恋するジャガーノート

まふゆとら

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第七話「狙われた翼 後編」

 第二章「共闘」・④

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『──あと10秒で目標が射程に入ります!』

 左の鼓膜を震わせた松戸少尉の声を合図に、私もまた叫ぶ。

「総員、兵装自由ウェポンズフリー! ハウンド2! ブチかませッ‼」

 部下たちの揃った返事が聴こえ──直後、すぐ近くから爆発音がした。

 海上から艦体の上半分を出している<モビィ・ディックⅡ>の垂直魚雷発射管から、事前に換装されていた地対空ミサイルが連続で発射された音だ。

 本来なら、<戦艦バトルシップ>モードで迎え撃ちたいところだが・・・昨夜の戦闘で穴だらけにされて攻撃能力が半減している手前、今はこれが精一杯だ。

『弾着まで、5、4、3──ッ! 全弾撃ち落とされました! 例の鉄球です!』

「怯むなッ! 撃ち続けろ! とにかく注意をこちらに引くんだ!」

 中尉からの歯噛み混じりの報告に、叱責するように返す。

 今はとにかく、弱気になってしまう事が最も危惧すべき事だ。

 宇宙人の作った機械だろうが何だろうが、スクラップに変える方法は必ずある──あると信じて、力の限り戦う‼

『・・・! No.013が進路を作戦地点方面へ変更!』

「よし・・・ハウンド3! 引き付けてから撃て! 命中後は距離を一定に保ってヤツをこの場に釘付けにしろ!」

『お安い御用でッ‼』

 竜ヶ谷少尉のおどけた返事と共に、背後に控える<アルミラージ>の砲塔がキュラキュラと音を立てながら回頭していく。

 私もアクセルを回し、その場から離れた。

 程なくして、夜のとばりを裂く一条の煙が見え・・・先端にあった光が、我々の頭上で静止した途端──それは、重力に引かれるまま、

「ハウンド3ッ‼」

『・・・問題、なし・・・!』

 思わず叫んでいたが・・・ユーリャ少尉にとっては朝飯前だったようだ。

 重い荷物アルミラージをぶら下げているとは思えない素早い動きでM983トラクターを繰り、敵の初撃を逃れる。

 そして、巻き上がった土煙の中──

<ギギャアアアアアッッ‼ ガガガッ‼ ギギギギギャアアアアアアッッ‼>

 着地の衝撃で所々がフットボール競技場の中央で・・・・・・そのバケモノは、おぞましい雄叫びを上げた。

 事前に画像で見た通りの、醜悪な姿・・・

 No.012にとってはとんだ災難だったろうが・・・もはや我々には、目の前の脅威を全力で排除する以外の選択肢は無い‼

『食らえぇッ!』

 竜ヶ谷少尉が叫ぶのと同時──

 戦いのゴングを鳴らすかのように、<アルミラージ>の伝導針から、ジグザグの軌道を描く水色の光線が発射される。

<キキキ・・・クキキキキ・・・!>

 メイザー光線は、No.013の左腕に命中し・・・途端、忌々げな駆動音が耳に届いた。

 粒子を加速させて貫通力を高めたメイザー・ブラスターに対し、<アルミラージ>の光線は、メイザー粒子の特徴である、「衝撃によって帯電した電気を手放す」性質を利用した放電攻撃だ。

