異世界から来た馬

ひろうま

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第2章 心境の変化

第10話 すれ違い

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◆Side アイリス◆
「アイリスは、上手い人に乗ってもらいたいんだよね。」
「え?ええ。」
「僕は未熟だから、乗せたくないだろうと思って……。」
私はハッとした。
確かに、私は最初シメイに会った時に、この世界に来た目的はレベルが高い乗り手を求めていることだと説明した。
彼は、私の望みを叶えるため、自分は乗らないという選択をしたのだ。
私は彼に申し訳ない気持ちを感じると共に、彼の優しさを噛み締めた。
そして、ずっと感じていたモヤモヤの理由がわかった……私が本当に乗せたいのは彼なのだと。
「シメイ、私はあなたにも乗ってもらいたいんだけど……。」
「アイリス、無理しなくて良いよ。」
駄目だ。私が同情の気持ちで乗せてあげると言っていると思われている。
今これ以上言っても逆効果かも知れない。

~~~~~~~~~~
翌日、いつもシメイが来る時間になっても、彼は現れなかった。
不思議に思いながら馬房から顔を出していると、男の人と女の人がやって来た。
女の人の方は、私がいつも乗せている人だ。
二人は私の馬房の近くに来て、話し始めた。
「アイリスは、どうしますか?」
「そうだな。今日はシメイは休みだからな。アイリスは昨日も運動しているし、今日は休みでも良いんじゃないか?シメイも明日には来れるかも知れないし。」
今日はシメイは休みらしい。
でも、明日には来れるかも知れないというのを聞いて、ちょっと安心した。
「そうですね。わかりました。でも、シメイが風邪を引くなんて珍しいですね。」
「最近、あいつは頑張り過ぎたんだろう。アイリスの世話をする時間を作るために、休憩を惜しんで作業してたし、休みの日でもアイリスの手入れには来てたしな。疲労が溜まったところに、急に寒くなったもんだから、やられたんだろう。」
シメイが私のために無理をしているなんて……。
凄く申し訳無い気持ちがする。
「彼には無理しないように注意したんですけどね……。彼は、アイリスのこと大好きだから。」
「そうだな。」
シメイが私のことを好き?
私は、それを聞いてドキドキした。
「アイリスも、シメイのことが大好きみたいですよね。シメイがいつもの時間に会いに来ないだけで、こんなにソワソワするなんて……。」
「……!」
危うく声を出すところだった。
今まで気付かなかったが、もしかしたら私もシメイのことが好きなのかも知れない。

~~~~~~~~~~
「アイリス、おはよう!昨日はごめんね。」
「……!」
翌日、いつもより早くシメイが現れた。
良かった……。素直にそう感じた。
いつもの様に頭を擦り付けようといた時、昨日の女の人の言葉が浮かんだ。
『アイリスも、シメイのことが大好きみたいですよね。シメイがいつもの時間に会いに来ないだけで、こんなにソワソワするなんて……。』
私はシメイを意識してしまい、頭を擦り付けることができなかった。
「え!?どうしたの?もしかして、昨日来なかったから……?」
シメイは、ショックを受けたように私から離れて行った。
『違うの!』そう叫びたかったが、ちょうど厩舎内に他の人が入って来て、それができなかった。

シメイを誤解させてしまった。
そのことが、一日中重くのし掛かった。
私は弁解をする機会を伺っていたのだが、結局その日は二人きりになる時は訪れなかったのだ。
明日の朝、シメイが挨拶しに来たら、思い切り頭を擦り付けよう。
私は、寝る前にそう心に誓った。

◆Side 紫明◆
今日は朝から熱が有って、仕事を休ませてもらった。
休みたくないし、アイリスにも会いたかったが、無理に行っても先輩達に迷惑を掛けることになるだろう。
それより、明日には行けるように、今日はゆっくり休む方が良いと思う。
熱はそれ程高くないが、インフルエンザとかの可能性も捨てきれないため、念のため医者に行って診てもらった。
結果は、インフルエンザではなく風邪だということだった。

~~~~~~~~~~
翌朝には熱も下がったので、乗馬クラブに行った。
早くアイリスに会いたくて、いつもより早く家を出た。
「アイリス、おはよう!昨日はごめんね。」
乗馬クラブに着くと、急いでアイリスの馬房に行き、声を掛けた。
「……!」
アイリスは僕の声に反応したが、いつものように頭を擦り付けて来なかった。
心なしか、怒っているようにも見えた。
「え!?どうしたの?もしかして、昨日来なかったから……?」
ショックを受けた僕は、そそくさと馬房から離れたのだった。

「はぁ……。」
夜家に帰って、アイリスについて考えていた。
元々、彼女が頭を擦り付けていたのは、挨拶を返すのに言葉を発することができないからだ。
それを、僕は勝手に彼女が僕に好意を持っていると勘違いしていただけだ。
怒っていたように見えたのは、気のせいかも知れないし、単に僕と関係無く機嫌が悪かったのかも知れない。
「はぁ……。」
僕は、今日何度目かわからないため息をついた。
こんな気分で仕事をしていると、先輩たちにも馬たちにも迷惑が掛かるだろう。
明日は気持ちを切り換えて、しっかり仕事をしなければ。
アイリスにも今日一日妙に距離を置いた感じになってしまったが、明日は普通に接しよう。ちょっと自信無いけど……。

~~~~~~~~~~
次の朝は、かなり早く起きた。
というより、夜に何回も目が覚めて、最後に目が覚めた時はもう一度寝てしまうと寝過ごしす可能性が高い時間だっただめ、そのまま起きたのだ。
そして、早すぎるが、乗馬クラブに向かった。
今から行けば、多分アイリスと話しできる時間が取れるだろう。
「おはよう、アイリス!昨日は……どうしたの?」
極力元気に挨拶をして、昨日の事を謝ろうとしたら、彼女は強く頭を僕の胸に擦り付けて来た。
「昨日、シメイを悲しませてしまったから……。」
彼女は僕から頭を離し、周りを確認した上でそう言った。
「それは……。僕が勝手にアイリスに嫌われたのかと誤解して……。」
「誤解させた私が悪いの。実は昨日……。」
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