異世界から来た馬

ひろうま

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第1章 出会い

第4話 置き手紙

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◆Side アイリス◆
お父さんの話はこれくらいにして、そろそろ本題を切り出しても良いだろうか?
「あのー。こんなことを聞くのは失礼だと思うけど……。ここにはレベルの高い乗り手がいるの?」
「それがこの世界に来た目的だったね。アイリスが求めているのがどれくらのレベルかわからないけど、ユウマさんより経験豊富な人もいるしこのクラブは全体的にそこそこレベルが高いと思うよ。」
「そうなの?」
お父さんより経験豊富な人がいるなら期待できるかも知れない。
「うん。ところで、アイリスの今後なんだけど……。」
シメイは、次のような案を示してくれた。
・私は誰かに捨てられたことにする。
・シメイが偽の置き手紙を作り、そこに私の名前を書く。
・シメイが面倒を見るという条件で、私をここ置いてもらえるようお願いする。
「良いと思うわ。でも、本当に置いてもらえるの?」
「ここの人達は、捨てられた馬を見放したりしないから、きっと大丈夫だよ。ただ、僕以外の人がいるときにしゃべらないでね。あ、さっきやってたように頭を下げたりするのもダメ。とにかく、人間の言うことにあまり反応しないようにね。」
「わかったわ。」
「じゃあ、僕は家に帰るよ。取り敢えず、この空いた馬房のどれかを使って。」
「えーと……。ここにするわ。」
私は空いている馬房のうち、隣に馬が入っている所を選んだ。
「この馬は大人しいから大丈夫かな。そうだ。お腹は空いてない?」
「大丈夫よ。」
こっちの世界では食事が必要らしいけど、まだ食べなくても良さそうだ。
「それと、この後人が見に来ると思うけど、宿直の人だから心配しないで良いよ。それじゃあ、また明日の朝に。」
シメイは、そう言いながら手を振り、去って行った。

シメイが帰った後、私は隣の馬に話し掛けてみた。
「あのー、よろしくお願いします。」
「(んー?知らないコ。)」
相手の馬は、自分の鼻先を私の鼻先に近付け、匂いを嗅いだ。
と思ったら、黙って馬房の奥に入って行った。
え?それだけ?
さっき、シメイがこの馬は大人しいって言ってたから、あまりしゃべらないのかも知れない。
向かいにも馬はいるが、少し遠しから話しかけると他の馬の迷惑になりそうだ。
私は仕方なく、独りで今日の出来事を振り返ることにした。

◆Side 紫明◆
あ、もうこんな時間だ。今日宿直の須崎先輩に連絡しとかないと。
家に帰ろうと車に乗って、ふと時計を見ると、思ったより遅くなっていた。
僕はスマホで、先輩に電話を掛けた。
「もしもし。」
良かった、出てくれた。
「紫明です。お疲れ様です。今電話大丈夫ですか?」
「ん?良いぞ。こんな時間にどうした。」
「実は先程知らない馬がいるのを見つけまして……。」
「え?どういうことだ?」
「僕も意味がわからなかったんですが、近くに書き置きが有りました。どうやら、捨て馬みたいです。」
「捨て馬?ひどい事をする奴がいるもんだな。」
「ええ。それで、明日皆さんに相談しようと思っているんです。一旦、牝馬用の厩舎の空き馬房に入れました。」
「牝馬なのか。」
「そうです。これから先輩が厩舎に行って、知らない馬がいたら驚くと思って、連絡を入れました。」
「そりゃ、いつの間にか馬が増えてたら驚くわ。知らせてくれてどうもな。」
「いえいえ。その馬も知らない所に来て不安でしょうから、そっとしてあげてくださいね。」
「わかった。相変わらず、馬には気を遣うのな。」
「馬には、ですか?」
「ああ。人間の女性にも同じくらい気を遣えたら、恋人ができるんじゃないか?」
「ほっといてください。では、失礼します。」
「おお。じゃあな。」
これで良し、と。
何か変なことを言われたが、今はそれどころではない。
後は置き手紙だな。
僕は、その内容を考えながらパソコンを立ち上げた。

~~~~~~~~~~
できた!
僕は、印刷したものを読み直した。
--------------------
乗馬クラブの方へ
この馬は、アイリスと言います。
私は個人でこの馬を飼っていましたが、一身上の都合により飼えなくなってしまいました。
突然決まったことで、やむを得ずここに置いて行くことにしました。
馬場の調教もある程度できているため、お役に立てると思います。
誠に勝手ではございますが、この馬のことを何卒よろしくお願いいたします。
--------------------
うん、かなり無理がある。
普通こんな状況だと、売ることを考えるだろう。
アイリスは悠馬さんが調教したらしいし、運動レベルはわからないが、欲張らなければ確実に売れるだろう。
交渉する時間が無かったとしても、捨て馬みたいにするより、乗馬クラブに引き取ってもらう位はできたはず。
とは言え、これ以上上手いこと書けないから、それも考え付かないほど焦っていたということにしてもらおう。

寝る前に、アイリスのことを改めて思い出した。
アイリスって、可愛いな。
話をする時ちょっとドキドキした。
それを表に出さない様に必死だったけど……。
別れる時に思わず撫でそうになったけど、上げかけた手は振ってごまかした。
さすがに、出会ったばかりの女の子を撫でるのはダメだろう。
ふと、僕が高校生の時に付き合っていた同級生のことを思い出した。
彼女とは大学も一緒だったのだが、大学に入って馬術部が忙しくて彼女と疎遠になり、結局別れてしまった。
それを考えると、さっき須崎先輩が言った事もあながち的外れではないのかも知れない。
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