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第六章 加速する愛
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しおりを挟む俺達は五日間、大学の大会を見て大阪に帰って来た。全員がいいなと思った選手は、やはり白雷虎が多く、他にも東京の体育大学にも何名か良さそうな選手が居た。そして今、俺達は母さんを連れて大学に来ていた。
「そろそろ、凛に慣れてくれてもいいと思うの。別に斗季と龍だけでもいいのよ。ただ、いい選手も居るのに、凛に近づけないってだけで、将来を決めるのはどうかと思うんだけど」
「佐良さん、あいつらも慣れようとはしているんです。それでも……正直に言いますと、日に日に凛の色気と獣王としての力が、増していってましてね……あいつらからしてみたら、凛は憧れの存在と同時に、恋愛対象になってるんですよ」
母さんと監督の会話は、ゼンとゼルは勿論聞いていて、恋愛対象という言葉に、俺を隠そうとしてくる。
「なんや、恋愛対象って……どういう事なん?? 凛くんは俺等のやって分かっとるやんな??」
「凛の色気が、最近は更に凄い事になっとるんは分かっとるけどな……恋愛対象はアカンやろ」
「待て待て!! 殺す気か!? 落ち着け!! 凛、番をどうにかしろ!!」
いや、監督が言っちゃいけない事を言ったからだろ。それに、俺は止めれないし……ん??
俺が突然スンッと匂いを嗅ぐ仕草をすると、ゼンとゼルは俺を不思議そうに見てきた。
「凛くん、誰見とんの?? もしかしてアレか??」
俺達は体育館に行く途中だったため、何人かすれ違った人は居たのだが、一人だけ匂いがしない人が居た。それは俺の知ってる感覚で、俺を抱えるゼンは後ろを振り向き、ゼルは鎌を取り出した。
「凛、あいつ??」
「うん。死んじゃう……送ってあげてほしいな」
「了解」
ゼルがすぐに魂を刈り取ると、その人はその場で倒れ、混乱の中救急車に運ばれて行った。こっちに戻ってきてから、何人か送ってもらってるが、学生が殆どだという事実に、悲しくなる時があり、ゼンの胸に顔を埋める。
「よしよし、凛くん大丈夫やで」
「初めて見たが……お前達、ちゃんと水星の仕事してたんだな」
『失礼やな!!』
監督は、俺達がこっちの世界で仕事をしていないと、本気で思っていたのか、驚いた様子でこっちを見てきた。
本当に失礼だと思う。こんな仕事、本当だったらしたくない事なんだし、そんなに頻繁にあっても困るよ。
「悪かった。頼むから、その鎌をこっちに向けるな」
ゼルは、監督に向けていた鎌を戻し、俺の頭を優しく撫でてきて、チュッと軽くキスをしてきた。母さんはというと、一人で体育館へ向かっていて、監督は追いかけるように走って行く。
「凛、大丈夫や。あいつも安心して逝ったようやし」
「ゼル、ありがとう。本当は、ゼンとゼルの方が辛い仕事してるのに……」
「いや、俺等は送った奴等の魂視えとるから、別に辛くなんかないで。正直、知らん奴がどうなっても、あんま気にならんしな。凛くんは優しいから、辛いやろ?? ごめんな、俺等と契約してもうたから……」
「せやけど、俺等は凛を手放すんは無理や。凛が辛いの分かっとっても、凛から離れるなんか、考えただけで暴れてまいそうやわ」
……暴れるのだけはやめてほしい。冗談抜きで、世界崩壊に繋がりかねない。それに……
「俺も離れるなんて無理だよ。ゼンとゼルから離れるくらいなら、消滅した方がマシだ。俺は二人の為に存在するんだから」
「アカン……嬉しすぎて鼻血出そう。凛くんって、ほんまに俺等のこと大好きよな。最近じゃ、閉じ込めたりしとるのに、嫌がったりなんかせんし」
「俺等の方が時々心配になるレベルやで。俺と兄貴だって、軟禁した時はやり過ぎたなとは思うんや。首絞めて気絶させてもうた時もそうやけど、凛は抵抗せんしな。凛が怒れば、俺等はそれに従わざるおえんのに、怒る事もせんし」
「一応心配だったんだ」
『当たり前や!!』
でも、俺にとっても、ゼンとゼルの行動はプラスになってるのに……あれ?? もしかして気付いてない??
「ゼン、ゼル……今更だけど、今の二人の行動が、俺にとっても安心するものだって気付いてなかったの??」
『それほんま!?』
二人は嬉しそうに俺の顔を見てきて、ゼンの腕に力が入り、苦しいくらいに抱きしめられる。そして、それと同時に、二人の大きな声によって、周りから注目され、何故か母さん達を通り越して、ダッシュで体育館の更衣室へと連れて行かれた。
「嬉しい!! どないしよう。嬉しすぎて今すぐに抱きたい!! ずっと悪い事しとるのは分かっとったのに、凛くんが受け入れてくれとるから、エスカレートしてもうたのに」
「凛、こっち向いてや。あぁ……可愛い。こんなん嬉しすぎるやん。凛の事やから、俺等の行動受け入れてくれとるだけやと思っとったのに、凛も安心してくれとったんやったら、もう自慢なんかする必要ないやんか。ずっと隠しとってええやん」
え……どういう事?? 話が見えないんだけど。
「せやな。もう自慢する必要はない。これからは隠しとってもええな。可愛い服は着せたいんやけど、俺等しか見えんようにしてまおうや」
「凛が受け入れてくれとるだけなら、それを自慢したかったんやけど、俺等の行動で凛が安心しとるなら話が別や。バレーの時以外は隠して、閉じ込めて、凛が安心できる環境にしとくんや。隠されて安心するっちゅう事は、隠されとらん状態が不安なんやろ??」
そういう訳じゃ……いや、そうなのか?? んー、言われてみたらそうなのかもしれない。いや、どうなんだ??取り敢えず……
「ゼンとゼルの行動は、守られてる感じがするから安心する。何をしようとしてるのか分からないけど、これ以上みんなに迷惑はかけないようにね」
『分かった!!』
こうして数日後に、俺は意外な方法で隠される事となった。
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