132 / 325
第六話「狙われた翼 前編」
第一章「来訪」・①
しおりを挟む
※ ※ ※
<・・・あれ? もしもーし? 私の声、聴こえてるかしら?>
再び、例の「声」が僕の鼓膜を震わせ・・・同時に、観覧車の上の怪蝶が小首を傾げた。
「あ・・・あの・・・は、はい・・・・・・」
・・・そんな曖昧な返事をするのが、今の僕に出来る精一杯だった。
翼長150メートルはあろうかという、巨大な蝶・・・。
翼と瞳の色が左右で分かれ、こちらから見て右が赤、左が青をしている。
白磁に似た質感の鋭利な外殻に包まれていながら、その姿からは攻撃的な印象は感じられず・・・むしろ、神々しさのようなものを感じてしまう。
状況とか仕草からして、やっぱりあの怪蝶が話しかけてきてるんだよね・・・?
ここから観覧車の上まで200メートルは離れているはずなんだけど、耳に届く「声」はまるで目の前にいるかのようで、あまりの違和感に頭がパンクしそうだ。
「・・・は、ハヤトさん! わ、私っ! 戦います‼」
そこで、同じく呆気に取られていたクロがハッと気付き、握り拳を作って叫んだ。
<ちょっとちょっと。クロちゃん・・・だったかしら? 私は争うつもりはないわよ。ただハヤトと話がしたくて来ただけ>
「ひうぅっ⁉」
突然名前を呼ばれて、クロが怯んでしまい僕の後ろに隠れる。
そ、そうだ! 完全に失念してたけど、どうして僕たちの名前を・・・⁉
<あぁ、ごめんなさい、言い忘れていたわ。簡単に言うと、私は生物の思考が読めるの。勝手に視てしまって悪かったわ>
「声」がとんでもない事を言ってのける。
隣にいるクロも、目をぱちくりさせている。
「・・・アァン? なんだぁあのでけぇハネムシは? 角がねぇし弱っちそうだな」
と、後ろからカノンの声が聴こえてきた。
うるさくしてしまったせいなのか、あの怪蝶の気配に気づいたのか、寝ている所を起こしてしまったようだ。
<・・・聴こえてるわよ、そこのツノ娘さん>
再び「声」が聴こえる・・・が、何だか、今までの穏やかな口調ではない。
どちらかと言うと、いらついている・・・ような・・・?
「うおわァ⁉ な、なんだッ⁉ 耳がぞわぞわってしたぞ⁉」
聞き覚えのない「声」に話しかけられて、カノンが飛び上がった。
<あぁ。ごめんなさい。あなた達の周囲の空気だけ振動させて話しかけてるんだけど、調節がちょっと難しくてね>
言いながら・・・怪蝶が、目を細めた気がした。
<手元が狂うと一発で鼓膜破っちゃうから・・・気をつけてね、特にツノ娘さん>
思わず、背筋が凍った。
他人の思考が読めて、遠くの空気を自由に振動させられる・・・この怪蝶は、今までに出会ったどのジャガーノートとも違う・・・!
