282 / 325
第十二話「黒の記憶」
第十二話・プロローグ
しおりを挟む
◆プロローグ
─── 南太平洋 オーストラリア東部沖・深海 ───
<キシャアアアアアアアアアアアアアア‼>
<コオオォォォ──クィァァアアアア──‼>
人類が未だその全容を知り得ぬ、深く暗い海の底──
そこで今、二つの咆哮が、その空間を満たす海水を激しく震動させていた。
「これが・・・ジャガーノートか・・・っ‼」
JAGDオーストラリア支局機動部隊の副隊長・ピーター・ボネは、<モビィ・ディックⅡ>のモニター越しに見る現実離れした光景に、思わず息を呑んだ。
数ヶ月前から、太平洋各所にて存在が確認されていた、史上二体目のNo.006──
管轄海域を調査中、偶然にもこれを発見したオーストラリア支局の<モビィ・ディックⅡ>は、艦の全権を任されているボネの判断によって追跡任務を開始。
そして、艦体の潜航可能深度ギリギリまで追跡を続けていた最中・・・
突如として、海底の砂の中からNo.002が出現──
No.006へと襲いかかったのだ。
<クィィ──アアアァァアッ‼>
奇襲によって、一度はNo.006の翼を触腕で絡め取ったNo.002だったが、即座に振り払われてしまう。
襲いかかるのをあと1秒堪えていれば、結果は変わっていただろう。
<シャアアアアアアアッッ‼>
すかさず反撃に転じたNo.006は、長い尾を左右にくねらせて突進を仕掛けるも・・・負けじとNo.002も強酸性の体液を噴射して応戦。
すんでの所で気付いたNo.006が、突進の軌道を逸らし、これを回避───
──こうして今、両者は一触即発の状態のまま・・・殺意を剥き出しにした雄叫びで以て、互いを威嚇し合っていたのだった。
「・・・データでは嫌というほど見て、もう随分と知った気でいたが・・・実物を目の前にすると、今までの自分の認識が甘かった事を思い知らされるな・・・・・・」
僅かな一合の間に、両者が如何に狡猾で、また如何に日頃から血生臭い世界で生きているのかをボネは察した。
No.006の追跡を行うと決めた時から覚悟はしていたが・・・
改めて、油断なく事に当たる必要があると彼は理解したのだ。
今、二体のジャガーノートは、どちらが先に仕掛けるか、互いに様子を伺っている。
「待機しつつ、いつでも離脱出来るようにしておけ!」
「「「アイ・サー!」」」
初めてジャガーノートの脅威を目にした際には、驚き竦んでしまう者も多い中・・・
ボネは冷静さを失わずにおり、彼に付き従うオーストラリア支局の機動部隊員たちもまた、その影響を受けてか、士気は高いままだった。
しかし、そこで突然───
<────キャハハハハハ!>
艦内に、幼 気な少女のような、甲高い笑い声がこだました。
「・・・・・・おい、誰のイタズラだ・・・?」
張り詰めた空気に似つかわしくない声に、ボネは思わずそう口にしたが・・・
次の瞬間には、この状況下でそんな余裕のある者は居ないか、と思い直す。
ならば、今の声は・・・と、謎の笑い声の原因が、水圧によって外殻が軋んだ音でない事を祈りながら、システムチェックを開始した、その瞬間───
<ビ──ッ‼ ビ──ッ‼ ビ──ッ‼>
モニターに表示されたのは、「高エネルギー反応探知」の文字。
「何だと・・・ッ⁉」
当然ながら、目の前で威嚇し合っているNo.006とNo.002の反応については、既に計測されているためにわざわざ繰り返し警告音が鳴る筈がない。
──つまり、いま鳴り響いているこの音は、この場に新しいジャガーノートが現れた事を告げているのだと・・・
ボネと隊員たちは、真っ白になった頭でぼんやりと理解した。
と、そこで、水中ドローンのカメラから送られる映像を観ていた隊員の一人が、そこに映り込んだ「何か」に気付き、ボネに声をかける。
指差されたそれを一目見て──
ボネは思わず、その形状の率直な印象を口にしていた。
「黒い・・・指・・・・・・?」
モニターの中央に映っていたのは、彼が言い表した通り・・・深く暗いグレーの、人間の指に似たカタチをした「何か」だった。
対物比較によれば、全長は1.5メートル程度。
二体のジャガーノートから少し離れた位置で、両者の戦いを見つめるかのように、ただただ海中を漂っている。
光なき深海にあって黒色の体を捉える事が出来たのは、水中ドローンのサーチライトの性能に依るものではない。
