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街中。
人々が通り過ぎる中、心細げにさまよう少女がいた。
年は5歳ほどだろうか。
なぜかパジャマ姿の彼女に、周りを行き交う人たちは、何の興味も示さない。
いや、少女どころか、周りには一切興味がないようだった。
皆が皆、うつむき、足を引きずるかのように、ただただ歩いている。
少女は、そんな人たちの隙間を縫うようにさまよい、やがて、疲れたように座り込み、膝を抱えてうつむいた。
どれほどの時間が流れたのか、相変わらず行き交う人々の中から、青年4人組が現れる。
青年とは言っても、うち一人はやや幼く、まだ少年の面影を残している。
彼らは少女に気が付くと、うち3人が、その場で何かごそごそと、打合せするかのように、もめ始めた。
一方、それに混ざらない少年は、そのもめる様子を見ていたが、やがて飽きたのか、少女に近づき、その隣に座りこんだ。
「ひと、いっぱいいるね~。」
突然隣から発せられた言葉に、少女はビックリしたように顔を上げて、少年を見る。
驚いたのは少女だけではなかった。
離れたところで、打合せをしていた3人も・・・である。
彼らは慌てたように、少女たちに近づくが、座り込む2人にどう割り込めばよいのか分からないようで、遠巻きにオロオロするばかりである。
「あ、かわいい。」
少女の顔を覗き込み、少年は、思ったままの感想を述べる。
「・・・あなた。・・・だぁれ?」
今にも泣きそうな声で、少女は問う。
さまよっている間、誰も自分を見ていなかった。
誰も見てくれなかった。
それが心細くて泣いていた。
だから、・・・寂しかったから、いつもだったら、ママの「知らない人に話しかけられても答えちゃダメ。」という言いつけを、ちゃんと守る良い子の少女は、つい、すがるように少年に自ら声をかけてしまっていた。
決して、少年が人懐っこい笑みで、自分を「かわいい」と褒めてくれたからでは・・・ない。
きっと、ない。
「僕? 僕は、ウリ。」
「ウリ?」
「そう、て・・・」
瞬間、遠巻きにしていた3人組のうち、2人がウリを回収した。
白いシャツに紺のズボン、同色の上着を合わせた眼鏡の青年が、ウリの口を塞ぐと同時に、パーカーにジーパンといったカジュアルな装いに、長めの金髪をいくつものカラフルなヘアピンで止めた青年が、後ろから羽交い絞めにして、小柄なウリを抱えるように後方へと引きずっていく。
それは見事な連係プレーである。
突然、目の前から消えたウリに驚く間もなく、少女の前に現れたのは、細身の黒いジーパンに襟ぐりが大きくカットされたカットソー、薄手の赤いショールを首にかけた青年だった。
少女は気付いていなかったが、先ほどまで後方でオロオロしていた3人のうち、残る一人である。
「お嬢ちゃん!! ええと・・・か・・・可愛いねー。」
少女の前にしゃがみ込んだショールの青年は、その造形からして間違いなく「イケメン」と称される部類だった。
笑顔と爽やかな口調でもって一声かければ、老若男女ほぼ全ての人が、好印象を持つであろうイケメン。
だが、引きつった笑顔と声量を間違えた大声で、明らかに慣れていない誉め言葉を、それも棒読みでされたところで、少女の心が動くわけがない。
「・・・おじ・・・おにーさん、だれ?」
ついたお尻をそのままに、後ずさりしながら、少女は問う。
途中、青年の顔を見つつ、相手の機嫌を害さないように、呼びかけ方を言い直すことも忘れない。
少女は、知っているのだ。
こういう大人は、機嫌を悪くすると、怖い大人になる。
「あはは。・・・賢明なお嬢ちゃんだ。いい子は好きだぞ。」
感情の起伏がない棒読みのまま、青年は後ずさられた分だけにじり寄る。