「んだとこのハネムシがァッ‼ ケンカ売ってん──」
「く、クローっ‼ カノンを止めてえぇっ‼」
なおも食ってかかろうとするカノンを前にして、咄嗟に叫んでいた。鼓膜を守るために。
「か、カノンちゃん・・・! 「めっ!」です・・・っ!」
意図を察したクロが、カノンを止めようと、後ろからハグをして──
「オイコラ一本角ォッ! なにしやがん・・・熱ぢぢぢぢぢぢぢぢっっ‼」
・・・当然、こうなる。
しかし、カノンの方もやられっ放しではない。
反射的に身体の表面から水色の光が迸り、クロの身体を跳ね除けた。
「うひゃうっ⁉」
クロが尻もちをつく。怪獣の時と違って感電した様子はなく、突き飛ばされただけのようだ。
『は~い二人とも静かに~』
と、そこで二人の姿が消える──どうやら、シルフィが例の球体で隠してしまったらしい。
<・・・! 今のは、ハヤトの力なのかしら・・・?>
「い、いえ・・・今のは──ひふひっ・・・」
『ストップ。ボクの事は言わないで』
言いかけて、頬を引っ張られる。シルフィは、自分の存在を知られたくないらしい。
<・・・ふぅん。今消えた二人がニンゲンじゃないのはすぐに判ったけど・・・ハヤトも普通とは違うみたいね?>
「声」は、どこか愉しそうに聴こえる。
口調からもわかっていたけど・・・あの怪蝶は知性があるだけじゃなく、感情も豊かだ。
<・・・っと。ごめんなさい。ハヤトについて聞く前に、まずは自己紹介が必要よね>
それに・・・どこか、こちらを慈しむような雰囲気も感じてしまう。
もちろん確証はないし、そもそも慈しんでもらう理由もないはずなんだけど・・・警戒してるシルフィとは裏腹に、僕は目の前の「非日常」を、どこか受け容れつつあった。
<私は───>
随分時間がかかってしまったけど、ようやく本題に入れる──そう思ったところで──
「・・・?」
ブーンと、勢いよく回るプロペラの駆動音が耳に届いた。
「・・・? この音は・・・?」
疑問符を浮かべた直後・・・数メートル先に突然、ダークグレイのドローンが降りて来る。
こ、これってまさかカナダで見たあれと同じ・・・⁉
思わず怯んだところで──
『ハヤトッ‼ 伏せろッ‼』
目の前のドローンから──何故か、アカネさんの声が聴こえてきた。
「えっ──?」
状況が判らずに困惑し、辺りを見回した・・・その瞬間───
「うわぁっ⁉」
後方からけたたましい音が鳴り、水色をした一条の閃光が僕たちの頭上を通り過ぎて・・・観覧車の上へと、星空を裂いて直進して行った。
<・・・あれ? もしもーし? 私の声、聴こえてるかしら?>
再び、例の「声」が僕の鼓膜を震わせ・・・同時に、観覧車の上の怪蝶が小首を傾げた。
「あ・・・あの・・・は、はい・・・・・・」
・・・そんな曖昧な返事をするのが、今の僕に出来る精一杯だった。
翼長150メートルはあろうかという、巨大な蝶・・・。
翼と瞳の色が左右で分かれ、こちらから見て右が赤、左が青をしている。
白磁に似た質感の鋭利な外殻に包まれていながら、その姿からは攻撃的な印象は感じられず・・・むしろ、神々しさのようなものを感じてしまう。
状況とか仕草からして、やっぱりあの怪蝶が話しかけてきてるんだよね・・・?
ここから観覧車の上まで200メートルは離れているはずなんだけど、耳に届く「声」はまるで目の前にいるかのようで、あまりの違和感に頭がパンクしそうだ。
「・・・は、ハヤトさん! わ、私っ! 戦います‼」
そこで、同じく呆気に取られていたクロがハッと気付き、握り拳を作って叫んだ。
<ちょっとちょっと。クロちゃん・・・だったかしら? 私は争うつもりはないわよ。ただハヤトと話がしたくて来ただけ>
「ひうぅっ⁉」
突然名前を呼ばれて、クロが怯んでしまい僕の後ろに隠れる。
そ、そうだ! 完全に失念してたけど、どうして僕たちの名前を・・・⁉
<あぁ、ごめんなさい、言い忘れていたわ。簡単に言うと、私は生物の思考が読めるの。勝手に視てしまって悪かったわ>
「声」がとんでもない事を言ってのける。
隣にいるクロも、目をぱちくりさせている。
「・・・アァン? なんだぁあのでけぇハネムシは? 角がねぇし弱っちそうだな」
と、後ろからカノンの声が聴こえてきた。
うるさくしてしまったせいなのか、あの怪蝶の気配に気づいたのか、寝ている所を起こしてしまったようだ。
<・・・聴こえてるわよ、そこのツノ娘さん>
再び「声」が聴こえる・・・が、何だか、今までの穏やかな口調ではない。
どちらかと言うと、いらついている・・・ような・・・?