「黒い指」は先端の爪にあたる部分と、体の各所が紫色に発光しており、自ずからそのシルエットを浮かび上がらせていたのだ。
「間違いありません! 新たな高エネルギーの発信源は、あの小型生物です!」
「・・・そうか・・・・・・」
次いで上がってきた部下からの報告を聞いて、ボネは眉根を寄せる。
高エネルギーを発している事実から、「黒い指」──No.020となるそれが、No.005以来の小型ジャガーノートである事はもはや疑いようがない・・・はずだった。
しかしボネは、ともすればただの不気味な浮遊物にしか見えない、生物かどうかも怪しいこの「黒い指」に──
目の前でいまだ互いを食い合わんとしている二体のジャガーノートとは全く別種の、強烈な空恐ろしさを感じていた。
「・・・少し距離を取るぞ。艦首そのまま、前部ジェットで・・・・・・」
そして、己の勘に従う事を決めたボネが、後退を命じたその瞬間───
<──キャハハハハハハハ!>
再び、艦内に純真な笑い声が響いた。
合わせて、「黒い指」の体表にある発光部が一際強く輝いたのを見て・・・ボネたちは、声の主がNo.020であった事を確信する。
直後、No.020は、文字通り「指で何かを引っ掻く」ような動きで、海水に食いつくように全身を上下に乱しながら泳ぎ──No.006に向かって直進を始めた。
「ッ⁉ 何をするつもりだ・・・⁉」
同じジャガーノートとは言え、両者の大きさは月とスッポン。
しかし、No.020は臆する事なく、海流にさえ流されてしまいそうな程の小さな体を、必死に動かして──
真っ直ぐにNo.006の口の中へと入り込み・・・そのまま見えなくなった。
「・・・・・・・・・」
<モビィ・ディックⅡ>の司令室を、一時、沈黙が支配する。
先日、ボネは、インドにあるという「地底世界」において、No.018の指示を受けたNo.005が、集団でNo.008に襲いかかって倒してしまったという話を聞いていた。
故に彼は、No.020もまた、きっと小さいながらにこの深海で生き抜くための何某かの戦略を持ち合わせているに違いないと考えていたのだが・・・・・・
「まさか、自ら食べられに行くとは・・・」
あまりにも予想外の行動に、唖然としてしまう。
結局何がしたかったのか判らないままに自滅した新種のジャガーノートの正体に、しばし思いを馳せつつ・・・
依然、目の前では巨大な深海の住人たちの戦いが続いている事を思い出したボネが、改めて艦の後退を指示しようとした──その時。
<シャアアァ・・・ギギッ⁉ ギシャアアアアアアアアァァッッ⁉>
突如として、No.006が苦悶の叫びを上げ始めた。
「何だ⁉ 何が起きたッ⁉」
モニターを注視していた彼らは、対するNo.002に特段の動きがなかったのを見ていた。
間違いなく、外部から攻撃を受けた様子はなかったのだ。
「・・・まさか・・・・・・!」
そこでボネは、一つの可能性に思い当たる。
No.006の変化が──その内部へ入り込んだものによって引き起こされた現象である事に。
<ギ、ギギギギギッッ‼ ジャアアアアアアァァァッッ‼>
そして、No.006が再び悲鳴を上げたのと同時・・・その薄鈍色の外殻に、血管に似た黒い模様が浮き上がった。
それは、まるでNo.006の体を乗っ取ろうとしているかのように・・・瞬く間に体表の隅々にまで広がっていく。
<クィィ──アアアアァァァア──‼>
刹那、悶絶するNo.006の姿に、今こそ好機と見たNo.002が仕掛けた。
触腕の付け根にある噴射口から体内の水分を一気に噴射し、弾丸と化して海中を飛翔する。
瞬間的には<モビィ・ディックⅡ>の最高潜航速度をも上回るスピードの突進は──如何に堅牢な装甲を持つNo.006と言えど、食らえば無事では済まない・・・はずだった。
だが、そこで起きたのは・・・二体のジャガーノートの衝突ではなく──
「どういう・・・事なんだ・・・?」
───もっと非現実的で、とてつもなく悍ましい現象だった。
<クイイィィィ──コココココオォォッッッ⁉>
No.002の体は、相対する敵に到達する事なく───
No.006の口から出てきた「黒い根」のような何かに絡め取られて、完全に抑え込まれてしまったのだ。
ボネたちは、水中ドローンから送られてくる映像によって・・・
その根のような何かを構成しているのが、夥しい数の「黒い指」であると判ってしまった。