それは、少女の警戒心を強めはしても、解くことはない。
完全なる悪手だった。
「おじさん、だれ?」
さらに後ずさり、少女は問う。
相手の機嫌を・・・などと、そんな余裕は消えていた。
それを察した青年は、固まる。
先ほどにじり寄った体勢のまま、表情すら引きつった笑顔のままで。
2人が膠着状態に陥ったその後方。
回収されたウリが、眼鏡の青年に説教をされていた。
自分に比べ、倍近い長身であるヘアピン青年の後ろに隠れ、盾にするその様子に、反省の様子は全く見えない。
「お兄さん! ・・・と、イイトコロに行かないか?」
少しの間をおいて、ようやくショールの青年が言葉を発する。
相変わらずの間違えた声量ではあったが、やや笑顔の引きつりは改善されている。
「やだ。」
即答である。
「そんな事言わないで。とっても楽しいところだよー。」
笑顔の表情を続ける青年に、怖さは残るものの、最初に想像していた「怖い大人」とはちょっと違うのではないかと、少女は会話を続ける。
「おじさんみたいな人、『へんたい』って言うんでしょ?」
「へん!? ち…違うぞ! 俺はっ!! て・・・」
再び、眼鏡の青年とヘアピン青年の連携プレーが、ショールの青年に対し、繰り広げられる。
小柄なウリに比べ、ショールの青年はそれなりに大きいため、さらに大柄なヘアピン青年が、全身を使って押し倒し引きずる形である。
「カイル! 相手は女の子なんだから。」
少女に聞こえないように声を抑え、ヘアピン青年は、暴れるショールの青年・・・カイルを抑え続ける。
「だからって、あんな生意気なっ!」
「まーまー。小さくても、あくまでも女性だ。優しく接するのがコツだろう。」
声を潜めながらも怒鳴るという器用なことをして見せたカイルに、宥めるかのように眼鏡の青年は言う。
「あ!? じゃあ、ジブリ。お前がやってみろよ!」
カイルにそう返され、ジブリは咳払いをしつつ、少女に近づいた。
少女から見て、先ほどカイルがいた場所よりやや遠い位置に、片膝で跪く。
さながら、王女に忠誠を誓う騎士のように。
「可愛いお嬢さん。俺と一緒にそこのカフェで、パフェでもご一緒しませんか?」
差し出したその手に、少女だけでなく、他の青年たちの視線も集まった。
1秒・・・2秒・・・3秒・・・
5秒・・・10秒・・・
たっぷり30秒ほど経ったのち、少女がゆっくりと動く。
ずりずりと、お尻で這うように後ろへ。
たっぷり2mほどの距離を、後ずさる。
「・・・・・・変態。」
ジブリは、完全にフリーズした。
跪き、手を差し伸べたその体勢のまま綺麗に。
ちなみに、後方で爆笑するのは、もちろんカイルとウリである。
その横でヘアピン青年は、少女を見つめていた。
後ずさったあと、そこから動かない・・・いや、動けないであろう少女を、困った表情で見つめる。
そして、ため息を一つ吐くと、立ち上がり、少女の横へと向かう。
大柄なその身体を、なるべく小さく見えるよう、しゃがむその姿は、少女をこれ以上怯えさせないようにと、細心の注意が伺えた。
「ココ、寒いっしょ? 身体もうまく動かせないんじゃない?」
そのそっけない言い回しは、とても優しい声だった。
少女は、その声の主を見ることなく、首を横に大きく振る。
「ココに1人でいると、そのうち動けなくなっちゃうぜ?」
更に大きく首を振る。
「嘘を付くと、もっと動けなくなるしぃ?」
首を横に振りかけ、少女はピタッと止まる。
「俺達が、もっと暖かいトコに連れてってやるよ。」
「ママが・・・、知らないおじさんには、ついて行っちゃダメって言ったもん。」
優しく包み込む声に、それでも少女はうつむき、拒否の言葉を紡いだ。
その答えに、ヘアピン青年は、困った顔を他の3人に向ける。