「うおわァ⁉ な、なんだッ⁉ 耳がぞわぞわってしたぞ⁉」
聞き覚えのない「声」に話しかけられて、カノンが飛び上がった。
<あぁ。ごめんなさい。あなた達の周囲の空気だけ振動させて話しかけてるんだけど、調節がちょっと難しくてね>
言いながら・・・怪蝶が、目を細めた気がした。
<手元が狂うと一発で鼓膜破っちゃうから・・・気をつけてね、特にツノ娘さん>
思わず、背筋が凍った。
他人の思考が読めて、遠くの空気を自由に振動させられる・・・この怪蝶は、今までに出会ったどのジャガーノートとも違う・・・!
「んだとこのハネムシがァッ‼ ケンカ売ってん──」
「く、クローっ‼ カノンを止めてえぇっ‼」
なおも食ってかかろうとするカノンを前にして、咄嗟に叫んでいた。鼓膜を守るために。
「か、カノンちゃん・・・! 「めっ!」です・・・っ!」
意図を察したクロが、カノンを止めようと、後ろからハグをして──
「オイコラ一本角ォッ! なにしやがん・・・熱ぢぢぢぢぢぢぢぢっっ‼」
・・・当然、こうなる。
しかし、カノンの方もやられっ放しではない。
反射的に身体の表面から水色の光が迸り、クロの身体を跳ね除けた。
「うひゃうっ⁉」
クロが尻もちをつく。怪獣の時と違って感電した様子はなく、突き飛ばされただけのようだ。
『は~い二人とも静かに~』
と、そこで二人の姿が消える──どうやら、シルフィが例の球体で隠してしまったらしい。
<・・・! 今のは、ハヤトの力なのかしら・・・?>
「い、いえ・・・今のは──ひふひっ・・・」
『ストップ。ボクの事は言わないで』
言いかけて、頬を引っ張られる。シルフィは、自分の存在を知られたくないらしい。
<・・・ふぅん。今消えた二人がニンゲンじゃないのはすぐに判ったけど・・・ハヤトも普通とは違うみたいね?>
「声」は、どこか愉しそうに聴こえる。
口調からもわかっていたけど・・・あの怪蝶は知性があるだけじゃなく、感情も豊かだ。
<・・・っと。ごめんなさい。ハヤトについて聞く前に、まずは自己紹介が必要よね>
それに・・・どこか、こちらを慈しむような雰囲気も感じてしまう。
もちろん確証はないし、そもそも慈しんでもらう理由もないはずなんだけど・・・警戒してるシルフィとは裏腹に、僕は目の前の「非日常」を、どこか受け容れつつあった。
<私は───>
随分時間がかかってしまったけど、ようやく本題に入れる──そう思ったところで──
「・・・?」
ブーンと、勢いよく回るプロペラの駆動音が耳に届いた。
「・・・? この音は・・・?」
疑問符を浮かべた直後・・・数メートル先に突然、ダークグレイのドローンが降りて来る。
こ、これってまさかカナダで見たあれと同じ・・・⁉
思わず怯んだところで──
『ハヤトッ‼ 伏せろッ‼』
目の前のドローンから──何故か、アカネさんの声が聴こえてきた。
「えっ──?」
状況が判らずに困惑し、辺りを見回した・・・その瞬間───
「うわぁっ⁉」
後方からけたたましい音が鳴り、水色をした一条の閃光が僕たちの頭上を通り過ぎて・・・観覧車の上へと、星空を裂いて直進して行った。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
未来に住む一般人が、リアルな異世界に転移したらどうなるか。
kaizi
SF
主人公の設定は、30年後の日本に住む一般人です。
異世界描写はひたすらリアル(現実の中世ヨーロッパ)に寄せたので、リアル描写がメインになります。
魔法、魔物、テンプレ異世界描写に飽きている方、SFが好きな方はお読みいただければ幸いです。
なお、完結している作品を毎日投稿していきますので、未完結で終わることはありません。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる