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第二章 新しい生活
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しおりを挟む「凛くん何食べる?」
「んー、ゼンさんは何にするの?」
「俺はいつも日替わり定食やな」
「んじゃ俺は、サンドイッチでいいかな」
一回普通の食べたけど、量が俺には多すぎて吐きそうだった。
「凛くん少食やもんなあ……なんか少なめの頼んどくかあ」
サンドイッチのボタンを押しながら、ゼンさんは何かブツブツ言ってたが、何を言ってるのかは全く聞こえなかった。
昼休憩を終えた後は、試合形式で練習をしているところを、またメモしたり、タブレットで動画を撮ってみたりして、19:00には終わって帰る準備をする。
「母さん、昨日はありがとう。あと中学の頃も……いつも母さん、俺の心配してくれてたから」
「何よ、いきなり。親なんだから当たり前よ。それよりもゼン達の両親にお礼を言うといいわ。それじゃ、また明日ね」
なんでゼンさん達の両親?
「ねえ、ゼンさん。今のって?」
「ん? ナイショや!! 今度会わせたるから、そん時までのお楽しみ」
そう言って俺の目元にキスをするゼンさん。目元は初めてだったけど、外だから気を利かせてくれたんだろう。
そこからの帰り道は熟睡で、起きた時にはリビングのソファに、ぬいぐるみに抱きついたまま、寝かされていた。
「ゼンさん?」
あれ、居ない。ゼルさんも居ないし、どこだろ。
俺は部屋中を探し回ったが、二人は何処にもいなくて、静かな部屋で一人という事に、不安が襲いかかってくる。
「う……ゼンさん。ゼルさん……ゼン、ゼルどこ」
ぬいぐるみを抱きしめて、パニックにならないように我慢していると、外にいるのではないかと思い始めて、鍵を開けて外へ出た。個室のエレベーターは怖かったため、階段を使いマンションを出るが、やはり何処にも居ない。
「ど……どこいるの。はぁ、はぁ……駐車場」
だんだんと過呼吸気味になってくる呼吸。震える手でぬいぐるみを握って、精神を安定させるようにするが、呼吸は浅くなっていくばかりだ。
「ゼンの車、あるけど……どこ」
パニックにならないように抑えた結果、過呼吸で酸素が回らなくなり、俺はその場に倒れ込んで意識を手放した。
ーーーーーーーーーーーー
~sideゼンとゼル~
「なんで俺の部屋なんや。ホテルにでも泊まっとったらええやんか」
「ホテル代が浮くからに決まってるじゃない。それに私は凛に早く会いたいのよ」
ゼルが学校から帰ると、自分の部屋に母親が居て、勝手に寛いでいた。そして明日の東京でも会議の為に、泊まるのだと言ってきかず、ゼルはゼンの部屋に退散すると、熟睡している凛を抱いているゼンが帰ってきた。
「兄貴、今オカンが俺の部屋に来とるわ。明日の会議で泊まるんやと」
「別にええやんか。どうせお前こっちに居るんやろ?」
「いや、それだけやなくて、凛にも会いに来たらしいわ。今会うんは、大丈夫なんかなと思ってな」
(ほんまうちのオカンは、タイミングがいつも悪すぎや。凛くん、大丈夫やとは思うけど、オカンの事やからベタベタ触るやろな)
「佐良さんから中学ん時の事は、聞いとるやろから、今の状況説明するしかないやろ」
ピンポーン
部屋のインターホンが鳴り、出てみたところ、どうやら母親だったらしく、ゼルが外に行くと、二人とも呼び出されてしまい、寝ている凛を起こすわけにもいかず、ソファに寝かせてゼルの部屋へ行った。
「ゼンも来たわね。涼子から連絡もらったわ。今の凛くん、大変なんでしょ? あなた達だけで大丈夫なの? ゼンは大丈夫だと思うけど、今は大事な時でしょ? あっちはジョンに任せておけばいいから、私はこっちに居た方がいいんじゃないかしら」
(オカン、それ自分の為やろが。近くてBL見れる思っとるやろ。バレバレや。はよ終わらんかな、この語り。凛が起きたらどないするんや。またパニックになってまうやろ)
(アカンな。これずっと続くタイプのやつや。凛くんがそろそろ起きてもおかしくない。さっさと帰らんと)
ゼルの思ってる通り、ただ仕事から逃げたいのと、BLを見守りたかっただけだったが、その話はなかなか終わらず、流石にどっちかは帰らないと危ないと思ったゼンは、急いで自室へ行く。しかし、ソファに凛の姿は無く、どこを探しても見当たらない。
「ゼン、凛くんが居らん!! 外行ってもうたかもしれん!! はよ探せ!! オカンもや!!」
ゼン達の母親も、流石にやばいと思ったのか、一緒に外を探しまわり、ゼンは自分の車の方に行ってないかを確認しに行く。
(暗いとこに行くとは思えんけど、俺等の事探してたんやと、車に行ってそうや)
スマホのライトをつけながら、ゼンは自分の車のところまでいくと、その傍で裸足の状態で、気を失って倒れている凛を見つけた。
「凛くん!! 頭は……ぬいぐるみがクッションになったか……ゼル、凛くん居ったで。オカンに言って佐良さんに連絡とってもろてや。気ぃ失って倒れとったって正直に話せよ。頭は打っとらんから、俺は部屋に連れて帰るわ」
(凛くん……良かった。良かった見つかって。はよ見つけられんでごめんな。一緒帰ろな)
ゼンは凛が見つかって安心した事により、張り詰めていた糸が切れたように涙が流れ、凛の顔に落ちる。
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