カイルとウリは顔を見合わせたあと、フリーズは解けたものの、そのままの姿勢で様子を伺っていたジブリを見る。
それを受け、咳払いをして、ジブリは少女に声をかけた。
「そうだな。確かに『知らないおじさん』はダメだ。でも、俺達は『知らないお兄さん』達だから、大丈夫だ。ママに怒られない。」
「そんなの、『へりくつ』だもん。」
うつむいたまま、少女は答える。
「おや? 凄いな。そんな難しい言葉、知っているとは。」
「ママが・・・そう言って、いっつも、みっちゃんのコト怒るもん。」
「君は、いつも『へりくつ』言うのかい?」
「違うもん。みっちゃんは、ただお注射が嫌いなだけだもん。」
明らかに先ほどまでとは違う反応に、ヘアピン青年が笑顔になる。
「あー。注射って、痛いよなぁ。」
「お薬も嫌い。苦いし、飲んだあと、おなか苦しくなるし。」
今度は、きちんと優しい声の主を見上げ、少女は不満を訴える。
その様子に、ジブリが畳みかけるように声をかけた。
「なるほど。つまり君は、注射をしたり薬を飲まなくて済むよう、色々と屁理屈を言うわけか。」
「そんなこと! ・・・ない。」
挑発ともとれるジブリの言葉に、少女は強い反応を示したが、その否定の語尾は、消え入るようである。
「だからぁ、嘘つくとー。」
「・・・だって、もう無理だもん。何やっても、治らない。もうヤダ。」
優しい声に、呆れが混ざったのが分かったのか、それともジブリの的を射た言葉に傷ついたのか、少女は泣きだした。
ぐずぐずと、シャックリをしながら泣く少女に、青年たち全員、ため息を吐く。
「あーあ。泣いちゃったぁ。」
「だから、ガキは嫌なんだよ。」
ウリが困ったように言えば、カイルは顔を歪ませて不満をもらした。
「仕方ないって。本来、こんな小っちゃい子が、理解できる状況じゃないし。この子はまだマシな方だと思うぜ?」
「マシでも、泣かれんのだけは、御免だ。」
ヘアピン青年が、眉をハの字にしながらも、フォローの言葉をかけても、その不満を隠そうともしない。
「そうは言っても、投げ出すわけにはいかないだろう? どんな幼子でも、俺達の担当だ。」
ジブリが説得を試みるも、それは治まりそうもない。
それでも、ここで不満を言っても仕方がないのは、長年の経験でよく分かっているのだろう。
「あーーー! めんどくせーなっ!!」
カイルは、片手で頭をガシガシとかき、その髪をボサボサにかき回した後、少女を無理やり引っ張り抱え、肩に担ぐと、歩きだす。
「やだぁー!! 離してぇ!!」
「カイル! ダメだってっ!!」
ヘアピン青年がその身体を生かして、その進行方向を塞ぐも、カイルはいとも簡単に、余った片腕で自分より大きな障害物をどかす。
肩に担ぎあげられた少女が、その四肢をフルに使って暴れているにも関わらずに・・・だ。
「ひーとーさーらーいー!!」
「カイルー!! 離してあげて!! 可哀そうだよー!!」
ウリが、少女を抱えるその腕に飛びついても、ビクともしない。
「へんたぁーーーい!!」
「うるせぇ! お尻ぺんぺんするぞ!!」
「いーーーーやぁーーーー!!」
「カイルってば、それこそ変態だって!」
簡単にあしらわれても、何度も障害物として立ちふさがる青年の横で、体格差では敵わないと思い知ったウリは、静観しているジブリへと、交渉相手を変える。
「ジブリぃ~、カイル止めてよぉ~!」
「仕方ない。この際。とりあえずは、ココから連れ出すことが先決だ。」
「でも、こんなの・・・僕、嫌だよぉ!」
「ウリ。そうは言っても、緊急事態だ。許せ。」
「そんなぁ~~~!」
ウリが、涙目で嘆いたその時、風のように目の前を何かが通り過ぎた。
「なぁ~にを、やっとるかぁ~~~~~!!」
