異世界から来た馬

ひろうま

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第5章 期待

第26話 アイテムボックス その1

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◆Side アイリス◆
「ここは……。」
馬運車が開いた時、私は思わず声を出してしまった。
ちょっと焦ったが、乗馬クラブの人達はまだ外にいるから、今のは聞こえなかったはず。
私は大人しく、シメイが降ろしてくれるのを待った。

入れられた馬房は、前の競技会の時と違って隣の馬房との間には壁があった。
これなら、多少落ち着ける。
「アイリス、お疲れ様。また、後で来るね。」
「……。」
シメイはそう言って、去って行った。
今は他の人たちがいて話ができないから、機会を待つのだろう。

私は、蹄の音に目を覚ました。
どうやら、少し眠っていたらしい。
馬運車の移動で疲れていたようだ。
今回は、前の競技会のときより移動時間が長かったし……。
馬房から顔を出して見渡すと、馬達が少しずつ人に引かれて出て行っていた。
これから、運動するのだろうか?
そう思っていると、シメイがやって来た。
リンさんも一緒だ。
「散歩に行こうか。」
「……?」
散歩?運動じゃなくて?
そう聞きたかったが、声を出す訳にはいかない。
「今日は運動はなしで、この場所に慣らすために散歩させて来ますね。」
「そうね。」
シメイはリンさんに向かって言ったが、恐らく私に説明するためだろう。
わざわざ、ここでリンさんにそれを言う必要はないはずだから……。

シメイは、私を馬房から出すと、人がいない所まで連れて来た。
「ここなら大丈夫かな?アイリス、どうかな。」
「そうね。ここは、明らかにいつもの所と違うわ。」
「ということは!」
「恐らく魔力が高いんだと思う。私の力が上がってるをのを感じるわ。向こうの世界ほどじゃあないけど……。」
「そう……。魔法は使えそう?」
「テレポートとかは無理そうだけど、アイテムボックスからお金を取り出すくらいはできるかも知れない。」
「そうなの!?」
アイテムボックスは、収納する時に多くの魔力を使用するのだが、取り出す時はそれほどではない。
「ええ。でも、今は私のMPが回復してからね。」
「そうなんだ……。」
この世界では、自分のステータスを見ることができない。
ここなら見ることができるかも知れないと思ったが、今のところ無理だ。
しかし、感覚的にMPが回復しつつあることを感じる。
MPが最大まで戻れば、向こうの世界と同じことができると思うが、この場所ではそこまで回復するのはすごく時間がかかると思う。
向こうの世界でも、街中とか魔力の少ない場所だと、そこにいる間にMPを最大まで溜められなかったのだ。
「明日になれば、できるかも知れないから、やってみるわ。」
「お願いするよ。」

◆Side 紫明◆
「アイリス、お疲れ様。また、後で来るね。」
「……。」
競技会会場に着いたときから、アイリスがそわそわした様子を見せていた。
これが普通の馬なら、慣れない場所だから落ち着かないのだろうと思うところだが、アイリスはそういうことはないはずだ。
だから、アイリスのこの様子は魔力を感じてのことなのかも知れない。
早くアイリスと話がしたいが、ここでは人目があるからできない。
それに、先ずは荷物の整理等することも多い。
僕は、逸る気持ちを抑えて、作業に戻った。

作業が一段落着いて、スタッフ達は馬を運動させる準備を始めた。
「アイリスは運動させないの?」
スタッフ達を眺めていた僕に、林藤先輩が声を掛けて来た。
「はい。今日は休ませて、少ししたら散歩しに行こうと思っています。」
「そう……。もしかして、アイリスと話がしたいの?」
「は、はい。」
さすが、先輩だ。
先輩には、アイリスをこの競技会に連れて来た目的を話していない。
しかし、先輩は僕が急に競技会に出たいと言った理由が何かあると思っているようだ。
「アイリスは、運動するものだと思っているかも知れないから、それを説明した方が良いわよ。」
「でも、そんなことをしているのを人に見られたら、怪しく思われないですかね?」
「じゃあ、私に話している振りをすれば良いわ。」
「え?」

「散歩に行こうか。」
「……?」
アイリスは、何か聞きたそうな様子を見せた。
先輩の言った通り、運動するものだと思っていたのだろう。
「今日は運動は無しで、この場所に慣らすために散歩させて来ますね。」
「そうね。」
僕は、打ち合わせ通り、先輩と話している振りをした。

僕は、アイリスを連れて人がいない場所までやって来た。
ここは、斜面の近くで、見晴らしが良い。
ただ、馬を連れて来るのはちょっと危険だ。
僕も、アイリスでなければ、ここには連れて来ないだろう。
「ここなら大丈夫かな?アイリス、どうかな。」
僕は期待を込めて、そう聞いた。
「そうね。ここは、明らかにいつもの所と違うわ。」
「ということは!」
「恐らく魔力が高いんだと思う。私の力が上がってるをのを感じるわ。向こうの世界ほどじゃあないけど……。」
やっぱり、アイリスの様子が違ったのは、そういう事だったんだ!
思わず興奮しそうになるが、ここは落ち着いて話を聞く必要がある。
「そう……。魔法は使えそう?」
「テレポートとかは無理そうだけど、アイテムボックスからお金を取り出すくらいはできるかも知れない。」
「そうなの!?」
あ、思わず叫んでしまった。
見回したが、人に聞かれたりはしなかったようだ。
「ええ。でも、今は私の MPが回復してからね。」
「そうなんだ……。」
MPとか、本当にゲームみたいだ。
僕はゲームはあまりしないが、少しだけならRPGもやった事はある。
「明日になれば、できるかも知れないから、やってみるわ。」
「お願いするよ。」
ゲームでも、宿屋に泊まったらHPやMPは回復したな……。
僕は、そんなどうでも良い事を考えたのだった。
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