異世界から来た馬

ひろうま

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第2章 心境の変化

第8話 お風呂

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◆Side アイリス◆
「アイリス、こんばんは!」
その夜、うつらうつらしていたら、シメイの声が聞こえた。
「シメイ?どうしたの?あ……。」
他の人がいるかどうか確認せずに声に出してしまった。
「大丈夫だよ。今日は僕の宿直で、他の人はいないから話をしようと思って。寝てたみたいだけど、邪魔してごめんね。」
「うとうとしてただけだから、構わないわ。話をしたかったから、嬉しいわ。」
正直、ずっと話をしないようにしていたから、辛かったのだ。
「色々話したいことがあるんだけど……。先ずは、食事かな。あまり食べてなかったよね。」
「ええ。向こうでは食べるということをほとんどしてなかったから、慣れてなくて……。それに、乾草ばかりで味気なかったしね。」
「それは、ごめん。今朝は様子を見るため、無難に乾草にしておいたんだ。昼結構運動したから、夕飼いは濃厚も少し加えておいたけど、大丈夫だった?」
「そうなのね。気を遣ってくれて、ありがとう。運動してお腹も空いてたし、麦もあったし、しっかり食べたわ。」
「良かった。……あ、確かに全部食べてるね。これからは、濃厚も少しづつ加えるよ。量が少なすぎたりとか、何かあったら言ってね。」
「わかったわ。えーと。私から聞きたいことがあるんだけど、良いかしら。」
「もちろん!何?」
「こっちの世界には、私でも入れるお風呂があるのかしら?」
「お風呂!?」
「ええ。今日お湯を掛けてもらって気持ち良かったけど、お風呂に入れたらもっと気持ち良いかなと思ったの。」
「そ、そう。お風呂は自分で入ったの?」
「さすがに独りじゃあ入れないから、お父さんと一緒だけど。」
「……。」
「あ、最近はもう一緒に入ってなかったわよ!」
シメイの反応からすると、あまりお父さんと一緒にお風呂に入るのは良くないみたいだ。
やめて正解だったかも知れない。
「えーと。馬が入れる風呂もあるとは思うけど、この辺にはないかな。」
「そうなのね……。」
ちょっと、残念だ。
あったら、シメイと一緒に入れたのに。
いや、もしかしたら、シメイも私と一緒にお風呂に入るのは嫌なのかな?
そうだとすると、ちょっと悲しいけど……。

その後暫くシメイと話をした。
主に今日乗られた感想とかだったけど、彼と話しをしていると楽しい。
そのまま一緒に寝たかったが、人間を馬房で寝させる訳にはいかない。
ちなみに、シメイはついつい愛撫してしまったこととか、手入れで私の股やお尻を触ったことを気にしているみたいだったけど、私はそんなこと全然気にしてなかった。
こういう所は、馬と人間の感覚の違いなのだろう。
私は、こっちの世界に来る前に人間の知能をもらったのだが、普通の馬として生活できなくならない範囲に抑えると言われていた。
その時は意味がわからなかったが、もし私が馬女神からもっと人間に近い知能をもらってたら、そういう感覚も人間に近いものになってたのだろうか。
そもそも、人間って服を着ないと恥ずかしいらしいし……。
確かに、色々大変そうだ。
馬女神が考慮してくれた意味が少しわかった気がした。

◆Side 紫明◆
今日は僕の宿直の番だ。
タイミング良くてラッキーだったと思う。
宿直するとゆっくり寝られないし、正直宿直は好きではない。
しかし、今日はアイリスと話しができると思うと、嬉しくて仕方がない。
宿直制度に初めて感謝した。
もちろん、宿直制度が無くても夜密かに会いに来ることはできるが、それだと厩舎に忍び込んでいるという罪悪感で落ち着いて話ができないだろう。

「アイリス、こんばんは!」
アイリスの馬房に行って、声を掛けた。
「紫明?どうしたの?あ……。」
彼女は僕以外の人がいないか確認せずに答えてしまったようだ。
どうやら、眠り掛けてたみたいで、申し訳無かったな。
「大丈夫だよ。今日は僕の宿直で、他の人はいないから、話をしようと思って。寝てたみたいだけど、邪魔してごめんね。」
「うとうとしてただけだから、構わないわ。話をしに来てもらって、嬉しいわ。」

最初に、一番気になっていた食事の話をした。
次は乗られた感想を聞こうと思っていたのだが、意外なことにアイリスから聞きたいことがあるらしい。
その内容は……。
「こっちの世界には、私でも入れるお風呂があるのかしら?」
「お風呂!?」
彼女からお風呂という言葉が出て来るとは思わなかった。
「ええ。今日お湯を掛けてもらって気持ち良かったけど。お風呂に入れたらもっと気持ち良いかなと思ったの。」
「そ、そう。お風呂は自分で入ったの?」
いくら彼女が器用であっても、無理な気がする。
「さすがに独りじゃあ入れないから、お父さんと一緒だけど。」
「……。」
悠馬さん、なんて羨ましい……というか、それヤバくない?
「あ、最近はもう一緒に入ってなかったわよ!」
アイリスが慌てて付け加えた。
子供のうちなら、自分の娘を風呂に入れるのは当たり前か……。
しかし、アイリスでもお父さんと一緒に風呂に入るのは恥ずかしいのかな?
ん?待てよ。
今更だけど、僕がアイリスと結婚すると、悠馬さんは義理のお父さんになるのか。
もう悠馬さんに会うことはないだろうけど、彼は30代だったって聞いているし、凄い微妙だな。……って、なんで僕がアイリスと結婚する前提になっているんだろう!?
「えーと。馬が入れる風呂もあるとは思うけど、この辺にはないかな。」
そんなとこを考えた恥ずかしさを、そう言って誤魔化したのだった。

「あ、そうだ。」
ちょっとしたトラブル(?)で、聞くのを忘れるところだった。
「どうしたの?」
「一番大事なことを聞いてなかったと思って……。今日は先輩に乗ってもらったけど、どうだった?かなり張り切ってたみたいだけど。」
「久し振りの運動でついつい……。本当なら軽めの運動だったはずなのにね。でも、今日私に乗った人はレベルは高いのはわかったわ。」
「そう?満足できた?」
「ええ。こっちに来て正解だったわ。」
「それは良かった。」
アイリスはわざわざこっちの世界に来たのに、うちで一番乗馬の技術レベルが高いと思われる井沢先輩が乗ってだめなら、彼女の期待を裏切ることになってしまう。
そうならなくて、本当に良かったと思った。
「あと、謝らないといけないことがあるんだけど。」
「何?」
「運動の後思わず愛撫しちゃってごめんね。」
「え?それが何か問題なの?私に乗ってくれた人は、腰を愛撫してくれたわよ。」
「腰を!?」
女の子の腰を触るなんて、何と言うセクハラ!
いや、本人が気にしていないから、セクハラではないのか?
それを言うなら、僕はもっと大変なことをしているけど……。
「何をブツブツ言ってるの?」
「あ、いや、何でもないよ。」
どうやら心の声が漏れていたようだ。
気を付けないと……。
冷静に考えると、乗って愛撫するのは普通だ。むしろ、愛撫しないような人は乗る資格がないと思う。
その後、洗う時に微妙な箇所を触ったことも謝ったが、アイリスはそれも気にしてないと言ってくれた。
「あんな所を触るなんて、最低ね!」とか言われてたら、立ち直れなかったと思う。
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