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第四章 縛りと役目

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 母様が帰って、緊張していた獣組はフッと息を吐き、特にお兄ちゃんと耀は一言も喋ってなくて、同じ狼としては母様との力の差を感じたのだろう。洸はゼンとゼルの眷属になってるし、俺にも枷をつけられているためか、普通にカイとレイのブラッシングをしていた。


「はぁ……キツかった。ユラ……こっちに来て」


 沈黙を破ったお兄ちゃんは、庭で遊んでいたユラを呼び、耀と陣と一緒に俺達に謝ってきた。


「凛様……ごめんなさい。僕、まだ生まれる予定じゃなくて、アイツに引っ張り出された。大学に居たんだ。だからダメだと思った。あの穢れの塊、アイツ等呼ぶ。だから行かせたくなかった。ごめんなさい」


「ユラ、こっちこそごめんね。守ろうとしてくれてありがとう」


「俺等も悪かった。怖かったやろ?? それなのに、凛くんの事守ろうとしとったんよな?? ありがとうな」


「誰にも分かってもらえんくて辛かったやろ?? すまんかったな」


 ユラはボロボロと泣き出し、小さくなって俺に張り付いてきた。


「ユラいいなぁ。僕もカカ様に……小さくなれない。なんで……カカ様。僕……」


 スイセンはだんだん涙目になってきて、甘えん坊のスイセンが大人になっても変わらない事に、安心と笑いが込み上げてくる。ゼンとゼルは既に笑っているが、俺がどうするのか様子を見ている。


「スイセン、大人になっても、小さくなったらおかしいでしょ??」


「うぅ……嫌だ。カカ様、僕……大人やだあぁ」


「あははッ!! スイセン、別に小さくならなくても、俺が抱きしめてあげるよ」


 スイセンが案外普通に泣きだし、思わず笑ってしまったら、一斉にシャッター音が聞こえてきたが、無視してスイセンを抱きしめてやると、スイセンは俺に顔をスリスリとしてくる。


「ユラ、俺達は帰るぞ。凛が好きなのは分かったから、甘えるのも程々にしないと」


 静かに泣くユラは、陣が泣いている時に似ていて、トボトボと陣の所へ行き、祐希さんと剛さんと天城さんも、陣達と一緒に帰って行った。


「ゼン、ゼル、あれほど漫画を読んでみろと言ったじゃないか。僕達がルシアンに怒られたんだが」


「勇者も知らないって有り得ないわよ。頭いいんだから、詰め込めるだけ詰め込むわよ。それと、ここなら普通に魔法を使えると思うから、庭で軽く練習でもしなさい」


「凛、貴方は……やめた方がいいわね。やらかしそうだわ」


「凛、こっち向いて!! 可愛い!! もうずっと会えなくて、パパ心配したんだよ。凛の為に仕事も辞めてきたからな」


 お義父さん、お義母さん、母さん、父さんの順で話していくが、明らかに父さんだけ話がずれている。


「あれ?? 母様、天井の穴直してくれたんだ。空まで穴空いててビックリしたけど、あれはあれで良かったのにな」


「ほんまにあれはビックリやったな。あんなのがあっちは普通なんか?? 凛くん守るので精一杯になりそうやな」


「そしたら俺等、当たったら即死やんか。あっち行くとか無理やない??」


「大丈夫よ。あれはルシアンが規格外なだけ。ゼンとゼルも知識がついたら、出来そうで怖いわね。凛も知識だけリュカに教えてもらいなさい。それとレオから言われてる、こっちでの役目だけど、スポーツを流行らせる事、精神的に強い者を育てる事。だからゼンとゼルと凛には協力してもらってるのよ。こんな役目がなければ、凛をわざわざ目立たせる必要はないもの。そしてこっちでの水星の役目は、自死する前に魂を送る事。リンの役目はゼンとゼルをそこに案内する事。死の匂いを覚えなさい……自死した魂は彷徨い、穢れとなって生者を引き摺り込もうとしたり、自然を壊したりするわ。穢れは神獣にしか視えないし祓えないのよ。スイセンとユラにも、そのうち協力してもらう事になるわ」


 死の匂い……俺はもう分かる気がする。だって、自分があれだけ繰り返したから……だから分かる。匂いがしないんだ。どれだけ血が流れようが、苦しかろうが、いつも無臭だった。


「凛くん、大丈夫か?? 佐良さん、それって常に探さないといけないんです??」


「探さなくていいわ。ただなんとなく、分かるんですって。普通に生活する中で、気付いたらでいいわ。ただ天界に戻れば、定期的に探しに行ってもらうのだけど」


「凛、大丈夫なん?? 匂いなんて、獣にとって大事やろ??」


「大丈夫だよ。俺は知ってる……死の匂いは無いんだって。そこに残るのは無だ……俺は役目を果たすよ。ゼンとゼルの番だからね」


 死神と猫の契約だ。案内するのが俺達猫の仕事。番じゃないと、俺はこんな契約出来ないな。


「ゼン、ゼル、凛ちゃんなら大丈夫よ。それに、大鎌が身体をすり抜けるだけだから。肉体から魂を剥がしてあげるの。これは本当に大事なのよ」


「分かった。それなら凛くん、道案内……あれ?? 凛くんに道案内してもろて大丈夫か??」


「大丈夫やないやろ。全部同じ道としか思っとらんぞ。アカンのやない?? 凛の道案内は心配すぎる!!」


「失礼な!! 大丈夫だよ……なんとなくで行ける筈だから」


 その瞬間、俺以外の全員が不安そうに俺を見てきて、洸とスイセンにも疑いの目で見られてしまった。





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