 本来は、目標の皮膚を焼きつつ、感電による筋肉の弛緩を狙う兵器だが・・・電気で動く機械に対しては、それ以上の効果があるようだな。

<ギギギギャアアアアアアッッ‼>

 同時に、No.012にも感電したようで、涎を垂れ流し続ける口から苦悶の叫びが上がった。

 ──しかし、それでも攻撃の手は緩めない。

「松戸少尉! 避難の完了状況は!」

『ドローンの撮影映像による目算ですが・・・まだ10%にも満たないかと・・・!』

 ・・・時間がなかったにしては、進んでいる方・・・だと思いたい。

 それに、あくまで今の数字は横須賀基地内の住民の話だ。

 我々がここでヤツを破壊する事が出来なければ、被害は瞬く間にすぐ外の横須賀市内にも及んでしまうだろう。

 ───そんな事は、絶対にさせんッ‼

「ハウンド2! ミサイルの再装填は!」

『完了しています! いつでもいけますっ!』

 柵山少尉から返事が来る。

 さすがに私や<アルミラージ>がNo.013の近くにいる状態では使用できないが、いつ必要になるかわからない。準備だけはしておくべきだろう。

 と、そこで、目標に動きがあった。

<キキクキキ───ギギギギギャアアアアアアッッ‼>

 鉄の四肢の擦れる音と、獣の叫びとが合わさり、最悪の不協和音を奏でる。

 思わず顔をしかめたところで──No.013の体から、キラキラと光る「煙」が吹き出した。

「ッ⁉ なんだ・・・ッ⁉」

 咄嗟にヘルメットのチンガードを下ろし、目と口とを防護する。

『あれは・・・No.013の体表から剥離した、単なる金属片かと思われます』

 右耳からテリオの解説が聴こえ、有毒ガスでない事に安堵しつつ──

 「煙」を出した事への疑問が浮かぶ。この期に及んでレーダー撹乱のための妨害装置チャフではないだろう。

「・・・ッ! まさかッ!」

 目を向けると──やはり。

 金属の煙のを、水色の光が伝導つたっていた。

『野郎・・・! メイザー光線の弱点にもう気づいたのかッ⁉』

 メイザー光線は、大気によっては殆ど減衰しないが、目標以外の物体に命中した「衝撃」であっても拡散してしまう。

 ヤツはその点をすぐに見抜いて、煙の盾を作ったんだ・・・!

「ハウンド3! 一旦距離を取るぞ! ハウンド2は私の合図でミサイルを──」

『た、隊長! No.011が急速接近──来ますっ‼』

 作戦指揮の真っ最中・・・競技場に、突然の強風が吹いた。

 翼に透かした月明かりを、青と赤とに変えて地を照らす、大きな黒い影が舞い降りてくる。

「また貴様か! 邪魔をするな昆虫ッ‼」

<失礼は後でいくらでも謝るわ! でもお願い・・・! 聞いてアカネ!>

 苛立ちを隠さないまま、空に向かって叫ぶと、直接鼓膜に返事が届く。

 ・・・さすがにこの場で暴れられると手のつけようがなかったが、今のヤツは昨夜の赤い姿ではなく、普段通りの見た目に戻っている。

 観察していると、二色の複眼と目が合った。

<あの子を・・・オラティオンを助けなくちゃいけないの! 攻撃を止めて‼>

「なっ・・・・・・⁉」

 聞いてと言うから何を言い出すのかと思えば・・・あまりの身勝手に絶句してしまう。

「貴様──ッ‼ ふざけるなッ‼ 寝言は寝て言えッッ‼」

<でもっ・・・この子は何も悪い事はしていないの! 被害者なのよ・・・⁉>

 続けて出てきた言葉を聞いて・・・思わず頭に血がのぼり、叫んでしまう。

「私にとってはあのケダモノより! 後ろで必死に避難している民間人と──今まさに命の危機に晒されながら戦う部下たちの方が万倍大事なんだ‼ そんな事もわからないのかッ‼」

<そっ、それは判っているわ! けれど──>

「貴様こそ‼ 余計な真似は止めて、とっととコイツを連れて宇宙へ帰れ‼」

<私だってそうしたい・・・! でも・・・あの子は宇宙空間に出ればすぐに死んでしまうし・・・それに、今のアレの目的は───>

 戦闘の只中で余計な問答を強いられ、苛立ちが最高潮に達しようとしたところで──にわかに肌が粟立つ感覚を覚える。

 ハンドルを握ったまま、後ろを振り返ると・・・

 No.013の全身に点在する球状の結晶と、No.012の額、拳、そして岩の翼の先端にある宝石が、一様に紫の光を放っていた。

 そして、不可解な事に・・・No.012が開いた大口から紫の鋼線がせり出してきたかと思うと、それらがり集まり、し──「砲口」を形作ったのである。

「何でもアリなのかヤツはッ‼ クソッ‼」

 あんぐりと開けた口から覗く「砲口」は、結晶や宝石と同じく紫色の光を放ち・・・

 そして、その光量はみるみるうちに大きくなっていく。発射の瞬間が──近い!

 予想通り、あれが荷電粒子砲なら・・・私など跡形も残るまい。

「テリオッ‼ <サンダーバード>を・・・ッ‼」

 局所的だが、メイザー・ブラスターの光線すら捻じ曲げる歪曲フィールドの陰なら、助かる可能性もあるかも知れない。

 ・・・そう考えての判断だったが、あらかじめ空中に待機させておいたとは言え、この距離からでは間に合わない・・・! 打つ手なしか・・・ッ‼

 首筋をぞわりと撫でる死の予感が、実感に変わろうとして───


<───危ないッ‼>


 夜だと言う事を忘れるくらいの閃光が走った直後──

 視界を巨大な翼が埋め尽くし、紫の光線を遮った。

 No.011が・・・ジャガーノートが・・・・・・私を・・・かばっただと・・・?
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