その物体のグロテスクさに耐えきれず、何人かの隊員が無意識に口を手で抑える。
しかし──それはまだ、これから起こる奇怪な現象の、ほんの始まりに過ぎなかった。
<ゴゴオォ・・・グギイイィィィアアアアアアア───⁉>
「黒い根」に掴まれ、No.006と同様、その体表を侵食されたNo.002は・・・ひとりでに動く根によって、No.006の方へと引き寄せられていく。
二体のジャガーノートは、ビクビクと体を痙攣させるばかりで、完全に自由を失っていた。
そして、両者の距離がほとんど0になった瞬間──唐突に、二体のシルエットが変容する。
<ギジャアアアアアアアアアアアァァ‼>
<グギイイィアアアアァァァァ───‼>
No.006とNo.002の体は・・・まるで炙られた蝋のように、ドロドロに融け始めたのだ。
目の前で起こっている事が何一つ理解出来ず、<モビィ・ディックⅡ>の乗員たちは、ただただあんぐりと口を開いたまま、モニターを見つめるしかなかった。
<<ゴォオ・・・ギジャアァァ・・・グギッ・・・アアァアァアアァァアッッッ‼>>
液状になりつつある二つの体は、深海の波にさらわれる事なく・・・
徐々に重なっていく悲鳴と共に、物理法則を無視しながら絵の具のように混ざり合う。
──そして、両者の体を覆っていた「黒い根」が脈動すると、海中に浮かんでいたジャガーノート二体分の液体も同時に震え、動き始め・・・それらは、新たなカタチを創り出す。
「そんな・・・馬鹿な・・・・・・」
脚が生え、砂が舞う。
腕が生え、岩肌を薙ぐ。
尻尾が生え、海を裂く。
───最後に、黒い装甲を纏った首が伸び、血走ったような赤い眼光を灯らせると──
それは、暗黒の世界に降臨した。
「ジャガーノートが・・・合体しただと・・・ッ⁉」
<ギイィィイィシャアアアァァハハハハハハハハハッッ‼>
─── 南太平洋 オーストラリア東部沖・深海 ───
<キシャアアアアアアアアアアアアアア‼>
<コオオォォォ──クィァァアアアア──‼>
人類が未だその全容を知り得ぬ、深く暗い海の底──
そこで今、二つの咆哮が、その空間を満たす海水を激しく震動させていた。
「これが・・・ジャガーノートか・・・っ‼」
JAGDオーストラリア支局機動部隊の副隊長・ピーター・ボネは、<モビィ・ディックⅡ>のモニター越しに見る現実離れした光景に、思わず息を呑んだ。
数ヶ月前から、太平洋各所にて存在が確認されていた、史上二体目のNo.006──
管轄海域を調査中、偶然にもこれを発見したオーストラリア支局の<モビィ・ディックⅡ>は、艦の全権を任されているボネの判断によって追跡任務を開始。
そして、艦体の潜航可能深度ギリギリまで追跡を続けていた最中・・・
突如として、海底の砂の中からNo.002が出現──
No.006へと襲いかかったのだ。
<クィィ──アアアァァアッ‼>
奇襲によって、一度はNo.006の翼を触腕で絡め取ったNo.002だったが、即座に振り払われてしまう。
襲いかかるのをあと1秒堪えていれば、結果は変わっていただろう。
<シャアアアアアアアッッ‼>
すかさず反撃に転じたNo.006は、長い尾を左右にくねらせて突進を仕掛けるも・・・負けじとNo.002も強酸性の体液を噴射して応戦。
すんでの所で気付いたNo.006が、突進の軌道を逸らし、これを回避───
──こうして今、両者は一触即発の状態のまま・・・殺意を剥き出しにした雄叫びで以て、互いを威嚇し合っていたのだった。
「・・・データでは嫌というほど見て、もう随分と知った気でいたが・・・実物を目の前にすると、今までの自分の認識が甘かった事を思い知らされるな・・・・・・」
僅かな一合の間に、両者が如何に狡猾で、また如何に日頃から血生臭い世界で生きているのかをボネは察した。
No.006の追跡を行うと決めた時から覚悟はしていたが・・・
改めて、油断なく事に当たる必要があると彼は理解したのだ。
今、二体のジャガーノートは、どちらが先に仕掛けるか、互いに様子を伺っている。
「待機しつつ、いつでも離脱出来るようにしておけ!」
「「「アイ・サー!」」」
初めてジャガーノートの脅威を目にした際には、驚き竦んでしまう者も多い中・・・
ボネは冷静さを失わずにおり、彼に付き従うオーストラリア支局の機動部隊員たちもまた、その影響を受けてか、士気は高いままだった。