人々が通り過ぎる中、心細げにさまよう少女がいた。
年は5歳ほどだろうか。
なぜかパジャマ姿の彼女に、周りを行き交う人たちは、何の興味も示さない。
いや、少女どころか、周りには一切興味がないようだった。
皆が皆、うつむき、足を引きずるかのように、ただただ歩いている。
少女は、そんな人たちの隙間を縫うようにさまよい、やがて、疲れたように座り込み、膝を抱えてうつむいた。
どれほどの時間が流れたのか、相変わらず行き交う人々の中から、青年4人組が現れる。
青年とは言っても、うち一人はやや幼く、まだ少年の面影を残している。
彼らは少女に気が付くと、うち3人が、その場で何かごそごそと、打合せするかのように、もめ始めた。
一方、それに混ざらない少年は、そのもめる様子を見ていたが、やがて飽きたのか、少女に近づき、その隣に座りこんだ。
「ひと、いっぱいいるね~。」
突然隣から発せられた言葉に、少女はビックリしたように顔を上げて、少年を見る。
驚いたのは少女だけではなかった。
離れたところで、打合せをしていた3人も・・・である。
彼らは慌てたように、少女たちに近づくが、座り込む2人にどう割り込めばよいのか分からないようで、遠巻きにオロオロするばかりである。
「あ、かわいい。」
少女の顔を覗き込み、少年は、思ったままの感想を述べる。
「・・・あなた。・・・だぁれ?」
今にも泣きそうな声で、少女は問う。
さまよっている間、誰も自分を見ていなかった。
誰も見てくれなかった。
それが心細くて泣いていた。
だから、・・・寂しかったから、いつもだったら、ママの「知らない人に話しかけられても答えちゃダメ。」という言いつけを、ちゃんと守る良い子の少女は、つい、すがるように少年に自ら声をかけてしまっていた。
決して、少年が人懐っこい笑みで、自分を「かわいい」と褒めてくれたからでは・・・ない。
きっと、ない。
「僕? 僕は、ウリ。」
「ウリ?」
「そう、て・・・」
瞬間、遠巻きにしていた3人組のうち、2人がウリを回収した。
白いシャツに紺のズボン、同色の上着を合わせた眼鏡の青年が、ウリの口を塞ぐと同時に、パーカーにジーパンといったカジュアルな装いに、長めの金髪をいくつものカラフルなヘアピンで止めた青年が、後ろから羽交い絞めにして、小柄なウリを抱えるように後方へと引きずっていく。
それは見事な連係プレーである。
突然、目の前から消えたウリに驚く間もなく、少女の前に現れたのは、細身の黒いジーパンに襟ぐりが大きくカットされたカットソー、薄手の赤いショールを首にかけた青年だった。
少女は気付いていなかったが、先ほどまで後方でオロオロしていた3人のうち、残る一人である。
「お嬢ちゃん!! ええと・・・か・・・可愛いねー。」
少女の前にしゃがみ込んだショールの青年は、その造形からして間違いなく「イケメン」と称される部類だった。
笑顔と爽やかな口調でもって一声かければ、老若男女ほぼ全ての人が、好印象を持つであろうイケメン。
だが、引きつった笑顔と声量を間違えた大声で、明らかに慣れていない誉め言葉を、それも棒読みでされたところで、少女の心が動くわけがない。
「・・・おじ・・・おにーさん、だれ?」
ついたお尻をそのままに、後ずさりしながら、少女は問う。
途中、青年の顔を見つつ、相手の機嫌を害さないように、呼びかけ方を言い直すことも忘れない。
少女は、知っているのだ。
こういう大人は、機嫌を悪くすると、怖い大人になる。
「あはは。・・・賢明なお嬢ちゃんだ。いい子は好きだぞ。」
感情の起伏がない棒読みのまま、青年は後ずさられた分だけにじり寄る。
それは、少女の警戒心を強めはしても、解くことはない。
完全なる悪手だった。
「おじさん、だれ?」
さらに後ずさり、少女は問う。
相手の機嫌を・・・などと、そんな余裕は消えていた。
それを察した青年は、固まる。
先ほどにじり寄った体勢のまま、表情すら引きつった笑顔のままで。
2人が膠着状態に陥ったその後方。
回収されたウリが、眼鏡の青年に説教をされていた。
自分に比べ、倍近い長身であるヘアピン青年の後ろに隠れ、盾にするその様子に、反省の様子は全く見えない。
「お兄さん! ・・・と、イイトコロに行かないか?」
少しの間をおいて、ようやくショールの青年が言葉を発する。
相変わらずの間違えた声量ではあったが、やや笑顔の引きつりは改善されている。
「やだ。」
即答である。
「そんな事言わないで。とっても楽しいところだよー。」
笑顔の表情を続ける青年に、怖さは残るものの、最初に想像していた「怖い大人」とはちょっと違うのではないかと、少女は会話を続ける。
「おじさんみたいな人、『へんたい』って言うんでしょ?」
「へん!? ち…違うぞ! 俺はっ!! て・・・」
再び、眼鏡の青年とヘアピン青年の連携プレーが、ショールの青年に対し、繰り広げられる。
小柄なウリに比べ、ショールの青年はそれなりに大きいため、さらに大柄なヘアピン青年が、全身を使って押し倒し引きずる形である。
「カイル! 相手は女の子なんだから。」
少女に聞こえないように声を抑え、ヘアピン青年は、暴れるショールの青年・・・カイルを抑え続ける。
「だからって、あんな生意気なっ!」
「まーまー。小さくても、あくまでも女性だ。優しく接するのがコツだろう。」
声を潜めながらも怒鳴るという器用なことをして見せたカイルに、宥めるかのように眼鏡の青年は言う。
「あ!? じゃあ、ジブリ。お前がやってみろよ!」
カイルにそう返され、ジブリは咳払いをしつつ、少女に近づいた。
少女から見て、先ほどカイルがいた場所よりやや遠い位置に、片膝で跪く。
さながら、王女に忠誠を誓う騎士のように。
「可愛いお嬢さん。俺と一緒にそこのカフェで、パフェでもご一緒しませんか?」
差し出したその手に、少女だけでなく、他の青年たちの視線も集まった。
1秒・・・2秒・・・3秒・・・
5秒・・・10秒・・・
たっぷり30秒ほど経ったのち、少女がゆっくりと動く。
ずりずりと、お尻で這うように後ろへ。
たっぷり2mほどの距離を、後ずさる。
「・・・・・・変態。」
ジブリは、完全にフリーズした。
跪き、手を差し伸べたその体勢のまま綺麗に。
ちなみに、後方で爆笑するのは、もちろんカイルとウリである。
その横でヘアピン青年は、少女を見つめていた。
後ずさったあと、そこから動かない・・・いや、動けないであろう少女を、困った表情で見つめる。
そして、ため息を一つ吐くと、立ち上がり、少女の横へと向かう。
大柄なその身体を、なるべく小さく見えるよう、しゃがむその姿は、少女をこれ以上怯えさせないようにと、細心の注意が伺えた。
「ココ、寒いっしょ? 身体もうまく動かせないんじゃない?」
そのそっけない言い回しは、とても優しい声だった。
少女は、その声の主を見ることなく、首を横に大きく振る。
「ココに1人でいると、そのうち動けなくなっちゃうぜ?」
更に大きく首を振る。
「嘘を付くと、もっと動けなくなるしぃ?」
首を横に振りかけ、少女はピタッと止まる。
「俺達が、もっと暖かいトコに連れてってやるよ。」
「ママが・・・、知らないおじさんには、ついて行っちゃダメって言ったもん。」
優しく包み込む声に、それでも少女はうつむき、拒否の言葉を紡いだ。
その答えに、ヘアピン青年は、困った顔を他の3人に向ける。
カイルとウリは顔を見合わせたあと、フリーズは解けたものの、そのままの姿勢で様子を伺っていたジブリを見る。
それを受け、咳払いをして、ジブリは少女に声をかけた。
「そうだな。確かに『知らないおじさん』はダメだ。でも、俺達は『知らないお兄さん』達だから、大丈夫だ。ママに怒られない。」
「そんなの、『へりくつ』だもん。」
うつむいたまま、少女は答える。
「おや? 凄いな。そんな難しい言葉、知っているとは。」
「ママが・・・そう言って、いっつも、みっちゃんのコト怒るもん。」
「君は、いつも『へりくつ』言うのかい?」
「違うもん。みっちゃんは、ただお注射が嫌いなだけだもん。」
明らかに先ほどまでとは違う反応に、ヘアピン青年が笑顔になる。
「あー。注射って、痛いよなぁ。」
「お薬も嫌い。苦いし、飲んだあと、おなか苦しくなるし。」
今度は、きちんと優しい声の主を見上げ、少女は不満を訴える。
その様子に、ジブリが畳みかけるように声をかけた。
「なるほど。つまり君は、注射をしたり薬を飲まなくて済むよう、色々と屁理屈を言うわけか。」
「そんなこと! ・・・ない。」
挑発ともとれるジブリの言葉に、少女は強い反応を示したが、その否定の語尾は、消え入るようである。
「だからぁ、嘘つくとー。」
「・・・だって、もう無理だもん。何やっても、治らない。もうヤダ。」
優しい声に、呆れが混ざったのが分かったのか、それともジブリの的を射た言葉に傷ついたのか、少女は泣きだした。
ぐずぐずと、シャックリをしながら泣く少女に、青年たち全員、ため息を吐く。
「あーあ。泣いちゃったぁ。」
「だから、ガキは嫌なんだよ。」
ウリが困ったように言えば、カイルは顔を歪ませて不満をもらした。
「仕方ないって。本来、こんな小っちゃい子が、理解できる状況じゃないし。この子はまだマシな方だと思うぜ?」
「マシでも、泣かれんのだけは、御免だ。」
ヘアピン青年が、眉をハの字にしながらも、フォローの言葉をかけても、その不満を隠そうともしない。
「そうは言っても、投げ出すわけにはいかないだろう? どんな幼子でも、俺達の担当だ。」
ジブリが説得を試みるも、それは治まりそうもない。
それでも、ここで不満を言っても仕方がないのは、長年の経験でよく分かっているのだろう。
「あーーー! めんどくせーなっ!!」
カイルは、片手で頭をガシガシとかき、その髪をボサボサにかき回した後、少女を無理やり引っ張り抱え、肩に担ぐと、歩きだす。
「やだぁー!! 離してぇ!!」
「カイル! ダメだってっ!!」
ヘアピン青年がその身体を生かして、その進行方向を塞ぐも、カイルはいとも簡単に、余った片腕で自分より大きな障害物をどかす。
肩に担ぎあげられた少女が、その四肢をフルに使って暴れているにも関わらずに・・・だ。
「ひーとーさーらーいー!!」
「カイルー!! 離してあげて!! 可哀そうだよー!!」
ウリが、少女を抱えるその腕に飛びついても、ビクともしない。
「へんたぁーーーい!!」
「うるせぇ! お尻ぺんぺんするぞ!!」
「いーーーーやぁーーーー!!」
「カイルってば、それこそ変態だって!」
簡単にあしらわれても、何度も障害物として立ちふさがる青年の横で、体格差では敵わないと思い知ったウリは、静観しているジブリへと、交渉相手を変える。
「ジブリぃ~、カイル止めてよぉ~!」
「仕方ない。この際。とりあえずは、ココから連れ出すことが先決だ。」
「でも、こんなの・・・僕、嫌だよぉ!」
「ウリ。そうは言っても、緊急事態だ。許せ。」
「そんなぁ~~~!」
ウリが、涙目で嘆いたその時、風のように目の前を何かが通り過ぎた。
「なぁ~にを、やっとるかぁ~~~~~!!」
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