私にはお金など必要ないため、残念ながら持っていなかった。しかし、その猫は服を脱ぎだしてしまった。


 私はパンしか与えられない。


 それでも、この子が望むなら、その魂を染め上げたい。


 私のような真っ黒ではなく、もっと綺麗な色に染め上げたい。


 しかし、その子の迎えが来てしまった。ほんの一瞬、私はその子を引き止めようとしたが、私では綺麗に染められないと思い、死神に連れて行かれるその子を見送った。


 それでも、その子の事は忘れられず、遠くから見守った。


 あの子の探し物はあの死神だったのか。


 あの子はリンという仮名をもらったらしい。凄く綺麗な真っ白な猫になった。


 あぁ……あの子が狙われてしまう。


 死んでしまった。魂だけでも、イルカに届けなければ。


 またあの子が帰って来た!! 


 あの子はあの死神に会いに来たようだ。


 駄目だ。あの子がまた死んでしまう!!


 今度こそは守らなければ……


 これは……私が悪いのか?


 私はあの子が……リンが好きなのか?


 私は恋してしまったのか。駄目だと分かっていても、見守りたい。リンが幸せになるところを見たい。ただそれだけだった……それなのに、リンは最後の生を終えてしまった。


 あ゛ぁぁぁああ゛あ゛!! 私のせいだ!! 私のせいであの子が死んだ!! 私が愛してしまったから!! 私があの子に触れてしまったから!! 私があの子を見つけてしまったから!! 


 あの子の居ない世界など、もう用はない。あちらに行き、眠りにつこう。そうすれば、きっと忘れられるはずだ。


 帰る途中に、あの子と関わりがありそうな狼を二匹拾った。


 でも、あの子はもう居ない。


 早く眠りにつこう。


 深い深い眠り……どのくらい経ったのだろうか。愛しい子……あの子の気配がする。リンの気配がする。


 リン……リン……リン……


 一目だけ……一目だけ……


 あぁ……あの子だ。少し変わってしまったけど、それでもあの子は変わらない。今度こそ……私が守る。ルシアン……お前が私達を隔離するのならば、私は同族殺しをしよう。全ては愛する子の為に。


 気づかれないように、リンの気配がするあの新しい金星に協力した。スムーズに悪魔を捕まえられるよう、私が裏で手を回した。


 リンを魔王にするつもりはない。全員殺す。だが、派手に動いては怪しまれる。リンには気づかれてはいけない。まずは隔離を解除してもらおう。ルシアンは悪魔も魔族も全てヴァルシアに送る気だ。


 あの子が子作りを始めたらしい。子供もきっと可愛いはずだ。元気な子供を生んでほしい。


 あの子が生んだ子供は元気だ。今日もリンを呼んで泣いている。リンはまだ回復しないのか? あぁ、早く回復してくれ。


 あの子が帰ってしまい、残った子供達が悪魔狩りを始めた。私も手伝おう。リンを番になどと考えていた魔族を、あの子供達に狩らせよう。少し弱らせて狩らせれば、きっとリンが子供達を褒めてくれるはずだ。


 こっちの世界では、悪魔も魔族もいなくなった。私の力も少しずつ弱まっている。最後に……あの子に会いたい。リンと話したい。少しだけでいいんだ。


「君が悪魔になれば、リンが悲しむ。取引をしないか?」


「お前は……魔族か? それとも……」


「私はリンと話したいだけなんだ。その代わり、お前が悪魔にならずに、お前の番を殺してやる」


「俺は悪魔にならなければ……陣と一緒に居れない」


「きっと大丈夫だ。リンの番は優しい。私はずっと見守ってきた。もしも番とともに居れなそうであれば、私が交渉しよう」


「……」


「お前はもう、番を殺さなくていい。安心して眠りなさい」


 これでやっと……やっとリンと話す事ができる。


 また私は待つよ。リン、これは予感だ。君は必ずここに来てくれる。


 ほら、もうすぐそこまで……


「(あぁ……やっと会えた。私の愛しい子)」


 リン、愛しているよ。


「バカだね、クロノス。お前は……リンを愛してしまったのか。いつの間にか魔族になんか戻って……」


「ルシアン……君の子は、私が苦しめてしまった。これからは、幸せになれるだろうか」


「あぁ、きっとなれるさ。お前が……土星である君がそれを願ったのなら」


 ならば願おう。このヴァルシアという地で、君の幸せを私は誰よりも願っている。
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