しかし、そこで突然───
<────キャハハハハハ!>
艦内に、幼 気な少女のような、甲高い笑い声がこだました。
「・・・・・・おい、誰のイタズラだ・・・?」
張り詰めた空気に似つかわしくない声に、ボネは思わずそう口にしたが・・・
次の瞬間には、この状況下でそんな余裕のある者は居ないか、と思い直す。
ならば、今の声は・・・と、謎の笑い声の原因が、水圧によって外殻が軋んだ音でない事を祈りながら、システムチェックを開始した、その瞬間───
<ビ──ッ‼ ビ──ッ‼ ビ──ッ‼>
モニターに表示されたのは、「高エネルギー反応探知」の文字。
「何だと・・・ッ⁉」
当然ながら、目の前で威嚇し合っているNo.006とNo.002の反応については、既に計測されているためにわざわざ繰り返し警告音が鳴る筈がない。
──つまり、いま鳴り響いているこの音は、この場に新しいジャガーノートが現れた事を告げているのだと・・・
ボネと隊員たちは、真っ白になった頭でぼんやりと理解した。
と、そこで、水中ドローンのカメラから送られる映像を観ていた隊員の一人が、そこに映り込んだ「何か」に気付き、ボネに声をかける。
指差されたそれを一目見て──
ボネは思わず、その形状の率直な印象を口にしていた。
「黒い・・・指・・・・・・?」
モニターの中央に映っていたのは、彼が言い表した通り・・・深く暗いグレーの、人間の指に似たカタチをした「何か」だった。
対物比較によれば、全長は1.5メートル程度。
二体のジャガーノートから少し離れた位置で、両者の戦いを見つめるかのように、ただただ海中を漂っている。
光なき深海にあって黒色の体を捉える事が出来たのは、水中ドローンのサーチライトの性能に依るものではない。
「黒い指」は先端の爪にあたる部分と、体の各所が紫色に発光しており、自ずからそのシルエットを浮かび上がらせていたのだ。
「間違いありません! 新たな高エネルギーの発信源は、あの小型生物です!」
「・・・そうか・・・・・・」
次いで上がってきた部下からの報告を聞いて、ボネは眉根を寄せる。
高エネルギーを発している事実から、「黒い指」──No.020となるそれが、No.005以来の小型ジャガーノートである事はもはや疑いようがない・・・はずだった。
しかしボネは、ともすればただの不気味な浮遊物にしか見えない、生物かどうかも怪しいこの「黒い指」に──
目の前でいまだ互いを食い合わんとしている二体のジャガーノートとは全く別種の、強烈な空恐ろしさを感じていた。
「・・・少し距離を取るぞ。艦首そのまま、前部ジェットで・・・・・・」
そして、己の勘に従う事を決めたボネが、後退を命じたその瞬間───
<──キャハハハハハハハ!>
再び、艦内に純真な笑い声が響いた。
合わせて、「黒い指」の体表にある発光部が一際強く輝いたのを見て・・・ボネたちは、声の主がNo.020であった事を確信する。
直後、No.020は、文字通り「指で何かを引っ掻く」ような動きで、海水に食いつくように全身を上下に乱しながら泳ぎ──No.006に向かって直進を始めた。
「ッ⁉ 何をするつもりだ・・・⁉」
同じジャガーノートとは言え、両者の大きさは月とスッポン。
しかし、No.020は臆する事なく、海流にさえ流されてしまいそうな程の小さな体を、必死に動かして──
真っ直ぐにNo.006の口の中へと入り込み・・・そのまま見えなくなった。
「・・・・・・・・・」
<モビィ・ディックⅡ>の司令室を、一時、沈黙が支配する。
先日、ボネは、インドにあるという「地底世界」において、No.018の指示を受けたNo.005が、集団でNo.008に襲いかかって倒してしまったという話を聞いていた。
故に彼は、No.020もまた、きっと小さいながらにこの深海で生き抜くための何某かの戦略を持ち合わせているに違いないと考えていたのだが・・・・・・
「まさか、自ら食べられに行くとは・・・」
あまりにも予想外の行動に、唖然としてしまう。
結局何がしたかったのか判らないままに自滅した新種のジャガーノートの正体に、しばし思いを馳せつつ・・・
依然、目の前では巨大な深海の住人たちの戦いが続いている事を思い出したボネが、改めて艦の後退を指示しようとした──その時。
<シャアアァ・・・ギギッ⁉ ギシャアアアアアアアアァァッッ⁉>
