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第一章 出会い

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 目を覚ますと、ちょうど昼頃で、少しダルい身体を起こした。


 あれ……俺……スマホスマホ!!


 スマホを開くと、日付が変わっていて、ゼルさんとゼンさん、他にも風狼のみんなから連絡がきてた。


「これから試合……時間は11時30分って事は、まだ始まって30分くらいか? 間に合うかな」


 俺は慌てて、ダルい身体を無理矢理動かし、着替えを始めると、部屋の扉が急に開いた。


「え……なんで。ゼンさん試合は!?」


「俺は今日メンバー入っとらんから、佐良さんの代わりに凛くんの世話頼まれたんや。まさか大会に行く気だったんか?」


「うぐっ……」


 だ、だって見たいじゃんか。試合出れないなら応援くらいしたいって思うし、火獅子の試合は見たことないから見てみたい。


 すると、ゼンさんはいきなり俺のおでこと首元に手をやって、溜息をついた。


「しゃーないな、連れてったるわ。でも風狼の誰かに見つかったら、その時点で帰るで」


「っ!! ありがとうございます!!」


「ふぐぅっ……そんな顔ズルイやんか。凛くんまだ熱っぽいんやから、あったい格好してき。俺部屋の外で待っとるから」


 そう言ってゼンさんは、少し顔を赤くして部屋から出て行った。


 なんか顔赤かった? 俺の風邪うつ……いや、俺のは風邪じゃないんだった。暑いのかな。


 俺はまだ少し寒気がしたため、薄手のパーカーを羽織り、フラつきながら部屋をでて、軽く顔を洗って歯を磨く。


 なんかサッパリしてるな。陣が昨日風呂に入れてくれたのか?


「まだ少しフラついとるな。手ぇ繋ぐか、俺に抱かれるか、どっちいい?」


 ニヤッとしながら、覗き込んで聞くゼンさんは、俺で遊んでるなとすぐに分かる。


「手でお願いします。流石に抱っこは恥ずかしい」


「んー、じゃあ危ないから、車まではこれで行くで」


 すると俺の身体がふわっと浮き、まさかの姫抱きされてしまった。


 うー、恥ずい。けど、俺の我儘聞いてくれるんだ。これくらい我慢だ、我慢。


「凛くん軽いなあ。スパイクとっても、よう倒れんわ」


「あれにはちょっと秘密があるんですよ」


 姫抱きされたお返しに、わざと人差し指を立てて口元に持ってくる。そして上目遣い。


 これは完璧じゃないか!? 自分がやってるって考えるとキモいけど、ゼンさんならあざとくても仕返しになるだろ!! どうだ!!まいったかっ……うぐぇ


 調子に乗ってると、いきなりゼンさんの腕に力が入り、キツく抱きしめられる。


「凛くんそれわざとやんな? 俺んとこ誘ってるん? 誘ってるんよな? よし、ベッド戻ろか~」


「いやいやいや、ごめんなさい!! もうしませんっ!! だからお願いします!!連れてってください!!」


「ベッドにってことやろ? だから、連れてったるって」


 やばい。どうしよう、どうしよう。俺はベッドじゃなくて体育館に行きたいんだよ。


「凛くんが、チュウしてくれたらなあ、今すぐにでも会場連れてったるんやけどなあ。でもまだ俺の片想いやしなあ」


 絶対わざとだ!! それはずるい!! 俺キスなんかした事ないぞ!! ……いや、待てよ? どこって言ってないから、手とかでもいいんじゃないか?? ちょうど俺の事抱っこしてるから、目の前に手があるし……や、やってみるか。


 スラッとした長く、少しかための指に、ちゅっと軽くキスをした。恐る恐るゼンさんの方を見上げると、思った以上に顔を赤くして驚いている。


「そ、それはアカン!! 指て!! なんで指選んだん!? せめて手の甲にしてや!! ほっぺとか手の甲より、やたらエッチやんか!!」


 うげっ、そうなの!?でもこれで連れてってくれるんだよな?


「今回は我慢したるから、付きうたら覚えとき。会場着くまで、凛くんの特等席で大人しくしといてや。はぁ~、凛くんとると、心臓もたんわ。俺そのうち爆発してまうんやないか?」


 俺は助手席に乗せられて、ついでにフードも被せられた。


 なんかこの車の匂い落ち着く。ゼンさんの匂いだ。


 リラックスしてしまった俺は、会場に着くまで熟睡してしまい、ゼンさんに優しく起こされた。


「凛くん着いたで。身体の調子どない?」


「ふあぁ……ぐっすり寝れたぁ。まだダルいけど、ゼンさんにくっついてたら大じょ……すみません寝ぼけてました。忘れて下さい」


 やばい、やらかした。何寝ぼけてんだ俺!! 熱あるからって、さっきからおかしいだろ!! しっかりしろ俺!!


「忘れるわけないやんか。可愛すぎるッ!! 本調子やないならしゃーないやろ? そら、おてて繋ごなあ」


 完全に子供扱いされてる。恥ずかしすぎて、ゼンさんのとこ見れない!!


 身体がフラつくため、素直にゼンさんの手を握って中へ入り、ギャラリーへと向かう。ゼンさんは騒ぎにならないように、念の為マスクとメガネをかけていて、俺もマスクをつけて、フードは被りっぱなしだ。


「あ……今から2セット目だ」


「1セット目は25-19か。凛くん抜きにしては、頑張ったやんか。負けとるけど。次のセットとらんと、確かインハイ予選は春高とちごうて、決勝は3セットマッチやったよなあ?」


「そうですね。春高予選は5セットマッチですけど、インハイは次でどうなるのか……」


「まあ、見ときや。あいつ等凛くんらん時も、案外やれてたんやで。凛くんは、自分抜きの試合は見た事なかったよな?」


 そういえば、見た事なかったな。これはもしかしたら、いい経験になるかもしれない。ちゃんと見ておこう。


ピー


 ホイッスルの音が鳴り、2セット目の試合が始まった。
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