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第一章 出会い
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しおりを挟む「りーん、学校行かないのか??」
とうとう東高……いや、もう西も東もなくなったのか。風狼高校へ行く日となってしまった。が……無理だ。手が震えて仕方ない。吐き気もある気がする。
「い……行く。けどまだ早いんじゃ」
「凛、俺達は二卵性でも双子だぞ。凛が表情に出さなくても、無理な事くらい分かる。気持ち悪いのか??」
素直に頷くと、陣はフッと息を吐いた。
「今日俺が様子見してくるよ。凛の事は説明してあるし、前の先生達が変わるわけじゃないからな。しばらく様子を見ると伝えておくよ」
「ごめん。ありがとう陣」
「ん!! じゃあ行ってくるな。あと気持ち悪くても少しくらいは食べろよ?? 母さんには凛が食べれそうな物作ってもらっておくからさ」
「うん。いってらっしゃい」
陣が俺の部屋を出て少しすると、母さんが部屋に入ってきて、横たわる俺の頭を撫でてきた。
「凛、また震えてるの?? 大丈夫よ、大丈夫。心が少しだけ疲れてしまったのよ。凛は本当にバレーが好きなのね。そうだ、母さん今日は仕事休んだの。だから対人でもする??」
「……うん、する。でもスパイク高めに打って。母さんいつも強すぎる」
「あはは!! ごめんごめん、今日はちゃんとするわ」
母さんはバスケの反面コートになっている、うちの庭に行くと、袋に入ったバレーボールを出す。
「母さんと対人するの久しぶりだ。俺あんまり動けないと思うから、手加減してよ」
「大丈夫!! 陣と一緒で、隠れて走り込みしたり、壁打ちしたりしてるでしょ。ほんと双子なんだから、お互い気付いてるはずなのに、気付かないふりして不器用なんだから」
双子双子っていうけど、母さんも大概俺達の事をよく見てる。母さんはやっぱり、こういうとこ母親だよな……こんなに外見も中身も男前なのに。
ちなみに陣は母さん似で、俺は父さん似なのに、種目は逆だ。父さんは転勤族である高校の教員。今は火獅子高校の国語教師で、バスケ部の顧問だ。母さんはなんとVリーグチームの監督だ。
「母さん仕事本当に大丈夫なの?」
「そうね~、あと少しで試合だから……そうだ!! 凛は学校に暫く行けないでしょ?? 母さんの仕事姿見にこない? 母さんきっとカッコいいわよ!!」
いや、絶対怖いよ。母さんバレーになると怖いんだから。でも何故か昔から俺には優しかったな。やっぱり息子だからなのかな。
「分かった。球拾いくらいはするよ。それと母さん……さっきからどんどん真下に打ってるし、いつの間にか母さんしか打ってない。それと強くなってきてるから」
「あら、ごめんごめん!! つい凛とやってるとね……強くなっちゃうのよ」
喋りながら対人をしていたが、いつの間にか俺が拾うばかりで、母さんは俺にスパイクを打ち続けていた。
俺はそんな母さんにため息を吐いたが、正直ありがたかった。だってVリーグチームの練習を間近で見れるなんてそうそうないからからだ。因みに母さんは、Vリーグでは日本初の、男子バレーの女性監督だ。
そして翌日、いつも通りの時間に起きると、陣が俺の頭を撫でてきた。
「凛は今日から母さんのとこだろ? 楽しんでこいよ!! 俺も放課後は父さんのとこに行ってくるから、お互い部活としてじゃなくても、スキルアップ目指そうな」
「そうだな。部活は夢があるけど、俺はこれでいいかもしれない。母さんのサポートというか、雑用でもしてるよ」
俺はバレーボールをやってる空間にいれるだけでいい。陣は父さんのとこに行くなら、転校も考えていいと思うし、あいつがバスケをしてくれるなら、俺はそれだけで満足だ。
陣が学校に行った後、俺は母さんのチームが練習している体育館へと向かった。場所は東京、オディンズファルコンというチーム名だ。
あぁ、この体育館の匂い。これが大会になるとまた匂いが変わるんだ。
「おはよう、アップどこまで終わってる??」
『はよざいまーす!!』
チームメンバーは、全員母さんの前に整列した。俺は邪魔しないよう、会釈だけしてギャラリーへ向かおうとすると、母さんに首根っこ掴まれた。
「こ~ら~!! どこ行くの。凛の事紹介しないといけないでしょ。会釈だけして上で見てるつもり?? きっちり働いてもらうからね」
「う……はい。佐良凛です、ボール拾い頑張ります。よろしくおねがいします」
全員ポカンとしているが、俺は挨拶を済ませたので、軽いアップをしてくると母さんに伝えた。
「佐良さんの息子さんですか?? いつも自慢してるアノ!?」
「リベロでしたっけ?? 佐良さんがベタ褒めするから気にはなってたんだよなあ」
「いや、しかし今ボール拾いって……」
なんかあっちは賑やかだなあ。でも母さんは……あれ怒ってるよな。
「あんた達、いい加減にしなさい!! 凛の事は放っておていて。これであの子が悪化したらタダじゃ済まさないわよ」
『は、はいー!!』
「でもさ、佐良さんって親バカだろ。それに辞めた奴なんか、所詮はそれまで。どんなに上手かろうがそれ以上はないな。放っておけばいいだろ。邪魔さえしないなら球拾いでもやってりゃいいんだ。辞めた奴にはお似合いだろ」
「弘隆、お前もう今日は帰って。あぁ違うわね。あなたはうちのチームにいらないわ。移籍は断るから、さようなら」
「馬鹿だね弘隆。佐良さんは確かに……確かに!! 親バカだけど、嘘はつかない人だよ。それにお前お試し期間中だから知らないだろうけど、あの子……」
「愁、親バカを強調しすぎよ。それにコレの事はもういいわ。そういう心ない奴がいるから、あの子がダメになっちゃったんだもの」
「まあそうですね。じゃあ弘隆、バイバイ! 何処かのチームに行くなら敵同士、手加減は無しだ。俺も怒ってるんだよ」
よし!! アップ終わり……あれ? 一人帰るのかな?
「母さん、アップ終わった。あの人は?? 具合悪いのか??」
「ん?? 誰の事?? それより対人やるからおいで」
「いや、俺ボール拾いだしこんな凄い人の中で、対人なんてできないから。迷惑になるだろ」
俺の手を引く母さんは、ネット際を陣取りボールを投げてきたので、反射的にレシーブしてしまった。そこからはいつも通り、母さんと喋りながらの対人。というか、一方的に打たれ続けてる。
なんかさっきから視線が気になるな。
「佐良さん、凛くんと対人させてもらえますか??」
俺と母さんの話し声と、ボールの音しか聞こえない中、落ち着いた声質が響いた。
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