突如として、No.006が苦悶の叫びを上げ始めた。
「何だ⁉ 何が起きたッ⁉」
モニターを注視していた彼らは、対するNo.002に特段の動きがなかったのを見ていた。
間違いなく、外部から攻撃を受けた様子はなかったのだ。
「・・・まさか・・・・・・!」
そこでボネは、一つの可能性に思い当たる。
No.006の変化が──その内部へ入り込んだものによって引き起こされた現象である事に。
<ギ、ギギギギギッッ‼ ジャアアアアアアァァァッッ‼>
そして、No.006が再び悲鳴を上げたのと同時・・・その薄鈍色の外殻に、血管に似た黒い模様が浮き上がった。
それは、まるでNo.006の体を乗っ取ろうとしているかのように・・・瞬く間に体表の隅々にまで広がっていく。
<クィィ──アアアアァァァア──‼>
刹那、悶絶するNo.006の姿に、今こそ好機と見たNo.002が仕掛けた。
触腕の付け根にある噴射口から体内の水分を一気に噴射し、弾丸と化して海中を飛翔する。
瞬間的には<モビィ・ディックⅡ>の最高潜航速度をも上回るスピードの突進は──如何に堅牢な装甲を持つNo.006と言えど、食らえば無事では済まない・・・はずだった。
だが、そこで起きたのは・・・二体のジャガーノートの衝突ではなく──
「どういう・・・事なんだ・・・?」
───もっと非現実的で、とてつもなく悍ましい現象だった。
<クイイィィィ──コココココオォォッッッ⁉>
No.002の体は、相対する敵に到達する事なく───
No.006の口から出てきた「黒い根」のような何かに絡め取られて、完全に抑え込まれてしまったのだ。
ボネたちは、水中ドローンから送られてくる映像によって・・・
その根のような何かを構成しているのが、夥しい数の「黒い指」であると判ってしまった。
その物体のグロテスクさに耐えきれず、何人かの隊員が無意識に口を手で抑える。
しかし──それはまだ、これから起こる奇怪な現象の、ほんの始まりに過ぎなかった。
<ゴゴオォ・・・グギイイィィィアアアアアアア───⁉>
「黒い根」に掴まれ、No.006と同様、その体表を侵食されたNo.002は・・・ひとりでに動く根によって、No.006の方へと引き寄せられていく。
二体のジャガーノートは、ビクビクと体を痙攣させるばかりで、完全に自由を失っていた。
そして、両者の距離がほとんど0になった瞬間──唐突に、二体のシルエットが変容する。
<ギジャアアアアアアアアアアアァァ‼>
<グギイイィアアアアァァァァ───‼>
No.006とNo.002の体は・・・まるで炙られた蝋のように、ドロドロに融け始めたのだ。
目の前で起こっている事が何一つ理解出来ず、<モビィ・ディックⅡ>の乗員たちは、ただただあんぐりと口を開いたまま、モニターを見つめるしかなかった。
<<ゴォオ・・・ギジャアァァ・・・グギッ・・・アアァアァアアァァアッッッ‼>>
液状になりつつある二つの体は、深海の波にさらわれる事なく・・・
徐々に重なっていく悲鳴と共に、物理法則を無視しながら絵の具のように混ざり合う。
──そして、両者の体を覆っていた「黒い根」が脈動すると、海中に浮かんでいたジャガーノート二体分の液体も同時に震え、動き始め・・・それらは、新たなカタチを創り出す。
「そんな・・・馬鹿な・・・・・・」
脚が生え、砂が舞う。
腕が生え、岩肌を薙ぐ。
尻尾が生え、海を裂く。
───最後に、黒い装甲を纏った首が伸び、血走ったような赤い眼光を灯らせると──
それは、暗黒の世界に降臨した。
「ジャガーノートが・・・合体しただと・・・ッ⁉」
<ギイィィイィシャアアアァァハハハハハハハハハッッ‼>
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
未来に住む一般人が、リアルな異世界に転移したらどうなるか。
kaizi
SF
主人公の設定は、30年後の日本に住む一般人です。
異世界描写はひたすらリアル(現実の中世ヨーロッパ)に寄せたので、リアル描写がメインになります。
魔法、魔物、テンプレ異世界描写に飽きている方、SFが好きな方はお読みいただければ幸いです。
なお、完結している作品を毎日投稿していきますので、未完結で終わることはありません。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる