恋するジャガーノート

まふゆとら

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第四話「蘇る伝説」

 第二章「復活の雷王‼ 古代からの目覚め‼」・③

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「あっ、あの・・・! ハヤトさんっ! 山田さんは・・・大丈夫なんでしょうか・・・?」

 山田さんの変わり果て・・・じゃない。ちょっとした変身っぷりを見て不安に思ったのだろう。
 クロが少し潤んだ目で服の袖を引っ張ってくる。

「う、うん・・・集中すると、ああなっちゃうんだよね彼女・・・あはは・・・」

 子供たちに夢と勇気を与えるライズマンの脚本が・・・あの邪悪な儀式か何かと見紛うばかりの様子で書かれていると知ったら・・・お客さんたちはどう思うだろうか───

 と、そこで注文した料理が運ばれてくる・・・が、山田さんは最早ご飯の事など完全に頭から吹っ飛んでいる様子だ。

「よーしっ! あけみちゃんが途中で倒れないように見張っとかないと!」

「こうなったら止まんないっスからねぇ。よいしょっと・・・」

「んだよォー! みんな山田にばっかり! ・・・まぁ脚本は気になるから俺も見るけど~」

 書き始めたら止まらない彼女のもとに、運ばれてきたお皿を手に皆が集まっていく。
 画面上で出来上がっていく脚本を見つめながら、料理をぱくついている。

 そんな光景を不思議そうに見つめるクロと二人・・・ぼんやりと隣のテーブルを眺めていた。

「・・・一度戦った相手と・・・仲良くなる・・・そんな事、あるんですね・・・」

 コップの中身を飲み干した後、クロがぽつりと呟く。

「そうだね・・・とはいえ、クロが今までしてきたような・・・命を賭けた戦い、ってわけじゃないから、同列に語るのは難しいけど・・・」

「今まで戦った怪獣たちは・・・なんというか・・・こっちを食べてやるぞ、とか・・・倒してやるぞ・・・という雰囲気があって・・・怖くて・・・ひぐっ・・・」

 言いながら、またクロの瞳が潤んでいる。

 とても怖がってるようには見えなかったけど・・・
 相手が本気で来るから、クロも本気でぶつかって行って、ああいう鬼気迫る戦いになる・・・って事なんだろうか。

「な、泣かないでっ! ほ、ほら! 人間を襲ったりする怪獣ばかりじゃないよきっと!いつか・・・優しい怪獣だって現れるかも知れないし!」

「! 優しい・・・怪獣・・・!」

 クロの顔が、ぱっと明るくなる。

「それじゃあ・・・私にも、いつか出来るでしょうか・・・怪獣の、ともだち・・・!」

「っ!」

 クロが何気なく発した一言に、思わずドキッとしてしまった。

 不安を与えまいと、「きっと出来るよ!」と返そうとして──

『怪獣のともだちねぇ~? 期待しない方が良いと思うけど~?』

「⁉ ひょっちょっひょっほひふひぃちょっとシルフィ!」

 突如現れるなり言い切ったシルフィをたしなめようとしたが、頬を引っ張られていたのに気付かず、間抜けな感じになってしまった。

「・・・・・・そう・・・ですよね・・・」

 見るからにしゅんとしてしまうクロ。

「い、いやでも! クロの同族が現れたりするかも知れないじゃない!」

『クロ自体、どこから来たのかもわからないのに?』

 シルフィは、間髪入れずに指摘を続ける。

『多分クロはあの夜、おとめ座流星群と一緒に宇宙から来たんだろうけど・・・もし本当に同じ動物が宇宙のどこかにいたとして、都合よく地球に降ってくると思う?』

「そ、それはそうだけど・・・そこまで言わなくたって・・・」

 シルフィは、なおも落ち込むクロにふわりと舞って近づき、顔の前で止まった。

 すると、クロの両頬をむんずと掴み、黄金きんの瞳で彼女を射抜く。


『・・・クロ。戦う事を決めたなら、その覚悟を見失っちゃいけない。誰かを守りたいと願うなら、余所見よそみしちゃいけない』


「っ!」

『今までの戦い・・・もし「相手と友だちになれるかも」・・・なんて考えてたら、やられてたのはクロの方だよ』

 言い放つ言葉は厳しい。でも・・・あくまで優しく、シルフィは語りかける。

『それに・・・ハヤトがいる限り、クロは「ひとりじゃない」。・・・そうでしょ?』

「・・・! そ、そう・・・ですよね・・・!」

 そう言うと、クロに笑顔が戻る。・・・ただ、僕の心にはしこりが残った。

「・・・・・・」

 本当は彼女に、「」と言うつもりだったんだ。

 ・・・でも、クロから自然に出てきた言葉を聞いて──
 彼女は心の奥底で、怪獣である自分の周りに人間しかいない環境に、どこか孤独感を感じているのかも知れないと・・・そんな邪推までしてしまう。

 「怪獣のともだち」──たった今シルフィに諭されたように、作るのは難しそうだ。

 だからせめて・・・何とか僕なりに、クロの寂しさと向き合えるように頑張ろうと決心する。
 「ひとりじゃない」と言った約束を、嘘にするわけにはいかないのだから。


       ※  ※  ※


「プロフェッサー。全ての準備が完了いたしました」

 大勢の作業員が見守る中──白衣を着た女性が、プロフェッサーに話しかける。

「ありがとうございます。それでは──「復活の儀」を始めましょう」

 笑顔を絶やさず、されど淡々と、男はそう告げた。
 合図と共に、作業員たちは目の前の計器に集中する。

「電力注入開始! 最低出力から徐々に上昇させて──」

「いえ」

 コンソールを操作する職員の後ろから、プロフェッサーが手を伸ばす。

「最初から、全開に。「王」の御前で、出し惜しみは不敬というものでしょう」

 冗談めかしたような言い方で、プロフェッサーは躊躇なく臨界まで電力を上げた。

 コンソールの表記は、「1・21ギガワット」。
 原子力発電所一基分の発電量を超える電力が、分厚いケーブルを伝導つたって、職員たちが見上げる壁の中──へと注がれる。


「──「王」の目覚めは、近い」


 グレーの瞳に、歓喜の色が映った。
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