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第六章 加速する愛
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しおりを挟む~sideゼル~
凛が毛布の中で本格的に巣作りを始めると、毛布の中でやっているため普通に見えてしまい、みんな静かにスマホを構える。
可愛すぎるやろ。俺等には何が違うんか分からんけど、服ぐちゃぐちゃにしたり、自分に巻き付けたりして、ソファから落ちそうでヒヤヒヤするわ。
「凛くん落ちそうじゃない?? 大丈夫なのか??」
「今邪魔したら、カイとレイに噛みつかれるで。スイセン、そこやなくてソファの下に座れ」
「カカ様が巣作りしてるなら、番持ちの僕は近寄れない。ユラの匂いついたらカカ様怒る。コウとシュウにそこに座って貰えばいい」
「そっか、俺達は近づいていいんだもんね。熱出てる凛は、デリケートだから兄さん達以外近づけないってイメージが……」
「こうして見ると、本当に猫だよな。なんかゴロゴロ聞こえてくるし」
喉鳴らす程リラックスできとるなら、熱もすぐに下がってくれるか??
洸と愁さんが近くに来ると、凛は少し固まってから、また巣作りを始め、それと同時に服もどんどん乱れてくる。
「凛くん、風邪ひいてまうから、服は直させてや。ゼル、熱はどうや??」
「結構あるな。凛、舌出してみ」
あっついな。今が一番熱あるんやないか??
「かなり熱いで。座薬入れるしかないんやない?? あとは飯も食わんと」
「……座薬かぁ。薬飲んでくれたらええんやけど、さっき吐き出したしなぁ」
「それなら俺がご飯作ってくるよ。ゼン兄さんは凛のだけ作ってあげて」
「凛くんって薬嫌いなの?? 吐き出すって相当だよね??」
凛が寝ている間に薬を飲ませようとしたのだが、今回は兄貴が病院というワードを出した事で、飲み込んだ筈の薬を、拒絶からか無理に吐き出してしまった。今も少し警戒しているあたり、座薬を入れるしかないだろう。
「取り敢えず、俺も凛くんのお粥でも作ってくるわ。ゼル、愁、凛くんとこ見といてや」
そう言って兄貴も凛から離れると、凛は少しソワソワしだして、俺に抱きついてくる。
「愁さん、凛の事は知っとるやろ?? けどな……凛は病気やないと思っとるんや。凛は病院に行きたがらないし、普段は薬も飲まんのやけど、俺等が飲ませて吐き出したんは、今回が初めてなんや」
「そういう事か。凛くんは本当に不思議だよね。ギャップがあるというか……でも、そこが惹かれる所でもあるし」
「俺等も去年はそう思っとったけど、今は凛が甘えん坊なんも知っとるし、考えとる事も分かるようになったから、あんまギャップは感じんくなった。寧ろ周りに誤解されんように、気をつけなアカンくらいや。この家、なんか違和感あると思わん??」
凛の事を愁さんに教えるには、ちょうどいいタイミングだったため、凛の頭を撫でながら愁さんに凛の事で一番注意すべき事を話す。特に熱が出る程、ストレスがたまる場合は要注意だった。
「いや、気になる所はいっぱいあるよ。台所には鍵があるし、お風呂は凛くんが一人で入れないようになってるし、リビングなんて殆ど物は置いてないしね。俺が買う物だって、制限が多かった」
「愁さんも、イルカやったら分かるやろ?? 凛が危ない事せんように、俺等は危険なもんは凛の手の届く場所に置かん。風呂もほんまは普通にしとったんやけど、スイセンの子作りん時に、冬やったのに夜中に冷水に入っとったんや。身体熱い言うてな……危ないやろ??」
「それだと、全部が危ないな。あっちの世界で、ずっとゼンが凛くんを抱えてた理由が分かったよ。それに方向音痴なんだっけ?? ゼンとゼルは、凛くんが可愛くて仕方ないんじゃない?? 世話好きだし」
「せやなあ……むっちゃ可愛い。手が掛かれば掛かる程、かわええと思うし、もっと世話させてほしいと思っとる。熱は可哀想やけど、幼児返りは俺と兄貴にとっては、ご褒美でしかないんや」
俺が凛の猫耳を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らして、俺の服の中に潜ろうとしてくる。
「凛くんの世話は、ゼンとゼルの特権だしな。正直羨ましいよ。でも、こうして共有してもらえてる事は、俺にとってはありがたいし、凛くんも俺を受け入れてくれて、子作りもさせてもらった。殆ど番と変わらない立場は、幸せでしかない。これ以上は望めない」
まあ、その辺は凛も線引きしとるからなあ。熱出とる今なんか、一番分かりやすい。俺か兄貴のどっちかが少しでも離れると、こうしてしがみついて来よるしな。ちゅーか、俺の服ん中で寝とらんか??
「凛くん、飯できたで」
「んぅ……ねむい」
「寝とったんか。凛くーん、飯食べんと回復せんよ」
凛は兄貴に持ち上げられると、眠そうにしながら兄貴にしがみつき、そのまま下りない凛を、兄貴は自分の膝の上に乗せて、お粥を食べさせようとするが、凛はなかなか食べてくれなかった。
「凛くんが食べてくれんと、みんな食べれんで。頑張って食べようや」
「ほれ、冷ましたから食べてみ」
「やだ……薬飲みたくない」
食べたら薬飲まなアカンと思っとるんか。せやけど、熱出たままなんは、凛も辛いと思うんやけどな。
「薬は飲まんでええよ。飯食ったら、自分の部屋で巣作りしてええから」
「ほんとう?? 俺のサメ、もっと匂いつけたいの。ゼンとゼルと洸と愁の服、毎日サメにつける。俺の部屋も、作ったらそのままがいい」
巣は残したいっちゅう事か。服も暫くは、俺等のジャージ着せた方がええんかな。
「分かった。部屋着も、凛くんが着たいもん着たらええし、大学行くんも俺等の着せたるから、サメはそれ以上痛めつけんでや」
凛は納得したのか、俺の持つスプーンを咥えて、お粥を食べ始め、食べ終わった後は俺達四人を自分の部屋へ連れて行き、服や毛布などを一生懸命運んで巣作りを始めた。
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