10 / 361
第一章 出会い
10
しおりを挟む「すまんが先生か、コーチはいるか??」
「え、あ、はい!! 少し待っててください」
待て待て待て!! 何するつもりだこいつら!! ここバレー部だぞ。
「お、ヤン先じゃん!! どったの?? というか誰その子等」
「鹿島、お前エースだったよな?? スパイク打ってくれねぇか??」
「それ選択肢俺に無いじゃんよ。ヤンキー怒らせっと怖えんだから」
この人エースなのか!! なんかすっごいお調子者感するんだけど……でもこういう人の方が凄い選手だったりするんだよなあ。
「佐良先生、ボールの次はうちのエースですか?? 流石に貸せませんよ」
「おう!! 新開先生、ちょーっとスパイク一本打ってもらえればいいんだよ。うちの息子に向かって一本だけ本気で打ってもらえればな」
そう言って父さんは俺の肩を掴んで前に出した。
「息子ですか?? 確かに顔は似てるような……」
「そうそう、この二人双子で俺の可愛い息子なんだわ。そんで、うちの凛にスパイク打ってもらいたいんだわ。レシーブの瞬間をカメラに収めるためにな!!」
ワハハと一人で笑っているが、俺は頭がおいつかないし、バレー部顧問とエースの人は、ポカンとしている。
「いいんじゃないの?? その子が鹿島のスパイク、一本で拾えるとは思えないけど、あっちは一本って言ってるんだから」
うわ!! さっき遠目から見てたリベロの人!! ……だよな?? 身長高いな。
「一本で十分だ。まあ、凛を狙って打てないってんなら仕方ないけどなあ」
「は!? おっさん今なんつった!? 俺ができないとか……できるに決まってるわ。それより拾えなくても知らんからな」
うぇ~、待って。俺無理なんだけど。父さん下手に喧嘩売らないでよ。俺なんも言ってないのに睨まれてるじゃん!!
「あう……す、すみません。うちの父が困らせてしまって。あの……俺拾えないと思うんで、わざわざエースの方じゃなくても……」
「いいや、売られた喧嘩は買わないとな。それにお前は拾えなくてもいいじゃんか。あっちは写真撮りたいだけなんだろ?」
あー、はい。そうですね!! もういつも通りにしますよ!! 俺どうなっても知らないからな!! 主に父さんが……
顧問の先生を放ったらかしにし、俺はコートに一人立って、向こう側はエースとセッター、それと球出しの人が居る。
うへぇ~、こんな大人数に注目されてると、なんかやりづらい。でも、コートに一人っていうのはなんか……寂しいような、動きやすいような。
「そんじゃ一本よろしくなあ!! 凛頑張れよ~。こっちは写真撮るのに必死だから」
そこは寧ろ要らないだろ!! というか写真を何に使うんだ!!
ボール出しの人がバレーボールを手に取る。
俺は深呼吸をし、スパイカーの体の向き、セッターの姿勢を確認し集中する。
ボールはセッターへ渡り、セッターはレフトへオープントスをあげる。綺麗に吸い込まれるようにして、エースへとボールがいく。
あぁ、この感覚……凄い好きだ。この後に俺の期待してるボールがくると思うと……ニヤけるのを抑えずにはいられない。
スパイカーの身体の向きは、少しバックセンター向きのクロス。ボールを打つ瞬間、少し肩が内に入り手がクロスへと向く。
ん……これ少しズレるな。
走り出しと同時に放たれるボールは、俺の真正面にくる。
これはいつもよりボールころさないとだ。
俺の腕にきたボールは重たく、スピンがかかっていて、少しの痛みがくる。それでも、弾かれないよう少し腰を落とした後に、腕の向きと肩の位置を変える。
重たい筈のボールは静かに、そして綺麗に居ない筈のセッターの位置へと、スピンを緩やかにして返っていく。
あぁ、この瞬間が俺は一番好きだ。
「ありがとうございました。父さんと陣はちゃんと撮れたの? 早くバレー部の人達に謝ったら、あっちに帰るよ。もう迷惑かけるなよ??」
「凛~!! やっぱり俺の息子!! 綺麗だ!! あ~、写真撮りたさとはいえ、ちょーっと見せすぎたかな。みんな放心状態だ。じゃあバレー部はありがとうな~!! 敵になる風狼リベロの、綺麗なレシーブ見せたから、これでチャラなあ」
おい!! 父さん何バラしてんだ!!
「父さん、家に帰ったら印刷手伝って」
「当たり前だ、陣!! パパも持ち歩こうかな~、ねぇ凛いいよね」
「もう好きにしろ!! 」
その後、練習を終えて家に帰った陣と父さんは、母さんも混ぜて俺の写真を選んで印刷していた。
本当にやめてほしい。それ額縁に入れてどうするのか聞いたら、ベンチに置くって言うから、尚更最悪だった。知らずに、好きにしろと言ってしまった俺も悪いが、陣と父さんは勿論、母さんまで飾ると言い出し、恥ずかしさでいっぱいだった。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
221
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる